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私は父にお礼を言ってから自室へと戻った。

とりあえず半年後の婚姻か。マーラの小言を他所にベッドへと寝っ転がる。もう学院はないのでやることがないのよね。来週かぁ。

「マーラ、来週から私は侯爵家へ夫人の勉強で住むことになるんですって。マーラは付いてきてくれる?」

「もちろんですよお嬢様」

 それからマーラは他の侍女達と共に荷造りを終えた。そもそも離婚する前提で嫁ぐのに夫人の勉強なんているのかしら?まぁ、お茶会を開いたり、参加したりと夫人同士の情報交換の場には参加したほうが勉強になるのだろうけれど。

それにしてもリューク様はどうするのかしら?

 侯爵の配慮で私と会わないようにするらしい。リシェ様は聖女。どれだけ愛を語っても王子と結婚か神殿に住むことになるのに。

侯爵家に嫁なんて来ないと思うわ。他の4人も同じ。絶対馬鹿よね。

例え愛し合ったとしても純潔を失ってしまえば聖女では無くなる。

聖女の資格を失って公爵令嬢という肩書きに戻っても純潔を重んじる貴族では不名誉なことこの上ない。令嬢としての生命線も断たれるのよ。既成事実として無理やり婚姻に持ち込んでも聖女失格の称号が付いて回るわ。

 リシェ様自身、将来の事を考えるなら婚約者のいる5人を侍らすのは得策ではないのだけれど、気づいていないのね。美人な聖女様はチヤホヤされるのが嬉しいのね。

確かに見目麗しい男性達が沢山好意を寄せてくれたならドキドキしてしまう気持ちは分かるけれど、この厳しい貴族社会を生き抜くには、ね。


リューク様はその事に気づいてくれるのかしら?

因みに王族は側妃が認められているけれど、貴族は一夫一婦制なの。政略結婚が殆どなので愛妾を持つ人も多いと聞く。離婚は王へ届け出が必要となり、王のさじ加減で離婚しづらいと聞くけれど、両家の当主も離婚してもいいとしているなら多分出来るわ。白い結婚に持ち込んでもいいのだろうけど。




 こうして私は侯爵家へと引っ越しをするまでの間、家族団欒で穏やかな毎日を過ごした。

「お父様、お母様。では行ってまいります。ララもバルトもお父様とお母様のお話をしっかりと聞くのですよ」

「・・・ああ。辛くなったらいつでも帰ってきなさい」

私は家族と抱き合った。執事から声を掛けられ、離れる。涙が出そうになるのをグッと堪えて微笑みながら馬車に乗り込んだ。初めて家族と分かれて住むんだもの。

寂しくてもう涙が出そう。

しっかりしなくちゃね。

これからきっと3年は茨の道が待っているのよね。

 王都を出て進むこと2時間程度かかったかしら。王都から一番近い領とはいえ少し遠い。他の領地になると片道10日もあると聞くわ。王都から近くて良かったなとは思っているの。私は馬車を降りると侯爵家の執事が扉の前に立っていた。

「お待ちしておりました。イーリス様、こちらです」

執事が扉を開け玄関ホールに進むと、そこには侯爵夫妻が立っていた。

「首を長くして待っていたわ。イーリスさんようこそ」

サンドラ夫人は優しく声を掛けてくれる。

「これから結婚式までの間、侯爵家の勉強を頑張りますので宜しくお願いします」

私は早々に夫妻に挨拶した。

「イーリス君、色々とすまんな。こちらこそ宜しく頼むよ」

そして侯爵夫妻の後ろにいた侍女達に軽く挨拶と手土産を渡して部屋へと案内してもらった。やはりリューク様はいらっしゃらなかったのね。一応婚約者ではあるのだけれど。

 私はマーラと部屋に入り、運び込まれる荷物の荷ほどきを手伝っていた。どうやら私の部屋は日当たりの良くて広い部屋を用意してもらったようで有難いわ。問題は夫婦の寝室として使われる部屋なのかどうなのか、よね。

マーラと確認したけれど、お風呂とトイレなどがあり、クローゼットも付いていたけれど隣の部屋と扉で繋がっているということは無かったわ。まだ婚約者だからね。結婚すればどうなるかはわからないけれど、今はしっかりと気を遣われているみたい。



 翌日からは侯爵夫人としての勉強が始まった。と言ってもお茶の勉強やドレスの流行を調べたり、領地の見回り、特産品の開発、領地内の収益の計算など夫人が現在行っている仕事の補佐を徐々にしていくことになった。

もちろん侯爵も領地の仕事をしているのだけれど、王宮勤めもしているので領地関連は夫人が取り仕切っていると言っても過言ではなさそう。

因みにリューク様はというと、騎士団の仕事が忙しく領地の事を今は一切関わっていないみたい。

私は夫人と毎日を忙しく過ごしていた。



 そして4ヶ月を経ったこの日、義母となる夫人と結婚式の準備に追われるように会場の細々とした準備物の手配やドレスの装飾を決めていた。夫人とはこの4ヶ月の間色々な事の話もしたし、とても良い関係になっていると思う。

「イーリスさん、今日はドレスの試着も終わったし偶にはゆっくり休んで頂戴」

「有難うございます。お義母様」

 私はマーラと一緒に部屋へと下がり、午後のひと時を本を読みながら楽しんでいた。すると邸に1台の馬車が停まったみたい。邸の者達が騒がしくしている音が聞こえてきた。

「マーラ、誰か来たのかしら?」

「確認してきます」

マーラがそう言って扉を開けた時、私の視線の先に彼の姿が目に映る。

一瞬私を見るなり彼の目は大きく見開いた。
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