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友花

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 俺が思っていたほど大変なことじゃなく事態は軽く見られていた。

 たまにこういう大事故が魔力テストではあるらしいのだ。

 ミントも在学中に起こしたらしい。

 
 学園に張られている魔法とコロシアムのバトルフィールドに張られていた魔法の修復には時間がかかるらしい。

 魔法陣ごと消し飛ばされたようだからな。

 修復に時間がかかるとしても二日ぐらいだ。

 あの決勝戦のことだが優勝は決まらずミミリアとリリアが同時優勝となった。

 俺を含め三人以外みんな気絶してたしな、判定できる奴もいない。

 なんでもするという約束だがリリアは。

「優勝じゃなかったからいい! 今度の魔力テストで一位になるもん」

 なんかプイっと顔をそらされて約束はうやむやになったみたいだ。
 
 リリアの中では優勝したことは一位になることで同時優勝は違うらしい、譲れない物があるのだろう。

 ラグナロクに出る選手はもう決まったみたいで推薦枠で俺が入る、とか言う事もない。

 ミントが一人だけ俺を推してたみたいだが目立ちたくないんだ、妹様のために。

 推薦枠は急に転校してきたという優等生の手に渡った。




 ソイツは今、特待生クラスで自己紹介をしている。

「僕は学校の名前は覚えてないんだけど闇の勇者の学園って言えばいいのかな? まぁ、そこから転校してきました桜木友花さくらぎゆうか、え~と、ユウカ・サクラギと言います。よろしくお願いします」
 
 ユウカは魔力を指に集めて空中に桜木友花と漢字で書く。

 黒髪黒目で少し華奢だが明るい雰囲気と人を惹き付ける魅力があり、顔は整っていて学園指定のブレザーを可憐に着こなしている美少女だ。

 そこで俺だけが気づくことができることがある。

 コイツ! 漢字を使いやがった! 異世界の人間か!

 漢字を使ったことに驚いた俺に一瞬だけユウカが目を向ける。

 えっ! なんで見られた? いや気づかれるはずはない!

「僕は昔、ダークネスと言われてたんだけどね。闇の勇者って言えば分かるかな?」

 ダークネスって女の子だったのかよ!

 教室中がざわざわと騒がしくなる。

「僕はね剣の勇者に会いたいんだよ。そしてこの学園に剣の勇者がいる」

 ギクッ! なにアイツ!

「今、歴代の勇者達が召喚されててね。年も十六才に戻ってるんだよ。若返りってやつかな? 僕はね、年齢不明にして性別も不明にしてたからなのか、手違いなのか、もっと若く……そうだね。十二才に戻ってたんだよね」

 チラッチラッと俺を見るのを止めて欲しいんだけど。

 アイツ気づいてんの?

 ユウカの横にいるミントも俺を見るのは止めてくれ。

 隣のリリアは自慢気に胸を張るのは止めて欲しい。

 ユウカの視線を感じながら俺は窓の外の風景を楽しむように窓から広がる空に視線を移している。

「なんで僕が性別も、年齢も、正体も、顔すら隠さないかは僕が剣の勇者に認められたいからだよ! 僕はね、僕は! 剣の勇者が好きなんだよ! そして好きな相手には偽りたくない! 嘘をつきたくない」

 何故それを俺に向けて言うんだ。



 初めてあった人にいきなり告白されても困るんだけど。こんな美少女からの告白なら日本にいた頃なら即付き合ってただろうが。

 異世界でそういう奴等に騙されたことを俺は忘れない、そしてもう嫌だ。俺の黒歴史のページにそれは刻まれている。

『私、貴方様のことが好きです』

『えっ、マジで!』

 それからソイツと一緒にデートをしたり、俺はもう完全に浮かれてたね。

 そして。

『俺と一緒に暮らさないか?』

『はっ? なにいってんの? 私が欲しかったのは剣の勇者と付き合ってたということだけ! そしたらイケメン貴族からもモテモテじゃない。誰がこんなブサイクを好んで付き合うかっての』

 ぐはっ! 精神的ダメージが。

 これはまだまだ異世界になれてなく召喚されて間もない時に何度も起こったことだ。

 アリアスには毎回軽蔑の目を向けられ俺は学習し誓ったんだ。

 もう俺は騙されない。

 アリアスはそれでも俺の隣に居てくれたが。

 有名になればなるほど増えていった。そういう奴等には。

『俺には使命がある。だから気持ちだけ受け取っておくよ』

 これが一番便利な言葉だった。

 異世界の奴ら演技うますぎ! これを聞いたら頬を朱に染めて皆んな決まって。

「私なんか釣り合いませんね。でも私は貴方様の事をいつまでもお慕いしております」

 お姫様や村人、助けた美少女からさんざん言われたが信じない。何回も心が揺らぎかけたが俺と付き合う理由の一つは知っている。イケメン貴族を捕まえる為の箔をつけることだ。

 俺が異世界に来て最初に会った奴らがそういう奴だったと言われればそれまでだが、それでも俺の心はボロボロになったのは確かだ。

 


 その告白を聞いてリリアが席を立つ。

「なんで本人を見たことないのに好きだってなるの?」

「それは僕が会ったことがあるからさ。しかも助けて貰ったんだよ」

 闇の勇者なユウカが助けて貰う程の事があったのか?

「少し長くなるけど話そうか?」

「ぜひ、お願いします!」

 ミントが即答する。

 クラスの奴等も剣の勇者を目指してるんだ剣の勇者の話が気になるのか皆んなミントの言葉に頷いている。

 リリアは勿論聴く気みたいだ。


「実はね……」

 ユウカは魔王討伐後にユウカを召喚した国に騙され封印されたらしいのだ。

 ユウカが魔王の魔法石を使い反転召喚魔法陣を発動したが、それは反転召喚魔法陣ではなく封印の魔法陣にすり替えられていて、長い間その空間に閉じ込められたという。

 なぜその国はユウカを封印したかというと全属性の魔力を扱える闇の勇者、その魔力を永遠に奪い続け資源とするためだったという。

 肉体は朽ちることなく時が止まり、時間は流れ、永遠にこれが続くと絶望していた時に剣の勇者が現れたという。




「剣の勇者はね、僕を封印していた魔法陣を一撃で消し去って僕に言ったんだ」

 ユウカは昔の事を口にする。

 魔法陣が消滅しダークネスは誰かに受け止められる。

『お前はもう自由だ、あとは好きなように暮らせ。復讐しようとはするなよ! 全部の悪を俺が受け止めてやるからな』

『でも僕は利用されてたんだよ! 長い間!』

『だからそれは俺が受け止めてやる』

『そ、そんなの勝手だよ!』

『勝手? おいおい、俺は剣の勇者だぞ? その勝手が許されるんだよ。お前はコレを着て大人しくしとけ』

 剣の勇者がマントを被せる、今さら自分が服を着ていない事に気づく。

『ここは魔族に占拠されている』

 剣の勇者は魔王を普通の魔族だと思っている。

『えっ! この魔力! 倒さないと!』

 ダークネスは魔力感知で占拠している魔族が魔王クラスのだと分かる。

『はっ? 雑魚は黙ってろよ。お前を安全な所に移動させたら数秒で片付く』



 そして地下にいた剣の勇者が国の外に移動する。

 そこにはマントにくるまった女性達が数十人はいた。


 剣の勇者が黒剣を構えて、何度か剣を振る動作だけすると。

 そこに国があったのかも疑問になるほどに、その場所に大きなクレーターを残して国が消滅する。

 その力に驚愕したが感謝を伝える為にダークネスは剣の勇者に歩み寄ると剣の勇者がダークネスの頭に手を乗せて。

『お前らを助けられて良かったよ』

 さっきまでの真剣な表情と変わり、ニコッと微笑んだのだ。

 そしてその笑顔に当てられてダークネスは頬が朱に染まり、身体は熱を帯びているのが分かると自覚せずにはいられなかった。

 暗い闇から救いだされ、自分の中の悪い感情を国と一緒に吹き飛ばし、それを誇る事もなく救った人を心配する。そんなお人好しで優しい剣の勇者を好きになったんだと。

『あ、あの』

 ダークネスの言葉を遮り、剣の勇者が告げる。

『お前達は苦しい時を過ごした、あとは好きなように暮らせ。待ってろよ、お前達はミリアードに保護してもらえるから』

 そして剣の勇者は黒剣を真上に放り、キラキラと金のオーラを残して空に一直線に星が登っていくような光景を作り出すと。

『あれ?』

 それは夢のような時間だったのかと空に向かった星を見ている間に剣の勇者はその場から消えていた。そして数十分後にミリアード王国からきた騎士達が荷馬車を連れてやって来たのだ。





「それから僕は剣の勇者を探す旅にでたけど全然会えなくてね。剣の勇者が元の世界に帰ったって聞いて、僕も元の世界で会える希望にかけて自力で反転召喚魔法陣を発動させたんだよ」

「じゃあ剣の勇者が本当に魔力が無かったというのは本当ですか?」

 アクアがユウカに疑問を言う。

「それは僕にもわからない。魔力もないのに国一つを消滅させる剣技があるなんてね」

 皆んなが尊敬の眼差しをユウカに送っている。

 まぁアイツも伝説に数えられている闇の勇者だしな。

「それで皆んなも会いたいんじゃないかな? 剣の勇者探しを手伝ってくれる?」

「「「「お~~!」」」」


 特待生達が犯人探し、いや勇者探しをするらしい。

 なんでリリアやミントまで手を高々に上げてんだ!

 妹様を守る為だけに学園に入ったのに。



 なんでこうなるんだぁぁぁぁぁぁ!

 俺は心の中で絶叫するのだった。



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