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第59話 プロローグ

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 何時間寝たんだろう? 随分と寝た気がした。暖かいお日様の匂いがするマクラを頭を動かして位置を調整する。僕は二度寝したい気持ちを引きずりながら目を開ける。

 真っ白な天井、陽の光が眩しい大きな窓、フカフカのベット。

 ベットから起き上がると、一人の女性が椅子に座ったまま寝ていた。

 美女、美少女? その寝ている女の人の顔を眺めて、眺めるほどに、胸が締め付けられて胸が高鳴る。

 その女の人も僕の視線に気づいたのか、「うぅん」と可愛らしい声を上げ、パチパチと二度三度、目を開ける。そして僕が見ていることに気づくと、優しい笑顔を向け、ゆっくりと口を開いた。

「日影くん起きたんだね。日影くんが急に倒れて大変だったんだから、心配したんだよ」

「彼女にそんな心配をさせるなんて、僕は罪な男だな」

「彼女?」

 あぁ彼女じゃないのか!

「まさか!? あなた名前?」

「ひかげ? だよね」

「下の名前は?」

 下の名前? 僕は考える。日影からなる大きな木? 大樹。いや、僕と血が繋がった人は大樹なんか在り来りな名前を考えるはずがない。

「えぇと、太陽とか?」

 口から出たのは在り来りな名だった。もうちょっと考えれたら当てて見せた。僕は心の中で腕組みして頷いた。

「貴方の名前は青空日影くん」

「え、日影が下なの? ハッ! 嵌められた!」

 美少女は可愛い顔して策士だった。

「代償は共有した全てと言うことね」

 可愛らしくうんうんと一人で納得する美少女は僕の左手を掴んで、寂しそうに眉をひそめた。

「ねぇ、聞いてもいい?」

 はい、どうぞと軽い言葉で言葉を誘導する。

「私は日影くんの分身を殺した。その代償で君は記憶が無くなった。命まで無くなってたかもしれないの。私は、自分の復讐に日影くんを利用した」

 え、僕、そんなに追い込まれてたの!?

「私に出来ることなら何でも言うことを聞くわ。目の前から消えてと言われたら消えるし、死ねと言われたら死ぬ。私の生きる意味は日影くんのおかげで叶ったから」

 え、何でも言うことを聞く? 僕はゴクリと喉を鳴らす。

 ラノベ的展開。

 美少女とあんな事やこんな事をし放題なんて。

 寝る前の僕はどんだけの徳を積んだんだよ。


「じゃ、一回だけデートしてください」

「一回だけじゃ私は恩を返せない!」

「一回でもこんな美少女とデートになら、命を懸けた甲斐が有るって言うものですよ」

「でも……」

 美少女は頭を下げて、ボソッと呟く。「ヘタレ」と。

 聴こえてるけど僕は紳士だから聴こえてないフリをした。

「貴女が恩を返したそうにしてたから貰うんです。正直言うとですね、僕は何もいらないですよ」

 顔を上げた美少女の目を見て、あったかもしれない話を口にする。

「僕が命を懸けたのが本当だとしたら、命を懸けてまでカッコつけたのにお礼を貰ったらカッコよくないじゃないですか。逆に聞きたいんですけど、どうやって僕に命を懸けさせたんですか? 僕はこう見えて相当なビビりですからね」


「……ッ!」

 僕の話を聞いて美少女の目から涙が落ちた。

 なんか僕泣かすこと言ったかな?

「うんわかった。約束してたし、それも兼ねて一回だけデートしてあげる」

 涙声で自信満々に言い放つ美少女の姿は、僕が憧れそうな人だと思った。



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