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23・旅の終わり
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ヴァーゲの町を発って五日目。
ずっと森の中を進んできたけれど、木々の向こうに大きな城壁が見えてきた。
千人近い聖騎士団が押し掛けると迷惑だから、ということで、途中の町や村には立ち寄っていない。わたしの力を使えば、自然のもので十分食料を賄えたし。
「……」
「陽菜様?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「お疲れなのではないですか? お眠りになられても私とクローネは陽菜様を落としたりしませんよ」
「あはは、ありがとうございます」
昨日温泉の後で妙な発言をしてしまったのが気恥ずかしくて、今日は午前中徒歩で進んだ。
ルーカスさんと一角獣に乗るのが照れ臭かったのだ。
……百歩も歩けなかった。森の中の地面は凸凹してて歩きにくかったし、怠惰な実家暮らしの女子大生は元の世界でウォーキングすらしていなかった。毎日歩いてるベティーナちゃんすごい。
一緒に乗るのが嫌なら、とルーカスさんが降りてくれようとしたが、さすがにそれは申し訳なくて断った。
でもこうしてルーカスさんの胸に抱かれる形で騎乗していると、彼の香りに包まれて昨日のことを反芻してしまう。
魔結晶で浄化して返した肌着、石鹸で洗ったほうが良かったかなあ。
大丈夫だと思うけど、わたしの匂いがついてたら恥ずかしいよ。
あ、ルーカスさんが魔導を込めてくれているので、借りた魔結晶では照明・暖房・浄化の機能が使えます。便利だね。
「陽菜様、なんだか今日はお髪に艶がありますね。いえ、もちろんいつもお綺麗なのですが」
「昨日洗った後で蜜を塗り込んだんです。石鹸だけだとキシキシしちゃうので」
「ああ、それでとても甘くて良い香りがするんですね」
「……は、はあ、そうですか」
ルーカスさんは浄化だけでお風呂に入っていないはずだが、嫌な匂いはしない。
早朝の訓練で汗をかいた後で水を浴びたりしているそうだ。
というか近い。よく考えたら、わたしとルーカスさんの距離が近い。ひとりじゃ乗れないし、歩き続けるのも無理だから仕方ないものの、ちょっと接近し過ぎてるよね? 異世界に来た不安があるとはいえ、いくらなんでも甘え過ぎてた。
わたしがクローネから落ちないように支えてくれるルーカスさんの胸は厚く、両腕は太くて筋肉が浮き出ている。
全体的には均整が取れていて華奢にすら思えるのに、ルーカスさんの体は鍛え抜かれていて逞しい。
「……陽菜様」
「ひゃっ」
「どうしました?」
不意に耳元で囁かれて、飛び上がりそうになる。
ルーカスさんの声は低いけれど、威圧的なところはない。澄んでいて、よく響いて、ほんのちょっと甘くて、なんだか心臓をドキドキさせる。
うーんうーん。まだ湯あたりが続いているのかな。頭がぼーっとしちゃう。
ルーカスさんは日本語を話してないし、わたしもこの世界の言葉は話していない。
わたしがまれ人だからか、自動的に翻訳されているのだ。
魔力が強いと違和感を覚えるけど、そうでないと普通に話していると感じるらしい。まあ見た目でまれ人だってわかるから、どんな言葉で話してても不思議には思われないだろう。
「ご、ごめんなさい。ちょっとくすぐったくて」
「失礼しました」
「いえ、ルーカスさんが悪いんじゃないです。えっと、ルーカスさんの声はとても素敵なので、近くで聞けて嬉しいです」
「そうですか?……ありがとうございます」
「ひゃっ」
最後のありがとうを耳元で囁かれて、また飛び上がりそうになる。
隣を歩くベティーナちゃんが、微笑ましいものを見る目でわたしを見つめていた。
いや、違うからね! 恋愛とかそういうのじゃないから。だってまだ会ったばかりだし、いろいろお世話になったから頼りにし過ぎちゃってるだけなんだよ!
王都に着いたら、ちゃんと自立してひとりでなんでもできるようにならなくちゃね。
元の世界に帰るにしても……帰れないにしても。ルーカスさんが紹介してくれるって言ってたナール卿が、なにか知っていてくれるといいな。
……あー、ダメだ。
どうしても思い出しちゃう。
嫌いにならないでくださいって、どこのアイドルなの!
やっぱり年齢=彼氏いない歴が良くなかったんだろうなあ。
学校の男子とは普通に接してたけど、ルーカスさんみたいなイケメン相手だと緊張しちゃうよね。
緊張してる上に優しくしてもらうのがすごく嬉しくて……勘違い、しそうになるし。
ずっと森の中を進んできたけれど、木々の向こうに大きな城壁が見えてきた。
千人近い聖騎士団が押し掛けると迷惑だから、ということで、途中の町や村には立ち寄っていない。わたしの力を使えば、自然のもので十分食料を賄えたし。
「……」
「陽菜様?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「お疲れなのではないですか? お眠りになられても私とクローネは陽菜様を落としたりしませんよ」
「あはは、ありがとうございます」
昨日温泉の後で妙な発言をしてしまったのが気恥ずかしくて、今日は午前中徒歩で進んだ。
ルーカスさんと一角獣に乗るのが照れ臭かったのだ。
……百歩も歩けなかった。森の中の地面は凸凹してて歩きにくかったし、怠惰な実家暮らしの女子大生は元の世界でウォーキングすらしていなかった。毎日歩いてるベティーナちゃんすごい。
一緒に乗るのが嫌なら、とルーカスさんが降りてくれようとしたが、さすがにそれは申し訳なくて断った。
でもこうしてルーカスさんの胸に抱かれる形で騎乗していると、彼の香りに包まれて昨日のことを反芻してしまう。
魔結晶で浄化して返した肌着、石鹸で洗ったほうが良かったかなあ。
大丈夫だと思うけど、わたしの匂いがついてたら恥ずかしいよ。
あ、ルーカスさんが魔導を込めてくれているので、借りた魔結晶では照明・暖房・浄化の機能が使えます。便利だね。
「陽菜様、なんだか今日はお髪に艶がありますね。いえ、もちろんいつもお綺麗なのですが」
「昨日洗った後で蜜を塗り込んだんです。石鹸だけだとキシキシしちゃうので」
「ああ、それでとても甘くて良い香りがするんですね」
「……は、はあ、そうですか」
ルーカスさんは浄化だけでお風呂に入っていないはずだが、嫌な匂いはしない。
早朝の訓練で汗をかいた後で水を浴びたりしているそうだ。
というか近い。よく考えたら、わたしとルーカスさんの距離が近い。ひとりじゃ乗れないし、歩き続けるのも無理だから仕方ないものの、ちょっと接近し過ぎてるよね? 異世界に来た不安があるとはいえ、いくらなんでも甘え過ぎてた。
わたしがクローネから落ちないように支えてくれるルーカスさんの胸は厚く、両腕は太くて筋肉が浮き出ている。
全体的には均整が取れていて華奢にすら思えるのに、ルーカスさんの体は鍛え抜かれていて逞しい。
「……陽菜様」
「ひゃっ」
「どうしました?」
不意に耳元で囁かれて、飛び上がりそうになる。
ルーカスさんの声は低いけれど、威圧的なところはない。澄んでいて、よく響いて、ほんのちょっと甘くて、なんだか心臓をドキドキさせる。
うーんうーん。まだ湯あたりが続いているのかな。頭がぼーっとしちゃう。
ルーカスさんは日本語を話してないし、わたしもこの世界の言葉は話していない。
わたしがまれ人だからか、自動的に翻訳されているのだ。
魔力が強いと違和感を覚えるけど、そうでないと普通に話していると感じるらしい。まあ見た目でまれ人だってわかるから、どんな言葉で話してても不思議には思われないだろう。
「ご、ごめんなさい。ちょっとくすぐったくて」
「失礼しました」
「いえ、ルーカスさんが悪いんじゃないです。えっと、ルーカスさんの声はとても素敵なので、近くで聞けて嬉しいです」
「そうですか?……ありがとうございます」
「ひゃっ」
最後のありがとうを耳元で囁かれて、また飛び上がりそうになる。
隣を歩くベティーナちゃんが、微笑ましいものを見る目でわたしを見つめていた。
いや、違うからね! 恋愛とかそういうのじゃないから。だってまだ会ったばかりだし、いろいろお世話になったから頼りにし過ぎちゃってるだけなんだよ!
王都に着いたら、ちゃんと自立してひとりでなんでもできるようにならなくちゃね。
元の世界に帰るにしても……帰れないにしても。ルーカスさんが紹介してくれるって言ってたナール卿が、なにか知っていてくれるといいな。
……あー、ダメだ。
どうしても思い出しちゃう。
嫌いにならないでくださいって、どこのアイドルなの!
やっぱり年齢=彼氏いない歴が良くなかったんだろうなあ。
学校の男子とは普通に接してたけど、ルーカスさんみたいなイケメン相手だと緊張しちゃうよね。
緊張してる上に優しくしてもらうのがすごく嬉しくて……勘違い、しそうになるし。
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