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最狂

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「俺に言ってるのか? 俺はな、最強の勇者だ」

「最強の勇者? 君なんか僕は知らないんだけど!」

「ユウカ・サクラギ、闇の勇者か」

「そうだよ、だけどなんで知ってるんだい?」

 ラグナロクで有名になって知られているのとは違うユウカの直感がそう言っている。

『殺したことがあるからな』

「ッ!」

 ユウカ達は言葉を失う。

「よく見れば歴史に名を刻む奴等が大集合してるじゃないか、しかも俺が知ってる姿よりも若い」

 自称最強の勇者が辺りを見渡す。

「闇の勇者に邪神にミリアード……」

 自称最強の勇者が目についた順番に言っていく。

「リリア・フィールドなのか!」

 自称最強の勇者はリリアを見て驚きの声をあげる。

「リリアちゃんの時だけ反応が違うね」

「こんな形で会うことになるとわな、少し驚いただけだ、リリアは俺が愛した女だからな」

「リリアちゃんセンス悪くないかい?」

「勝手に愛されても困るよ! 私にはお兄ちゃんがいるんだから!」

 リリアは自称最強の勇者から距離を取る。

「何を言ってるんだ? リリアは一人っ子だろ?」

 自称最強の勇者は疑問を返す。

「私にはお兄ちゃんがいるもん!」

「パラレルワールドによって違いが出るのか」

 少し考えていた自称最強の勇者は。

「リリア・フィールド俺の妻になれ! もちろん拒否権はない」

「何言ってるんだコイツ」

 フィリアは苛立ちを含んだ声で話に入る。

 自称最強の勇者が独りでに狂ったように語りだす。

「リリアは今も綺麗だが大人になれば絶世の美女になる。今でも思い出す。歳を取らない体になっていた俺は655年も生き続けたが、リリアを一目見て惚れ、何度も何度も何度も俺はリリアに告白をしたが聞く耳を持ってくれなかった! しょうがないと俺は……」

 一息つく。

『メディアル王国の奴等を殺して周った』

 自称最強の勇者のその言葉の異様さにユウカ達は押し黙る。

「その時だったけな、その前? 後? 前? どっちでもいいや。俺を止める為に国は何をしたと思う? なぁ? 勇者を召喚したんだよ! 俺を殺す為にな! そこから次々に現れる勇者を殺していった。光の勇者、反発の勇者、闇の勇者、精霊の勇者、そして歴代最強と言われた……」

 誰も負ける事を想像しない勇者。

『剣の勇者だ』

 狂気を孕んだどんよりと鈍く光る虹色の瞳が笑う。

「そこからは簡単に俺の告白に応じてくれたよ。リリア・フィールドからの『もう誰も殺さないで』と言う願いを聞いて最愛の人から頼まれたらしょうがないよな? 俺が誰も殺さないようにメディアル王国に住んでる奴等を全て、殺す前に殺した。そしたらリリアは泣いて喜んでくれたな!」

「酷い……」

 もしも自分がその立場ならとリリアは考えて涙を流す。

「異変を感じた他の国からも攻撃された事があるな、そこで見たのがミミリアだ。最後には俺に仕える代わりにミリアード王国には手を出さないでくれと頼まれたよ。だから俺は戦争してきた国以外とは戦わなくなり、皆んなで仲良く暮らしました。定期的に他の国から生け贄として渡される美少女と生きてるのに何も喋らなくなった二人と共にな」

 歪んだ物語の終わり。

「なぁリリア、まだ俺の告白に逆らうのか? しょうがないよな? またメディアル王国の奴等を皆殺しにしても俺の告白に逆らったリリアが悪いんだぞ」

「殺さないで着いていくから!」

「リリア! なんでこんな奴の言うことを聞かないといけない!」

 ミミリアがリリアを止める。

「何を言ってるんだ? お前らも来るんだよ! 美少女が揃ってて俺が嫌われるわけないだろ? 最後には皆んな俺についてくる」

「僕達がついてくる? 冗談だよね?」

「冗談? お前らが俺についてくるだけで世界は救われるんだぞ……断ったら魔族と人族を皆殺しにするだけだ」

 

「その力を見せてよ、僕達で少しは抗えるかもよ」

 呪文を呟き、透明な剣がユウカの手に現れる。

『天空の光よ、僕に力を』

 それに続いてミミリアとリリアも呪文を呟く。

『天空の光よ、私に力を貸して』

『漆黒の闇よ、形をなし、我が手の中へ』

 リリアの手に透明な剣が、ミミリアの手に銀色の剣が。

 フィリアも両手に黒い刀を出す。

 ミライは重力魔法の詠唱にかかる。

『軽く、重く、重力の矛先を変えよ』

 自称最強の勇者に重力がかかる。そしてリリア、ミミリア、フィリア、ユウカの四人の動きが速くなる魔法。


「俺はな、殺した奴の能力を全て奪えるんだよ」

「まさか!」

 ユウカが叫ぶのと同時に。

『ひれ伏せ』

「「「ぐっ!」」」

 虹色の鈍く光オーラを纏った自称最強の勇者がユウカ達に重力魔法をかける。

 ミライの重力魔法とは桁違いの魔法。

「動けない!」

 ユウカは驚きで声を出す。

「抵抗されるのは面倒だな、全員殺して従順なシモベとして蘇生させるかな?」

「「「ッ!」」」

「皆んな大丈夫だよ! リリア達にも何度か使ったことがある能力だし。洗脳がうまくいかなくてその度に殺してあげたらね、最後には喋らなくなったけど」

 重力魔法で動けなくなったリリアの元にゆっくり近づく自称最強の勇者。

 リリアは目をつむる、近づいてくる恐怖を見ないように。

「「「やめろ!!!」」」

 リリアの周りから静止の声がかかる。

 それもお構い無しに自称最強の勇者は手を上に掲げる。

『リミテッド・アビリティー』

 虹色のオーラを纏う剣が姿を現す。

『お兄ちゃん……』

 リリアは心のなかで叫ぶ。

 振りかぶられた剣が最悪の結末へと向かう……。








「なに!」

 キンッ! と弾ける音がして自称最強の勇者は後ろに吹き飛ぶ。





『おいおい、俺の妹に何してんだ? 殺されても文句ないよな!』

『キュイ!』



 そこには黒剣を持った銀髪蒼目の剣の勇者と黒い色のチビドラゴンがいた。




 パラレルワールド歴代勇者。

 力に溺れ最も狂った勇者トウマ・キノシタ。

 六代目最狂の勇者。



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