オオカミさんといっしょ!

豆狸

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第四話 オオカミさんを守りたい。

※3・女の子の胸はすべて宝物さ。(狐のルナール視点③)

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「あーもう、なんなんですの? なんだって、こんなところ歩かないといけないんですの!」

 甲高い叫び声が響き渡る。
 ここはフォーレ王国の都からミーヌ村へと伸びた街道(実際は魔晶蜜の鉱山が発見されたとき、昔から残ってる街道に合わせて村ができたんだけどね)を外れた夜の森(名前。今はまだ夜じゃない)の中。
 俺は狐の獣化族のルナール。
 狐の姿に獣化してても魔法を解除してても、いつでも真っ赤ないい男。

「まあまあレネット嬢、落ち着いて。疲れたんなら俺の尻尾モフモフしてもいいんだぜ?」
「いりません!」

 銀髪のレネット嬢はぴしゃり。
 彼女はエスクロ男爵家の跡取り娘。いずれ婿を取って家督を継ぐ予定ってこと。
 ……それまで家が保てばだけど。
 レネット嬢は青い瞳に白い肌、整った顔立ちの美人で肢体もすらりとしてる。
 これで胸がもう少し……ううん、俺的には全然問題ないよ!
 大きくても小さくても、たとえぺったんこだったとしても、女の子の胸はすべて宝物さ。
 澄んだ青い瞳が俺を見つめてくる。

「大体、どうしてクロ村などに向かわなくてはいけないのです? 狼の獣化族が住む村なのでしょう、おぞましい。……男爵領にも多くの狼がいて領民を苦しめていましたわ」
「狼の獣化族は、野獣の狼の元締めじゃないよ。モンスターの星狼や流星狼とも関係ない。そもそもさあ、俺と一緒に定期馬車を降りたりせず、乗ったままミーヌ村へ行ってれば良かったのに」
「そういうわけにはいきませんわ!」

 レネット嬢の形の良い眉が吊り上った。

「あたくしはあなたの護衛なんですのよ! あなたから離れてどうするんですか!」
「あはは、そうだったね。俺も美人と一緒で楽しいけど」

 俺の今の職業は冒険者じゃない。
 太陽の神殿の代表司祭だ。
 着ている服も赤地に金縁の司祭服。
 やたらめったら厳しい星の神殿と違って、太陽と月の神殿は魔法以外にも緩い。
 神官や司祭が冒険者登録して行動することも許されている。
 フォーレ王国で毎年夏に開催される武闘大会だけはどこの神殿に所属していても参加できない決まりだけど、これは神殿が、っていうよりフォーレ王国側の禁止事項。
 武闘大会の成績優秀者は王家の親衛隊に勧誘されることがあるから仕方ないね。
 有名無実なものとはいえ、三柱の神殿は政治に関わらないのが原則だし。

「……どうして神獣裁判を行う代表司祭に狼の獣化族なんかが任命されるんですの。途中で寄ったオングル村の月の神殿にいる人間の司祭ではダメでしたの?」
「俺も狐の獣化族だよ」
「あ、あなたは……失礼なことを言って申し訳ありませんでしたわ」

 初対面では俺もいろいろ言われちゃったけど、どうやらレネット嬢は『狼』の獣化族に対して特別深いわだかまりがあるようだ。
 オングル村の月の神殿にいた熊の獣化族相手には、驚いていただけだった。
 野獣の熊を見たことがなくて、ぬいぐるみと一緒にしてるだけかもしれないけど。

「んーべつにいいよー。でもクロ村では狼の獣化族に悪口は言わないでね」
「……わかりましたわ」
「少し座って休む?」
「は、はい!」

 レネット嬢は喜色満面で、近くの木の根に腰かけた。
 苔や泥にたっぷり覆われているから、街道から森に入ってすぐのころなら絶対に座ろうとしなかっただろうな。
 彼女は護衛任務中の冒険者見習いとしての心よりも、エスクロ男爵家の跡取り娘、なに不自由なく育った貴族令嬢としての心のほうが勝っている。
 さっき叫んでいたのも、俺の護衛をしているということをすっかり忘れていたからだ。
 まあ本気で冒険者になる気なんてないんだろうな、今のところは。

「そういえば大丈夫?」
「なにがですの? 護身のために剣術は身につけていますわ、バカになさらないで」

 貴族の護身剣術ほど役に立たないものはない。

「いや、レネット嬢のご実家って星の神殿の信徒でしょ? 仮にとはいえ赤き刃団の冒険者として登録しちゃって良かったの? 赤き刃団は太陽の神殿と関係が深いんだよ?」

 だから太陽の代表司祭でもある俺が所属してたわけ。
 冒険者ギルドは自由な集団じゃない。
 武力を持った人間が神殿の商売敵みたいな真似をしてるんだ。
 国からも地域からも、神殿からも監視されている。
 ついでに言うと、モンスターを退治して得た素材や遺跡で見つけた古い魔具、調合した薬品などなどの売買で商人組合にも首根っこつかまれてる。
 それぞれの組織の隙間で上手く立ち回っているものの、面倒な仕事だと思うよ、冒険者ギルドなんてのは、さ。
 とはいえ今のモンスターの出現状況だと、ギルドがなくなることもないんだろうな。
 国や地域、神殿だけでは対応しきれない。
 やっぱり魔法が必要なんだ。モンスターから習得するんじゃ運任せ過ぎる。
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