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獣王

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「私は女神だよ」

 女神が現れた。


「ごめんね、少し遅れちゃった」

 女神はリリア達の前に降り立つ。

 突然の女神の登場にリリア達は声がでない。

「そんなに驚かないで、それより今は最狂の勇者をなんとかしないと」

 リリア達はすぐさま膝をつき頭を下げる。

「そんなことしなくても大丈夫だから顔を上げて」

 ミミリアは立ち上がり。

「だけどもうグランゼルがないので最強の勇者に一撃を与える程の力は出せないです」

 ミミリアは剣身がなくなったグランゼルを女神に見せる。

「だから私が来たんじゃない」

「最強を倒してくれるのですか?」

「女神の私に死ねと?」

「「「えっ!」」」

 女神は倒しに来た訳じゃないらしい。

「ちょっと時間を稼ぐね」


 女神は手を最狂がいる方向に向けると。

『フォーリス』

 虹色の箱が最狂を覆うように召喚される。

 その後にドンッ! と箱が揺れた。

「じゃあ私が遅れてきた理由を説明しようか、大切な事だから」

 女神は遅れてきた理由を説明し始めた。




 数時間前。


 黒のフードを被った集団の前に光の柱が現れる。

「マクロードというのは貴方ですか?」

「そうだ私がマクロードだ、いきなり現れて誰だ?」

「私は女神です、貴方達の考え方を変えに来ました」

 マクロード達は女神が現れたのに驚き、片膝をつけ頭を下げる。

「無礼をお許しください」

「いいわ、それより貴方達が召喚した最狂の勇者を倒します」

「それでは私達の無念が!」

 マクロードが頭を上げて女神に叫ぶ。

「私が世界に降りて貴方達に真実を話せばこんな事にはならなかったのでしょうね」

「真実?」

「そうです、最狂の勇者はこの世界を滅ぼします。その前に貴方達の奥の手が必要なのです、剣の勇者に使おうとした」

「こんな世界なんか滅んでもいい!」

「滅ぶという意味を勘違いしてますね、最狂の勇者が支配した世界を滅ぶと表現しているのです。自由などなく辛くても誰も死ねない地獄よりもおぞましい世界になるのですよ」

「それでも私達は!」

「まだ分からないのですか? そこには貴方達も含まれるんですよ?」

「私は復讐できればそれでいい」

「そうですか、貴方の周りの獣族達も道連れで笑顔がない平和とは程遠い世界で暮らそうというのですね」

 マクロードは周りを見渡す。

「私達には手を出せない契約を交わした」

「笑えますね、神をも超える力を持つ者に神が創った魔法が効くと思いますか?」

 マクロードは驚きの顔を見せる。

『最狂の勇者は貴方達で遊んでいるだけなんですよ』

「な、なんで」

「真実を聴く気になりましたか? 獣族が何故戦争に巻き込まれたのか……いや、子供達を守る為に戦った獣族の話をしましょうか」

 少し女神は考える。

「獣族の英雄は誰ですか?」

「女神様と同等に崇めている人物は英雄剣の獣王様です」

「じゃあその人の話をしましょうか、それで貴方達の意見は今の真逆になるはずです」





 獣族の住む森。

「お、お願いします、助けてください!」

 猫耳の子供、犬耳の子供、狼の耳の子供、それを母親達は必死で人族から守る。

 人に近い体の獣族や、獣に近い体の獣族もたくさんいる森だ。

「お前達は貴族に高値で売れるんだよな」

「あぁ、こんなご時世に貴族の趣味はわからんが」

 悪い顔の人族が女の獣族を見渡し、ごくりと喉をならす。

「でも綺麗な奴、可愛い奴もゴロゴロいるな」

「人よりの獣族は獣臭いが悪くねぇ、味見してもいいか?」

「ちゃっちゃとすませろよ」

 怯える獣族にのそりのそりと近づく男。




 『助けてもいいがこの姿のままだと面倒だな』

 影に隠れていた一人の人物の横に精霊神クロが現れる。

「遊びに来ました」

「良いところに来たな! 変身だ!」

「えっ! はい」

 クロはすぐさまその人物に入り込む。

『あそこの少年に似てる人物になりたいんだが』

 黒の猫耳の獣族を指す。

「わかりました、系統は黒猫の獣族ですね」

「それでいい」

『うつし影』



 白の猫耳の少女が男に捕まった瞬間に。
 
『ソイツを放せ!』

 黒の猫耳の男は腰にある鞘から黒剣を抜き斬りかかる。

「誰だ、おまぐはっ!」

 男は吹っ飛ばされて木にぶつかり気絶した。

 少女は男から解放されると黒の猫耳の男の後ろに隠れた。

 そこには数十人の人族。

「一人やられた! ソイツを倒せ!」

 黒の猫耳の男を指差し、人族達は剣を向ける。

『ネコミミ美少女に手を出すとは……殺す』

 黒の瞳に睨まれて人族の男達は後ろに一歩退く。

「お、怯えるな! 相手は一人だ」

『死ね』

 黒剣は剣劇のような華麗な軌道を描きながら人族達の命を刈り取っていく。


 剣劇が終わると、そこには血の海が広がっていた。


 その惨劇を見て固まっていた獣族達。

 黒の猫耳の男に白の猫耳の少女が駆け寄る。

「貴方は誰ですか?」

『俺は剣の……』

「剣の?」

『……獣王だ』

 とっさにいい案が浮かばなかった。

「剣の獣王様ですね! 助けていただきありがとうございます」

『あぁ、それじゃ』

 獣王は役目は終えたとばかりに帰ろうとする。

「待ってください! お礼……お礼をさせてください!」

『いいって』

「ダメです、獣族はお礼はちゃんとしないといけないキマリがあるんです」

 白猫耳の少女は笑顔で獣王の手を握り引っ張っていく。

「はい、命を救われたのだから村に帰って皆んなで感謝を伝えないと!」

「「「おー!」」」

 そこにいた獣族達も巻き込んでいく。


『く、クロどうしよう』

『ユウ様頑張ってください、私も最後までユウ様の身体から離れませんので』

『ありがとな、もう少し付き合ってくれ』

『はい、遊びに来てよかったです、ユウ様とずっと一緒……』

『どうした? クロ』

『い、いいえ、なんでもありません』


 獣王は白猫耳の少女に引っ張られて村に向かうのだった。




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