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既視感
しおりを挟む俺達は魔法石を全て回収し終わるとワーグナリアに戻る。
「ちょっと待て!」
そこで俺達を引き止める奴がいた。
「あれ? お前逃げてなかったか?」
ワーグナリアの剣聖だ。
「貴様達があの魔物の群れを倒したのか」
こっちの話を聞かずに話し出す。
「痛い思いをしたくなければ魔法石を置いていけ」
剣聖は腰にかけてる鞘から剣を引き抜く。
コイツバカだわ! 神級の魔物を倒した俺達に勝てるわけがないだろ。
「はいはい」
俺は全ての魔法石をその場に投げる。
「欲しいなら拾えよ、剣聖様」
「き、貴様!」
「いいのか? この国の奴等にバラすぞ、お前が尻尾巻いて逃げたことを。俺達を数時間で指名手配に出来る程の権力に傷がつくことになるが……そうか、次は俺達の誰かが剣聖になるのか」
「ぐっ!」
剣聖は明らかに動揺している。
「貴様達が倒したと誰が信用するんだ! 他の国でも剣聖や学園の生徒が魔物を撃退してるんだよ!」
「他の国と言ったか?」
「あぁ、だから俺が倒したと言えば誰もが信じるんだ!」
「そんなことどうでもいい! 手柄はくれてやる! フィーリオンはどうなっている!」
俺は自覚するほど焦っていた。
この魔物襲来がこの国だけじゃなく他の国でも同時に発生していたとしたら。
嫌な予感がする。
「フィーリオンも例外ではない、いや竜王が現れたと情報が来ていたな」
「トウマ! フィーリオンに行くぞ」
「何を焦ってるんだ?」
トウマはクレスに疑問を投げる。
「嫌な予感がするんだ」
トウマはすぐさま転移の準備をする。
『テレポート』
クレス達はトウマが出した白銀の光に覆われていく。
「やばいギルドから貰った剣を忘れた」
クレスは今更になってようやく気づいた。
「一つ聞きたい、貴様達はどうやって倒したんだ? 神級の魔物達を」
『簡単な質問だな、実力だ』
クレスが一言剣聖に告げると、クレス達は魔法の煌めきを残して転移する。
『魔物の数が多いな』
「そうだね、でも僕たちなら!」
竜王の鬱陶しいという言葉にユウカが返す。
竜王が加わったことによりフィーリオン側は魔物達の数を減らしていった。
『竜王なに裏切ってるの? ソイツらは君の親友の剣の勇者を殺したんだよ?』
魔物達の頭上から声が聴こえてくる。
フィーリオン側も魔物側も戦闘を一時的に止めて空を見上げる。
「一時でもお前に踊らされた事が不愉快だ」
そこには鈍く光る虹色のオーラルを纏い、両目には虹色の瞳。
女神と似た顔立ち。
「あれが闇の女神かい?」
「そうだ」
ユウカの問いに竜王は応える。
「君は私じゃなくてそこの闇の勇者を信じるんだね」
「ふん、お前なんぞ今から焼き殺してやるわ!」
「こわいこわい」
竜王の威圧に闇の女神はおどけてみせる。
「闇の女神様がなんでこんな所にいるんだい?」
「なんで? 光の女神がこの世界に干渉したからだよ。女神が世界を調和させたら女神が世界を乱す」
「でも闇の女神様は干渉してるよね」
「直感かぁ、闇の勇者は侮れないね、詳細は分からないみたい。最初に干渉したのは私なんだけど気づかれないようにコッソリやったからこの場の皆んなだけの秘密だよ」
闇の女神は魔物達の下に魔法陣を形成する。
「この場で消えてもらうから別にいいか」
虹色の光が魔物達を食らっていく。
『フュージョン』
食らいつくした光が輝きを放つと三つの頭を持ち、獣の毛や竜の鱗を合わせたようなイビツな胴体、四つの羽も種類が全て違う竜の物だ。
適当なジグソーパズルをかき集めて作ったような合成魔獣、禍々しい魔力の塊。
「キマイラだよ、絶望した? それを見るのが私の生き甲斐なんだよ」
闇の女神は高らかに笑っている。
「竜王! 行くよ」
「俺に命令するな」
深紅の髪と瞳、そして深紅の鎧を身に纏った竜王。
『人化』
ユウカは全ての属性のオーラを身に纏い、オーラルの色が虹色に変わる。
『神化』
「君達の本気は分かったけどキマイラも強いよ」
キマイラが動くとそのデカイ図体には考えられないような速度を出す。
『ゴッドブレイカー』
竜王は自らの胸に手を当ててそこから身の丈以上の炎で出来た大剣を引き抜く。
俊敏な動きのキマイラを気にせずに竜王はその大剣を上段から降り下ろす。
それと同時にキマイラと距離があったにも関わらずその間を埋めるように大剣が延びる。
「なに」
キマイラに渾身の一撃が当たったが、竜王の剣はキマイラに掠り傷をつけた程度でしかなかった。
「おぉ竜王は凄いね! このキマイラに掠り傷をつけられるなんて、私の魔力の大半をあげちゃってるんだよ? 無傷で圧勝だと思ったんだけど」
軽い口をパクパクと開けて喋る闇の女神。
「僕もいるんだけどね!」
ユウカの透明な剣がキマイラを蹂躙する。
だが全ての斬撃が掠り傷もつかない。
キマイラが雄叫びと口に赤黒い魔力を溜める。
「竜王!」
「わかっている!」
ユウカが声を出す前に動いていた竜王は炎の剣を盾の形に変える。
キマイラは竜王目掛けてブレスを放つとそれを全て受けきった竜王が膝をつく。
「可笑しいな、可笑しいよね? 君達は何かを守るように戦っている」
「なんの事かな?」
ユウカは惚けると闇の女神はニヤリと笑う。
「キマイラ分かるかな? そこの金髪の美少女ちゃんを殺せ」
キマイラのターゲットにされたのはリリアだ。
もう一度、もう一度とキマイラはブレスを放つ。
さすがに竜王の盾の炎が弱まっていく。
「なんで私の事を守るの?」
竜王に近寄ってリリアが尋ねる。
「お前は俺の親友の妹だからだ」
それを聞いたリリアは眉をしかめる。
「次で最後だね」
キマイラのブレスが容赦なく竜王に迫る。
『リリア、剣を離せ』
その暖かな声にリリアは逆らうことなく持っていた透明な剣を離すと。
魔力を帯びたキマイラのブレスが消える。
音も無く、ただ静かに。
リリアは何が起こったのかと辺りを見渡すと。
『ケガはないか? リリア』
何処かで観たことがあるような光景にリリアは既視感を覚える。
リリアと竜王の目の前に透明な剣を持つギルドの冒険者がそこに立っていた。
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