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執務室へ入ると、そこには子爵と夫人、ダイアンがソファに座っていた。
夫人は既にハンカチを取り出して泣いている。ダイアンはというと、青い顔して私達を見るなりすぐに立ち上がり謝罪した。
「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。先日の舞踏会では体調不良のシャロアを送り届けなかったのは私の落ち度です」
部屋に入っての言葉がそれなのね……。
子爵夫人はそうじゃないでしょう!? と泣きながらダイアンに注意しようとしている。
「エレゲン伯爵様、どうぞお掛け下さい。この度は愚息の行いについて本当に申し訳ありませんでした」
子爵と夫人は立ち上がって深々と謝罪する。
「アルモドバル子爵、顔を上げてくれ。子爵が悪い訳ではないのだから。今日はシャロアとダイアン君の今後についての話し合いに来たのだ。シャロア、お前はどう思っているんだ?」
「はい。以前、私はダイアン様と約束をしました。アンネリア嬢とは二度と会わないと。けれど、約束は破られてしまいました。
先日の舞踏会で二人は中庭で逢瀬を楽しんでおりましたの。
アンネリア嬢を愛していると聞きました。ずっとダイアン様と幸せになることを考えておりましたが、難しく思えてなりません。どうか婚約破棄をお願いします」
するとダイアン様は驚いてがばりと顔を上げ、取り繕うように話を始めた。
「すっ、すまないっ。そんなつもりじゃなかったんだっ」
「ではどんなつもりだったのですか?」
私は冷たい目で彼を見る。
「シャロアの事を一番に考えていたんだ。何度も言うように君の事を愛している。妻になって欲しいと思っている」
「そんな馬鹿な事がまかり通ると思っているのか?」
父は口先だけで娘を馬鹿にしていると怒り心頭だ。この言葉にはさすがのアルモドバル子爵もあきれ顔だった。夫人はずっと泣きっぱなしで言葉はない。
「では子爵様、ダイアンの有責で婚約破棄をお願いします。用意した衣装、折角ですからアンネリア嬢にお譲りしても構わないわ」
「嫌だ! 嫌だ! 君の事が好きなんだっ」
「……ダイアン、もう、よせ。お前が悪い。シャロア嬢はな、噂が出回っていた後もずっとお前の事を信じていたんだ。舞踏会までずっと信じていたいとな。その信用を失わせたのはお前だ。責任を取れ」
彼の父であるアルモドバル子爵に諭され婚約破棄の書類にサインをしたダイアン。
何故彼は君の事が好きだと言ったのかしら? 中庭でアンネリア嬢と話をしていた時にそんな事は一言もなかったのに。
彼は泣きそうな顔をしているけれど、泣きたいのは私。ダイアンの妻として幸せに生涯を添い遂げたいと思っていたのに。
「シャロア! 俺はずっとシャロアの事が好きなんだ。俺達が無理やり引き離されるなんて有り得ない。どうかその書類を破棄してくれ。俺はずっと君と二人で仲睦まじく暮らしていきたい」
彼は何を言っているのだろうか?
「俺は絶対に諦めない。君が俺への信頼が無くなったというのなら明日から毎日君の邸に迎えにいくよ。俺の誠意を見て欲しい。どうか俺との婚姻を諦めないで欲しい」
私はそんなものは要らないと口を開こうとした時、子爵の執事が慌てた様子で声を掛けてきた。
「お取込み中申し訳ありません。子爵様、子爵様とダイアン様にどうしても会いたいと仰る方がお見えになっております」
「ダイアンに? 先触れはないが? 誰だ?」
「アンネリア・ラッスカ男爵令嬢様でございます」
私達はその言葉を聞いて子爵に視線を向ける。
夫人は既にハンカチを取り出して泣いている。ダイアンはというと、青い顔して私達を見るなりすぐに立ち上がり謝罪した。
「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。先日の舞踏会では体調不良のシャロアを送り届けなかったのは私の落ち度です」
部屋に入っての言葉がそれなのね……。
子爵夫人はそうじゃないでしょう!? と泣きながらダイアンに注意しようとしている。
「エレゲン伯爵様、どうぞお掛け下さい。この度は愚息の行いについて本当に申し訳ありませんでした」
子爵と夫人は立ち上がって深々と謝罪する。
「アルモドバル子爵、顔を上げてくれ。子爵が悪い訳ではないのだから。今日はシャロアとダイアン君の今後についての話し合いに来たのだ。シャロア、お前はどう思っているんだ?」
「はい。以前、私はダイアン様と約束をしました。アンネリア嬢とは二度と会わないと。けれど、約束は破られてしまいました。
先日の舞踏会で二人は中庭で逢瀬を楽しんでおりましたの。
アンネリア嬢を愛していると聞きました。ずっとダイアン様と幸せになることを考えておりましたが、難しく思えてなりません。どうか婚約破棄をお願いします」
するとダイアン様は驚いてがばりと顔を上げ、取り繕うように話を始めた。
「すっ、すまないっ。そんなつもりじゃなかったんだっ」
「ではどんなつもりだったのですか?」
私は冷たい目で彼を見る。
「シャロアの事を一番に考えていたんだ。何度も言うように君の事を愛している。妻になって欲しいと思っている」
「そんな馬鹿な事がまかり通ると思っているのか?」
父は口先だけで娘を馬鹿にしていると怒り心頭だ。この言葉にはさすがのアルモドバル子爵もあきれ顔だった。夫人はずっと泣きっぱなしで言葉はない。
「では子爵様、ダイアンの有責で婚約破棄をお願いします。用意した衣装、折角ですからアンネリア嬢にお譲りしても構わないわ」
「嫌だ! 嫌だ! 君の事が好きなんだっ」
「……ダイアン、もう、よせ。お前が悪い。シャロア嬢はな、噂が出回っていた後もずっとお前の事を信じていたんだ。舞踏会までずっと信じていたいとな。その信用を失わせたのはお前だ。責任を取れ」
彼の父であるアルモドバル子爵に諭され婚約破棄の書類にサインをしたダイアン。
何故彼は君の事が好きだと言ったのかしら? 中庭でアンネリア嬢と話をしていた時にそんな事は一言もなかったのに。
彼は泣きそうな顔をしているけれど、泣きたいのは私。ダイアンの妻として幸せに生涯を添い遂げたいと思っていたのに。
「シャロア! 俺はずっとシャロアの事が好きなんだ。俺達が無理やり引き離されるなんて有り得ない。どうかその書類を破棄してくれ。俺はずっと君と二人で仲睦まじく暮らしていきたい」
彼は何を言っているのだろうか?
「俺は絶対に諦めない。君が俺への信頼が無くなったというのなら明日から毎日君の邸に迎えにいくよ。俺の誠意を見て欲しい。どうか俺との婚姻を諦めないで欲しい」
私はそんなものは要らないと口を開こうとした時、子爵の執事が慌てた様子で声を掛けてきた。
「お取込み中申し訳ありません。子爵様、子爵様とダイアン様にどうしても会いたいと仰る方がお見えになっております」
「ダイアンに? 先触れはないが? 誰だ?」
「アンネリア・ラッスカ男爵令嬢様でございます」
私達はその言葉を聞いて子爵に視線を向ける。
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