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自称剣の勇者
しおりを挟むもう午後のトーナメントが始まっている。
少し遅れてしまったがミミリアとリリアは無事に一回戦を突破したみたいだな。
電光掲示板のようなモニターにトーナメントの組み合わせが映し出されている。
「僕は剣の勇者だ!」
ん? 俺がコロシアムの掲示板を見ている時にバトルフィールドから痛い声が聞こえてきた。
見るとそこには異世界では珍しいんじゃないかな? 黒髪黒目のイケメン美男子がいた。
「な、なに!」
自称剣の勇者の相手も青髪の美男子だ。えっ? トーナメントに出てる奴はこんなんばっかりか! 禿げろ!
俺は使えない呪いの魔法を気合いでかける、発動はしないが。
「今まで四年間隠して来たが僕は邪神を倒した本当の剣の勇者だ!」
会場は盛り上がる。
俺はこの美男子君を冷めた目でみる。
だって俺は恥ずかしくて死にそうだ。
入学式の日の俺を見てるみたいで客観的に観ると、あっ! コイツ痛い奴だなってなるのは当たり前じゃん。
ミントが呆れながらまた? 剣の勇者? って言っていた顔が鮮明に浮かび上がる。また一つ俺の心の中のパンドラの箱が開く、そして鎖で巻かれた黒歴史の本のページにこの事は刻まれてしまった。
俺は刻み終えた黒歴史の本の鎖を巻き直して、元のパンドラの箱に戻す。
入学式のことはもう無かったことだ。
ふぅ、剣の勇者ね、アイツ痛い奴だ。
黒髪黒目のイケメン君は続ける。
「最強の剣の勇者ユウ・オキタの隣にはリリア・フィールドさんが相応しい」
アイツも模擬戦で天使みたいなリリアを見て惚れた一人なんだろ。
見てないのになぜ分かるって? 精霊化してる妹様はめっちゃ可愛いからな! 見なくても分かります。
でもやっていいよね? 偽者には制裁を!
「だが、このトーナメントで優勝し誰もが認める強さを見せつけてリリアさんに婚約を申し込もうと思う!」
まぁいい心がけだな、リリアがいる限り優勝は無理だがな!
なんで勇者だったと告白したんだ? 今まで隠していたんだろ?
「皆んなが何故ここでと思っただろう! それはな、リリア・フィールドが俺を見てホーリートレースを発現させたからだ! 僕に向けての愛を感じた。だから僕も剣の勇者であることを告白しようと思ったんだ。リリアさんには気づかれていたみたいだがな!」
盛大に勘違いしている奴がいるな。
自称剣の勇者様はリリアが剣の勇者のファンだと思って自分が剣の勇者に成り代わろうとしているんだと思う。
おっ! 青髪君が動いた。
「何をするんだ! 今、大事な所だろ」
自称剣の勇者は青髪君の剣を容易くかわす。
「僕は剣の勇者だ、そんな剣じゃ効かないね!」
青髪君には悪いがこれは実力差がありすぎる。
自称剣の勇者は気配だけで剣を避けたぞ。
「勝負する気がないなら早く退場しろよ!」
青髪君が怒鳴る。
「良いだろう、僕の力を見せてあげよう」
自称剣の勇者が半透明な黄色のオーラル纏う。
『我が想像の力に置いて創造せよ』
自称剣の勇者が呪文を詠唱する。
土属性神級創造魔法。
『クラウドクラフト』
自称剣の勇者の手から黒剣が出現する。
自称剣の勇者君も凝ったことするな!
少し見直した。
「どうだ、この黒剣は剣の勇者の証!」
自称剣の勇者が自信満々に言い切ると。
「剣の勇者は魔力がないんだから魔法で黒剣を作れないだろ」
「魔力がない説が嘘なんだよ! 魔力なくて邪神が倒せるはずないじゃん、少し考えれば分かるだろ!」
「た、たしかに!」
お~い青髪、もう少し頑張れよ。
「じゃあその剣に魔法付与もしないで魔法を斬れるのか?」
「だからそんな事は出来ない! 絵本の読みすぎだぞ」
「剣の勇者が言うならそうなのかもな」
おい青髪! そいつ偽物だからな、何でこんなに信じやすいんだよ。
「剣の勇者が現れたって事は世界に五人の勇者が揃ったのか!」
はっ? どういうことだ? 青髪君が意味深な事を呟いた気がしたんだが。
「あぁラグナロクが楽しみだぜ」
自称剣の勇者が青髪君を翻弄してその試合は終わった。
なんだったんだ? 五人の勇者? 他の奴等も生まれ変わりをしていたのか?
トーナメントに出た時点でラグナロクの参加は決まってるからな。
青髪君は実力差があると判断したのかすぐに降参したしな。
あっ! 次はリリアの試合だ。
見なければ!
始まってすぐに相手が気絶して終わる。
うん、なんて言えばいいのかな。
もうリリアの対戦相手はリリアに当たったことが不幸としか言えないな。
午前中のリリアの比じゃないほど今のリリアは本気を出している。
なにがあった? もしかして約束か?
ミミリアがシード枠だから次にリリアに当たるのが自称剣の勇者か? これは少し面白いな。
少しの時間が空いてリリアと自称剣の勇者がコロシアムに現れる。
「リリアさん僕が優勝したら結婚を前提にお付き合いしてください」
自称剣の勇者からの告白。
それをリリアは。
「嘘つきは嫌いです」
それはそうか本物を知っているからな。
「嘘つき? この僕が? 僕は剣の勇者だぞ! 最強だから何しても許されるんだ!」
この学園クズみたいな奴多すぎるだろ。
自称剣の勇者がリリアに強引に迫る。
『私の最強を具現化せよ』
リリアが呪文を詠唱する。
『ホーリートレース』
黒髪黒目のイケメン、ユウ・オキタが金色のオーラを発する黒剣を持ち現れる。
偽物よりもイケメン度が高い。
それを見て偽勇者がリリアに向かっていた足を止める。
「貴方が剣の勇者なら私の剣の勇者を倒してみて! そしたら結婚でも何でもしてあげるから」
リリアは自分の最強が負ける事を微塵も思っていない。
『倒したらの話だよ』
リリアはその場でくるりと周り小悪魔的な笑みを見せる。
観客席ではその笑みにやられ何人かがノックダウンしている。
くっ! 可愛い! あとで抱き締めたら嫌われるかな?
俺は観客席でリリアに嫌われないように抱き締めるにはどうするかを必死に考えるのだった。
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