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第五話 後姿
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デロベとジャンヌはまるで違った。
デロベの髪は光り輝く黄金色で、瞳の色は明るい緑色。
明るく陽気な性格をしていて、王都のユタン伯爵邸を訪れたセパラシオンをいつも全身で歓迎してくれた。
ジャンヌの髪は暗い黒色で、瞳は色の薄い青灰色。
髪と同じように陰気で沈んだ性格をしていて、婚約者のセパラシオンが訪れても自室から出てこないことも多かった。
セパラシオンはそう記憶している。
しかし父親が同じせいか、ふたりの顔立ちは驚くほどに通っていた。そして、後姿も。
「……デロベ?」
そんなはずがない。そう思いながら、セパラシオンは名前を呼んだ。
父に言われた通りヴァンサン侯爵領の館へ戻ったセパラシオンは、どこか怯えたような表情の使用人達に中庭へと案内された。
中庭の花壇の花々は美しく咲き誇っていて、金髪の女性が立っていた。風に揺れる髪の柔らかさや細さ、しなやかな体つき──セパラシオンは彼女がデロベだとしか思えなかった。思わず呼んだ名前に、彼女は振り返り笑顔で微笑んだ。
「セパラシオン」
細められた瞳は青灰色だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「坊ちゃまは若奥様を放置しておけとおっしゃいましたけれど、旦那様は礼を持って尽くすようにとご命じになりました。坊ちゃまがお戻りの際は距離を置いて、お言葉を守っているように見せかけていましたが、普段の若奥様と私どもの関係はそう悪くはなかったと思います」
侯爵領の館を任せている家令の言葉に、セパラシオンは溜息をついた。
ふたりは応接室にいる。
金髪になっていたジャンヌは中庭だ。メイドがひとり見張りについている。
「ではなぜ、こんなことになっているんだ?」
「私どもにもわかりません」
何日か前、セパラシオンが侯爵領へ戻ってくると聞いたときはおかしなところなどなかったのだという。
それが昨日、ジャンヌはどうやったのか突然自分の髪を黄金色に変えていた。
それから自分をデロベだと名乗るようになったのだという。
「……くだらない演技だな。私が愛したデロベの真似をして、離縁前に少しでも私を苦しめようというのだろう」
「そうでしょうか?」
「違うと言うのか?」
「いえ……」
言葉を濁す家令との会話を中止して、セパラシオンは中庭に戻った。
「ジャンヌ!」
本当の名前で呼びかけても彼女は振り向かない。
見張りに残していたメイドは、困惑した表情でセパラシオンとジャンヌの顔色を窺っている。
セパラシオンは足を踏み出し、ジャンヌの肩を掴んだ。
「ふざけるのもいい加減にしろ! デロベは死んだんだ!」
青灰色の瞳がセパラシオンを映し、微笑む。
「嫌だわ、セパラシオン。死んだのはあの女のほうでしょう? だってアナタが言ったんじゃない。あの女を始末して、アタシを妻にするって」
「……聞いていたのか?」
「アナタがアタシに言ってくれたのよ? アタシがここにいるって言うことは、あの女が死んだってことでしょう?」
「っ! うるさい、黙れ! 君なんかがデロベの振りをするなっ!」
「今日はご機嫌斜めなのね、セパラシオン」
ふふふ、とからかう蠱惑的な表情は生前のデロベそのままだった。瞳さえ青灰色でなければの話だが。
デロベの髪は光り輝く黄金色で、瞳の色は明るい緑色。
明るく陽気な性格をしていて、王都のユタン伯爵邸を訪れたセパラシオンをいつも全身で歓迎してくれた。
ジャンヌの髪は暗い黒色で、瞳は色の薄い青灰色。
髪と同じように陰気で沈んだ性格をしていて、婚約者のセパラシオンが訪れても自室から出てこないことも多かった。
セパラシオンはそう記憶している。
しかし父親が同じせいか、ふたりの顔立ちは驚くほどに通っていた。そして、後姿も。
「……デロベ?」
そんなはずがない。そう思いながら、セパラシオンは名前を呼んだ。
父に言われた通りヴァンサン侯爵領の館へ戻ったセパラシオンは、どこか怯えたような表情の使用人達に中庭へと案内された。
中庭の花壇の花々は美しく咲き誇っていて、金髪の女性が立っていた。風に揺れる髪の柔らかさや細さ、しなやかな体つき──セパラシオンは彼女がデロベだとしか思えなかった。思わず呼んだ名前に、彼女は振り返り笑顔で微笑んだ。
「セパラシオン」
細められた瞳は青灰色だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「坊ちゃまは若奥様を放置しておけとおっしゃいましたけれど、旦那様は礼を持って尽くすようにとご命じになりました。坊ちゃまがお戻りの際は距離を置いて、お言葉を守っているように見せかけていましたが、普段の若奥様と私どもの関係はそう悪くはなかったと思います」
侯爵領の館を任せている家令の言葉に、セパラシオンは溜息をついた。
ふたりは応接室にいる。
金髪になっていたジャンヌは中庭だ。メイドがひとり見張りについている。
「ではなぜ、こんなことになっているんだ?」
「私どもにもわかりません」
何日か前、セパラシオンが侯爵領へ戻ってくると聞いたときはおかしなところなどなかったのだという。
それが昨日、ジャンヌはどうやったのか突然自分の髪を黄金色に変えていた。
それから自分をデロベだと名乗るようになったのだという。
「……くだらない演技だな。私が愛したデロベの真似をして、離縁前に少しでも私を苦しめようというのだろう」
「そうでしょうか?」
「違うと言うのか?」
「いえ……」
言葉を濁す家令との会話を中止して、セパラシオンは中庭に戻った。
「ジャンヌ!」
本当の名前で呼びかけても彼女は振り向かない。
見張りに残していたメイドは、困惑した表情でセパラシオンとジャンヌの顔色を窺っている。
セパラシオンは足を踏み出し、ジャンヌの肩を掴んだ。
「ふざけるのもいい加減にしろ! デロベは死んだんだ!」
青灰色の瞳がセパラシオンを映し、微笑む。
「嫌だわ、セパラシオン。死んだのはあの女のほうでしょう? だってアナタが言ったんじゃない。あの女を始末して、アタシを妻にするって」
「……聞いていたのか?」
「アナタがアタシに言ってくれたのよ? アタシがここにいるって言うことは、あの女が死んだってことでしょう?」
「っ! うるさい、黙れ! 君なんかがデロベの振りをするなっ!」
「今日はご機嫌斜めなのね、セパラシオン」
ふふふ、とからかう蠱惑的な表情は生前のデロベそのままだった。瞳さえ青灰色でなければの話だが。
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