11 / 51
11
しおりを挟む
「アスター・コール様がお待ちです」
「遅くなってしまったわ、急いでいくわっ」
婚約者候補との面会時間ギリギリまで仕事をこなしてしまったわ。従者と共に急いで中庭へと向かった。
「あ、アスター・コール様、お待たせしましたわっ」
彼は騎士礼を執っている。あぁ、そういえば彼は騎士だったわね。私は手を挙げて応え、席に座るように促す。
「アスター様、待たせてしまったかしらっ?」
「いえ、陛下こうして会話を交わすだけで恐悦至極に存じます」
アスター様はとても緊張している様子。カチコチと動きがぎこちない。私にまで緊張が伝わってくる。
「……」
「……」
マズイわ、会話が成り立たない。
そうだわ、この間の騎士団での訓練の話をしてみればいいかしらっ?
「そういえば、この間騎士団に行ったわ。団長から聞いたかしら?あれから騎士達は頑張っているかしら?」
「陛下が騎士達に活を入れて頂けるとは思ってもいませんでした。最近たるんでいたのでいい薬になったと思います」
あの時の話をするとアスター様は少しずつ緊張が解けてきたようだ。普段の騎士達の姿に思うところがあったようで私が現れた事がとても良かったと笑顔で言っている。
「あの場に俺もいればよかった。団長達が倒される程の実力者。クレア陛下の勇姿を是非目に焼き付けて起きたかった」
「あ、あれはたまたまよっ。剣術は苦手なのっ。体力もないし。もうやらないわっ」
勇姿なんて恥ずかしすぎる。しかもグラン様の力であって私じゃないもの。
「そうなのですか?団長達はクレア様が剣を持つ姿に大変好意的で次はいつ対戦していただけるのか、次は自分と剣を交えたいと話しておりましたよ?私も是非一度剣を交えてみたいと思っておりました」
そういうアスター様はキラキラと羨望の眼差しで私を見ている。
クッ、脳筋めっ。
騎士団には脳筋しかいないのかしらっ!?
「私は剣術より魔法が得意なのっ。でも、そうね、騎士達の士気が高まるような訓練をまた考えておくわっ」
「ふふっ。嬉しいです。これは楽しみだ。彼等はきっと泣いて喜ぶと思います」
アスター様は素直にそう思っているようで満面の笑みを浮かべている。きっと部下達はこの微笑みとは対照的に青い顔となる事は間違いないわね。目に浮かぶわ。
「そういえば、アスター様はご令嬢にとても人気だと聞きました。お付き合いされていた方はいるのかしらっ?」
そこは気になる所よね。政略結婚であろうと王配になってすぐに浮気はちょっと……。
その辺はしっかりと聞いておかねば。
「いえ、私は剣の道一筋で過ごしてきたため婚約者はおりましたが、女性の方とお付き合いした事はありません」
「不躾で悪いけれど、婚約者の方は今どうしているのかしら?」
「彼女はもう二児の母親になっています。俺が不器用だったせいで彼女は愛想を尽かして他の人と結婚しました」
彼は少し苦笑しながら答えた。
「……そう。聞いてしまって申し訳なかったわ」
「いえ!とんでもございません。今はこうしてクレア陛下と同じ席に着ける事が嬉しくて仕方がないのですから」
「そう言ってくれると嬉しいわっ」
そこから少し雑談をしてこの日のお茶会は無事に終えることが出来た。
――クレア、疲れただろう。五人と会ってみてどうだった?
グラン様。好みで、というのであればアーサー様の女性に対する扱いに好感が持てました。今日会ったアスター様も実直な方で好感が持てます。ただ、王配と考えると不安は残ります。
――そうだな。次回は中庭でなく、気分を変えて別の場所で会うといいだろう。
そうですね。五人ともどんな人なのかじっくりと見ていきたいと思います。
そうして執務室で脳内会議を行っているうちに大臣達との打合せに入る。
今日は外交官受け入れ後の予算や工事についての話し合いだ。今回の外交官は複数名で我が国を訪れるのだが、各部門の優秀な官僚だと聞いている。治水や貧困対策、道路整備など様々な意見が交わされるのだ。視察も行い忌憚なく意見を述べるだろう。
改善できる箇所は速やかに工事に取り掛かりたいため、予め予算を組んでおきたい。
そうして会議は深夜までかかったが、なんとか纏める事が出来た。
暗闇の中、部屋に魔法で小さな明かりを灯してソファへと身体を預ける。
ようやく今日も終わったわ。
疲れたし風呂に入らず魔法で身体を綺麗にしてそのまま布団へ潜り込む。泥のような眠りにつく。
あぁ、明日はゆっくり起きても問題ないわね。
翌日はいつもより少し遅くに侍女に起こしてもらった。食堂でゆっくりと食事を取った後、侍女に連れられて王宮衣装室へと向かった。年に数える程度しか来ないこの場所。
面倒だなと思っている私の気持ちとは対照的にマヤやデザイナー、針子達はやる気に満ち溢れている。
王族も私だけとなり、彼等も暇を持て余してしまっているのよねきっと。前回選んだデザインのドレスが数点出来上がっていた。私はそれを着て最終調整と装飾品選び。そしてお茶会や婚約者との面会のドレスなども用途ごとに数十着準備されていた。
「ど、どれも素敵ね。流石だわっ。いつも素敵なドレスを有難う」
私は針子達に感謝を伝えると彼等はホッとした表情をした。そして衣装合わせも終わり、ようやく私の休暇となった。逸る気持ちを押さえつつ、部屋に戻るとロダが待っていたわ。
「遅くなってしまったわ、急いでいくわっ」
婚約者候補との面会時間ギリギリまで仕事をこなしてしまったわ。従者と共に急いで中庭へと向かった。
「あ、アスター・コール様、お待たせしましたわっ」
彼は騎士礼を執っている。あぁ、そういえば彼は騎士だったわね。私は手を挙げて応え、席に座るように促す。
「アスター様、待たせてしまったかしらっ?」
「いえ、陛下こうして会話を交わすだけで恐悦至極に存じます」
アスター様はとても緊張している様子。カチコチと動きがぎこちない。私にまで緊張が伝わってくる。
「……」
「……」
マズイわ、会話が成り立たない。
そうだわ、この間の騎士団での訓練の話をしてみればいいかしらっ?
「そういえば、この間騎士団に行ったわ。団長から聞いたかしら?あれから騎士達は頑張っているかしら?」
「陛下が騎士達に活を入れて頂けるとは思ってもいませんでした。最近たるんでいたのでいい薬になったと思います」
あの時の話をするとアスター様は少しずつ緊張が解けてきたようだ。普段の騎士達の姿に思うところがあったようで私が現れた事がとても良かったと笑顔で言っている。
「あの場に俺もいればよかった。団長達が倒される程の実力者。クレア陛下の勇姿を是非目に焼き付けて起きたかった」
「あ、あれはたまたまよっ。剣術は苦手なのっ。体力もないし。もうやらないわっ」
勇姿なんて恥ずかしすぎる。しかもグラン様の力であって私じゃないもの。
「そうなのですか?団長達はクレア様が剣を持つ姿に大変好意的で次はいつ対戦していただけるのか、次は自分と剣を交えたいと話しておりましたよ?私も是非一度剣を交えてみたいと思っておりました」
そういうアスター様はキラキラと羨望の眼差しで私を見ている。
クッ、脳筋めっ。
騎士団には脳筋しかいないのかしらっ!?
「私は剣術より魔法が得意なのっ。でも、そうね、騎士達の士気が高まるような訓練をまた考えておくわっ」
「ふふっ。嬉しいです。これは楽しみだ。彼等はきっと泣いて喜ぶと思います」
アスター様は素直にそう思っているようで満面の笑みを浮かべている。きっと部下達はこの微笑みとは対照的に青い顔となる事は間違いないわね。目に浮かぶわ。
「そういえば、アスター様はご令嬢にとても人気だと聞きました。お付き合いされていた方はいるのかしらっ?」
そこは気になる所よね。政略結婚であろうと王配になってすぐに浮気はちょっと……。
その辺はしっかりと聞いておかねば。
「いえ、私は剣の道一筋で過ごしてきたため婚約者はおりましたが、女性の方とお付き合いした事はありません」
「不躾で悪いけれど、婚約者の方は今どうしているのかしら?」
「彼女はもう二児の母親になっています。俺が不器用だったせいで彼女は愛想を尽かして他の人と結婚しました」
彼は少し苦笑しながら答えた。
「……そう。聞いてしまって申し訳なかったわ」
「いえ!とんでもございません。今はこうしてクレア陛下と同じ席に着ける事が嬉しくて仕方がないのですから」
「そう言ってくれると嬉しいわっ」
そこから少し雑談をしてこの日のお茶会は無事に終えることが出来た。
――クレア、疲れただろう。五人と会ってみてどうだった?
グラン様。好みで、というのであればアーサー様の女性に対する扱いに好感が持てました。今日会ったアスター様も実直な方で好感が持てます。ただ、王配と考えると不安は残ります。
――そうだな。次回は中庭でなく、気分を変えて別の場所で会うといいだろう。
そうですね。五人ともどんな人なのかじっくりと見ていきたいと思います。
そうして執務室で脳内会議を行っているうちに大臣達との打合せに入る。
今日は外交官受け入れ後の予算や工事についての話し合いだ。今回の外交官は複数名で我が国を訪れるのだが、各部門の優秀な官僚だと聞いている。治水や貧困対策、道路整備など様々な意見が交わされるのだ。視察も行い忌憚なく意見を述べるだろう。
改善できる箇所は速やかに工事に取り掛かりたいため、予め予算を組んでおきたい。
そうして会議は深夜までかかったが、なんとか纏める事が出来た。
暗闇の中、部屋に魔法で小さな明かりを灯してソファへと身体を預ける。
ようやく今日も終わったわ。
疲れたし風呂に入らず魔法で身体を綺麗にしてそのまま布団へ潜り込む。泥のような眠りにつく。
あぁ、明日はゆっくり起きても問題ないわね。
翌日はいつもより少し遅くに侍女に起こしてもらった。食堂でゆっくりと食事を取った後、侍女に連れられて王宮衣装室へと向かった。年に数える程度しか来ないこの場所。
面倒だなと思っている私の気持ちとは対照的にマヤやデザイナー、針子達はやる気に満ち溢れている。
王族も私だけとなり、彼等も暇を持て余してしまっているのよねきっと。前回選んだデザインのドレスが数点出来上がっていた。私はそれを着て最終調整と装飾品選び。そしてお茶会や婚約者との面会のドレスなども用途ごとに数十着準備されていた。
「ど、どれも素敵ね。流石だわっ。いつも素敵なドレスを有難う」
私は針子達に感謝を伝えると彼等はホッとした表情をした。そして衣装合わせも終わり、ようやく私の休暇となった。逸る気持ちを押さえつつ、部屋に戻るとロダが待っていたわ。
46
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます
名無しの夜
恋愛
旧題:婚約者の地位? そんなものは天才な妹に譲りますので私は平民として自由に生きていきます
「私、王子との婚約はアリアに譲って平民として生きようと思うんです」
魔法貴族として名高いドロテア家に生まれたドロシーは事あるごとに千年に一度の天才と謳われる妹と比較され続けてきた。
「どうしてお前はこの程度のことも出来ないのだ? 妹を見習え。アリアならこの程度のこと簡単にこなすぞ」
「何故王子である俺の婚約者がお前のような二流の女なのだ? お前ではなく妹のアリアの方が俺の婚約者に相応しい」
権力欲しさに王子と結婚させようとする父や、妹と比較して事あるごとにドロシーを二流女と嘲笑う王子。
努力して、努力して、それでも認められないドロシーは決意する。貴族の地位を捨てて平民として自由に生きて行くことを。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
フランチェスカ王女の婿取り
わらびもち
恋愛
王女フランチェスカは近い将来、臣籍降下し女公爵となることが決まっている。
その婿として選ばれたのがヨーク公爵家子息のセレスタン。だがこの男、よりにもよってフランチェスカの侍女と不貞を働き、結婚後もその関係を続けようとする屑だった。
あることがきっかけでセレスタンの悍ましい計画を知ったフランチェスカは、不出来な婚約者と自分を裏切った侍女に鉄槌を下すべく動き出す……。
転生悪役令嬢の、男装事変 〜宰相補佐官のバディは、商会長で黒魔女です〜
卯崎瑛珠
ファンタジー
第2部連載中です。
※陰謀やバトル、国家間貿易などの商談中心で、恋愛要素皆無です。ご了承ください。
現代日本の商社で働いていた鳥辺アリサ(とりべありさ)は、不運にも海外出張中に交通事故死してしまった。ところが『全能の神ゼー』と名乗る存在によって『愛と太陽の女神テラ』が司る世界へ転生してくれないかと頼まれる。その女神は、『英知と月の女神ナル』にコンプレックスを持っており、自分が統括している世界でナルに似た人間を作っては、とことん過酷な運命に置くことで、留飲を下げるということを繰り返しているという。ゼーはその蛮行を止めようと説得するが、余計に怒り狂ったテラは聞く耳を持たない。そうしていたずらに人間の運命を操作することによって神の力が失われ、世界の維持すら危うくなっているというのだ。テラの目を覚まさせるため、テラの世界で幸せに生きて欲しいと告げてきたゼーに「特別なことはできない」と断るアリサ。ゼーは、幸せに暮らすだけで良いと告げた。それぐらいなら、と引き受けたアリサが転生した先は、なんと没落寸前のトリベール侯爵家。再興させるため、貴族学院に入学したアリサは、聖女が学院の同級生であることを知る。闇の魔力を持つアリサは聖女と比較される黒魔女として、周囲に忌み嫌われる役目らしい。アリサは前世の知識を生かして商会長(女性はなれないので、男装)となって起業し、侯爵家を再興しようと奮闘する。借金を返し、没落寸前の家を救う――奔走するアリサはやがて、次期宰相と噂のロイクと出会う。二十歳の公爵令息で宰相補佐官という地位にあるロイクは、情報を扱う『商会』を使って王国に蔓延する薬物の調査に乗り出した。男装商会長と宰相補佐官の異色のバディ、陰謀に立ち向かう!
-----------------------------
小説家になろう・カクヨムでも掲載しています。
表紙:しろねこ。様(Xアカウント@white_cat_novel)
※無断転載禁止です
魔王様は転生王女を溺愛したい
みおな
恋愛
私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。
私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。
*****
タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。
よろしくお願いします。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる