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3部 感謝の宴

薬屋になった娘

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 ある日、いつものように私はジェットにお野菜と魔力をあげていると、ジェットはキュッ♪と声を出したわ。

可愛いわね。

大きさも両手ではみ出す程の大きさになり、2キロ位にはなったと思う。ジェットは気付けば猫のような耳が付いているし、私のような黒毛玉に似つかわしく無いトカゲのような蛇のような尻尾が小さく生えていた。

これは私の魔力を食べていたせいかしら。そしてこのところ私の魔力も食べるのだけど、野菜や薬草を好んで食べているわ。輝石の影響なのかしら。

そんな事を考えていると、


ー コンコン ー


「はぁい。どなたかしら?」

私はいつものように扉を開けると、そこには10代らしき娘が立っていた。

「ここは魔女様のお家で良かったですか?」

「ええ。そうよ。まぁ、お入りなさい」

私はいつものように娘に椅子に座るよう促す。ジェットは隣の椅子にクッションを置いてあるのでいつのまにか飛び乗り目を瞑っているが、小さな耳はこちらに向けているのでこっそり聞いているみたい。

「それで?私に御用かしら?」

赤い髪をした娘は商人の娘あたりだろうか。平民にしては立派な服だけれど貴族にしては豪華が足りない。

「実は、私の姉なのですが、いつも周りに迷惑ばかりかけていて本当に困っているのです。つい先日も私の婚約者を寝ってしまい、婚約者も美人な姉に好意的で…。」

「ふぅん。小説みたいなお話ね?月並みな事を聞くけれど、親は何と言っているのかしら?」

「両親は、特に反対はしていません。むしろ家にとって私は邪魔者ですから・・・」

 元気もなく、姉に迷惑を掛けられているのは理解したわ。けれど、特に何をして欲しいのか分からないわ。

「両親も反対ではないし、困らないのなら貴女が出て行けば良いんじゃ無いかしら?」

娘は困ったように俯きシクシクと泣き出した。

「でも、私、いく所も無くて、何も出来なくてっ」

「あらあら、仕方ないわねぇ。では、選ばせてあげる。お姉さんを静かにさせる薬を飲ませて大人しくさせるか、貴女が家を出て行くか。私が手に職を付けさせてあげてもいいわ。勿論対価は頂くわよ?」

娘は少し考えていたが、どうやら決めたようだ。

「魔女様、私、家を出ます。だから、ご教授をお願い、したいです」


 そうして急遽、彼女は私の元にしばらく居る事になった。幸い彼女は商会の経理や事務を任されていたようで字は読めるし、器量も悪くはない。

そのままでも他の商会へ働けるだろうが、両親はずっと彼女を召使いのように扱っていたらしく同じ職種で働く事に抵抗はあるようだ。

 私は薬草の知識を彼女に一つ一つ丁寧に教えていく。彼女は真面目に紙に書き取り、一言一句間違えないようにしている。



1年が過ぎる頃にはしっかりと薬に関しての知識は持っているようだ。

「さぁ、魔女から学んだ薬の知識を元に国に戻りなさいな。よく頑張ったわね。送ってあげるわ。」

 そう言って私は人間の姿になると彼女を呼び寄せシャランと錫杖を鳴らす。彼女と共に移動したのは一軒の木屋。その後ろに広がる薬草畑。小屋は少々古く小さな佇まいだが、1人で生活するには充分な程。

「魔女様、ここは?」

「ここは貴女がこれから生活するのよ。小屋も好きなように使いなさいな。ここに定期的に人が来るでしょうから商売をするといいわ。そして、対価の事なのだけれど、10年この薬草畑を維持してちょうだい。薬草は勿論使っても構わないわ。 

たまに私も薬草を採りにくるからね?あと、お客に無料と言ってこれを1本飲ませ頂戴。どうなったか詳しく客の様子を書き取っておいて欲しいの。いいかしら?」

娘は泣きながら答える。

「魔女様、何から何まで有難う御座います。私頑張ります!!」

私は娘を残して家に帰る。

ジェットは私が帰ってくるとすぐに膝の上に飛び乗ってきた。

「ただいま。ジェット。いい子にしていたかしら。今日、あの子は巣立っていったわね。お母様の薬の効果も調べてくれるから助かったわ。」


母にも手紙を出しておかないとね。
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