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嘘はダメ

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 見覚えのある顔、だけど俺は言わずにはいられなかった。

「お前は……誰だ!」

 ソイツは俺を見下して答える。

「自分の顔も忘れたのか?」

 俺は今どんな顔をしてるだろうか。

「俺?」

 大人になった俺の姿がそこにあったからだ。

 だがソイツは勝手に話を続ける。

「俺の子供達を世界の調整とか言って過去に送った馬鹿な神がいてな、ソイツをぶっ殺して次元を切り裂いてここまで来た」

 何が起こってるのか分からないままソイツは悔しそうな顔をした。

「俺も既に知っていた事だから警戒はしてたんだけどな……」

 ソイツは次元の亀裂に目を向ける。

「そうそう時間が無かったんだったか」

 時間が無い?

 ソイツは辺りを見回す。

「ティア、ユリア帰るぞ」
 
「「えっ」」

 急に話を振られた二人が素っ頓狂な声をあげると一瞬にしてユリアはソイツの所へと移動させられていた。


『悪かったな、遅くなって』


 座ってるユリアと立っている幼女の身長は一緒ぐらいの高さだ。

 ソイツは二人の頭に手を置いて優しく撫でる。

 穏やかな表情から一変してソイツは俺を睨みつけた。

「ずっと言ってやりたかったんだよな……お前、なんで諦めてんの?」

 もしコイツが未来の俺だと言うのなら、この状況を知ってるはずだ。

 剣しかない俺が剣を使えない。

「諦めるしかないだろうが!」

 俺はソイツに反論する。

「まぁ、俺も人の事は言えないが……血の力っていうもんがあるんだ」

「血の力?」

 血の力ってなんだよ!

「ユリアが使ってるの見ただろ? 精霊達の力も借りとけ、今のボロボロなお前じゃ勝つの無理だろ?」

 俺達の話し合いを邪魔するようにベークが間に入る。

「何をごちゃごちゃ喋ってるのかな」

 ベークは大人の俺の方に球体の魔法を放つ。

 それは先程までの魔法じゃなく、全方位に展開された魔法陣からソイツを狙うように放たれた魔法。

 ソイツは一言呟いた。



『剣の勇者に魔法は効かない』



 ソイツが持つ黒剣がブレるとその全ての魔法が消滅する。

 ベークはその光景に目を見開く。

「なにッ!?」

 ソイツはまた俺に視線を戻した。

「俺が倒す事は簡単だが、また世界の調整とやらで俺の娘達に危害が及ぶような事はやりたくない」


 ソイツは幼女とユリアの手を取る。

 未来の俺にどうしても聞きたかった質問。

 俺はずっと平穏を願っていた。

「教えてくれ!」

 だから……。


『お前は今……幸せか』


 俺の問に少し考え込んだ、未来の俺。

「昔の俺はやっぱり馬鹿だな、まだ気づいてないのか」

 修復されかけている次元の狭間へと幼女、ユリア、大人の俺は消えていく。


『幸せだよ馬鹿野郎、あとお前の弱点わす……』


 完全に修復された次元の狭間から漏れた答えは俺の元に届いた。

 最後何か言いかけてなかったか?

 俺の子供? ふと俺の中で疑問が大きくなる。

 あの幼女とユリアが? あの幼女は小さい頃のリリアとそっくりな容姿をしていた、サラサラな金髪と蒼の瞳。

 だがユリアは長い黒髪と黒目。

 接点なさそうなんだけど。

 考え込んでいる俺にベークは話しかけてくる。


「邪魔者は消えた、どうする? 私にまた頭を下げる?」


 そう状況は変わってないが答えは決まっている。


『何を勘違いしてんだ? 剣の勇者が諦めるわけないだろ』


 痛む身体に鞭を打って倒れそうになる身体を支える。

 血の力と精霊の力か。

「リリア、貸してた物を返してもらうぞ」

「うん!」

 期待に満ちた声が背中越しで伝わってくる。


『エンゲージ・リンク』

 俺の左手の薬指に銀色のリングが現れる。

『『『汝の声に応えましょう』』』

 すると白銀、黒銀、青、赤、緑、黄の柱が降り立ち、全属性の精霊神が顕現する。

 クロもその光の柱に混ざっていた。

 精霊神は光の玉に変わり、俺の周りをクルクルと回る。

「魔力が制限されている中で精霊神達を呼んだってこの圧倒的な状況は変わらないよ」

「それはどうかな?」

 精霊神から貰った魔力を手のひらに集める。


『血統解放リミテッド・アビリティー』


 黒剣が現れるが召喚した瞬間に砕け散る。

 まだ足りないのか。

 ベークはそんな俺を嘲笑う。

「笑わせてくれる、抗っても無駄だよ!」

 俺の血は他に……。


『魔力全開放』


 俺の呟きに呼応して精霊神達の魔力が跳ね上がる。

 リリアと俺は双子、同じ血が流れてる。


『血統解放リミットブレイク』


 そして限界を超える。


『血統解放リミテッド・アビリティー』


 何も無い空間から金色のオーラを纏う黒剣が姿を現す。


「これでお前と本気で戦えるな」

「私も遊びは終わりだ」


 ヘラヘラと笑っていたベークの顔に真剣な表情が宿る。

「神の力は私の物だ、さぁ全ての者は跪け」

 ベークの虹色の魔力が跳ね上がると、漏れ出ていた魔力、その全てを身体に取り込む。

『オムニッセント・オムニポテント』

 圧倒的な存在感がベークから放たれるが。

 俺が退くわけにはいかない。

 大切な奴等を守るために。


 ヒュッと俺の横を通り過ぎていく物を黒剣でぶった斬る。

「そんなセコイ手が何時までも通用すると思うなよ」

 俺はゆっくりとベークに近づいていく。

 強大な太陽、吹き抜ける嵐、世界を覆い尽くすような津波、混沌のような全てを飲み込む闇、天空の無慈悲な光。


 ベークが出す全ての魔法を一瞬で無力化させながらゆっくりと。

 何をしても敵わない相手が居ることを教えるように。

「なんで邪魔する! 私だってあの時、人族に国を滅ぼさなければこんなこと」

「そんな事はどうでもいいんだよ」

 既に一歩で手が届く間合いで俺は剣を構える。

「や、やめろ」

 俺に一切の躊躇はない。



「俺にとっては人族が滅ぼされても別に興味はない」

「ならどうしてだ? そうだ! 私とクレスで世界を支配しよう、なんでも思い通りの世界だよ」

 ベークの瞳が輝くと俺の視界がブレる、意識が朦朧としてベークの言うことを全て聞きたくなるような。

「それも面白いな」

 俺が力を抜いた瞬間にベークは全魔力を自分の持つ剣に捧げた。


『お兄ちゃん!』


 遠くなりそうな思考はリリアの声で浮上する。


「お前は一つやってはならないことをした……」

 洗脳の魔法から脱却した俺はすぐさまベークの魔力を斬って消滅させる。

 俺は再度剣を構える。

 この一振りに全力を注ぐ。


「まだだ! まだ私には!」


『それは俺の妹に手を出したことだ』


 時間を切り取ったような一閃。

 悲鳴などもなく呆気なく、この世からベークが消え失せた。

 俺の全てをその一振りに込めたせいで前方の視界に映る全てが抉られたように無くなっていた。




 張られた結界も無くなると。

『じゃあ私達また遊びに来るから~』

 とアオイが一言残して、精霊神達はリリアに譲ると言うと消えていった。



 やっと終わった……。

 俺は黒剣を手放すとキラキラと消えていく黒剣を見つめる。

 マジで色々な魔法使われた時は焦った~、身体の節々は痛いしもう未来の俺みたいに全方位に展開される系の魔法とかやられたら死んだかもな。

 俺は全身の力が抜ける錯覚に陥る、倒れ込む俺をリリアが抱き締める。

「やぁ、リリア久しぶりだな」

「やっとだよ、お兄ちゃん」

 痛い、痛い、痛い! 心地いい痛みとかじゃなくてガチで痛い。

 リリアの抱きしめる力が尋常じゃない。

「言うことはあるよね?」

 何それ?

「ずっと騙しててごめんなさいでしょ?」

「えっ!? 何のこと?」

「恋人に隠し事はダメなんじゃないかなクレス君」

 ……バレてる!? えっ? なんで!?

「お兄ちゃんから言うまで私は待ってたんだよ」

「いつから?」

「もちろんお兄ちゃんが彼女にしたいって言った時からだから、あの時は嬉しかったんだよ」

「たまに俺を思って辛そうにしてたのは?」

「お兄ちゃんが全然言ってくれないからずっと演技してたの、言ってくれまで……それが本当に寂しかった」

 未来の俺が帰り際に言ってた事を思い出す。

『お前の弱点忘れてないか? バレてるぞ』

 ……こんな所か!

「私が恋人になるなんてお兄ちゃん以外にありえない」


 俺はユウカを見るとチラッと視線をそらされる。

 アイツ知ってたな!

 俺の弱点って。

「お兄ちゃんの嘘はリリアには効かないんだからね」

 嘘が下手なこと。


「じゃあフィーリオンに戻ろうか」

 ユウカが声をかけながら近寄ってくる。

 何故か明るい雰囲気でスキップしながら俺の腕に捕まる。

「何かいい事あったのか? 随分御機嫌だな」

「なんでもないよ~」

 俺達は気絶してる奴等も一緒にフィーリオンに転移した。





 時は未来。

「お兄ちゃん! やっと帰ってきた」

「すぐだったろ、ティアとユリアもちゃんと連れ戻してきたぞ」

 フィーリオンにある一軒家に帰ってきた三人を迎えていたのはリリア。

「私のお母様なのですか?」

 ユリアは恐る恐るといった感じでリリアを見つめる。

「ふふ、いつの間にかこんなに成長しちゃって」

 ティアとユリアをギュッと抱き寄せるリリア。


『お帰りなさい』


 迎え入れたリリアの言葉は優しく、そして暖かかった。


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