上 下
4 / 19

4

しおりを挟む
「アイサ、お茶を淹れて頂戴。疲れたわ」

 私はアイサの淹れたお茶を飲みながら考える。どちらが先に領地に帰る事になるかといえばやはりマイア様よね。

 彼女は国から無理矢理婚約者を取り上げられて嫁がされたんだもの。公爵も王家に対して恨みは深いと思う。

 その点でいえば私は婚約者がいなかったから救いなのかも。特に好きな人も居なかったしね。

アインス王太子に対しても最初からナリスタ様と恋愛病に冒されてこちらを見向きもしなかったせいか『好き、嫌い』もないのよね。面倒事を押し付けやがって位の気持ち。私の離縁はマイア様の後で充分よ。 

……どうだっていいわ。

急がなくてもお父様とこれからは暮らしていけるのだし。

もちろん慰謝料はたんまり貰うことは忘れないわ。そう考えているとマイア様の侍女が部屋へやって来た。

「マイア様からの伝言です。今から中庭で女子会を開催しませんか?との事です」

……ん?

「えっと、マイア様は本当に女子会と仰ったのかしら?」

「はい。その通りで御座います」

侍女は無表情のまま答える。

「分かりました。着替えたらすぐに参りますとお伝えして下さいな」

私は急いでラフな格好で中庭に出るとマイア様は私に気づいて手を振っていた。

「遅くなりましたわ」

「こちらの方こそ急にお誘いしてごめんなさいね」

そう言ってお茶会が和やかに始まる。私はさっき違和感を感じた事を確認するために口にしてみる。

「そういえば、綿菓子頭のヒロインはバッドエンドに進んでしまいましたわね」

マイア様は途端に目を見開き、驚いた様子。

あぁ、彼女も私と同じなのね。

これ以上は王宮の侍女達に聞かれるのはまずいので手紙でやりとりでもしますか。お互い目を合わせて頷き合う。

「マイア様。先程の陛下との謁見で領地に帰っても良いと仰ってましたがいつ頃帰られるつもりですか?」

「そうね、ナリスタ様の処分が決定してからかしら。決定前に帰っても良いのだけれど、見届けるのは側妃としての最後の責任って事で。領地に帰ってからはやりたい事が沢山ありますの。今からワクワクしていますわ」

 マイア様がそう言った時に私も今後のプランを考えてみる。前世の知識が活かせるかも知れないわ。

「確かにそうですわね!私の実家は農家でしたから色々と役に立ちそうです。あぁ、私も早く帰りたくなってきましたわ」

マイア様は私の様子を見てふふふと微笑っている。

「幸いにも私とカーナ様の領地は隣同士、行き来出来そうですわ」

「私、今から楽しみですわ。でも公爵家ともなればすぐ婚約者を充てがわれるのではないですか?」

「婚約破棄に離縁。貰い手はございませんわ。我が家は金銭的にも困ってはいないので後妻にさせるくらいなら領地で好きなように過ごしても良いと言われておりますの。

その点で言うとカーナ様の方が婿を迎えなければいけないのでは?」

「そうですわね。けれど身を削ってまで子孫を望むより、親戚から優秀な子供を跡取りにした方が父も喜びますわ」

2人で楽しく微笑み合いながらこれからの事やたわいのない会話を続けていると侍女や護衛に緊張が走った。

侍女達が向いている方に2人で視線を向けるとアインス様がこちらに向かって歩いて来ている。

どうしたことかしら?

今まで一度たりとも私達のお茶会に顔を出した事がないというのに。マイア様の侍女は急いで席を用意し、アイサがお茶を淹れ直している。

「ごきげんようアインス殿下。どうなさいましたの?」

「君達が楽しそうにお茶をしているのが見えたからね」

「あら、私達よりナリスタ様の所へ行かないといけないのではなくて?」

「これは手厳しい。君達を蔑ろにしていた私のせいだね。ナリスタは、もう牢屋へ入ってしまったよ。ずっと暴れていてね、薬で今は落ち着かせている。

私はマイアにもカーナにも向き合って来なかった。これから少しでも機会を持とうと思ったんだ」

これには私もマイア様も目を瞬いだ。

「アインス様、私達は離縁する身。今更気を使わなくても良いですわ。」

 ふと微笑んでいたアインス様が真顔になった。初めて見るその表情に私達は言葉を継げないでいるとアインス様の口から意外な言葉が聞こえた。

「私はナリスタを愛していないんだ。出会った頃から。」

えっ!?

これには私もマイア様も目を見開き、二の句が継げなかった。

「分からないんだ。ナリスタと出会った時から身体が勝手に動いて喋りたくもないのに勝手に口が動く。長年の婚約者に婚約破棄を伝えたのも本意ではない。

ナリスタと婚姻してから少しずつ動けるようになっていたのだが、ナリスタと目が合うと途端に自由が効かなくなる感じだったんだ。ナリスタが牢に入れられてからは不思議と体の自由が効くようになった。」

それってゲームの強制力的な何かなの!?

乙女ゲームの方だったのかな?私は1人記憶の中のラノベをもう一度検索してみるがヒットはしなかった。


シナリオは終わったという事かしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...