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卑怯
しおりを挟む「その約束忘れるなよ!」
偽勇者は鼻息を荒くする。
「ただ貴方が負けたら剣の勇者とは二度と言わないでください」
「もちろんだ僕が勝つしね!」
偽勇者が半透明な黄色のオーラルを纏う。
そして詠唱を始める。
『我が想像の力に置いて創造せよ』
おっ! さっきのやつか。
『クラウドクラフト』
手の中から黒剣が姿を現す。
『ふっその程度の魔法で勇者気取りか? 雑魚は雑魚だ、なんなら手加減してやろうか?』
うん、俺をベースに具現化した勇者は何か悪役みたいだ。
いや、あれは俺じゃないし! リリアの創造した剣の勇者がキザな野郎であって俺はあんなこと言わないもん。
い、言わないよね、似てる? 俺はこれ以上黒歴史に刻みたくないんだ。断じて言おう、アレは俺じゃないと!
「なんだと! この僕に手加減してやる、だと! 舐めるんじゃない!」
『舐める? おいおい、そんなんじゃない。手加減しないと相手にもならないと言っているんだ』
アレは俺じゃない、アレは俺じゃない、アレは俺じゃない。
俺は自分に言い聞かせて現実逃避を始める。
『かかってこいよ、雑魚野郎』
剣の勇者が左手を前に出して指を曲げたり伸ばしたりして挑発している。
俺はやらないよね? やらないよ!
「ここまでコケにされて黙ってられるか! 本物の勇者は僕だ!」
偽勇者が剣の勇者に詰め寄る。
『んっ!』
剣の勇者が顔をしかめる。
偽勇者が持つ剣、意味もないような魔力の込め方をしているのか剣の勇者はあえて偽勇者が振り上げた剣を受けずに攻撃を避ける。
「気づいたか? 僕のオーラルの能力はどんな魔法も同じ魔力量を注げば強制的に破壊できるんだよ!」
剣の勇者は魔法の身体だから少しでも触れられたらアウトだな。いや、こっちから触れてもアウトか。
こういう特殊能力の相手は魔力切れを狙いながら戦わないといけないからな。
魔法体でもない俺には関係ないが。
「ほらほら~、さっきまでの威勢はどうしたんだよ~」
自分の立場が強くなったのか相手を煽るまで精神を回復させた偽勇者が騒いでいる。
リリアが詠唱の為に手を祈るように組むと。
「おいまさか手を貸すんじゃないだろうな? 最強の剣の勇者に手を貸すのか? 笑えるな」
うわ~コイツはせこい!
「そんなのしないもん! 別に私が魔法で援護しなくてもお兄ちゃんは負けたりしないもん!」
俺自身の事をバラしまくっていると言えるが隠してるんだから言わないで~。
「お兄ちゃんか、悪くないな」
おい偽勇者! お前じゃないし!
「まぁそういうことだ、手出しはするなよ」
偽勇者が何度振ろうとも剣の勇者に攻撃は当たらないが剣の勇者も攻撃が出来ない。
「お兄ちゃん、負けちゃ嫌だよ」
リリアの自信ない言葉に、剣の勇者は。
『誰だと思ってるんだ? 俺は剣の勇者だぞ。こんな雑魚野郎に負けない』
「お兄ちゃん!」
何アイツかっこいい! えっ? だれがって? 俺がだよ!
「何カッコつけてるのかな? お前は僕に触れることも出来ないんだぞ」
まぁ俺自身だからな、考えは分かる。
『お前の能力は一定量の魔力を注がないといけないんだろ? それには魔力操作のスピードに関係してくる、お前が魔力を注ぐ前に攻撃したら良いだけの話だ』
「何言ってんだよ! 魔力操作? 攻撃を受ける時にそこだけに魔力を集中させるだけ、ほんの一秒だってかかんねぇ……」
言い終わる前に偽勇者の右肩が跳ねる。
「うわ! なにをした」
『やる前に言ってやったじゃないか雑魚野郎!』
「僕が剣の勇者なんだ! お前なんか! お前なんかぁぁぁぁ!」
剣の勇者が黒剣を構える。
そこから一瞬で姿が消える。
「どこいった!」
偽勇者が辺りを見回す。
『ここだよ』
「そこか……グハッ!」
偽勇者が振り替えると同時に剣の勇者の黒剣が腹にめり込み吹き飛ばす。
よ、ようしゃねぇー。
そこからは偽勇者君に同情してしまった。
倒れた偽勇者君が立ち上がろうとした瞬間に、黒剣で斬りつけられ吹き飛ばされる偽勇者君。
それが数十分に渡り、会場中がシーンと静まり返ると偽勇者君の悲痛な叫びだけが響いていた。
もう偽勇者君は立ち上がる力も残っていない。
そこに歩いて近づいていく剣の勇者。
もうホラーだよ! 恐いよ剣の勇者!
偽勇者君は近づいてくる足音だけでもうビクビクしている。
完全に心が折られているみたいだ。
「ず、ずびばぜんでした!」
偽勇者君は地面に頭をつけ、土下座しながら剣の勇者に謝罪をする。
「僕の本当の名前はミルナ・デスペルです。リリアさんに振り向いて貰いたくて嘘をつきました! 他の学園では勇者達が現れたと噂を聞いていたので、剣の勇者が現れても疑問に思わないと思ったんです。ほら! 僕の髪と目は珍しいでしょ、あと僕のオーラルの能力も剣の勇者みたいですし!」
なるほどな、やっぱり他の学園では勇者が現れていたのか。
噂だけど、ここまでシッカリとした噂なら本当の可能性がある。
ミルナの勇者宣言で疑問も沸かずに会場が盛り上がっていた謎が解けたな。
『そんな事はどうでもいいんだよ、さっさと降参しろ』
剣の勇者ようしゃないよ。
剣の勇者がリリアの所に行こうとすると。
「バカが、そのスキを待ってダアッ!」
後ろを向いた剣の勇者にミルナはすぐさま立ち上がり、叫びながら剣を降り下ろす動作をした瞬間、顔面に回しげりが炸裂して吹き飛ばされる。
『終わったな』
ミルナは吹き飛ばされ壁に激突して意識を失っている。
剣の勇者にリリアは近づき剣の勇者を抱き締める。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
『あぁ』
剣の勇者はリリアの頭を撫でながら光の粒子になり消えていく。
……。
……。
……。
は? ちょっと待て、リリア言っとくけどそれも偽物だからね! 俺に抱き付いてきてよ~!
本物より去り際カッコよすぎるだろ!
もういいもん、拗ねるもん!
「お兄ちゃんみてた?」
俺は観客席でいじけているとリリアがバトルフィールドから帰ってきた。
「よくやったな!」
妹にいじけてる姿はみせれない! 俺は内心のテンションは急降下しているが何時もの兄を演じる。
「お兄ちゃん、リリアを守ってくれてありがとう」
リリアは急に俺に抱き付いて来て上目遣いでありがとうと言ってきた。
内心のテンション決まってるだろ? 急上昇だよ!
「いつでも守るからな!」
俺はリリアを抱き締めて、この時間が永遠に続けばいいと思うのだった。
するとリリア向けてのアナウンスがかかり、するりと俺の腕から抜けて。
「じゃ、じゃあちょっと行ってくるね」
顔が真っ赤になっているリリアが目も合わしてくれずにバトルフィールドに走って行ってしまった。
そんなリリアの心の中は。
『お兄ちゃんカッコよすぎるよ』
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