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こういうのも三角関係っていうんだろうか

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 そこでチャイムが鳴って、選択教室Cから普通科の3年生がぞろぞろと出てきた。
 男子も女子もみんな真面目そうだったが、その中でひときわ目立つのがいる。
 それが、長瀬雪乃だった。
 スカートもそれほど短くないし、化粧っ気もない。髪も黒い。
 だが、周りの生徒を見る目つきでもう、性格の悪さはすぐにわかった。
 自慢じゃないが、トラブルを事前に察知して逃げまくってきたのが僕の人生だ。
 こういう手合いを見抜く目には自信がある。
 普通なら関わらないところだけど、そこはミオノのためだった。
 だいたい、その幻影がマギッターで目の前にいるから逃げようもない。
《まあ、見ててあげるから》
 頑張ってるつもりなんだが、ミオノのこの冷たさは何だろう。
 さっきの女の子たちとも、うまくやったのに。
 さらに追い打ちをかけてきたりなんかする。
《メインターゲットこっちなんだから、いい気にならないでね》 
 女の子たちといわゆるハーレム状態だったと言いたいらしい。
 こっちは緊張の連続だったのに。
 だが、ミオノの嫌味を気にしている場合じゃなかった。
 長瀬雪乃が、廊下の角を曲がってしまう。
「すみません……あの、長瀬雪乃さんですよね」
 声をかけると、怪訝そうな顔をされた。
 当然だろう。想定内だ。
 それでも、返事はあった。
「誰?」
 ここで、正直に答えるべきか否か。
 SNSの煽りの犯人かどうかカマを掛けているわけだが、お互い、神奈原高校の生徒だ。僕が嘘をついても、たぶんすぐにバレる。
「普通科2年B組の、佐々四十三っていいます。ネットの写真、見ました」
 精一杯、笑顔を見せる。
 あの魔法使いのオバサンが言ってたとおり、相手はまるごと受け止めないと。
 効果はてきめんだった。
「あ、知ってるんだ、うわ……」 
 初対面のはずの長瀬雪乃が、照れ臭そうに笑った。
 そこで僕は、次の手を打つ。
「写真と全然、雰囲気違いますね。驚きました」
「でしょ? そうよ、こっちも私。よろしくね、シトミくん」
 魔法使いのボーヤ、おそるべし。
 否定しないだけでこれだけの効果があるとは。
 今までの僕からは考えられないほど、いい雰囲気になっていた。
 ところが、そこでミオノの幻影が文句をつけた。
《デレデレしてる場合? 早く本題入って》
 何が気に食わないのか知らないが、ちょっと怒っていた。
 そういえば、マギッターに触ったままだった。長瀬雪乃はともかく、僕の言ったことは筒抜けだったわけだ。
 そこで、僕はちょっと、ポケットの中のスマホから指を離す。
 ここからは、ミオノに聞かれてはまずい話題に入るからだ。
「いろんな学校の女子、いっしょに映ってますよね」
「結構、顔広いから、私」
 自慢げに言われると、ちょっとムカつく。
 だが、そこは抑えて尋ねてみた。
「太乙玲高校の女子は?」
 ミオノが聞いたら、絶対に怒るだろう。
 でも、本題に入るための話の振り方は、これしか思いつかなかったのだ。
 そして、僕の読みは当たった。
 魔法高校の名前を口にした途端に、長瀬雪乃の表情が曇る。
 それに合わせて、吐き捨てるような言葉が返ってきた。
「ああ、あの子たちね? 男子みんな、騙されてるのよ。制服、なんかコスプレっぽくて可愛いでしょ?」
「え? ああ、そうですね」
 サラリーマン風の魔法使いオジサンの教え通りの相槌を打つ。
 そこらの男と同じ扱いをされるのは面白くなかったが、図星といえば図星だった。ミオノをそういう目で見ていたことは否定できない。
 マギッターから指を離していて正解だった。
 だが、そのスマホは、何かを催促するように振動する。
 たぶん、幻影チャットに応じろという、ミオノからの催促だ。
 仕方なく指をスマホに当てると、運がいいのか悪いのか、長瀬雪乃は決定的なひと言を口にしてくれた。
「大人しいふりしててさ、結構、男漁り激しいんだ、あの魔法少女とかいうの」
 たちまちのうちに、目の前には怒りに震えるミオノの姿が現れた。
 その顔つきは、魔法少女というより、森の奥か荒野に棲む魔女というのがふさわしい。
 凄まじい勢いで、ひと息にまくし立てる。
《そんなわけないだろお前らと一緒にすんな何とか言え佐々四十三!》
 なだめないわけにはいかなかった。
 長瀬雪乃がSNSでの煽りの犯人かどうか、判断できるのはミオノしかいない。
 冷静になってもらわなくては困る。
《ちょっと待ってちょっと待って、落ち着いてよ》
 そう言っておいてから、長瀬雪乃に笑いかけてみせる。
 僕のリアクションが遅いからだろう、きょとんとした顔をしていた。
 でも、反応は悪くない。
 そこで僕は、ちょっと変化球を投げてみた。 
「でも……男子って、古風な子が好きなのかもしれませんよ」
 あのボーヤの言ったことには反する。
 何か聞きだしたかったら、相手の意見を批判してはいけなかったはずだ。
 だが、これ以上、長瀬雪乃に同調してミオノを怒らせても面倒だった。
 マギッターのコメントは、すぐに返ってきた。
 冷ややかな顔で、ツッコミを入れてくる。
《それ、キミの趣味だよね》
《一般論です》
 それは、嘘だった。
 他の男子の趣味など、僕は知らなかった。
 ミオノの追及は、さらに続く。
《で、私は今風の女子高生だと》
《めちゃめちゃ古風です》
 それも僕の本音だった。
 魔法高校の生徒だからかもしれないが、スカートは短くないし、ボランティアに参加したりして、物事を真面目に考えている。
 いわゆる、今時の高校生らしさに馴染めない僕にとって、ミオノは安心して関われる相手だった。
 ミオノにはどう思われているか分からないが、それは別に構わなかった。
 そんなわけで、古風な子が好きだと本音を言っても気にもならなかった。
 だが、なぜかミオノは気まずそうに黙り込んだ。
 ……誤解されただろうか。
 そっちの方が気になったが、長瀬雪乃の言葉に邪魔された。
「古風と地味は違うよね」
「え、ええ、そうですね」
 僕の返事で、たちまちミオノの形相が変わった。
 まずい。
 せっかくなだめたのに。
 長瀬有紀よりも、どっちかというとこっちの扱いのほうが面倒だった。
 ミオノは、怒りを抑えた淡々とした声で尋ねる。
《何て言ったの? あの女》
 とっさに嘘がつけるほど、僕は器用じゃなかった。
 正直に答えるしかない。
《あの……古風と、地味は違うと……その、辞書で引くと》
 とっさのひと言を付け加えたが、ムダだった。
 ミオノは片方の眉を吊り上げる。
《はア?》
《落ち付いってってば……》
 そんなことしか、僕には言えなかった。
 もちろん、そんなことではミオノは収まらない。
《ちょっと一発カマしていい? その女に》
《あの、魔法効かないんじゃ》
 しまった。
 怒り狂っている相手についツッコんでしまった。
 ここは、あの魔法使いのお婆さんに従って、話を最後まで聞くしかない。
 ミオノは深いため息をついた。
《頼むね、佐々君……私の代わりに》
 魔法でも殴り込みでもなかったらしい。
 だいたい、あのミオノさんが、軽はずみなことをするはずがないのだ。
 ほっと息をついたところで、長瀬雪乃には怪訝そうな顔をされた。
 慌てて、うっとりとした顔をしてみせる。
「そうかな……先輩にも似合うと思うな、あの太乙玲高校の制服」
「そう? そう思う?」
 長瀬雪乃は、つまらないことで褒められた子どものようにはしゃいだ。
 バカだ、この女。
 単純なだけかもしれないが。
 一方でミオノは、また不機嫌になった。
《なに妄想してるの、変態!》
《こうでも言わないと収まらないだろ》
 それはミオノも納得してくれたらしい。
 吐き捨てるように言った。
《やっぱりバカだ、この女》
 それは同感だったので、つい、口に出してしまった。
「僕もそう思うけどさ」
 しまった、と思ったが、ミオノの言葉が長瀬雪乃に聞こえるわけがない。
 そこは心配しなくてもよかったが、ちょっと困ったことにはなっていた。
 長瀬雪乃が、おかしな誤解をしたのだ。
「もしかして、告白に来た? 佐々君」
「いや、そういうわけじゃ……ちょっと」
 何でそうなるのか。
 自意識過剰にもほどがある。
 あらゆる男に自分がモテるなんて思ってるんじゃないだろうか。
 実をいうと、見ていていちばん腹の立つタイプだった。
 だが、マギッターを使っている以上、僕の醜態はミオノにモニターされている。
 僕の耳元に、意地悪なひと言が囁かれた。
《頑張って、佐々クン》
《何をって……どうしたらいいの?》
 さあね、とミオノは知らん顔を決め込む。
 長瀬雪乃はというと、僕の言葉の続きを待っていたらしかった。
 その表情が、一瞬にして曇る。
 さっきまでのはしゃぎ加減がひっくり返って、追及の口調に変わった。
「ひょっとして、嘘コク?」
 嘘の告白も何も、すべて長瀬雪乃の思い込み、というか思い上がりだ。
 僕が恥をかかせたわけじゃない。
 だが、こういうとき、世間というものは女性に味方する。
 とくに、見かけが可愛ければ可愛いほど。

 だが、天は僕を見捨ててはいなかった。
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