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幕間 友の旅

12.頼みごと

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毎度毎度馬鹿みたいに更新が遅くてすみません。なにぶんオリジナルは難産なもので。
楽しんでいただけると嬉しいです。

ーーー


「「っ!?」」

   ガタッ!と椅子をひっくり返して立ち上がる二人。

   その顔は驚愕に彩られており、とても鬼気迫るものがある。並の人間が見たら震え上がりそうなオーラだ。

   だがダンジョンメイカーはフッと微笑み、視線を送って白手袋に椅子を直させる。まるで主人と従者である。

   もっとも、ダンジョンメイカーがスキルで生み出したモンスターなのでその通りだが。

「その反応、知ってるみたいだね」
「あ、当たり前だ!」
「あなたこそどうして彼のこと……!」
「まあまあ、一度座りなさい。落ち着いて話をしよう」

   いうや否や、クイッとダンジョンメイカーが指を曲げる。

   するとひとりでに椅子が前に動いた。驚いていた二人は対応できず、強制的に着席状態に戻る。

「これでいい。それで、何から話そうか」
「何からもなにもねえ!龍人の居場所を知ってんのか!?知ってるなら教えてくれ!」
「そのために私たちは……!」
「彼を探しに行く力を手に入れるために、このダンジョンに潜ったんだよね。わかってるよ」

   言葉の先を言われて、雫は口を閉ざす。やはり知られていたようだ。

「普段はマニュアル対応なんだけど、面白いから2回目は直接聞いたんだ。普通一回でみんな折れちゃうしね」
「な、なるほど……」
「だから君たちが彼のことを聞きたい気持ちは、よくわかる。でもね……」

   そこで言葉を切り、何かを言い淀むダンジョンメイカー。

「確かに僕は彼のことを知っているし、今どこにいるかも知っている。けれど今の彼を君たちに合わせていいものか……」

   そのまま沈黙してしまい、ダンジョンメイカーはそのことを教えるのを躊躇う。

   言った通り、ダンジョンメイカーは彼らが目的のためにどれだけの覚悟をもってこのダンジョンに入ったのかも。

   しかしこの〝事実〟は、ともすれば〝心の試練〟よりもずっと辛い思いを二人にさせることだろう。

   だがせっかく自分の迷宮を攻略してくれたのだ、手ぶらで返すのはダンジョンメイカーの名が廃る。

   無論、ようやく龍人の情報をつかめると思った二人からしたら気が気ではない。

「うーむ……」
「おい、なんだよ。勿体ぶらないでくれよ」

   夜も眠れないほどに龍人のみを案じているシュウは、普段の気さくさもどこへやら掴みかからんばかりの勢いだ。

   それとは対照的に、昔からシュウは龍人のことになると暴走しがちだったので雫はスッと焦りが消えて冷静になっていく。

「シュウ、一度落ち着いて」
「っ……」

   今にも手を伸ばそうとしているシュウの肩に手を置いて、一旦下がらせる。そうするとダンジョンメイカーを見た。

「ダンジョンメイカーさん」
「……なんだい?」

   沈黙を貫いていたダンジョンメイカーは、ようやく目線をあげる。

「たとえ今、龍人君がどんなことになってようと関係ないわ。彼は私たちの大切な人で、それは絶対に変わらない。だから、教えて」
「………それじゃあ例えば、彼が君たちのことを止むを得ない事情で拒絶したとしても、彼に会いに行くのかい?」
「それでもよ」
「当たり前だ」

   雫は勤めて冷静に、シュウはほぼ反射的に答えた。

   そのもしもの問いかけの通りだったとして、だから龍人を見捨てるのかと言われれば、絶対にノーだ。

 それに拒絶されることなど、もうとっくに経験済みだ。それでもなお二人は、必死に龍人のそばにいようとしたのだから。   

   そう決意する二人の目を、ダンジョンメイカーの琥珀色の瞳が射抜く。深い叡智を宿すそれは、まるで決意を試すかのようだ。

「……覚悟はできている、か」

   五分か、十分か、あるいはそれ以上か。ダンジョンメイカーが目元を緩める。

「いいだろう、君たちに彼のことを教える」
「ほ、本当かっ!」
「ありがとう、ダンジョンメイカーさん」
「いや、これは僕自身のダンジョンメイカーとしての矜持の問題でもある。勇気を示したものには相応の報酬を与えなくてはね」

   ダンジョンメイカーが白手袋に視線を送る。じゃんけんをしていた白手袋たちはすぐに飛んで行った。

   程なくして、それなりに大きな箱を持ってくる。トン、とテーブルに置かれたそれは両開きの扉がついたもの。

   ダンジョンメイカーは箱に手を添えると、スッと一度息を吸って、それを始めた。

「『ダンジョンメイカーと異世界の少年』、はじまりはじまり~」
「えっ?」
「なんで紙芝居……?」

   まさかの説明方法にぽかんとするシュウと雫。その顔を見てダンジョンメイカーは楽しそうに笑った。

「絵がある方がわかりやすいだろう?まあ、年寄りのお茶目と思って付き合ってくれ」

   そんなこと言われても、という顔をする二人をダンジョンメイカーは軽やかにスルーし、紙芝居を続ける。



「昔々のお話です。ダンジョンメイカーはダンジョンを作るべく、ある国に行きました。世界のバランスを保つためです」



   ダンジョンとは一種のパワースポットであり、どの大陸にも少なくとも一つは存在している。

   人間や亜人などがダンジョンで命を落としその力を吸収する、あるいは逆に力のあるアイテムを外に出すことでパワーバランスを保ち、世界に巡るエネルギーを一定に保つ。

   そして新しくできた大陸に、ダンジョンを設置しようと赴いた。そこでダンジョンメイカーは、一人の少年に出会う。

「その子は異世界からの来訪者で、とても強い力と責任ある立場を持っていたのでダンジョンメイカーは聞きました。『君はどうしてそんなに強くあろうとするんだい?』と」

   すると少年は、『大切な人たちと、俺のせいで一度平穏を失った人たちを守るためだ。そのためなら命さえ惜しくない』と答えた。

「それって……」

   二人の脳裏に一人の少年の顔が浮かぶ。己の罪を悔い、恐れ、それでも前に進もうとしていた少年のことを。

   その答えを面白いと感じたダンジョンメイカーは、今後も彼を見たいと思い彼の住まう国にダンジョンを設置した。

   ダンジョンメイカーの予想通り、少年は様々な苦難に見舞われた。しかしそのことごとくを潜り抜け、彼は抗い続けた。

「ある時は異国での騒動、ある時は自らの国での反乱……その全てに屈することなく、彼は戦った」
 
   そのひたむきさにダンジョンメイカーは感心し、彼がどうしようもなくなった時は力を貸すことを約束する。



そして、その時は来てしまった。



 ある時理不尽な事態が彼を襲い、それによってあるものを奪われた彼は戦った。だが……

「それを取り戻すには、もう遅すぎた。ダンジョンメイカーの助力は力及ばず、彼は理不尽によって最も大切なものを失い、絶望して心に深い傷を負ってしまった」

   それから長い時が流れ、少年はいまだに傷ついたままであるという。

「彼の名は〝皇 龍人〟。大切なもののために戦った、一人の少年です。そんな彼を、今もダンジョンメイカーは忘れません」

   『おしまい』と書かれたカードが現れて、紙芝居は終わる。

   パチパチと白手袋が拍手をする中、話を聞き終えた二人の顔は、なんとも言えないものだった。

   話を聞いている間は、龍人が龍人らしく生きていることに喜んだりしていたのだが……今や沈鬱なものになっている。

「まあ、簡単にいうとこんな感じかな。さっきの質問の意味がわかっただろう?」
「…龍人君は、いったい何を失ったの?」

 もしや、また親しい人を……と顔を強張らせる二人に、ダンジョンメイカーは首を横に振る。

「それは僕からは言えない。君たちが実際に彼に会って、その目で確かめたほうがいい」
「……そう」
「じゃあその幻の国ってのは、どこにあるんだ?」
「いや、それが僕にもよくわからなくて」
「はあ?」

 素っ頓狂な声を上げるシュウ。口ぶりからして場所を知っているようだったのだが。 

「ダンジョンを設置したんじゃねえのかよ?」
「実はその大陸、常に移動してるからうまく位置が掴めないんだよね。とはいえ、ダンジョンの管理ができないのは困るから……」

 白手袋がどこからともなく、あるものを持ってくる。ダンジョンメイカーはそれを受け取り、テーブルに置いた。

 それは、一見して懐中時計だった。美麗な装飾が施され、素人目に見てもとんでもない価値を持っているのがわかる。

「手に取ってくれ。上のボタンを押してごらん」

 言われた通りにシュウが時計を取り、ボタンを押す。すると蓋が開いて、水晶でできた何かの地図が現れた。

「それは僕の開発した魔道具で、世界のダンジョンの位置を示す。ほら、たくさん点滅しているのがそうだ」
「す、すげえ……」
「いかにもファンタジーなアイテムね」

 地図の上で淡く輝く光を見ていると、ふと一つの光が動いていることに気がついた。

「あの、この光は?」
「そう、それこそがその国のある大陸のダンジョンだ。けど位置は捕らえられても、強力な力で守られていて行くことができない。全くダンジョンメイカーの名折れだよ」

 困ってるんだよね、と肩を竦めるダンジョンメイカーに、二人は改めて移動する光を見る。

「ここに、龍人がいるんだよな」
「ええ、きっと」

 喜びとも、決意とも取れる表情を浮かべる二人。絶対に龍人に会いに行く、その思考だけが頭を埋める。

「……もう一度聞くよ。君たちはたとえどんない辛いことがあっても、彼に会うかい?」

 そんな二人にダンジョンメイカーもふわふわとして雰囲気を消して、真剣な様子で訪ねた。 

「「当然だ(よ)」」

 無論、二人の答えはイエス。予想通りの返答にダンジョンメイカーは再び微笑んだ。

「なら、それは君たちにあげよう」
「いいのか?」
「予備はあるしね。それに実のところ、それは君たちが来た時のために作ったやつだし」
「えええええっ!!?」
「えっ、おい今なんて言った!?」

 さらっとなんでもないようにとんでもないことを言うダンジョンメイカー。二人は首が千切れんばかりの勢いで振り返った。

「うん?だから、それはもともと君たちにあげる用のやつだって」
「ど、どういうこと?」
「因果というのは面白いものでね、少なからず近しいものもそういうことに巻き込まれやすくなる。だから、もしこの世界に君たちが来たら…そんな妄想を抱いて、僕はそれを作った」

 まさかの話に、唖然とするシュウと雫。無理もない、そんなことが起こると思って何かするなど普通は思いつきさえしない。

 だが、そのおかげで自分たちは龍人を探しに行けるのだと思うと、なんとも言えない気持ちになってしまう。

「彼は今も、ずっと苦しんでいる。その苦しみから解放してあげられるのは君たちだけだと、少なくとも僕は確信している」
「「……!」」
「彼が傷ついてしまったのには、僕にも責任があるからね……だから、僕からもお願いだ。どうか、彼の悲しみに寄り添ってあげてほしい」

 ダンジョンメイカーが頭を下げる。それに習うように、白手袋やファンファーレもぺこりと頭?手?を下ろした。

「…まあ、元からそのつもりだからいいけどさ」
「あなたは龍人君によくしてくれたみたいだし。そのお願い、確かに聞いたわ」
「本当かい?てっきり断られるものかと……ん?」

 不意にダンジョンメイカーはどこかを見る。

 つられてそちらを見ると、白手袋がシュウの義手を持ってきていた。のだが、なんだかやけにキラキラしているような…

「お、いいタイミングだ。さあ、そろそろお開きにしようか」

 ダンジョンメイカーが立ち上がり、結構な時間話していたので二人も立ち上がる。

 そのタイミングで白手袋が到着して、シュウに義手を差し出した……が。

「……おい、ダンジョンメイカー」
「何かなシュウ君」
「今俺の目には、とんでもなく改造された義手が映ってるんだが」

義手は、なんと言うか魔改造を施されたいた。

 騎士の甲冑を彷彿とさせるデザインに見事な彫刻、白く輝くそれは果たしてファンタジー金属製か。

 フォルム自体は変わってないものの、原型が全然見当たらない。元の霊木で作られた茶色い義手とは大違いだ。

「うん、いい出来映えだね。やっぱり義手といったらこれくらいかっこよくないと」
「じゃねえよ!なんで無駄にかっこよくなってんだよ!」
「え、だってロマンがあったほうがいいだろう?強そうに見えるし」
「いや確かにそうだけど!こういうのに憧れないっていったら嘘になるけどよ!」

 シュウも男の子である。龍人と二人でRPGゲームの装備集めに奔走したのは懐かしい思い出だ。

 それを間近で見ていた雫は、男の子ってそういうの好きよねという顔をしている。ちなみに彼女が得意なのはシューティングゲームである。

「まあほら、見た目相応の性能ではあるし。僕からのサービスだと思ってくれたまえ」
「意外と気に入ってたのに…」
「あ、なんならそのインテリジェンスウェポンも改造するかい?」
『我に指一本でも触れてみろ、貴様の頭蓋を粉砕するぞ』

 そんなこともありつつ、受け取るものを受け取った二人はダンジョンを後にすることにした。

 ちなみに、義手のつけ心地が結構良かったことにシュウが複雑な顔をしたことをここに記しておく。

「またどこかのダンジョンに来てね。その時は是非楽しんでくれ」
「おう」
「ええ」

   ダンジョンメイカーと白手袋たちに見送られ、二人は花畑の中で輝く魔法陣の上に乗る。

  そうすると、シュウたちは最後にダンジョンメイカーに向き直った。

「色々とありがとう」
「きっと、あいつのことはなんとかしてみせる」
「うん、その調子だ。頼んだよ。では、君達二人の旅路に幸福があらんことを」



   それにニコリと微笑むダンジョンメイカーが不備を鳴らしたのを最後に、二人の視界は真っ白に染まった。



   
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