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ツィリル編
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それから何年の月日が過ぎただろうか。
多くの民の支持を集め、ゆるぎない王政を治める事が出来た。
魔法を使える者も増え、魔獣討伐も進み、少しずつだが土地も開拓が進んでいった。
そうして私とフラヴィの間には三人の息子と一人の娘が生まれた。
生まれた子は皆、魔法を使う事が出来た。
私は幼少期より乳母に育てられ、寂しい思いをずっと抱えていたが、子供達には寂しい思いをさせまいと、時間をみては子供やフラヴィと過ごす事を選んだ。
そして王太子となる息子が生まれた五年後、公爵家に一人の男児が生まれた。
その男児は黒髪に黒目と我が国には珍しい色を持っていた。
そのため、公爵家に仕える者達は不気味がった。代々、公爵家では赤い髪に黒の一筋の毛があるため黒髪が生まれても可笑しくはない。
子供の名はブラッドローと名付けられたようだ。
そして従者達が不気味がる理由はただ黒髪に黒目だった事だけではなかったようだ。
彼は生まれてからすぐに自我があるのか赤子のような仕草はあまりしなかったのだとか。
あまりに奇異なため私も彼に興味を持ったが、赤子という事もあり、公爵が私の元へは連れてこず、結局ブラッドローと会ったのは彼が三歳の時だった。
「王国の太陽であらせられるツィリル陛下にお会いできた事を嬉しく思います」
三歳の子が平然と述べた事に驚いた。
「堅苦しいことはよい。ブラッドロー・ホヴィネン公爵子息。お主はとても優秀そうだな」
私がそう言うと、彼は微笑む事無く
「お褒めいただき、有難き幸せ」
と答える。まだ幼いが先日立太子となった息子が答えるようだ。
「ブラッドロー、お主ははっきりとした黒髪に黒目だ。魔法が問題なく使えるだろう。闇だと思うが、残念な事に教師陣に闇魔法を扱う者がおらん。
苦労すると思う。それに闇魔法を嫌う者もおらんとは限らん。早めに婚約者を決めた方がいい。儂から探しておこう」
私は何気ない気遣いのつもりだった。だが、彼にとっては違ったようだ。
「陛下のお心遣い痛み入ります。ですが私はまだ幼い。十九までの間、婚約者は要りません。その年になったら再度お願いに上がります」
「うむ。分かった。ではそうしよう」
これが彼と初めて会った出来事であった。
それから彼は誰に教わる事無く魔力循環や魔法を使いこなしていた。
むしろ私達が知らない魔法を次々と使って見せた。
公爵は神童だと領地の魔獣討伐に連れて歩いた。
彼は成長する度に魔力が増し、誰よりも強い存在だった。それは年老いた私が年甲斐もなく嫉妬するほど。
憧れて夢にまで願っていた魔法使いとは彼の事なのだと思う。
そして成長する度に彼は令嬢達から婚約者になってほしいと言われるが一切見向きもしないのだ。
婚約者を決めない彼に痺れを切らした公爵は将来有望なブラッドローに婚約者を宛がおうとしていたが、彼は『自分にはもう生涯の伴侶がいる』と言って聞かないのだとか。
公爵が決めた婚約者候補者達を拒否しながら時は過ぎていくばかり。
彼はひたすら何処かへ出掛けていたようだ。
ーー 時は過ぎ、彼が十九歳になった時、私の元へ彼はやってきた。
久々の謁見の場にいたのは私と王妃、王太子である息子のイーヴォ、そして宰相。
ブラッドローはホヴィネン公爵と共に姿を現わした。
普段なら特別な用が無い限り、私だけの謁見になるのだが、ブラッドローの異質な部分にフラヴィも興味津々なのだ。
息子も自分の側近にしたいと思っているようで見極めるために参加したいと無理やり入ってきた。
「久しぶりだな、ブラッドロー。公爵が君の婚約者選びに泣いていると聞いておる」
「父上には育てて貰って感謝しかありませんが、こればかりは譲れないのです。陛下、覚えていますか? 三歳の頃の約束を」
真剣な表情でブラッドローは私に聞いてきた。
「ああ、覚えておる。確か、十九歳になったら婚約者を願いに来ると言っておったな」
「えぇ、本来ならこうしてお伺いする間でもないのですが、この国の王である陛下に筋を通しておいた方が良いと思い、そう願ったのです」
彼の含みのある言葉に疑問を持った。
「して、婚約者に決めたのはどこの令嬢なのだ?」
「忘却の塔にいる魔女のラナです」
忘却の、塔……?
多くの民の支持を集め、ゆるぎない王政を治める事が出来た。
魔法を使える者も増え、魔獣討伐も進み、少しずつだが土地も開拓が進んでいった。
そうして私とフラヴィの間には三人の息子と一人の娘が生まれた。
生まれた子は皆、魔法を使う事が出来た。
私は幼少期より乳母に育てられ、寂しい思いをずっと抱えていたが、子供達には寂しい思いをさせまいと、時間をみては子供やフラヴィと過ごす事を選んだ。
そして王太子となる息子が生まれた五年後、公爵家に一人の男児が生まれた。
その男児は黒髪に黒目と我が国には珍しい色を持っていた。
そのため、公爵家に仕える者達は不気味がった。代々、公爵家では赤い髪に黒の一筋の毛があるため黒髪が生まれても可笑しくはない。
子供の名はブラッドローと名付けられたようだ。
そして従者達が不気味がる理由はただ黒髪に黒目だった事だけではなかったようだ。
彼は生まれてからすぐに自我があるのか赤子のような仕草はあまりしなかったのだとか。
あまりに奇異なため私も彼に興味を持ったが、赤子という事もあり、公爵が私の元へは連れてこず、結局ブラッドローと会ったのは彼が三歳の時だった。
「王国の太陽であらせられるツィリル陛下にお会いできた事を嬉しく思います」
三歳の子が平然と述べた事に驚いた。
「堅苦しいことはよい。ブラッドロー・ホヴィネン公爵子息。お主はとても優秀そうだな」
私がそう言うと、彼は微笑む事無く
「お褒めいただき、有難き幸せ」
と答える。まだ幼いが先日立太子となった息子が答えるようだ。
「ブラッドロー、お主ははっきりとした黒髪に黒目だ。魔法が問題なく使えるだろう。闇だと思うが、残念な事に教師陣に闇魔法を扱う者がおらん。
苦労すると思う。それに闇魔法を嫌う者もおらんとは限らん。早めに婚約者を決めた方がいい。儂から探しておこう」
私は何気ない気遣いのつもりだった。だが、彼にとっては違ったようだ。
「陛下のお心遣い痛み入ります。ですが私はまだ幼い。十九までの間、婚約者は要りません。その年になったら再度お願いに上がります」
「うむ。分かった。ではそうしよう」
これが彼と初めて会った出来事であった。
それから彼は誰に教わる事無く魔力循環や魔法を使いこなしていた。
むしろ私達が知らない魔法を次々と使って見せた。
公爵は神童だと領地の魔獣討伐に連れて歩いた。
彼は成長する度に魔力が増し、誰よりも強い存在だった。それは年老いた私が年甲斐もなく嫉妬するほど。
憧れて夢にまで願っていた魔法使いとは彼の事なのだと思う。
そして成長する度に彼は令嬢達から婚約者になってほしいと言われるが一切見向きもしないのだ。
婚約者を決めない彼に痺れを切らした公爵は将来有望なブラッドローに婚約者を宛がおうとしていたが、彼は『自分にはもう生涯の伴侶がいる』と言って聞かないのだとか。
公爵が決めた婚約者候補者達を拒否しながら時は過ぎていくばかり。
彼はひたすら何処かへ出掛けていたようだ。
ーー 時は過ぎ、彼が十九歳になった時、私の元へ彼はやってきた。
久々の謁見の場にいたのは私と王妃、王太子である息子のイーヴォ、そして宰相。
ブラッドローはホヴィネン公爵と共に姿を現わした。
普段なら特別な用が無い限り、私だけの謁見になるのだが、ブラッドローの異質な部分にフラヴィも興味津々なのだ。
息子も自分の側近にしたいと思っているようで見極めるために参加したいと無理やり入ってきた。
「久しぶりだな、ブラッドロー。公爵が君の婚約者選びに泣いていると聞いておる」
「父上には育てて貰って感謝しかありませんが、こればかりは譲れないのです。陛下、覚えていますか? 三歳の頃の約束を」
真剣な表情でブラッドローは私に聞いてきた。
「ああ、覚えておる。確か、十九歳になったら婚約者を願いに来ると言っておったな」
「えぇ、本来ならこうしてお伺いする間でもないのですが、この国の王である陛下に筋を通しておいた方が良いと思い、そう願ったのです」
彼の含みのある言葉に疑問を持った。
「して、婚約者に決めたのはどこの令嬢なのだ?」
「忘却の塔にいる魔女のラナです」
忘却の、塔……?
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