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19・昼食
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コルネリウスさんを中心に炎を生み出せる放出系魔導者がパンを焼き、イェルクさんと狩りに行った人たちが戻ってきて、昼食が始まった。
パン種はわたしが作ったよ。後、林檎酒と蜜煮もね。
チーズは昨日見つけた野生のヤギの乳で作ったのがまだ残ってた。
この世界の……というか、聖騎士団のみなさんは普通にお昼からお酒を飲みます。
でも酔っ払う人はいないみたいだから、たぶん内臓が丈夫で水感覚で飲んでるんだと思う。
「コルネリウス隊長も役に立つんですね」
「いっつも戦闘になると暴走して、敵味方関係なく燃やしてた隊長が炎を調整してパンを焼けるようになるなんて」
「次の戦闘のときもこの調子でちゃんと制御してくれるといいんですけど」
パンを食べながら感動している人達がいる。
聖騎士団の団員は今のところヒト族の男性だけで、みんな強い魔力を持つ優秀な魔導者なのだという。
でも強い魔力は制御が難しくて(うんうん、わかるわかる)、肉体的に危険で精神的に不安定な戦闘時は暴走しやすいんだって。
「……陽菜様、どうなさいましたか? 私の顔になにかついてますか?」
「えっと、林檎酒ちゃんとできてたかと思って……どうですか?」
「陽菜様のお力で作られたものは、どれも美味しいです」
本当は、ルーカスさんが暴走するところは想像できないな、と思って見てました。
わたしがまれ人だからか、いつも笑顔で優しいんだよね。
怠惰な実家暮らしの女子大生が寝ている早朝におこなっている戦闘訓練のときは厳しいという話だけど、それは当然だと思うし。宗教が違うベティーナちゃんとパイチェ君にも優しいから、きっと人間としての器が大きいんだろうな。
「林檎の蜜煮も美味しいよ、陽菜お姉ちゃん。イェルクさんが獲って来てくれた野兎のお肉ともよく合うし」
ベティーナちゃんはお肉+甘いソースOK派。
わたしも嫌いじゃない。
野兎を解体するところは見ていられなかったのに、焼いたお肉は平気で食べてます。野菜がないのが気になるんだよなあ。旅の途中だから仕方がないね。
「陽菜様」
「ひゃい」
「お食事中に失礼しました。食べ終わられるまでお待ちしますね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。なんですか?」
「この調子で進んでいたら、今夜は温泉のある場所で野営ができると思います」
「……温泉?」
「まれ人様はお風呂、特に温泉がお好きだと聞いていますが、お入りになりますか?」
「なります! 温泉に入ります!」
ひゃっほー、温泉だぜー!
元の世界でも温泉は大好きだった。
ちょっと違うかもしれないけど、大学帰りに友達とスーパー銭湯に行くのがブームだったこともある。……ほかの子は彼氏とタピってたのにねえ。
「あ、そうだ! コルネリウスさん!」
「まれ人様、なーにー?」
少し離れたところで食事をしていたコルネリウスさんが手を振る。
団長であるルーカスさん以外は、さっきみたいに食事の用意で能力別に分かれるときのほかは隊単位で行動している。
ベティーナちゃんとパイチェ君はわたし達と一緒だ。
「灰ありませんか、灰!」
「パン焼くときは鍋に直接魔力を放つから灰は出ないですー。夜になって焚き火したらできますよー」
「そうですか……」
無理に灰を作ってもらうのも悪いかな。
思っていたら、エーリヒさんが立ち上がった。
「まれ人様、石鹸作るの?」
茶色い髪のエーリヒさんは良く言えば哲学者、悪く言えば怠け者。
大体一日中馬上でぼーっとしていて部下の人に世話を焼かれている。……わたしも人のこと言えないけど。
ベティーナちゃんに猫妖精騎士のパイチェ君に似てると言われていた。
なお、一角獣に乗っているのはルーカスさんだけで、ほかの聖騎士は基本的には普通の馬に乗っています。たまに魔獣や幻獣っぽいのもいるよ。
神殿に泊めてもらったお礼がしたかったわたしは、活性化した牧草を聖騎士団の騎獣のための特別な飼料という体でヴァーゲの町の畜産業者に配ってもらった。
その牧草を食べた牛は乳を出すようになったそうです。良かったー。卵を産まなくなった鶏には、なにもできなかったのが残念です。
「そうなんです。温泉に入るなら欲しいと思って。服も洗いたいし」
灰と油と……後なにが必要だったかな?
蜜も入れたら香りが良くなるかもしれない。
でもまあ、ルーカスさんが魔導で浄化してくれてるから無理に洗う必要ないんだけど。
「じゃあ、これあげる。……はい」
エーリヒさんが魔導を使ったのだろう。
ふわりと風が起こって、小さな布袋がわたしの手に落ちてきた。
「そろそろ温泉だと思って、昨夜の焚き火で出た灰集めといた」
「ありがとうございます!」
「陽菜様、申し訳ありません」
「ルーカスさん?」
「私の気が利かなくて。ヴァーゲの町で石鹸を用意しておけば良かったですね」
「いいえ。作るの好きですから!」
本当は結構完成までに時間がかかるみたいだけど、わたしの不思議パワーなら大丈夫でしょう。
「ベティーナちゃんも一緒に入ろうね!」
「入る! パイチェはどうする?」
「温泉って熱い水たまりだにゃ? なんでそんなものに入りたがるのか、パイチェには理解できないのにゃ」
猫妖精騎士でも猫は猫でした。
まあ個体差はあるって聞くけどね。
ひとり暮らししてた友達の飼ってた猫は、泊まりに行くとお風呂に入ったわたしを脱衣所からじーっと見つめてたなあ。一緒に入る? って聞くと、お前は莫迦だって感じの顔で睨まれたっけ。
パン種はわたしが作ったよ。後、林檎酒と蜜煮もね。
チーズは昨日見つけた野生のヤギの乳で作ったのがまだ残ってた。
この世界の……というか、聖騎士団のみなさんは普通にお昼からお酒を飲みます。
でも酔っ払う人はいないみたいだから、たぶん内臓が丈夫で水感覚で飲んでるんだと思う。
「コルネリウス隊長も役に立つんですね」
「いっつも戦闘になると暴走して、敵味方関係なく燃やしてた隊長が炎を調整してパンを焼けるようになるなんて」
「次の戦闘のときもこの調子でちゃんと制御してくれるといいんですけど」
パンを食べながら感動している人達がいる。
聖騎士団の団員は今のところヒト族の男性だけで、みんな強い魔力を持つ優秀な魔導者なのだという。
でも強い魔力は制御が難しくて(うんうん、わかるわかる)、肉体的に危険で精神的に不安定な戦闘時は暴走しやすいんだって。
「……陽菜様、どうなさいましたか? 私の顔になにかついてますか?」
「えっと、林檎酒ちゃんとできてたかと思って……どうですか?」
「陽菜様のお力で作られたものは、どれも美味しいです」
本当は、ルーカスさんが暴走するところは想像できないな、と思って見てました。
わたしがまれ人だからか、いつも笑顔で優しいんだよね。
怠惰な実家暮らしの女子大生が寝ている早朝におこなっている戦闘訓練のときは厳しいという話だけど、それは当然だと思うし。宗教が違うベティーナちゃんとパイチェ君にも優しいから、きっと人間としての器が大きいんだろうな。
「林檎の蜜煮も美味しいよ、陽菜お姉ちゃん。イェルクさんが獲って来てくれた野兎のお肉ともよく合うし」
ベティーナちゃんはお肉+甘いソースOK派。
わたしも嫌いじゃない。
野兎を解体するところは見ていられなかったのに、焼いたお肉は平気で食べてます。野菜がないのが気になるんだよなあ。旅の途中だから仕方がないね。
「陽菜様」
「ひゃい」
「お食事中に失礼しました。食べ終わられるまでお待ちしますね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。なんですか?」
「この調子で進んでいたら、今夜は温泉のある場所で野営ができると思います」
「……温泉?」
「まれ人様はお風呂、特に温泉がお好きだと聞いていますが、お入りになりますか?」
「なります! 温泉に入ります!」
ひゃっほー、温泉だぜー!
元の世界でも温泉は大好きだった。
ちょっと違うかもしれないけど、大学帰りに友達とスーパー銭湯に行くのがブームだったこともある。……ほかの子は彼氏とタピってたのにねえ。
「あ、そうだ! コルネリウスさん!」
「まれ人様、なーにー?」
少し離れたところで食事をしていたコルネリウスさんが手を振る。
団長であるルーカスさん以外は、さっきみたいに食事の用意で能力別に分かれるときのほかは隊単位で行動している。
ベティーナちゃんとパイチェ君はわたし達と一緒だ。
「灰ありませんか、灰!」
「パン焼くときは鍋に直接魔力を放つから灰は出ないですー。夜になって焚き火したらできますよー」
「そうですか……」
無理に灰を作ってもらうのも悪いかな。
思っていたら、エーリヒさんが立ち上がった。
「まれ人様、石鹸作るの?」
茶色い髪のエーリヒさんは良く言えば哲学者、悪く言えば怠け者。
大体一日中馬上でぼーっとしていて部下の人に世話を焼かれている。……わたしも人のこと言えないけど。
ベティーナちゃんに猫妖精騎士のパイチェ君に似てると言われていた。
なお、一角獣に乗っているのはルーカスさんだけで、ほかの聖騎士は基本的には普通の馬に乗っています。たまに魔獣や幻獣っぽいのもいるよ。
神殿に泊めてもらったお礼がしたかったわたしは、活性化した牧草を聖騎士団の騎獣のための特別な飼料という体でヴァーゲの町の畜産業者に配ってもらった。
その牧草を食べた牛は乳を出すようになったそうです。良かったー。卵を産まなくなった鶏には、なにもできなかったのが残念です。
「そうなんです。温泉に入るなら欲しいと思って。服も洗いたいし」
灰と油と……後なにが必要だったかな?
蜜も入れたら香りが良くなるかもしれない。
でもまあ、ルーカスさんが魔導で浄化してくれてるから無理に洗う必要ないんだけど。
「じゃあ、これあげる。……はい」
エーリヒさんが魔導を使ったのだろう。
ふわりと風が起こって、小さな布袋がわたしの手に落ちてきた。
「そろそろ温泉だと思って、昨夜の焚き火で出た灰集めといた」
「ありがとうございます!」
「陽菜様、申し訳ありません」
「ルーカスさん?」
「私の気が利かなくて。ヴァーゲの町で石鹸を用意しておけば良かったですね」
「いいえ。作るの好きですから!」
本当は結構完成までに時間がかかるみたいだけど、わたしの不思議パワーなら大丈夫でしょう。
「ベティーナちゃんも一緒に入ろうね!」
「入る! パイチェはどうする?」
「温泉って熱い水たまりだにゃ? なんでそんなものに入りたがるのか、パイチェには理解できないのにゃ」
猫妖精騎士でも猫は猫でした。
まあ個体差はあるって聞くけどね。
ひとり暮らししてた友達の飼ってた猫は、泊まりに行くとお風呂に入ったわたしを脱衣所からじーっと見つめてたなあ。一緒に入る? って聞くと、お前は莫迦だって感じの顔で睨まれたっけ。
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