26 / 60
26
しおりを挟む
「お父様、お呼びでしょうか?」
「あぁ。お前には伝えておかないといけないと思ってな。ラダン副団長を一時的だが第一騎士団へ移動する事が決まった。王族の警護に当たってもらうことになった」
「そうなのですね。とても栄誉な事ですね」
「まぁ、そうだな。今回は人手が足りなくて応援要員として第一に入る事になったのだ。ラダンに会えないとか我儘は言わないようにな?」
「お父様っ。どこまで子供だと思っているのですか。私は行き遅れと言われるほどの勝ち気な女騎士ですよ? そこまで我儘なお子様ではありません」
「そうだな。一応先に声だけかけておきたくてな。急な任務で言えないこともあるからな」
「承知しました」
警護の一時的な増員ということは今度の国王陛下の誕生祭の関係かしら。
陛下と王妃陛下。王太子殿下と第二王子が式典会場に出席されていたけれど、今年から成人なされたエリアーナ王女が式典に参加されるからだろう。
そして私はこの国王陛下の誕生祭を最後に騎士を辞めて本格的に侯爵家に通いながら夫人教育を受ける事になっている。
誕生祭が終わるまではとても忙しいけれど、その後には私達の結婚式が待っている。そう思うだけで幸せに包まれる。
翌日、いつものように第二騎士団の詰所に向かうと団長からみんなにラダン副団長が一時的に第一騎士団へ転属する話があった。もちろん栄誉なことなのでみんなから祝福されていたわ。
「ラダン副団長、おめでとうございます。第一騎士団でも頑張って下さいね」
私は社交辞令の句を述べる様に話をする。もちろん私の胸ポケットには小さな猫が彼を見ている。
「あぁ、シャロアと離れることを思うと寂しいが、義父上と義兄上の元で修行と思って働いてくるよ」
「あー熱い、熱い。さぁ、巡回でもいくかなー」
私達の話に同僚達は笑いながら巡回に行ってしまった。
「私も巡回に行ってきますね」
「あぁ、気を付けて」
同僚といつもより神経を尖らせながら巡回をおこなう。誕生祭間近という事もあり、王宮内は忙しなく人の往来があるからだ。
通行人は不審物を持っていないか、許可のない者が立ち入っていないかなど気を抜くことができない。時間を掛けて巡回をしていく。
「今日の巡回も異常はありませんでした」
私は団長に報告をした後、報告書に記入した。詰所に戻った時にはもうラダン様は居なかったので第一騎士団へ行ってしまったのだろう。
会えなかったことは少し寂しかったけれど、彼にとっては良い事なのだからとそれ以上は考えることはなかった。
私は仕事を減らしているので午後からは侯爵家へと向かった。
「ごきげんよう。グレイス夫人」
「シャロアさん、いらっしゃい。待っていたわ!ドレスの原型が出来上がってきたの。一緒に見てちょうだい」
義母となるグレイス夫人はとても気さくな方で結婚後も仲のいい嫁姑になるのではないかと思っているわ。
グレイス夫人と共にサロンへ入ると、そこには今流行りのドレスを手がけることで有名なマダムジョルジーヌが微笑んでいた。
私は彼女を見るなりすぐに淑女の礼を執る。
「マダムジョルジーヌ、お久しぶりです。まさかマダムが来ていたなんてっ。感無量です」
マダムジョルジーヌは人気のデザイナーで中々彼女に会えないのだ。侯爵家はいつもマダムにドレスを依頼しているようでその伝手で私のウエディングドレスを手がけてもらったの。
「ふふっ、相変わらずシャロア嬢は可愛いわねー。貴女を見ているだけでデザインが次々と浮かんでくるのよ? 毎日お店に顔を出して欲しいくらいだわー」
「そう言っていただけると嬉しくてお友達に自慢してしまいそうです」
「あらー、良いのよ? 一杯宣伝して歩いてちょうだい。でもねー残念ながら普通の令嬢では私の作るドレスを着こなしてくれる人が少ないのよねー。
シャロア嬢はコルセットしなくても良いほどの均整の取れた体つきだものー。グレイス夫人は良いお嫁さんを見つけたわねー」
「ふふっ。息子が人間の、それも女性を連れてきた時には驚いていたけれど、まさかエレゲン伯爵のご息女だと聞いて更に驚いたわ。本当にいい子を連れてきたのよ?」
グレイス夫人もラダン様が女嫌いを知っていたので生涯結婚しないものだと思っていたらしい。マダムは私がさっと別室でドレス着て戻ったのを見ながら軽快に話を続けている。
「この足元のラインはレースを加えた方がいいかしらー。大人っぽさが出るからシャロア嬢の魅力をより引き出せると思うのよねー」
グレイス夫人もニコニコしながらお茶を飲んでいる。するとガチャリと突然扉の開く音がして私達はその方向に視線を向けた。
「シャロア、サロンに居ると聞いて来てみたが、どうやら邪魔をしたようだ」
「あぁ。お前には伝えておかないといけないと思ってな。ラダン副団長を一時的だが第一騎士団へ移動する事が決まった。王族の警護に当たってもらうことになった」
「そうなのですね。とても栄誉な事ですね」
「まぁ、そうだな。今回は人手が足りなくて応援要員として第一に入る事になったのだ。ラダンに会えないとか我儘は言わないようにな?」
「お父様っ。どこまで子供だと思っているのですか。私は行き遅れと言われるほどの勝ち気な女騎士ですよ? そこまで我儘なお子様ではありません」
「そうだな。一応先に声だけかけておきたくてな。急な任務で言えないこともあるからな」
「承知しました」
警護の一時的な増員ということは今度の国王陛下の誕生祭の関係かしら。
陛下と王妃陛下。王太子殿下と第二王子が式典会場に出席されていたけれど、今年から成人なされたエリアーナ王女が式典に参加されるからだろう。
そして私はこの国王陛下の誕生祭を最後に騎士を辞めて本格的に侯爵家に通いながら夫人教育を受ける事になっている。
誕生祭が終わるまではとても忙しいけれど、その後には私達の結婚式が待っている。そう思うだけで幸せに包まれる。
翌日、いつものように第二騎士団の詰所に向かうと団長からみんなにラダン副団長が一時的に第一騎士団へ転属する話があった。もちろん栄誉なことなのでみんなから祝福されていたわ。
「ラダン副団長、おめでとうございます。第一騎士団でも頑張って下さいね」
私は社交辞令の句を述べる様に話をする。もちろん私の胸ポケットには小さな猫が彼を見ている。
「あぁ、シャロアと離れることを思うと寂しいが、義父上と義兄上の元で修行と思って働いてくるよ」
「あー熱い、熱い。さぁ、巡回でもいくかなー」
私達の話に同僚達は笑いながら巡回に行ってしまった。
「私も巡回に行ってきますね」
「あぁ、気を付けて」
同僚といつもより神経を尖らせながら巡回をおこなう。誕生祭間近という事もあり、王宮内は忙しなく人の往来があるからだ。
通行人は不審物を持っていないか、許可のない者が立ち入っていないかなど気を抜くことができない。時間を掛けて巡回をしていく。
「今日の巡回も異常はありませんでした」
私は団長に報告をした後、報告書に記入した。詰所に戻った時にはもうラダン様は居なかったので第一騎士団へ行ってしまったのだろう。
会えなかったことは少し寂しかったけれど、彼にとっては良い事なのだからとそれ以上は考えることはなかった。
私は仕事を減らしているので午後からは侯爵家へと向かった。
「ごきげんよう。グレイス夫人」
「シャロアさん、いらっしゃい。待っていたわ!ドレスの原型が出来上がってきたの。一緒に見てちょうだい」
義母となるグレイス夫人はとても気さくな方で結婚後も仲のいい嫁姑になるのではないかと思っているわ。
グレイス夫人と共にサロンへ入ると、そこには今流行りのドレスを手がけることで有名なマダムジョルジーヌが微笑んでいた。
私は彼女を見るなりすぐに淑女の礼を執る。
「マダムジョルジーヌ、お久しぶりです。まさかマダムが来ていたなんてっ。感無量です」
マダムジョルジーヌは人気のデザイナーで中々彼女に会えないのだ。侯爵家はいつもマダムにドレスを依頼しているようでその伝手で私のウエディングドレスを手がけてもらったの。
「ふふっ、相変わらずシャロア嬢は可愛いわねー。貴女を見ているだけでデザインが次々と浮かんでくるのよ? 毎日お店に顔を出して欲しいくらいだわー」
「そう言っていただけると嬉しくてお友達に自慢してしまいそうです」
「あらー、良いのよ? 一杯宣伝して歩いてちょうだい。でもねー残念ながら普通の令嬢では私の作るドレスを着こなしてくれる人が少ないのよねー。
シャロア嬢はコルセットしなくても良いほどの均整の取れた体つきだものー。グレイス夫人は良いお嫁さんを見つけたわねー」
「ふふっ。息子が人間の、それも女性を連れてきた時には驚いていたけれど、まさかエレゲン伯爵のご息女だと聞いて更に驚いたわ。本当にいい子を連れてきたのよ?」
グレイス夫人もラダン様が女嫌いを知っていたので生涯結婚しないものだと思っていたらしい。マダムは私がさっと別室でドレス着て戻ったのを見ながら軽快に話を続けている。
「この足元のラインはレースを加えた方がいいかしらー。大人っぽさが出るからシャロア嬢の魅力をより引き出せると思うのよねー」
グレイス夫人もニコニコしながらお茶を飲んでいる。するとガチャリと突然扉の開く音がして私達はその方向に視線を向けた。
「シャロア、サロンに居ると聞いて来てみたが、どうやら邪魔をしたようだ」
134
お気に入りに追加
976
あなたにおすすめの小説
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる