18 / 31
同胞と魔法のために
しおりを挟む
小笠原の家から帰る頃には、もう日が暮れかかっていた。
やはり、家々の間の道に人通りはない。もっとも、それが隣を歩くミオノの魔法によるものなのかどうかは分からなかった。
むしろ、僕が気にしていたのは別のことだ。
「17年前って、何があったの?」
それがどういう事件なのか、小笠原は決して語ろうとしなかった。
ミオノはミオノで、その話を聞かせまいとするかのように、僕の腕を引っ掴んで小笠原の家を飛び出してきたのだった。
「蒸し返す? 収まった話を」
「そうじゃなくて、ちゃんと知りたいんだよ」
小笠原の話には一片の嘘もない。人の心を読める魔法使いでなくても、真剣な口調やまなざしで分かる。
いったん関わったからには、何がどうなっているのか、とことん突き詰めたかった。
それでも、ミオノの返事は冷ややかだった。
「知ってどうするの?」
魔法使いの同胞を傷つける者たちへの怒りに燃えていた、今までのミオノとは思えない。むしろ、僕のほうが熱くなっているくらいだった。
「もしかしたら、次の容疑者と関係があるかもしれない」
「そんなの、もういないわ」
信じられない言葉だった。それでは、今までの苦労が水の泡だ。
僕は魔法使いでもないのに、諦めきれなくて食い下がった。
「だって、今までの全員シロだったじゃないか」
遊び人の長瀬雪野も、オタクの藤野明も、引きこもりの小笠原健太郎も。
最初はミオノや魔法使いたちに助けてもらってばかりだった僕は、しまいには自分で情報を聞きだしたり、喧嘩を仲裁したりするようにまでなっていた。
ミオノたちの役に立つのは、これからだ。
それなのに、返ってきた言葉はつれなかった。
「じゃあ、手詰まりね」
納得できなかった。
あれだけ僕を罵ってコキ使って、それで誹謗中傷の犯人が見つからなかったら投げ出すなんで、ミオノらしくない。
「諦めるの?」
「探すわよ、これから」
いつもの通り、いや、いつにも増して、不自然なくらいに偉そうな態度だった。
そこで再び、僕はようやく最大の問題に戻ることができた。
「だったら、17年前の事件から……」
もしかすると、これが今の事件の引き金になっているのかもしれない。
でも、このひと言を口にした途端、ミオノは横目で鋭く僕を睨み上げて言った。
「自分で調べたら?」
家に帰ってから両親に尋ねてみたが、首を傾げるばかりで何も答えてはくれなかった。スマホでネット検索してみても、17年前の事件について触れた記事はない。
情報源として思い当たる相手は、事件について調べていた生徒会長しかいなかった。
次の朝、僕は生徒会室に走っていって尋ねてみた。
「確かに資料は残っているけど、よくは知らないんだ」
生徒会長は手持ちの資料ファイルを片端から開いて見せてくれた。
新聞記事の切り抜きや、魔法使いたちに対する誹謗中傷の張り紙やビラが並んでいる。
でも、ざっと見た限りでは、「魔法使いが暴れた」ことぐらいしか分からない。
新聞の日付はメモしてあったが、何月何日の事件かを伝えている記事はなかった。
あっさりと答えられて、僕は肩を落とした。
「結構、有名な事件だと思ってました」
小笠原の思わせぶりな物言いや、ミオノのようなこだわりから、よほどの大事件だったのだろうと想像していたのだ。
「立場が違えば、記憶の重さも違うもんさ」
言われてみれば、確かに、そうだ。
いじめにあった側は、いじめた側よりも、そのときあったことをよく覚えているものだ。
生徒会長はどうなんだろうか。
今は引きこもっている小笠原との間に、どんなことがあったかは聞きたくないけど。
代わりに、僕は17年前の事件にこだわり続ける。
「詳しいこと、知ってる人はいませんか?」
生徒会長は、ちょっと考えて答えた。
「そうだね……年配の先生とか? 実は僕も聞き取りやったことなくて……何か分かったら教えてよ」
そこで、職員室で年を取っていそうな先生を捕まえて聞いてみた。
見ず知らずの生徒がいきなりやってきても訝しがることもなく、すぐに答えが返ってきた。
「ああ、聞いたことはあるよ。何か、揉めてたらしいね」
「どんなことで?」
椅子に座っているところに、つい、身を乗り出してしまう。
答えるほうがうろたえるのも、無理はない。
「そこまでは知らない。興味なかったからね、あんまり」
情報を引き出すのは難しそうだったが、食い下がらないではいられなかった。
「大きな事件だったみたいなんですけど」
先生は机に向かうと、面倒臭そうに答えた。
「そんなことはしょっちゅうあったのさ、忙しくていちいち……」
手詰まりになって相談を持ち掛ける先は、やっぱり、ここしかなかった。
僕の話を聞いたところで、生徒会長はちょっと考える。
「つまり、仕事のある人が気にするほどの事件じゃなかったってことだね」
「よっぽどひどい事件だったんだろうって思ってたんですけど」
それを気にしていた小笠原の話には、触れないようにする。
生徒会長も、それには気付かないようだった。
ところどころ穴の開いた、生徒会室の天井を見上げてつぶやく。
「知ってる人は知っていて、聞けば誰でも義憤を覚える……っていう程度の事件か」
そこで、ふと気になったことがあった。
あまり知られていないとはいっても、魔法使いたちとの間にあったことだ。
交流センターでボランティアをしている生徒会長が知らないのは、なぜだろう?
その考えごとは、ぽんと手を叩く音で遮られた。
「政野さんの世代の人なら知ってるかも」
確かに、魔法使い関係のことなら政野さんだろう。
でも、17年前にボランティアなんてやってる暇はあったんだろうか。
「どうして政野さん?」
どう見ても、定年退職した人がセカンドライフでの自己実現をもとめてやってることにしか見えない。
だから、生徒会長のひと言は意外だった。
「当時、中高生だったらヒマなはずだからさ」
そこで冗談めかして付け加える。
「執行部の仕事は遅くまで忙しくて、今日、一緒に行けないけどね」
「え……」
といっても、気になったのはそっちじゃない。
当時13歳から18歳の間で、17年経ってるってことは。
「え……政野さん30代?」
「年のことは言わないほうがいいと思う。たぶん、気にしてるから」
相談をもちかけると、年のことは政野さんのほうから口にしてきた。
「まあ、たしかに老けて見えてたんだけどね、当時から」
30代でボランティやってるとすると、この人、そもそも本業は何なんだろう。
つまらないことを気にして相槌も打てないでいるうちに、政野さんは事務所の奥にある棚を漁ると、古い小冊子を引っ張り出してきた。
厚紙で挟んだ更半紙の束を、紐で綴じただけの粗末なものだった。
見るからによれよれのページに付けられたボロボロの表紙には、題名さえも……。
いや、書かれていた。
「季刊……どうま?」
これも魔法によるものらしく、次第にはっきりと現れてくる。
ミニコミ誌のようだった。
政野さんが、懐かしげにつぶやく。
「同胞と魔法のために……ウァンガルドの前身だね」
魔法使いたちと僕たちの世界をつなぐミニコミ誌『どうま』のページをめくっていくう指は、いつのまにか震えていた。
ふだんは口にするのも照れ臭い、「正義」というやつが胸の内で熱く燃え上がる。
「どうして、こんなひどいことを?」
そこには、魔法使いの青年たちが起こした暴動の経緯が日付抜きで記されていた。
でも、僕の怒りは、それに反撃した街の人々に向けられていた。
「魔法使いでないものに、魔法は効かないからさ」
政野さんは皮肉っぽく笑った。
それはそれで、腹が立つ。
「そんな、一方的に」
青年たちは返り討ちに遭って袋叩きにされたが、それらは全て正当防衛で片づけられたのだった。
でも、政野さんは僕の抗議を一言で切って捨てる。
「それが人間だよ」
「魔法使いだって人間です」
間髪入れずに言い放った僕に、政野さんは静かに切り返した。
「本当に、そう思っているかい?」
一瞬、言葉に詰まりそうになる。
どこかで、僕は魔法使いたちとの間に線を引いている。
心の底にある、そんな本心を押さえ込むと、声は裏返った。
「思ってます」
政野さんは、得たりというように、いつになく意地悪い笑みを見せた。
「じゃあ、必要以上に首を突っ込まないことだ……これは対等の喧嘩なんだから」
「放っておけません」
政野さんの言うことは、屁理屈だった。
そのケンカ自体、止めるのが当たり前だ。
でも、そう言う前に、政野さんは大真面目な顔で言った。
「じゃあ、君はあらゆる不正義と戦えるのか?」
子どもの理屈だと思ったが、僕は言い返せなかった。
できないことは放っておくなら、それはご都合主義というものだ。
そこで、政野さんの口調が和らいだ。
「魔法使いたちはね、自分たちの限界を知っていたのさ。そうでない者たちと、下手に関わらないことで身を守ってきた。でも、助けを求められれば遠慮なく手を貸してもきたんだ」
「もういいです」
そんな魔法使いたちの中で、なぜ暴動なんか起こしたのか。
分かりきっているだけに、考えるのもイヤだった。
それでも、政野さんは敢えてそれを口にする。
「人間は、自分たちとは違う者を気味悪がるし、自分より弱ければ迫害する。特に、魔法使いの女は美しい……」
みなまで言わずに、自分の部屋のある2階へと上がっていく。
残されたのは、僕が開いたままにしていた『どうま』……『同胞と魔法のために』のページだった。
記事の内容をまとめると、だいたいこんなところだ。
恋人を穢され、逆上した魔法使いの若者が刃物を手に、魔法で足音を消して犯人への闇討ちを図った。
若者は報復されて瀕死の重傷を負い、非力な魔法使いたちはなけなしの、あるいは先祖伝来の、魔法をかけられた武器で暴動を起こしたのだった。
事件のむごさと、僕たちの「同胞」が魔法使いに対してやったことに、胸の奥が痛んだ。
マギッターもないのに、ミオノの姿が目に浮かぶ。
確かに、魔法使いの女は美しいのだった。
やはり、家々の間の道に人通りはない。もっとも、それが隣を歩くミオノの魔法によるものなのかどうかは分からなかった。
むしろ、僕が気にしていたのは別のことだ。
「17年前って、何があったの?」
それがどういう事件なのか、小笠原は決して語ろうとしなかった。
ミオノはミオノで、その話を聞かせまいとするかのように、僕の腕を引っ掴んで小笠原の家を飛び出してきたのだった。
「蒸し返す? 収まった話を」
「そうじゃなくて、ちゃんと知りたいんだよ」
小笠原の話には一片の嘘もない。人の心を読める魔法使いでなくても、真剣な口調やまなざしで分かる。
いったん関わったからには、何がどうなっているのか、とことん突き詰めたかった。
それでも、ミオノの返事は冷ややかだった。
「知ってどうするの?」
魔法使いの同胞を傷つける者たちへの怒りに燃えていた、今までのミオノとは思えない。むしろ、僕のほうが熱くなっているくらいだった。
「もしかしたら、次の容疑者と関係があるかもしれない」
「そんなの、もういないわ」
信じられない言葉だった。それでは、今までの苦労が水の泡だ。
僕は魔法使いでもないのに、諦めきれなくて食い下がった。
「だって、今までの全員シロだったじゃないか」
遊び人の長瀬雪野も、オタクの藤野明も、引きこもりの小笠原健太郎も。
最初はミオノや魔法使いたちに助けてもらってばかりだった僕は、しまいには自分で情報を聞きだしたり、喧嘩を仲裁したりするようにまでなっていた。
ミオノたちの役に立つのは、これからだ。
それなのに、返ってきた言葉はつれなかった。
「じゃあ、手詰まりね」
納得できなかった。
あれだけ僕を罵ってコキ使って、それで誹謗中傷の犯人が見つからなかったら投げ出すなんで、ミオノらしくない。
「諦めるの?」
「探すわよ、これから」
いつもの通り、いや、いつにも増して、不自然なくらいに偉そうな態度だった。
そこで再び、僕はようやく最大の問題に戻ることができた。
「だったら、17年前の事件から……」
もしかすると、これが今の事件の引き金になっているのかもしれない。
でも、このひと言を口にした途端、ミオノは横目で鋭く僕を睨み上げて言った。
「自分で調べたら?」
家に帰ってから両親に尋ねてみたが、首を傾げるばかりで何も答えてはくれなかった。スマホでネット検索してみても、17年前の事件について触れた記事はない。
情報源として思い当たる相手は、事件について調べていた生徒会長しかいなかった。
次の朝、僕は生徒会室に走っていって尋ねてみた。
「確かに資料は残っているけど、よくは知らないんだ」
生徒会長は手持ちの資料ファイルを片端から開いて見せてくれた。
新聞記事の切り抜きや、魔法使いたちに対する誹謗中傷の張り紙やビラが並んでいる。
でも、ざっと見た限りでは、「魔法使いが暴れた」ことぐらいしか分からない。
新聞の日付はメモしてあったが、何月何日の事件かを伝えている記事はなかった。
あっさりと答えられて、僕は肩を落とした。
「結構、有名な事件だと思ってました」
小笠原の思わせぶりな物言いや、ミオノのようなこだわりから、よほどの大事件だったのだろうと想像していたのだ。
「立場が違えば、記憶の重さも違うもんさ」
言われてみれば、確かに、そうだ。
いじめにあった側は、いじめた側よりも、そのときあったことをよく覚えているものだ。
生徒会長はどうなんだろうか。
今は引きこもっている小笠原との間に、どんなことがあったかは聞きたくないけど。
代わりに、僕は17年前の事件にこだわり続ける。
「詳しいこと、知ってる人はいませんか?」
生徒会長は、ちょっと考えて答えた。
「そうだね……年配の先生とか? 実は僕も聞き取りやったことなくて……何か分かったら教えてよ」
そこで、職員室で年を取っていそうな先生を捕まえて聞いてみた。
見ず知らずの生徒がいきなりやってきても訝しがることもなく、すぐに答えが返ってきた。
「ああ、聞いたことはあるよ。何か、揉めてたらしいね」
「どんなことで?」
椅子に座っているところに、つい、身を乗り出してしまう。
答えるほうがうろたえるのも、無理はない。
「そこまでは知らない。興味なかったからね、あんまり」
情報を引き出すのは難しそうだったが、食い下がらないではいられなかった。
「大きな事件だったみたいなんですけど」
先生は机に向かうと、面倒臭そうに答えた。
「そんなことはしょっちゅうあったのさ、忙しくていちいち……」
手詰まりになって相談を持ち掛ける先は、やっぱり、ここしかなかった。
僕の話を聞いたところで、生徒会長はちょっと考える。
「つまり、仕事のある人が気にするほどの事件じゃなかったってことだね」
「よっぽどひどい事件だったんだろうって思ってたんですけど」
それを気にしていた小笠原の話には、触れないようにする。
生徒会長も、それには気付かないようだった。
ところどころ穴の開いた、生徒会室の天井を見上げてつぶやく。
「知ってる人は知っていて、聞けば誰でも義憤を覚える……っていう程度の事件か」
そこで、ふと気になったことがあった。
あまり知られていないとはいっても、魔法使いたちとの間にあったことだ。
交流センターでボランティアをしている生徒会長が知らないのは、なぜだろう?
その考えごとは、ぽんと手を叩く音で遮られた。
「政野さんの世代の人なら知ってるかも」
確かに、魔法使い関係のことなら政野さんだろう。
でも、17年前にボランティアなんてやってる暇はあったんだろうか。
「どうして政野さん?」
どう見ても、定年退職した人がセカンドライフでの自己実現をもとめてやってることにしか見えない。
だから、生徒会長のひと言は意外だった。
「当時、中高生だったらヒマなはずだからさ」
そこで冗談めかして付け加える。
「執行部の仕事は遅くまで忙しくて、今日、一緒に行けないけどね」
「え……」
といっても、気になったのはそっちじゃない。
当時13歳から18歳の間で、17年経ってるってことは。
「え……政野さん30代?」
「年のことは言わないほうがいいと思う。たぶん、気にしてるから」
相談をもちかけると、年のことは政野さんのほうから口にしてきた。
「まあ、たしかに老けて見えてたんだけどね、当時から」
30代でボランティやってるとすると、この人、そもそも本業は何なんだろう。
つまらないことを気にして相槌も打てないでいるうちに、政野さんは事務所の奥にある棚を漁ると、古い小冊子を引っ張り出してきた。
厚紙で挟んだ更半紙の束を、紐で綴じただけの粗末なものだった。
見るからによれよれのページに付けられたボロボロの表紙には、題名さえも……。
いや、書かれていた。
「季刊……どうま?」
これも魔法によるものらしく、次第にはっきりと現れてくる。
ミニコミ誌のようだった。
政野さんが、懐かしげにつぶやく。
「同胞と魔法のために……ウァンガルドの前身だね」
魔法使いたちと僕たちの世界をつなぐミニコミ誌『どうま』のページをめくっていくう指は、いつのまにか震えていた。
ふだんは口にするのも照れ臭い、「正義」というやつが胸の内で熱く燃え上がる。
「どうして、こんなひどいことを?」
そこには、魔法使いの青年たちが起こした暴動の経緯が日付抜きで記されていた。
でも、僕の怒りは、それに反撃した街の人々に向けられていた。
「魔法使いでないものに、魔法は効かないからさ」
政野さんは皮肉っぽく笑った。
それはそれで、腹が立つ。
「そんな、一方的に」
青年たちは返り討ちに遭って袋叩きにされたが、それらは全て正当防衛で片づけられたのだった。
でも、政野さんは僕の抗議を一言で切って捨てる。
「それが人間だよ」
「魔法使いだって人間です」
間髪入れずに言い放った僕に、政野さんは静かに切り返した。
「本当に、そう思っているかい?」
一瞬、言葉に詰まりそうになる。
どこかで、僕は魔法使いたちとの間に線を引いている。
心の底にある、そんな本心を押さえ込むと、声は裏返った。
「思ってます」
政野さんは、得たりというように、いつになく意地悪い笑みを見せた。
「じゃあ、必要以上に首を突っ込まないことだ……これは対等の喧嘩なんだから」
「放っておけません」
政野さんの言うことは、屁理屈だった。
そのケンカ自体、止めるのが当たり前だ。
でも、そう言う前に、政野さんは大真面目な顔で言った。
「じゃあ、君はあらゆる不正義と戦えるのか?」
子どもの理屈だと思ったが、僕は言い返せなかった。
できないことは放っておくなら、それはご都合主義というものだ。
そこで、政野さんの口調が和らいだ。
「魔法使いたちはね、自分たちの限界を知っていたのさ。そうでない者たちと、下手に関わらないことで身を守ってきた。でも、助けを求められれば遠慮なく手を貸してもきたんだ」
「もういいです」
そんな魔法使いたちの中で、なぜ暴動なんか起こしたのか。
分かりきっているだけに、考えるのもイヤだった。
それでも、政野さんは敢えてそれを口にする。
「人間は、自分たちとは違う者を気味悪がるし、自分より弱ければ迫害する。特に、魔法使いの女は美しい……」
みなまで言わずに、自分の部屋のある2階へと上がっていく。
残されたのは、僕が開いたままにしていた『どうま』……『同胞と魔法のために』のページだった。
記事の内容をまとめると、だいたいこんなところだ。
恋人を穢され、逆上した魔法使いの若者が刃物を手に、魔法で足音を消して犯人への闇討ちを図った。
若者は報復されて瀕死の重傷を負い、非力な魔法使いたちはなけなしの、あるいは先祖伝来の、魔法をかけられた武器で暴動を起こしたのだった。
事件のむごさと、僕たちの「同胞」が魔法使いに対してやったことに、胸の奥が痛んだ。
マギッターもないのに、ミオノの姿が目に浮かぶ。
確かに、魔法使いの女は美しいのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
鎌倉和田塚あやかし写真館
葉月七里
ライト文芸
会社員の加奈は忙しない都会に愛想を尽かし、古都鎌倉へと引っ越す。
しかしスローライフの夢は儚くも破れ、通勤地獄でぐったりする毎日。
気晴らしにカメラを持って出かけた先で、和田塚写真館のイケメン若店主と出会う。
そこで鎌倉に潜むあやかしの存在を知り、なぜか店主とともに退治するはめとなってしまう。
続く三代の手仕事に込めた饅頭の味
しらかわからし
ライト文芸
二〇二二年八月六日の原爆の日が祖母の祥月命日で奇しくもこの日念願だった「心平饅頭」が完成した。
そして七十七年前(一九四五年)に広島に原爆が投下された日で、雲母坂 心平(きららざか しんぺい)十八歳の祖母はそれによって他界した。平和公園では毎年、慰霊祭が行われ、広島県市民の多くは、職場や学校でも原爆が投下された時間の八時十五分になると全員で黙とうをする。
三代続きの和菓子店である「桔平」は売上が低迷していて、三代目の店主の心平は店が倒産するのではないかと心配で眠れない毎日を過ごしていた。
両親を連れて初めて組合の旅行に行った先で、美味しい饅頭に出会う。
それからというもの寝ても覚めてもその饅頭の店の前で並ぶ行列と味が脳裏から離れず、一品で勝負できることに憧れを持ち、その味を追求し完成させる。
しかし根っからの職人故、販売方法がわからず、前途多難となる。それでも誠実な性格だった心平の周りに人が集まっていき、店に客が来るようになっていく。
「じいちゃんが拵えた“粒餡(つぶあん)”と、わしが編み出した“生地”を使い『旨うなれ! 旨うなれ!』と続く三代の手仕事に込めた饅頭の味をご賞味あれ」と心平。
この物語は以前に公開させて頂きましたが、改稿して再度公開させて頂きました。
フェロモンの十戒
紫陽花
ライト文芸
高砂仄香(たかさごほのか)は、今は亡き調香師の祖母から受け継いだ調香工房で、隠されていた古い香水を見付けた。
幼馴染みの長谷川郁(はせがわいく)とともに香水の謎を調べていくうちに、この香水が人の心を操ることのできる不思議な力を持っていることに気付く。
だが、この香水にはさらに驚くべき秘密があった。
香りにまつわる謎。
『十戒』と呼ばれる香水を使った儀式。
妖しい香りに惹かれて現れるモノとは?
イラスト:藤 元太郎(Twitter ID:@fujimototarou)
【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!
夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。
そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。
同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて……
この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ
※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください
※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください
AIイラストで作ったFA(ファンアート)
⬇️
https://www.alphapolis.co.jp/novel/187178688/738771100
も不定期更新中。こちらも応援よろしくです
ダッシュの果て、君と歩める世界は
粟生深泥
ライト文芸
町に伝わる“呪い”により祖父と父を亡くした宮入翔太は、高校二年生の春、「タイムマシンは信じるか」と問いかけてきた転入生の神崎香子と知り合う。その日の放課後、翔太の祖母から町に伝わる呪いのことを聞いた香子は、父と祖父の為に呪いの原因を探る翔太に協力することを約束する。週末、翔太の幼なじみの時乃を交えた三人は、雨の日に登ると呪いにかかるという深安山に向かい、翔太と時乃の話を聞きながら山頂で香子は試料を採取する。
それから一週間後、部活に入りたいと言い出した香子とともにオーパーツ研究会を訪れた翔太は、タイムトラベルについて調べている筑後と出会う。タイムトラベルに懐疑的な翔太だったが、筑後と意気投合した香子に巻き込まれるようにオーパーツ研究会に入部する。ゴールデンウィークに入ると、オーパーツ研究会の三人はタイムトラベルの逸話の残る坂巻山にフィールドワークに向かう。翔太にタイムトラベルの証拠を見せるために奥へと進もうとする筑後だったが、鉄砲水が迫っていると香子から告げられたことから引き返す。その後、香子の言葉通り鉄砲水が山中を襲う。何故分かったか問われた香子は「未来のお告げ」と笑った。
六月、時乃が一人で深安山に試料を採りに向かう途中で雨が降り始める。呪いを危惧した翔太が向かうと、時乃は既に呪いが発症していた。その直後にやってきた香子により時乃の呪いの症状は治まった。しかしその二週間後、香子に呪いが発症する。病院に運ばれた香子は、翔太に対し自分が未来の翔太から頼まれて時乃を助けに来たことを告げる。呪いは深安山に伝わる風土病であり、元の世界では呪いにより昏睡状態に陥った時乃を救うため、翔太と香子はタイムトラベルの手法を研究していた。時乃を救った代償のように呪いを発症した香子を救う手立てはなく、翌朝、昏睡状態になった香子を救うため、翔太は呪いとタイムトラベルの研究を進めることを誓う。
香子が昏睡状態に陥ってから二十年後、時乃や筑後とともに研究を進めてきた翔太は、時乃が深安山に試料を採りに行った日から未来を変えるためにタイムトラベルに挑む。タイムトラベルに成功した翔太だったが、到達したのは香子が倒れた日の夜だった。タイムリミットが迫る中、翔太は学校に向かい、筑後に協力してもらいながら特効薬を作り出す。間一髪、特効薬を香子に投与し、翌朝、香子は目を覚ます。お互いの為に自分の世界を越えてきた二人は、なんてことの無い明日を約束する。
朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
桜月真澄
ライト文芸
朧咲夜最終話
+++
愛してる。誰よりもーー
でも、だからこそ……
さようなら。
2022.5.7~5.31
Sakuragi presents
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる