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泥かぶりな三日目(午後)
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着替えの時間だけをもらい――さすがに埃まみれの仕事用の服装で行く気にはなれない――メレンさんと一緒に行ったのは、男性向けの定食屋と、女子の好むカフェを足して二で割ったみたいな店だった。
「とてもおいしかったです。いい店を教えて頂きました、ありがとうございます」
「気に入ってくれてよかったよ」
ランチに力を入れているらしく、メニューも豊富だった。
私はおすすめのランチプレートで、メレンさんはガッツリ系のセット。
どちらもおいしく食べ終わり、今は食後のコーヒータイムです。
「でも、シエルはあれで足りたの? もっと食べてよかったんだよ?」
「十分でしたよ。見た目よりも結構ボリュームありました」
実際にはもうちょっと入りそうな気もしたんだけど、そこはほら、奢ってもらうし、女子として多少の見栄もありますし。腹八分目と考えれば、十分な量でしたし。
「そう? 遠慮したんじゃないならいいんだけど」
「多少の遠慮はしましたけど、ちゃんとお腹にたまりましたから、安心してください」
「あはっ、正直だね、シエルって」
「反対に、ここぞとばかりに高そうなものを選ぶよりはいいんじゃないかと思ってます」
「うん。それは、たしかにそうだね」
午前中、一緒に闘った(意訳)こともあり、心理的な距離は近づけたようだ。こうやって軽口をたたき合う程度にはね。
お互い、にっこりと笑い合って、コーヒーに口をつける。
これもまたおいしい。ホントにいい店を教えてもらった。店構えからして、女性が一人で来てもおかしくないようだし、これからもたまに来るようにしたいものだ。
「……でも、ホントさ。シエルって、本来はうちみたいなところに来る子じゃないよね」
「いきなりですね。どうしたんですか?」
コーヒーカップに目を落としたまま、突如としてメレンさんがそんなことを言い出した。
「だってさ。どう考えても『泥かぶり』にはもったいない戦力じゃん。銀の五にいたってきいて、ああ、なるほどって納得できたし」
「戦力じゃないです、私は治癒師です」
褒めてもらえるのはうれしいが、そこはしっかりと訂正しておく。
「これはパランさんの受け売りなんだけど――『敵を倒すのだけが小隊への貢献だと勘違いすんじゃねぇぞ』」
ほう? これはまた……意外な感じのセリフだな。
「シエルの支援魔法は、とっても助かった。前の隊にいた頃もかけてもらったことがあるけど、あの時よりも格段に動けたし」
「あー……」
私は持ち前の貧乏性(と言われていた)で、覚えられるのは片っ端から覚えたし、銀に上がってからはデルタさんの指導も受け、可能な限りの支援はするようにしている。ただし、治癒師が全員が全員、私みたいにしてるわけじゃない。
中には「支援魔法など治癒師のやる事ではない」みたいな頑固な人もいるらしい。メレンさんのかつての同僚は、そこまで極端じゃないにしても、『普通の治癒師』だったんだろう。
「得手不得手っていうのもありますし……」
「にしても、だよ。ほんとに不思議なんだけど――なんで、うちに来ることになっちゃったのさ?」
私が訊こうと思っていたのに、反対にメレンさんから訊ねられてしまった。
でも、丁度いいといえば丁度いいタイミングではある。相手の事だけ詮索して、自分の事はだんまりというのは私の趣味でないので、かえってありがたいくらいだ。別段、秘密にすることでもないしね。
「えーと、ですね。実は……」
ということで、ざっとだけどお話させていただきました。私もまだ理解できない部分もあるので、そこらへんはぼかさせてもらったけどね。
「……なんだよ、それ」
そして、現在、メレンさんがご立腹中です。
「それって、シエルは全く悪くないだろ」
「私もそう思うんですけどね」
団長の首を挿げ替えられる人からしたら、平民でただの治癒師の私なんか、どうとでもできる存在なのは間違いない。腹立たしくは思うけど、受け入れるしかない状況なのもわかってる。
それにね。なんだか、ちょっと、ここ(泥かぶり)にいるのもそれほど悪くないんじゃないかって、思えてきてるし。
そう告げると――メレンさんに苦笑された。
「まぁ、シエルはまだ来たばっかりだからね……そのうち、そんなことも言ってられなくなるよ」
「……そこまでひどい待遇なんですか?」
「待遇もだし、任務の中身も、かな。普通ならとっとと退役願を出してるところだと思うよ」
「でも、メレンさんも他の人も残ってますよね?」
「俺の場合は、ちょっと事情があってさ。今は辞められないんだよね」
「その事情というのは、伺っても……?」
恐る恐る問いかけると、メレンさんは一つ頷いた後、話してくれた。
メレンさんのご実家は、王都からほど近い街でお商売をしているのだそうだ。お母様は早くに亡くなられていて、まだご健在のお祖父さまとお父様で店を切り盛りしている。
「婆ちゃんも亡くなってて、女手がなくてさ。俺、長男だったんで、母親代わりみたいなことをしてたんだよね」
掃除、洗濯、炊事に繕い物――それを聞いてちょっと納得した。本人も、まさかその繕い物の腕が、こんなところで役に立つとは思わなかっただろうが……。
「んで、さ。その商売なんだけど、しばらく前から、あんまりうまくいってなくてね。ちょっとした借金ができちゃって、それで――」
ちょっとした借金、とは言っても、小さな商店にとっては重たい負債だ。そこでメレンさんが考えたのは、自分が討伐騎士団に入って、その給料で借金を返す、ということだった。
幸いなことに、メレンさんは体格にも恵まれており、運動神経も悪くない。私と似たような感じで騎士の養成所に入り、二年の訓練を経て騎士団へと採用された。それ以来、ずっとお給料の中から実家へと仕送りを続けているのだそうだ。
「二年前までは、銀の十二にいたんだよ、俺。けど、そこで、ちょっとトラブルがあってね」
小隊の中で盗難騒ぎが起きたのだという。そこで、借金持ちのメレンさんが疑われてしまった。
勿論、メレンさんが犯人だという証拠は出てこなかったが、他の人の犯行だという証拠もない。その事で、かえってメレンさんの犯行だと思い込まれてしまったらしい。
当然ながら、その後の小隊のムードは最悪になり、耐え切れなくなったメレンさんが移動願を出したところ――
「ここに飛ばされた、ってわけだね。んで、ほぼ同時期に隊長たちも飛ばされてきて、気が付いたら二十一小隊が出来上がってたって寸法だよ。どうも、隊長たちも元居たとこで、もて余されてたみたいでさ。はみ出し者の数が良い感じに揃ったんで、一気に、って感じなんだろうね」
最後にため息を一つ。
諦めも入ってるだろうけど、それでもこの『泥かぶり』でやっていくんだって気持ちが伝わってくるみたいな……。
「ごめんね、なんか重い話になっちゃって――折角おいしいもの食べた後なのにさ」
「いえ、話していただいてありがとうございました。それで、その……ついでと言ったら、アレなんですけど、隊長たちが何で飛ばされたか、とかはここで聞いてもいいことでしょうか?」
「構わないと思うよ。秘密にしてるわけじゃないし、そもそも、知ってる人は知ってる話だし」
重たい話は、まとめてやっちゃった方がいいよね、と。
軽い調子で『重たい話』をしてくれたメレンさんによれば――。
隊長――当時の所属は、銀のトップ。非番の日に町に出ていたところ、女性に無体な真似していた男を発見し、さくっと制圧。ところが、その男というのが貴族の子弟で、しかも金所属の騎士だった。格下の銀にコテンパンにのされた上に、往来のど真ん中で恥をかかされたと逆恨みをされ、実家の権力にものを言わせた結果『泥かぶり』送りにされたそう……。
ザハブさん――元銅二。双剣使いというのは実は非常に珍しく、銅でいながらその名は金にも知られていた。だが、それが災いして、例のリーディス姫様に目を付けられてしまった。彼は平民なのだが、自分の隊に欲しいということで、無理を通して叙勲しようとしたらしい。が、本人がサクッと拒否。『士族とかめんどくさい』とリーディス姫ご本人の前で言い放ったそうだ。その上、『生身の女とか気持ちが悪い』とまで……なんでもザハブさんという人は、ドが付くほどの人形マニアで、自宅に帰れば物言わぬ嫁が何人も待っているのだそうだ。
ちょっと知りたくなかった事実です。で、姫様のお怒りを買い『泥かぶり』へ。
サーフェスさん――出身が士族であったこともあり、金十八所属。ところが、討伐時の効率を求める余り、度々、隊長と衝突。その結果、煙たがられ、とある討伐任務の失敗の原因をおっかぶせられて『泥かぶり』行き。
パランさん――元は金八という実力者なのだが、サーフェスさんと似た感じであまりにも『強さ』を求めすぎたらしく、その所為で重傷者が続出。危険物扱いをされて、貴族だというのに『泥かぶり』に隔離されたらしい。
「……皆さん、濃いですね」
「俺のなんか、可愛い方だと思うだろ?」
「いえ、とんでもない災難だったと思いますが……確かに、ザハブさんの話はインパクトありました」
またしてもリーディス姫が絡んでた、っていうのも含めてね。
「ちなみにあいつ、きちんと身なりを整えたらものすごい美形だよ。顔のせいもあって、目を付けられちゃったんで、今は隠すようにしてるらしい」
「え……」
私のザハブさんのイメージというと、実は『埃をかぶったモップ』だったりする。金髪ではあるが、ぼさぼさのくしゃくしゃ。皮鎧装備だけど、そっちも傷だらけでなんとなく白っぽくなってて、おかげで全体的になんというか……『モップ』。それもかなり使いこまれてる感じの。
「……まぁ、そういう感じのメンバーだってことで。さて、そろそろ出ようか。あんまり長居すると、次が来にくくなるしさ」
「そうですね」
ランチは頼んだけど、コーヒーが来てからかなりが経っている。わざとらしく片付けに来たりはしないが、流石に粘るのも限界だろう。
「ありがとうございました。お昼と、今のお話も」
「こちらこそ。久しぶりに女の子と食事ができて楽しかったよ」
こんな色気もかわいげも皆無の私を『女の子』扱いしてくれるなんて……ほんとにメレンさんはいい人だ。
ほっこりして、そのおかげで重たい話もあまり引きずらずに済んだ。その事にも感謝だね。
メレンさんと別れた後は、寮の自室へと帰る。
引っ越ししたばかりで、まだろくに荷解きもできてなかったのだが、非番のおかげで片付けられそうだ。
空き部屋だったおかげで、なんとなく埃っぽいのも気になっていたから、ついでに大掃除もした。やっぱりここでも掃除するんかいっ、と自分にツッコミを入れつつの作業も、夕方になれば一段落する。
昼はメレンさんと一緒の外で済ませたので、夜はいつものように寮でとろうと思い、食堂に向かったのだけど――そこで、嫌なものを発見した。
「……げ」
朝、私に絡んできてくださった先輩がいるじゃないか。しかも、妙にきょろきょろしてるし。
あれって、もしかして私を探してる系?
朝のだけじゃ足りなくて、夜もいちゃもんつけたいという意気込みをお持ちで?
引くわー。元々、好意なんて一かけらも持ってなかったけど、引くわー。
色々な意味で充実した休日を過ごせたというのに、最後にこれは頂けない。
幸いなことに、相手はまだ私には気が付いていない。ならば、ここは逃げるが勝ちだ。
食堂の入り口でくるりと踵を返す。
……さて、トラブル回避はできたけど、晩御飯どうしよう?
「それで、ここに来たのかい? シエルも災難だねぇ」
寮での晩御飯を食いはぐれた私は、行きつけの店に来てます。寮で食べればただなのに、昼も夜も外食なんて贅沢だなー、とか思ったけど、考えてみたら昼は奢ってもらったんだった。
「ホントですよ。同情してください」
普通なら口が裂けても言わないセリフだが、ここの女将さん相手なら別だ。
ここは王都の平民街にある『女神の鉄槌』という店だ。この国では珍しい真っ黒な髪と黒い目を持つ、出身は海を越えた東の大陸だという女将さんが、一人で切り盛りをしている。食堂とも酒場ともちょっとだけ違う『小料理屋』という種類だそうで、女将さんの故郷にはたくさんあるんだと聞いたことがある。
「ああ、可哀そう可哀そう――可哀そうだから、ほら、こっちもお食べ」
コトリと前に置かれたのは『ショーユ』という調味料で味付けされた煮物の小鉢だ。
「わーい、女将さん、大好き!」
可哀そう、と言いながらも、女将さんの顔は笑ってる。愚痴っても変に深刻にならずに、こうやって冗談めかして、でもさり気なく慰めてくれるんで、ついつい甘えちゃうんだよね。
「女将さんのこの煮物、大好きなんですよ。ホントにもう、お嫁さんにもらいたいくらい」
「でもって、朝晩、これを作らせようってかい?」
「朝はもうちょっと軽い方がいいんで、夜だけで」
「夜だと営業時間だからお代は頂くよ?」
「えー」
店内には、テーブル席がいくつかと、カウンター席。それと、靴を脱いで上がる『小上がり』という不思議な席も一つある。これもまた、女将さんの故郷の風習だそうだ。
店自体はそれほど大きくはない。女将さんと、忙しい時だけ来る手伝いのおばさん二人で回せるぎりぎりという規模だ。
まだ早い時間帯な事もあってお客は私と、後は小上がりに一人だけ。だけど、ここは知る人ぞ知るって感じのお店なので、もう少ししたらにぎわってくるだろう。
「……にしても、シエルが『泥かぶり』とはねぇ」
「女将さん、知ってるんですか?」
そんな状態だから、こうやって話し相手もしてもらえてる、ってことです。尤も、そう言いながらもカウンターの向こうの女将さんは、せっせと料理の下ごしらえや調理にいそしんでらっしゃる。
なんか、こういうのって実家の母を思い出す。前にうっかりそう言ったら、『あたしはあんたみたいなでかい娘を生んだ覚えはないよ』って言われちゃったけどね。
「アドムってのがいるだろう? あの子は、この近くにある花街の生まれでね。ちびっこい頃はよくここに遊びに来てたから知ってるんだよ」
「隊長とお知り合いとは思いませんでした……」
しかも『あの子』って言ってるし。
かなり前からの知り合いなんだろうが、そうなってくると女将さんって一体幾つ? という疑問がわいてくる。見た目は私より十歳ちょっと上くらいだろうと思うんだけど、それで隊長の事を子ども扱いっていうのはおかしいよね。
「今でもたまに、実家に戻ったついでに顔を出すよ。それと、もう一人――そっちにいる無口な変態も、『泥かぶり』だろう?」
「……は?」
思いがけない言葉に、反射的に後ろを振り返る。
すると、小上がりの隅っこにいる人と目が合った――あら、やだ、ザハブさんじゃありませんか。
あっちも私の視線に気が付いたようで、小さく片手をあげて合図してくれたので、こっちも会釈を返したんだが――『無口な変態』って何?
「アドム坊やが連れてきたんだよ。それ以来、どうもあたしのことが気に入ったみたいでね。暇があればああやってあそこに居座る様になっちまったんだよ」
「女将さんの事を……?」
「こら、シエル。何だい、その顔は? あたしを気に入った男がいるのが、そんなに不思議かい?」
「い、いえ。そんなつもりではっ!」
衝撃的な単語に続いて、衝撃的な事実をきかされて、ちょっと取り乱しただけです。だから、威圧を放たないでください、女将さん。
何でも女将さんは、東の大陸にいた頃は、それなりに名の売れた『ハンター』をやっていたらしい。こっちでは『冒険者』と呼ばれる職で、当時の相方と一緒に海を渡って来た。ちなみにその『相方』とはずいぶん前に別れたそうで、それから一人でこの店を始めたのだという。
腕っぷしはかなりのものらしく、だからこそ、女手一つでこんな店を切り盛りできるのだ。
「……ふっ、冗談だよ」
「冗談でも肝が冷えます」
「何言ってるんだい。『泥かぶり』でやっていくつもりなら、このくらいは軽く流せないでどうするさ――ああ、さっきの話だけどね。あの男、あたしの見た目に興味があるだけだよ。こっちじゃ珍しい色合いだし、あたしの格好がほら、こんなだろう?」
こんな、というのは、女将さんの来ている服の事だ。東の民族衣装をこっち風にアレンジしたって言ってたが、女将さん自身の持つムードと相まって、なんともエキゾチックで不思議な魅力がある。
「あたしをモデルに、人形を作りたいんだそうだよ。それで観察のために通ってるってだけさ」
「……」
そういえば、ザハブさん家には物言わぬ嫁が何人もいるって、メレンさんが言ってたな。なるほど、お嫁さんがもう一人増えるのか。それで『無口な変態』ね……超納得しました。
「あそこからじっとこっちを見てるだけで、混んで来たら帰るくらいの常識もあるようだし、好きにさせてるんだよ」
「女将さん……器が大きいですね」
「商売の邪魔をしなきゃ、ね……おっと」
カラカラと、入り口の引き戸(これも珍しい)が開いて、暖簾(これも東の物だ)をかき分けつつ、新しいお客さんが入ってくる。
身なりのいい――おそらくは貴族だろう――年齢は、私よりちょっと上くらいかな? この店のお客さんは比較的年配の人が多いので、珍しいタイプだ。
え、私? 私は銀に上がって直ぐの頃、デルタさんに連れてきてもらったのが最初だ。その時になんとなく女将さんと意気投合しちゃって、それ以来、月に二、三回な感じでおじゃましてます。
「いらっしゃ――」
新しいお客に、女将さんが笑顔で声をかけるんだが、なぜか途中でそれが止まる。そして、その代わりというわけでもないんだろうが、その新規のお客さんがとんでもない事を叫んだ。
「ああ、リーリーっ。私の女神様っ、お会いしたかった……っ」
「あたしの名前は柳麗だし、あんたの女神じゃないし、別に会いたいとは思ってなかったよ」
「ああ、そのつれない反応がまた素敵……」
「ああ、そうかい。そりゃよかった――ってことで、生憎だけどあたしは忙しいんだ。用がないんならさっさとお帰り!」
女将さんが、お客をここまで邪険に扱うのは初めて見た。何時だってほほえみを絶やさず、ちょっと厄介な酔っ払いが相手でも、あっという間に宥めて機嫌よく送り出している人なのに。
「お、女将さんっ?」
しかも、相手は貴族みたいだし、大丈夫なのかと心配になり、つい口を出してしまった。
しかし。
「ああ、シエル――いいんだよ、此奴はカーンスって言って、こんな風にやられるのが嬉しくて仕方がないって変人だ。一応、お貴族様なんだけど、敬語はいらない、名前も呼び捨てにしてほしいって聞かなくてねぇ」
「リーリーは私の女神様ですから――ところで、こちらはまたかわいらしい方ですね。お会いできて光栄です」
「シエルはあたしの妹分だよ。手ぇ出したら承知しないからね」
「なるほど、我が女神の妹君ですか――自分は、カーンスと申します。王城警備騎士団の副長を務めさせていただいている未熟者ですが、以後、よしなに」
「は? あ……わ、私はシエルと言います。討伐騎士団の治癒師です、こちらこそよろしくお願いします」
王城警備騎士団の副団長……だと? うっかり普通に名乗っちゃったけど、私からしてみれば雲の上の人だ。爵位だってかなり上のはず。
そんな人に、いくら本人から頼まれたからって、あれだけぞんざいな口を聞ける女将さんってすごい……。
「さて、と――帰る気がないんだったら、さっさと座って何か注文しな。単価の高いやつでね」
「勿論です、女神様。では、いつもの冷酒と黄金鯛の煮つけをお願いします」
「あいよ」
黄金鯛ってのは、その名の通りに全身が金色に輝いてる魚だ。非常においしいのだけれど、めったに網にかからない。ついでにお値段もかなりのもので、私もデルタさんにおごってもらった一度しか食べたことがない。
そんなものがメニューにある女将さんの店もすごいが、『いつもの』と言えるほど食べてるこの人――カーンスさんもかなりすごい。
ところで、店の中はまだガラガラなのに、なんで私の隣に座ったんでしょうか、この人。
ニコニコしながらこっち見んなよ……どう対応すればいいのか困っているうちに、カーンスさんの頼んだものが出てくる。冷酒のボトルとグラス、それと大皿に盛りつけられた黄金鯛の煮つけ。当たり前の話だが、カーンスさんの扱いは荒っぽくても、女将さんがそれを置く仕草は丁寧そのもので――って、あれ? なんでグラスが二つあるの?
「さて、若き女神シエルさん。どうか、お近づきのしるしとして一献、受けてくださいませんか?」
そう思っていたら、カーンスさんがそのグラスの片方を私に渡してくる。
「は? 私に、ですか?」
「ええ。ここに通うくらいですから、イケる口でしょう?」
「ええ……まぁ、それなりには……」
とはいえ、貴族の方の杯を、平民の私なんかが受けちゃっていいんだろうか?
討伐騎士団の中にも貴族はいるけど、あっちは一応『同僚』という言い訳がある。けど、カーンスさんは別の騎士団の方だし……とか思ってたら、女将さんの助けが入った。
「いいから、受けておやり。その男は可哀そうに友人が少なくてね。しかも、絶対に手に入らないのがわかってる『花』に焦がれてるっておまけ付きなんだよ。おかげで、ここに来ちゃぁ、愚痴を垂れ流してるんだけど、どうやらあんたのことを気に入ったらしい」
「え……」
「女神さまの妹君ですから、私が崇めるのは当然です」
「女神は店の名前で、あたしの事じゃないって何度言わせる気だい? ――ってことで、シエル。あんたもこれからは、此奴の愚痴の聞き役に決まったってことだよ。その迷惑料と思えば、酒の一杯や二杯、安いもんさ」
……それって、私に拒否権は……はい、無いんですよね。わかってました。
ええい、女は度胸! その酒、いただこうじゃありませんか!
「おお、よい飲みっぷりです。さすが女神さまの――」
「ああ、もうそれはいいから、さっさと煮つけも食べな。冷めちまう」
「これは失礼いたしました――シエルさん、こちらもいかがですか? 旨いですよ」
「……いただきます」
べつに滅多に食べられない黄金鯛に釣られたわけじゃない(いや、ちょっとだけあるかも)けど、気が付いたら私はすっかりカーンスさんと会話が弾んで(?)しまっていた。
それもこれも、全部、女将さんのおいしすぎるお酒と料理が悪いのよっ!
「……ですから、私のような者は、その辺の用水路にでも沈んでいた方がいいんです」
「いやいや、それ、農家さんの迷惑になりますから」
「迷惑……そうですよね、私は何処に行っても人様のご迷惑にしかなれないのですね。ああ、いっそ海に出て、誰も知らない深い海底で……」
「だーかーらっ! 何で、水の底に沈むっていうのが前提になってるんですっ?」
「陸に居場所がないものは、必然的にそこに行きつくしか……」
「いや、だから。貴方、貴族でしょっ? 副団長さんでしょ? どうして、そう自己評価が低いんですか?」
気が付いたら、ザハブさんは姿を消してた。店もそこそこにぎわってきていて、女将さんはそっちの対応で忙しくしてる。それなのに、何でか私はずっとカーンスさんの愚痴というか、よくわからない論理をきかされていて……ほんとに何でこうなった?
元々、それほど長居をするつもりはなかったんだけど、ようやくカーンスさんから解放されたときには、もう店も看板に近い時間になっていた。
「ありがとうございます、シエルさん。貴女のおかげで、久しぶりに楽しい時間が過ごせました」
「いえ、こちらこそ。なんか、ものすごくごちそうになっちゃいましたし」
「シエルさんのような素晴らしい女性に出会えたのですから、当然の事です」
私のお勘定は、知らない間にカーンスさんが全部払ってくれちゃってた。
お昼に続いて、夜もおごってもらうとは……これって、運がいいというべきなのだろうか?
「それと……よろしければ、転職など、考えて見られませんか?」
「はい?」
「失礼ですが、女性の身で討伐騎士団はお辛いでしょう。その点、うちは王都内での任務が主ですので、安全ですし――ぶっちゃけますと、今の職場より楽ができますよ」
いきなりヘッドハンティングまでされちゃいました。
「……お誘い、ありがとうございます。正直言って、とっても魅力的です。けど……」
「良いんですよ、ここで直ぐにお返事を、とは思っていません。こういった申し出もあった、と覚えておいていただければ。おそらくはそれ自体が、これからの貴方にとって、有利に働くこともあるでしょうから」
……『変人』のイメージが強烈すぎて、カーンスさんが貴族だってことを忘れそうになってたわ。けど、今のやり取りはしっかりと貴族のそれだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。では、自分は今夜のところはこれで――楽しい時間をありがとうございました」
「こちらこそです。ありがとうございました」
礼儀として、店の前までカーンスさんを見送る。
その後で、もう一度店内に戻ったら、女将さんがなんとも言えない優しい顔で迎えてくれた。
「よく頑張ったね、シエル。あいつの相手は疲れたろう? 悪いやつじゃないんだが、どうにも話に脈絡がないし、長いからね」
「ええ、まぁ……けど、なんかちょっと楽しかったですよ」
嘘じゃない。今まで出会った事のないタイプで、新鮮だったしね。
その後で、やっとこ私も家路――というか、寮に戻る。
夜道の一人歩きを女将さんに心配されたけど、素人の変質者くらいならいなせる自信もあるんで大丈夫だ。
――と思っていたら。
「……そこにいるのはシエルではありませんか。今頃、一人で何をしているんです?」
「は……?」
歩いていたところ、急に声をかけられて振り向いたら――あんた、誰?
「貴女の同僚のパランですが、忘れたのですか?」
いやいや、ちょっと待って。なんなんですか、その言葉遣い。しかも、服装もあのきったない皮鎧じゃなくて、きちんとした上質なものになってるし!?
「ああ、あれは勤務中ですから。今はプライベートですので」
「……普通、反対じゃありませんか?」
「公私のけじめのつけ方は人それぞれだと思いますよ。それより、こんな時間に女性の一人歩きは感心しませんね。寮に戻るのなら、送りましょう」
実は非番だったという朝一発目からの衝撃に始まった一日の、最後はこれですか……。
もう逆らう気力もなくなって、素直に送っていただきました。
もしかしたら、昨日より疲れたかもしれない。
明日、ちゃんと任務にいけるのかしら、私?
「とてもおいしかったです。いい店を教えて頂きました、ありがとうございます」
「気に入ってくれてよかったよ」
ランチに力を入れているらしく、メニューも豊富だった。
私はおすすめのランチプレートで、メレンさんはガッツリ系のセット。
どちらもおいしく食べ終わり、今は食後のコーヒータイムです。
「でも、シエルはあれで足りたの? もっと食べてよかったんだよ?」
「十分でしたよ。見た目よりも結構ボリュームありました」
実際にはもうちょっと入りそうな気もしたんだけど、そこはほら、奢ってもらうし、女子として多少の見栄もありますし。腹八分目と考えれば、十分な量でしたし。
「そう? 遠慮したんじゃないならいいんだけど」
「多少の遠慮はしましたけど、ちゃんとお腹にたまりましたから、安心してください」
「あはっ、正直だね、シエルって」
「反対に、ここぞとばかりに高そうなものを選ぶよりはいいんじゃないかと思ってます」
「うん。それは、たしかにそうだね」
午前中、一緒に闘った(意訳)こともあり、心理的な距離は近づけたようだ。こうやって軽口をたたき合う程度にはね。
お互い、にっこりと笑い合って、コーヒーに口をつける。
これもまたおいしい。ホントにいい店を教えてもらった。店構えからして、女性が一人で来てもおかしくないようだし、これからもたまに来るようにしたいものだ。
「……でも、ホントさ。シエルって、本来はうちみたいなところに来る子じゃないよね」
「いきなりですね。どうしたんですか?」
コーヒーカップに目を落としたまま、突如としてメレンさんがそんなことを言い出した。
「だってさ。どう考えても『泥かぶり』にはもったいない戦力じゃん。銀の五にいたってきいて、ああ、なるほどって納得できたし」
「戦力じゃないです、私は治癒師です」
褒めてもらえるのはうれしいが、そこはしっかりと訂正しておく。
「これはパランさんの受け売りなんだけど――『敵を倒すのだけが小隊への貢献だと勘違いすんじゃねぇぞ』」
ほう? これはまた……意外な感じのセリフだな。
「シエルの支援魔法は、とっても助かった。前の隊にいた頃もかけてもらったことがあるけど、あの時よりも格段に動けたし」
「あー……」
私は持ち前の貧乏性(と言われていた)で、覚えられるのは片っ端から覚えたし、銀に上がってからはデルタさんの指導も受け、可能な限りの支援はするようにしている。ただし、治癒師が全員が全員、私みたいにしてるわけじゃない。
中には「支援魔法など治癒師のやる事ではない」みたいな頑固な人もいるらしい。メレンさんのかつての同僚は、そこまで極端じゃないにしても、『普通の治癒師』だったんだろう。
「得手不得手っていうのもありますし……」
「にしても、だよ。ほんとに不思議なんだけど――なんで、うちに来ることになっちゃったのさ?」
私が訊こうと思っていたのに、反対にメレンさんから訊ねられてしまった。
でも、丁度いいといえば丁度いいタイミングではある。相手の事だけ詮索して、自分の事はだんまりというのは私の趣味でないので、かえってありがたいくらいだ。別段、秘密にすることでもないしね。
「えーと、ですね。実は……」
ということで、ざっとだけどお話させていただきました。私もまだ理解できない部分もあるので、そこらへんはぼかさせてもらったけどね。
「……なんだよ、それ」
そして、現在、メレンさんがご立腹中です。
「それって、シエルは全く悪くないだろ」
「私もそう思うんですけどね」
団長の首を挿げ替えられる人からしたら、平民でただの治癒師の私なんか、どうとでもできる存在なのは間違いない。腹立たしくは思うけど、受け入れるしかない状況なのもわかってる。
それにね。なんだか、ちょっと、ここ(泥かぶり)にいるのもそれほど悪くないんじゃないかって、思えてきてるし。
そう告げると――メレンさんに苦笑された。
「まぁ、シエルはまだ来たばっかりだからね……そのうち、そんなことも言ってられなくなるよ」
「……そこまでひどい待遇なんですか?」
「待遇もだし、任務の中身も、かな。普通ならとっとと退役願を出してるところだと思うよ」
「でも、メレンさんも他の人も残ってますよね?」
「俺の場合は、ちょっと事情があってさ。今は辞められないんだよね」
「その事情というのは、伺っても……?」
恐る恐る問いかけると、メレンさんは一つ頷いた後、話してくれた。
メレンさんのご実家は、王都からほど近い街でお商売をしているのだそうだ。お母様は早くに亡くなられていて、まだご健在のお祖父さまとお父様で店を切り盛りしている。
「婆ちゃんも亡くなってて、女手がなくてさ。俺、長男だったんで、母親代わりみたいなことをしてたんだよね」
掃除、洗濯、炊事に繕い物――それを聞いてちょっと納得した。本人も、まさかその繕い物の腕が、こんなところで役に立つとは思わなかっただろうが……。
「んで、さ。その商売なんだけど、しばらく前から、あんまりうまくいってなくてね。ちょっとした借金ができちゃって、それで――」
ちょっとした借金、とは言っても、小さな商店にとっては重たい負債だ。そこでメレンさんが考えたのは、自分が討伐騎士団に入って、その給料で借金を返す、ということだった。
幸いなことに、メレンさんは体格にも恵まれており、運動神経も悪くない。私と似たような感じで騎士の養成所に入り、二年の訓練を経て騎士団へと採用された。それ以来、ずっとお給料の中から実家へと仕送りを続けているのだそうだ。
「二年前までは、銀の十二にいたんだよ、俺。けど、そこで、ちょっとトラブルがあってね」
小隊の中で盗難騒ぎが起きたのだという。そこで、借金持ちのメレンさんが疑われてしまった。
勿論、メレンさんが犯人だという証拠は出てこなかったが、他の人の犯行だという証拠もない。その事で、かえってメレンさんの犯行だと思い込まれてしまったらしい。
当然ながら、その後の小隊のムードは最悪になり、耐え切れなくなったメレンさんが移動願を出したところ――
「ここに飛ばされた、ってわけだね。んで、ほぼ同時期に隊長たちも飛ばされてきて、気が付いたら二十一小隊が出来上がってたって寸法だよ。どうも、隊長たちも元居たとこで、もて余されてたみたいでさ。はみ出し者の数が良い感じに揃ったんで、一気に、って感じなんだろうね」
最後にため息を一つ。
諦めも入ってるだろうけど、それでもこの『泥かぶり』でやっていくんだって気持ちが伝わってくるみたいな……。
「ごめんね、なんか重い話になっちゃって――折角おいしいもの食べた後なのにさ」
「いえ、話していただいてありがとうございました。それで、その……ついでと言ったら、アレなんですけど、隊長たちが何で飛ばされたか、とかはここで聞いてもいいことでしょうか?」
「構わないと思うよ。秘密にしてるわけじゃないし、そもそも、知ってる人は知ってる話だし」
重たい話は、まとめてやっちゃった方がいいよね、と。
軽い調子で『重たい話』をしてくれたメレンさんによれば――。
隊長――当時の所属は、銀のトップ。非番の日に町に出ていたところ、女性に無体な真似していた男を発見し、さくっと制圧。ところが、その男というのが貴族の子弟で、しかも金所属の騎士だった。格下の銀にコテンパンにのされた上に、往来のど真ん中で恥をかかされたと逆恨みをされ、実家の権力にものを言わせた結果『泥かぶり』送りにされたそう……。
ザハブさん――元銅二。双剣使いというのは実は非常に珍しく、銅でいながらその名は金にも知られていた。だが、それが災いして、例のリーディス姫様に目を付けられてしまった。彼は平民なのだが、自分の隊に欲しいということで、無理を通して叙勲しようとしたらしい。が、本人がサクッと拒否。『士族とかめんどくさい』とリーディス姫ご本人の前で言い放ったそうだ。その上、『生身の女とか気持ちが悪い』とまで……なんでもザハブさんという人は、ドが付くほどの人形マニアで、自宅に帰れば物言わぬ嫁が何人も待っているのだそうだ。
ちょっと知りたくなかった事実です。で、姫様のお怒りを買い『泥かぶり』へ。
サーフェスさん――出身が士族であったこともあり、金十八所属。ところが、討伐時の効率を求める余り、度々、隊長と衝突。その結果、煙たがられ、とある討伐任務の失敗の原因をおっかぶせられて『泥かぶり』行き。
パランさん――元は金八という実力者なのだが、サーフェスさんと似た感じであまりにも『強さ』を求めすぎたらしく、その所為で重傷者が続出。危険物扱いをされて、貴族だというのに『泥かぶり』に隔離されたらしい。
「……皆さん、濃いですね」
「俺のなんか、可愛い方だと思うだろ?」
「いえ、とんでもない災難だったと思いますが……確かに、ザハブさんの話はインパクトありました」
またしてもリーディス姫が絡んでた、っていうのも含めてね。
「ちなみにあいつ、きちんと身なりを整えたらものすごい美形だよ。顔のせいもあって、目を付けられちゃったんで、今は隠すようにしてるらしい」
「え……」
私のザハブさんのイメージというと、実は『埃をかぶったモップ』だったりする。金髪ではあるが、ぼさぼさのくしゃくしゃ。皮鎧装備だけど、そっちも傷だらけでなんとなく白っぽくなってて、おかげで全体的になんというか……『モップ』。それもかなり使いこまれてる感じの。
「……まぁ、そういう感じのメンバーだってことで。さて、そろそろ出ようか。あんまり長居すると、次が来にくくなるしさ」
「そうですね」
ランチは頼んだけど、コーヒーが来てからかなりが経っている。わざとらしく片付けに来たりはしないが、流石に粘るのも限界だろう。
「ありがとうございました。お昼と、今のお話も」
「こちらこそ。久しぶりに女の子と食事ができて楽しかったよ」
こんな色気もかわいげも皆無の私を『女の子』扱いしてくれるなんて……ほんとにメレンさんはいい人だ。
ほっこりして、そのおかげで重たい話もあまり引きずらずに済んだ。その事にも感謝だね。
メレンさんと別れた後は、寮の自室へと帰る。
引っ越ししたばかりで、まだろくに荷解きもできてなかったのだが、非番のおかげで片付けられそうだ。
空き部屋だったおかげで、なんとなく埃っぽいのも気になっていたから、ついでに大掃除もした。やっぱりここでも掃除するんかいっ、と自分にツッコミを入れつつの作業も、夕方になれば一段落する。
昼はメレンさんと一緒の外で済ませたので、夜はいつものように寮でとろうと思い、食堂に向かったのだけど――そこで、嫌なものを発見した。
「……げ」
朝、私に絡んできてくださった先輩がいるじゃないか。しかも、妙にきょろきょろしてるし。
あれって、もしかして私を探してる系?
朝のだけじゃ足りなくて、夜もいちゃもんつけたいという意気込みをお持ちで?
引くわー。元々、好意なんて一かけらも持ってなかったけど、引くわー。
色々な意味で充実した休日を過ごせたというのに、最後にこれは頂けない。
幸いなことに、相手はまだ私には気が付いていない。ならば、ここは逃げるが勝ちだ。
食堂の入り口でくるりと踵を返す。
……さて、トラブル回避はできたけど、晩御飯どうしよう?
「それで、ここに来たのかい? シエルも災難だねぇ」
寮での晩御飯を食いはぐれた私は、行きつけの店に来てます。寮で食べればただなのに、昼も夜も外食なんて贅沢だなー、とか思ったけど、考えてみたら昼は奢ってもらったんだった。
「ホントですよ。同情してください」
普通なら口が裂けても言わないセリフだが、ここの女将さん相手なら別だ。
ここは王都の平民街にある『女神の鉄槌』という店だ。この国では珍しい真っ黒な髪と黒い目を持つ、出身は海を越えた東の大陸だという女将さんが、一人で切り盛りをしている。食堂とも酒場ともちょっとだけ違う『小料理屋』という種類だそうで、女将さんの故郷にはたくさんあるんだと聞いたことがある。
「ああ、可哀そう可哀そう――可哀そうだから、ほら、こっちもお食べ」
コトリと前に置かれたのは『ショーユ』という調味料で味付けされた煮物の小鉢だ。
「わーい、女将さん、大好き!」
可哀そう、と言いながらも、女将さんの顔は笑ってる。愚痴っても変に深刻にならずに、こうやって冗談めかして、でもさり気なく慰めてくれるんで、ついつい甘えちゃうんだよね。
「女将さんのこの煮物、大好きなんですよ。ホントにもう、お嫁さんにもらいたいくらい」
「でもって、朝晩、これを作らせようってかい?」
「朝はもうちょっと軽い方がいいんで、夜だけで」
「夜だと営業時間だからお代は頂くよ?」
「えー」
店内には、テーブル席がいくつかと、カウンター席。それと、靴を脱いで上がる『小上がり』という不思議な席も一つある。これもまた、女将さんの故郷の風習だそうだ。
店自体はそれほど大きくはない。女将さんと、忙しい時だけ来る手伝いのおばさん二人で回せるぎりぎりという規模だ。
まだ早い時間帯な事もあってお客は私と、後は小上がりに一人だけ。だけど、ここは知る人ぞ知るって感じのお店なので、もう少ししたらにぎわってくるだろう。
「……にしても、シエルが『泥かぶり』とはねぇ」
「女将さん、知ってるんですか?」
そんな状態だから、こうやって話し相手もしてもらえてる、ってことです。尤も、そう言いながらもカウンターの向こうの女将さんは、せっせと料理の下ごしらえや調理にいそしんでらっしゃる。
なんか、こういうのって実家の母を思い出す。前にうっかりそう言ったら、『あたしはあんたみたいなでかい娘を生んだ覚えはないよ』って言われちゃったけどね。
「アドムってのがいるだろう? あの子は、この近くにある花街の生まれでね。ちびっこい頃はよくここに遊びに来てたから知ってるんだよ」
「隊長とお知り合いとは思いませんでした……」
しかも『あの子』って言ってるし。
かなり前からの知り合いなんだろうが、そうなってくると女将さんって一体幾つ? という疑問がわいてくる。見た目は私より十歳ちょっと上くらいだろうと思うんだけど、それで隊長の事を子ども扱いっていうのはおかしいよね。
「今でもたまに、実家に戻ったついでに顔を出すよ。それと、もう一人――そっちにいる無口な変態も、『泥かぶり』だろう?」
「……は?」
思いがけない言葉に、反射的に後ろを振り返る。
すると、小上がりの隅っこにいる人と目が合った――あら、やだ、ザハブさんじゃありませんか。
あっちも私の視線に気が付いたようで、小さく片手をあげて合図してくれたので、こっちも会釈を返したんだが――『無口な変態』って何?
「アドム坊やが連れてきたんだよ。それ以来、どうもあたしのことが気に入ったみたいでね。暇があればああやってあそこに居座る様になっちまったんだよ」
「女将さんの事を……?」
「こら、シエル。何だい、その顔は? あたしを気に入った男がいるのが、そんなに不思議かい?」
「い、いえ。そんなつもりではっ!」
衝撃的な単語に続いて、衝撃的な事実をきかされて、ちょっと取り乱しただけです。だから、威圧を放たないでください、女将さん。
何でも女将さんは、東の大陸にいた頃は、それなりに名の売れた『ハンター』をやっていたらしい。こっちでは『冒険者』と呼ばれる職で、当時の相方と一緒に海を渡って来た。ちなみにその『相方』とはずいぶん前に別れたそうで、それから一人でこの店を始めたのだという。
腕っぷしはかなりのものらしく、だからこそ、女手一つでこんな店を切り盛りできるのだ。
「……ふっ、冗談だよ」
「冗談でも肝が冷えます」
「何言ってるんだい。『泥かぶり』でやっていくつもりなら、このくらいは軽く流せないでどうするさ――ああ、さっきの話だけどね。あの男、あたしの見た目に興味があるだけだよ。こっちじゃ珍しい色合いだし、あたしの格好がほら、こんなだろう?」
こんな、というのは、女将さんの来ている服の事だ。東の民族衣装をこっち風にアレンジしたって言ってたが、女将さん自身の持つムードと相まって、なんともエキゾチックで不思議な魅力がある。
「あたしをモデルに、人形を作りたいんだそうだよ。それで観察のために通ってるってだけさ」
「……」
そういえば、ザハブさん家には物言わぬ嫁が何人もいるって、メレンさんが言ってたな。なるほど、お嫁さんがもう一人増えるのか。それで『無口な変態』ね……超納得しました。
「あそこからじっとこっちを見てるだけで、混んで来たら帰るくらいの常識もあるようだし、好きにさせてるんだよ」
「女将さん……器が大きいですね」
「商売の邪魔をしなきゃ、ね……おっと」
カラカラと、入り口の引き戸(これも珍しい)が開いて、暖簾(これも東の物だ)をかき分けつつ、新しいお客さんが入ってくる。
身なりのいい――おそらくは貴族だろう――年齢は、私よりちょっと上くらいかな? この店のお客さんは比較的年配の人が多いので、珍しいタイプだ。
え、私? 私は銀に上がって直ぐの頃、デルタさんに連れてきてもらったのが最初だ。その時になんとなく女将さんと意気投合しちゃって、それ以来、月に二、三回な感じでおじゃましてます。
「いらっしゃ――」
新しいお客に、女将さんが笑顔で声をかけるんだが、なぜか途中でそれが止まる。そして、その代わりというわけでもないんだろうが、その新規のお客さんがとんでもない事を叫んだ。
「ああ、リーリーっ。私の女神様っ、お会いしたかった……っ」
「あたしの名前は柳麗だし、あんたの女神じゃないし、別に会いたいとは思ってなかったよ」
「ああ、そのつれない反応がまた素敵……」
「ああ、そうかい。そりゃよかった――ってことで、生憎だけどあたしは忙しいんだ。用がないんならさっさとお帰り!」
女将さんが、お客をここまで邪険に扱うのは初めて見た。何時だってほほえみを絶やさず、ちょっと厄介な酔っ払いが相手でも、あっという間に宥めて機嫌よく送り出している人なのに。
「お、女将さんっ?」
しかも、相手は貴族みたいだし、大丈夫なのかと心配になり、つい口を出してしまった。
しかし。
「ああ、シエル――いいんだよ、此奴はカーンスって言って、こんな風にやられるのが嬉しくて仕方がないって変人だ。一応、お貴族様なんだけど、敬語はいらない、名前も呼び捨てにしてほしいって聞かなくてねぇ」
「リーリーは私の女神様ですから――ところで、こちらはまたかわいらしい方ですね。お会いできて光栄です」
「シエルはあたしの妹分だよ。手ぇ出したら承知しないからね」
「なるほど、我が女神の妹君ですか――自分は、カーンスと申します。王城警備騎士団の副長を務めさせていただいている未熟者ですが、以後、よしなに」
「は? あ……わ、私はシエルと言います。討伐騎士団の治癒師です、こちらこそよろしくお願いします」
王城警備騎士団の副団長……だと? うっかり普通に名乗っちゃったけど、私からしてみれば雲の上の人だ。爵位だってかなり上のはず。
そんな人に、いくら本人から頼まれたからって、あれだけぞんざいな口を聞ける女将さんってすごい……。
「さて、と――帰る気がないんだったら、さっさと座って何か注文しな。単価の高いやつでね」
「勿論です、女神様。では、いつもの冷酒と黄金鯛の煮つけをお願いします」
「あいよ」
黄金鯛ってのは、その名の通りに全身が金色に輝いてる魚だ。非常においしいのだけれど、めったに網にかからない。ついでにお値段もかなりのもので、私もデルタさんにおごってもらった一度しか食べたことがない。
そんなものがメニューにある女将さんの店もすごいが、『いつもの』と言えるほど食べてるこの人――カーンスさんもかなりすごい。
ところで、店の中はまだガラガラなのに、なんで私の隣に座ったんでしょうか、この人。
ニコニコしながらこっち見んなよ……どう対応すればいいのか困っているうちに、カーンスさんの頼んだものが出てくる。冷酒のボトルとグラス、それと大皿に盛りつけられた黄金鯛の煮つけ。当たり前の話だが、カーンスさんの扱いは荒っぽくても、女将さんがそれを置く仕草は丁寧そのもので――って、あれ? なんでグラスが二つあるの?
「さて、若き女神シエルさん。どうか、お近づきのしるしとして一献、受けてくださいませんか?」
そう思っていたら、カーンスさんがそのグラスの片方を私に渡してくる。
「は? 私に、ですか?」
「ええ。ここに通うくらいですから、イケる口でしょう?」
「ええ……まぁ、それなりには……」
とはいえ、貴族の方の杯を、平民の私なんかが受けちゃっていいんだろうか?
討伐騎士団の中にも貴族はいるけど、あっちは一応『同僚』という言い訳がある。けど、カーンスさんは別の騎士団の方だし……とか思ってたら、女将さんの助けが入った。
「いいから、受けておやり。その男は可哀そうに友人が少なくてね。しかも、絶対に手に入らないのがわかってる『花』に焦がれてるっておまけ付きなんだよ。おかげで、ここに来ちゃぁ、愚痴を垂れ流してるんだけど、どうやらあんたのことを気に入ったらしい」
「え……」
「女神さまの妹君ですから、私が崇めるのは当然です」
「女神は店の名前で、あたしの事じゃないって何度言わせる気だい? ――ってことで、シエル。あんたもこれからは、此奴の愚痴の聞き役に決まったってことだよ。その迷惑料と思えば、酒の一杯や二杯、安いもんさ」
……それって、私に拒否権は……はい、無いんですよね。わかってました。
ええい、女は度胸! その酒、いただこうじゃありませんか!
「おお、よい飲みっぷりです。さすが女神さまの――」
「ああ、もうそれはいいから、さっさと煮つけも食べな。冷めちまう」
「これは失礼いたしました――シエルさん、こちらもいかがですか? 旨いですよ」
「……いただきます」
べつに滅多に食べられない黄金鯛に釣られたわけじゃない(いや、ちょっとだけあるかも)けど、気が付いたら私はすっかりカーンスさんと会話が弾んで(?)しまっていた。
それもこれも、全部、女将さんのおいしすぎるお酒と料理が悪いのよっ!
「……ですから、私のような者は、その辺の用水路にでも沈んでいた方がいいんです」
「いやいや、それ、農家さんの迷惑になりますから」
「迷惑……そうですよね、私は何処に行っても人様のご迷惑にしかなれないのですね。ああ、いっそ海に出て、誰も知らない深い海底で……」
「だーかーらっ! 何で、水の底に沈むっていうのが前提になってるんですっ?」
「陸に居場所がないものは、必然的にそこに行きつくしか……」
「いや、だから。貴方、貴族でしょっ? 副団長さんでしょ? どうして、そう自己評価が低いんですか?」
気が付いたら、ザハブさんは姿を消してた。店もそこそこにぎわってきていて、女将さんはそっちの対応で忙しくしてる。それなのに、何でか私はずっとカーンスさんの愚痴というか、よくわからない論理をきかされていて……ほんとに何でこうなった?
元々、それほど長居をするつもりはなかったんだけど、ようやくカーンスさんから解放されたときには、もう店も看板に近い時間になっていた。
「ありがとうございます、シエルさん。貴女のおかげで、久しぶりに楽しい時間が過ごせました」
「いえ、こちらこそ。なんか、ものすごくごちそうになっちゃいましたし」
「シエルさんのような素晴らしい女性に出会えたのですから、当然の事です」
私のお勘定は、知らない間にカーンスさんが全部払ってくれちゃってた。
お昼に続いて、夜もおごってもらうとは……これって、運がいいというべきなのだろうか?
「それと……よろしければ、転職など、考えて見られませんか?」
「はい?」
「失礼ですが、女性の身で討伐騎士団はお辛いでしょう。その点、うちは王都内での任務が主ですので、安全ですし――ぶっちゃけますと、今の職場より楽ができますよ」
いきなりヘッドハンティングまでされちゃいました。
「……お誘い、ありがとうございます。正直言って、とっても魅力的です。けど……」
「良いんですよ、ここで直ぐにお返事を、とは思っていません。こういった申し出もあった、と覚えておいていただければ。おそらくはそれ自体が、これからの貴方にとって、有利に働くこともあるでしょうから」
……『変人』のイメージが強烈すぎて、カーンスさんが貴族だってことを忘れそうになってたわ。けど、今のやり取りはしっかりと貴族のそれだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。では、自分は今夜のところはこれで――楽しい時間をありがとうございました」
「こちらこそです。ありがとうございました」
礼儀として、店の前までカーンスさんを見送る。
その後で、もう一度店内に戻ったら、女将さんがなんとも言えない優しい顔で迎えてくれた。
「よく頑張ったね、シエル。あいつの相手は疲れたろう? 悪いやつじゃないんだが、どうにも話に脈絡がないし、長いからね」
「ええ、まぁ……けど、なんかちょっと楽しかったですよ」
嘘じゃない。今まで出会った事のないタイプで、新鮮だったしね。
その後で、やっとこ私も家路――というか、寮に戻る。
夜道の一人歩きを女将さんに心配されたけど、素人の変質者くらいならいなせる自信もあるんで大丈夫だ。
――と思っていたら。
「……そこにいるのはシエルではありませんか。今頃、一人で何をしているんです?」
「は……?」
歩いていたところ、急に声をかけられて振り向いたら――あんた、誰?
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「……普通、反対じゃありませんか?」
「公私のけじめのつけ方は人それぞれだと思いますよ。それより、こんな時間に女性の一人歩きは感心しませんね。寮に戻るのなら、送りましょう」
実は非番だったという朝一発目からの衝撃に始まった一日の、最後はこれですか……。
もう逆らう気力もなくなって、素直に送っていただきました。
もしかしたら、昨日より疲れたかもしれない。
明日、ちゃんと任務にいけるのかしら、私?
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