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終わりの始まり
しおりを挟むまだ夜も明けない。
カチャカチャと食器の音を鳴らしせっせと働くティアの姿。
『お姉ちゃん、パパとママ達ビックリするかな!』
『そんなに大きな声出したら起きちゃうよ』
ユリアとティアは二人で朝ご飯の支度をしている。
それをジーッと定位置のソファから見つめるクレス。
ティアとクレスの視線が合うとクレスはスっと目を閉じる。
「あれ? パパ起きてる?」
ティアの声に連れられてユリアがクレスに視線を向けると寝息を立てているクレスの姿が目に映る。
「あの人がこんな時間に起きてるはずないよ、でも起こさないように静かにね」
「う、うん」
過保護なのかリビングとキッチンから廊下に続く扉にはユウカとリリアが静かに見守っていた。
何度かティアがクレスの視線に気づく素振りを見せるが、時間は過ぎていった。
料理が出来るとタイミング良く扉が開く。
「はぁ、え!? 料理が出来てる!」
わざとらしく欠伸をしながらユウカが入ってきた。
その後ろからリリアも入ってくる。
「ホントだ! これティアちゃんとユリアちゃんが用意したの?」
二人の反応に気を良くしたティアはエッヘンと無い胸を張る。
そしてクレスは誰よりも先に料理が並んだテーブルに着いていた。
『キュイ!』
ドラゴン姿のアリアスもクレスの横の定位置に座る。
全員が席に着き食事が始まる。
サラダ、味噌汁、卵焼き、焼き魚。そして白ご飯。
全体的に少し焦げが目立つが不満を口にする者は居なく美味しいと口々に漏らす。
料理を作ったティアとユリアは嬉しそうに皆んなの表情を伺う。
『じゃあ行ってくるね!』
ティアが一言行って立ち上がる。
ユリアと食器を片付けてまだ食事中のクレス達を置いて姉妹は家を出た。
残されたクレス達。
ユウカとリリアはご飯をゆっくりと食べながら娘達の成長速度が凄く早い事を嬉しそうに話す。
「一つもクリア出来ないと思ったのにな」
クレスはポツリと呟く。
「はぁ、クレス君は本当にダメダメだね」
ユウカはため息を吐きながら呆れたと口にする。
「お兄ちゃん、あの娘達をちゃんと応援してる?」
「まぁ、してるが」
自分を倒す応援ってなんだ? とクレスは思うがリリアの有無を言わせぬ言葉に同意する。
その場の空間に一つの違和感。
パチパチと手を叩き先程までティアが座っていた椅子に座る人物。
瞬時に距離をとったリリアとユウカはすぐさま異物に対して殺気を送る。
それをクレスは手で静止を促す。
『ちょうど良かった調和の神だっけか? 昨日の違和感はお前の仕業だろ』
『こわい、こわい。貴方達から目を付けられたら一瞬で俺なんて消し炭になりますよ』
調和の神は殺気を向けられながら涼し気に話す。
「前は私なんてかしこまった喋り方してたのにな」
「はい、あの剣の勇者様に覚えて貰えていて至極光栄です」
「何しに来たんだ? 一瞬で消し炭にされるのが分かってて来たんだろ」
調和の神は右手をテーブルの上に持ってくると人差し指を立てる。
『一日です』
「何がだ?」
単純な疑問を調和の神に投げる。
『この世界が無くなる時間です』
あぁとわざとらしく言葉を切ると調和の神は続ける。
「引き返す事は無理ですよ、既に歯車は動き出してしまった」
「それは俺がいる事は想定して話しているのか?」
「いつまで貴方が最強だと思ってるのですか? 貴方の力が何十人と想定してもお釣りが来ます。それ程に彼は強い」
「やってみないと」
「わからない?」
クレスの言葉を遮り調和の神が口を出す。
「それではこちらを見てみましょうか」
リリアとユウカにも見えるようにテーブルの上にスクリーンを展開するとそこに映るのはボロボロになり膝をつくクレス。
それと同時刻の映像を加えていく。
その全てに映り込む一人の人物と崩壊した国々。
「昨日の雑魚か」
「そう言えば昨日お会いでしたね。この人物は天童光」
映像はヒカリがクレスの頭に銃を向け、乾いた銃声が響く瞬間に途切れる。
「これを俺に見せて何が望みなんだ?」
「いえいえ、望みなどありません。一週間後の結末をスグにお伝えしたくて現れた次第です」
それではと調和の神は次元の狭間に消えていく。
「めちゃくちゃ強そうだな」
クレスはボケっとした感想を言う。
「あの光景を見てそんな軽口叩くのクレス君ぐらいだよ」
クレスの言葉にユウカはツッコミを入れた。
次元の狭間ではどっぷりと汗を滲ませる調和の神。
「アイツら化物かよ! 一瞬で消し炭なんて言って、そんな事は無いと思ったが……あの殺気で何十回殺される映像を見せられたかわからねぇ」
「ところでミライを返して貰う約束はしてきたのか?」
ハァハァと息を切らす調和の神の横に来て肩を気楽にポンっと叩くヒカリ。
『その事だが、ミライは地球産の奴隷だから返す気は無いって言ってたぞ』
『それだけ聞けば充分だ。異世界人は腐ってんのか? 一度は情けをかけたが次はない』
調和の神の嘘にも気づかないほど怒りを溜め込むヒカリ。
その場に座り込むと銃に篭めるカートリッジを広げる。
「カートリッジが満タンになれば行ける」
ヒカリは怒りの全てを魔力に還元するように、集中する。
『そこからが終わりの始まりだ』
調和の神の望みはクレスの復讐。
その望みはもうすぐ叶う。
調和の神はニヤニヤとした汚い笑みを堪えるのに必死だった。
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