上 下
1 / 16

1 プロローグ

しおりを挟む
今日、学院の卒業式が行われた。

そしてこの後、卒業パーティが行われる。パーティでは新たな門出を祝うための舞踏会のようなものだ。

参加者は勿論卒業生、そしてエスコート役の婚約者や家族が出席を認められている。私は邸に一旦戻って制服からドレスに着替え、玄関ホールで立っていた。

「・・・イーリス。私がエスコートしよう」

「姉さん、僕が行ければ良かったんだけど、まだデビューもしてないし。本当に、あいつは最低だな」

「バルト、いいのよ。お父様行きましょう。お母様行ってまいります」



 私は父と卒業パーティの会場へとやってきた。やはり卒業パーティは皆婚約者と来場している。家族と来ているのはほんのわずかではある。

私は時間までクラスメイトとおしゃべりをしたり、父と話をして過ごしていた。


そしてパーティの開催時間になり、生徒会長から挨拶が行われようとした時、一番最後に入場してきたのはリシェ・ロマーノ公爵令嬢だった。

それを取り囲むように5人のタキシードを着た男達。リシェ様は5人にエスコートされながら入場したのだ。会場が静まり返り、皆リシェ様達に視線を向けている。

 リシェ様は公爵令嬢でありながら昨年神殿のお告げにより聖女の称号を頂いている。そして誰もが息を飲む程の美しさ。

美しい聖女であるリシェ様やいつもリシェ様を取り囲む男子生徒達もリシェ様に劣らず見目麗しく学園で知らぬ者はいないほどの有名人達である。

リシェ様は生徒会長の横に立つと、生徒会長の代わりに挨拶をした。会場は割れんばかりの拍手で埋め尽くされている。

ほんの一部を除いて。

 そして音楽が始まり、リシェ様がファーストダンスを始めようとホールの中央へ1歩踏み出した時、エスコートをしていた5人の男達がリシェ様に跪いている。会場はキャアキャアと黄色い声で盛り上がった。

「・・・イーリス。外へ出るか」

「ええ。お父様」

私は溜息を一つ吐いて会場から出る。私を含む他の数名の生徒とそのエスコートをしていた人も同じ気分だったようだ。

皆暗い顔をして早々に帰宅するようだ。

私は彼女達に挨拶をする。

「みなさま・・・。ごきげんよう」

「イーリス様、ごきげんよう」

彼女達も顔色は悪く、多くは語らない。

そう、挨拶をした彼女達はリシェ様を取り巻く男達の婚約者なのだ。御多分に洩れずその中の1人であるリューク・ランドル侯爵子息、私の婚約者だ。

 目の前で行われた行動にいたたまれず会場を出たのは致し方ない。会場では華やかな音楽が聞こえ始めた。きっと彼らは楽しく踊り過ごしているのだろう。

「・・・お父様、パーティは出席致しました。私達ももう、帰りましょう」

「・・・ああ。そうだな」

私達は無言のまま馬車に乗り、早々に帰宅した。



 自己紹介が遅れました。私の名はイーリス・ブライトン。18歳。趣味は刺繍と園芸ですわ。父はアルヤン・ブライトン。母はヨハンナ、妹はララ16歳。弟はバルト12歳。伯爵家である我が家は中流の中流といった所でしょうか。

そして私の婚約者リューク様。歳は私と同じ18歳。彼はランドル侯爵子息。騎士を目指していて学院では騎士科を専攻し、卒業後は王宮騎士として就職が決まっているらしい。

らしい、というのも私はあまり彼とは接点がないの。

 6歳の時に婚約したのだけれど、彼はずっとリシェ様に一途のようで、私と顔合わせを幼い頃に何度かした程度。学院でもクラスが違ったため会うことは無かった。

 そもそも貴族の婚姻は家の提携事業の一つ位にしか考えられていないので結婚する私達の気持ちなんて汲み取る事はない。それはどの貴族でもほぼ同じではないだろうか。

ランドル侯爵様はリューク様がリシェ様と仲が良く、いつも一緒に居る事を知っているようだ。

 見かねた侯爵夫人が彼に私と交流を持つように言うが効果はないようだった。父にとっても侯爵にとっても深く考える事なく彼のする事は『若気の至りだ。卒業すれば次期侯爵として目が覚めるだろう』と彼にとっては優しい態度をみせていた。

 私の母や弟と妹は私を心配してくれる唯一の味方といってもいい。時代がそうだからと言ってしまえばそれまでかもしれない。貴族達は例え政略結婚であっても婚約者と生涯共に過ごすために最低限の事は婚約者にするのが礼儀であるはずなのだが、彼はお茶会にも来ない。

誕生日プレゼントは勿論の事、手紙もない。2人で舞踏会の参加もしない。ないないずくしでこれまでやってきた。母や夫人、周りの人達は彼の私に対する扱いの酷さに苦言を呈していたが、あまり効果は無い様子。

むしろ彼は婚約破棄をして事業提携も無くしてもいいんじゃないかとさえ考えているのでは?

いくら見目麗しいとはいえ、そんな婚約者を好きになるわけがない。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

婚約者を奪われた伯爵令嬢、そろそろ好きに生きてみようと思います

矢野りと
恋愛
旧題:私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした 理想的な家族と見られているスパンシ―伯爵家。 仲睦まじい両親に優秀な兄、第二王子の婚約者でもある美しい姉、天真爛漫な弟、そして聞き分けの良い子の私。 ある日、姉が第二王子から一方的に婚約解消されてしまう。 そんな姉を周囲の悪意から守るために家族も私の婚約者も動き出す。 だがその代わりに傷つく私を誰も気に留めてくれない…。 だがそんな時一人の青年が声を掛けてくる。 『ねえ君、無理していない?』 その一言が私を救ってくれた。 ※作者の他作品『すべてはあなたの為だった~狂愛~』の登場人物も出ています。 そちらも読んでいただくとより楽しめると思います。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...