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「お父様、お呼びでしょうか?」
「あぁ。お前には伝えておかないといけないと思ってな。ラダン副団長を一時的だが第一騎士団へ移動する事が決まった。王族の警護に当たってもらうことになった」

「そうなのですね。とても栄誉な事ですね」
「まぁ、そうだな。今回は人手が足りなくて応援要員として第一に入る事になったのだ。ラダンに会えないとか我儘は言わないようにな?」
「お父様っ。どこまで子供だと思っているのですか。私は行き遅れと言われるほどの勝ち気な女騎士ですよ? そこまで我儘なお子様ではありません」
「そうだな。一応先に声だけかけておきたくてな。急な任務で言えないこともあるからな」
「承知しました」

警護の一時的な増員ということは今度の国王陛下の誕生祭の関係かしら。
陛下と王妃陛下。王太子殿下と第二王子が式典会場に出席されていたけれど、今年から成人なされたエリアーナ王女が式典に参加されるからだろう。

そして私はこの国王陛下の誕生祭を最後に騎士を辞めて本格的に侯爵家に通いながら夫人教育を受ける事になっている。

誕生祭が終わるまではとても忙しいけれど、その後には私達の結婚式が待っている。そう思うだけで幸せに包まれる。



翌日、いつものように第二騎士団の詰所に向かうと団長からみんなにラダン副団長が一時的に第一騎士団へ転属する話があった。もちろん栄誉なことなのでみんなから祝福されていたわ。

「ラダン副団長、おめでとうございます。第一騎士団でも頑張って下さいね」

私は社交辞令の句を述べる様に話をする。もちろん私の胸ポケットには小さな猫が彼を見ている。

「あぁ、シャロアと離れることを思うと寂しいが、義父上と義兄上の元で修行と思って働いてくるよ」
「あー熱い、熱い。さぁ、巡回でもいくかなー」

私達の話に同僚達は笑いながら巡回に行ってしまった。

「私も巡回に行ってきますね」
「あぁ、気を付けて」

同僚といつもより神経を尖らせながら巡回をおこなう。誕生祭間近という事もあり、王宮内は忙しなく人の往来があるからだ。

通行人は不審物を持っていないか、許可のない者が立ち入っていないかなど気を抜くことができない。時間を掛けて巡回をしていく。

「今日の巡回も異常はありませんでした」

私は団長に報告をした後、報告書に記入した。詰所に戻った時にはもうラダン様は居なかったので第一騎士団へ行ってしまったのだろう。
会えなかったことは少し寂しかったけれど、彼にとっては良い事なのだからとそれ以上は考えることはなかった。




私は仕事を減らしているので午後からは侯爵家へと向かった。

「ごきげんよう。グレイス夫人」
「シャロアさん、いらっしゃい。待っていたわ!ドレスの原型が出来上がってきたの。一緒に見てちょうだい」

義母となるグレイス夫人はとても気さくな方で結婚後も仲のいい嫁姑になるのではないかと思っているわ。
グレイス夫人と共にサロンへ入ると、そこには今流行りのドレスを手がけることで有名なマダムジョルジーヌが微笑んでいた。

私は彼女を見るなりすぐに淑女の礼を執る。

「マダムジョルジーヌ、お久しぶりです。まさかマダムが来ていたなんてっ。感無量です」

マダムジョルジーヌは人気のデザイナーで中々彼女に会えないのだ。侯爵家はいつもマダムにドレスを依頼しているようでその伝手で私のウエディングドレスを手がけてもらったの。

「ふふっ、相変わらずシャロア嬢は可愛いわねー。貴女を見ているだけでデザインが次々と浮かんでくるのよ? 毎日お店に顔を出して欲しいくらいだわー」
「そう言っていただけると嬉しくてお友達に自慢してしまいそうです」

「あらー、良いのよ? 一杯宣伝して歩いてちょうだい。でもねー残念ながら普通の令嬢では私の作るドレスを着こなしてくれる人が少ないのよねー。
シャロア嬢はコルセットしなくても良いほどの均整の取れた体つきだものー。グレイス夫人は良いお嫁さんを見つけたわねー」

「ふふっ。息子が人間の、それも女性を連れてきた時には驚いていたけれど、まさかエレゲン伯爵のご息女だと聞いて更に驚いたわ。本当にいい子を連れてきたのよ?」

グレイス夫人もラダン様が女嫌いを知っていたので生涯結婚しないものだと思っていたらしい。マダムは私がさっと別室でドレス着て戻ったのを見ながら軽快に話を続けている。

「この足元のラインはレースを加えた方がいいかしらー。大人っぽさが出るからシャロア嬢の魅力をより引き出せると思うのよねー」

グレイス夫人もニコニコしながらお茶を飲んでいる。するとガチャリと突然扉の開く音がして私達はその方向に視線を向けた。

「シャロア、サロンに居ると聞いて来てみたが、どうやら邪魔をしたようだ」
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