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エピローグ

エピローグ①

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「ねえ、みてみて、ピアノ王子だって」
「肖像権どうなってんだ……」

 なんでも『王子』をつければいいってもんじゃないだろう。
 ため息をつきながら、そう文句を垂れる。

 光希が無事こちらの街に復帰し、閉店間際のブランカに顔を出した。

 ねえねえ、すごいの見つけちゃった、と持ち出したのが先日、智弥が駅構内で演奏したピアノの動画だ。顔はモザイクで隠してあるとはいえ、知り合いが見れば智弥だと分かってしまうだろう。

「……一音狂ってるな」
 柊吾が珍しく一言口をはさむ。岳大はすでにアナスタシアに出勤中だ。いなくてよかった。いたら何を言われるか分からない。

「うわあ、情熱的!」
 颯がスマホをのぞきこみながら、ニヤニヤしている。
 勝手に撮影されて、勝手に世間に公表されているのだから、いい迷惑だ。

 ――あれは、光希のためだけに弾いたのに。


「そういえば、お父さんどうしてるの? まさかあの家に一人で?」
 カフェオレを口に運びながら、光希がカウンター越しに尋ねてきた。

「まさかだろ、あんな生活能力のないやつ。俺に金を振り込んでた代理人だか執事だかよくわかんねえおっさんが全部管理してるよ」

 カップを拭きながら、智弥はぶっきらぼうに答える。あのまま家に帰ってもよかったのだが、まだ和鷹との距離感をはかりかねている。

「ああ、オリバーさん。親切だよねえ、あのひと」
「……なんで親しくなってんだよ」

「え、だって……イギリスから帰るときずっと一緒だったし」
「あいつ、英語しかしゃべんないだろ。日本語ペラッペラのくせに」

「え、そうなんだ。日本語しゃべれるんだね……え、あれ? 智弥は?」
「おかげさまで日本語しか知らねえよ」
「嘘! その顔で!?」
「顔は関係ないだろ!」
 ていうかあんたはしゃべれんのかよ英語。

「くっそー……明日からペラペラになってやる」
「そこも教えとくべきだったねえ。ま、今からその執事さんに教えてもらえばいいよ」
 光希の隣で本日のコーヒー、ミルクと砂糖大盛りを啜りながら、颯が言った。

「ヤダ。あいつ絶対スパルタする」
「じゃあ俺も一緒に行くから。お父さんとも会えて一石二鳥でしょ?」
「うわあ、もう尻に敷かれてるカンジ! よかったねえ、智弥」

 これ、後で龍生にも見せよ、とほくほくしている颯を見て、大きなため息をつく。

 ――ふと、スマホから顔を上げて、颯が上着のポケットから鍵束を取り出した。先程と違い真面目な表情に、思わず背筋が伸びる。

「――これ、返しとくね。おうちの鍵。もう、僕が掃除に行かなくてもいいだろうから」
 そしてにっこり微笑んだ。

「エマのピアノ、頼んだよ」
「……ああ。分かった」

 手のひらに、ずしりと重い金属の束が乗せられた。柊吾の顔も少しだけ綻んだのが分かった。

 アマービレ・ブリオーソ・アモローソ。

 嬉しそうなエマの顔が浮かんだ。

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