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泣いていた私の横からそっとハンカチが差し出された事に驚いて涙が止まってしまった。横に居たのはラダン副団長。

いつの間にいたのだろう。

これでも騎士である私は気配に気を付けていた。裏から回り、ダイアン達の話を聞く事も出来たのだが。ダイアン達の話に集中して気づかなかったのかもしれない。

「ラダン副団長、いつからここに?」
「君が中庭で裏手に回った時からだ」

つまり最初から居たのね。全然気づいていなかった。

「とりあえず、ここから移動しよう」

副団長に促されるままその場を離れた私達。私はラダン副団長に手を引かれて舞踏会のバルコニーの一角にやってきた。副団長は騎士服なので巡回の途中だったのだろう。

「ラダン副団長、ご迷惑をおかけしました」
「いや、私こそ突然現れたような形になってしまって申し訳なかった」
「私ったら全然気づかなかった。騎士として失格ですね」
「君は彼等に集中していたし、私も気配を消すのは得意だから気にしなくていい。それより、その、彼等の事はどうするのか?」
「きっとこのまま婚約破棄に、なると思います」
「……そうか。辛かったな。あまり無理はしないように」

ラダン副団長の優しさがグッと涙腺を緩める。

「はい。今日はもうアルモドバル子爵と夫人の元に戻り、挨拶をした後、帰ります。ラダン副団長、有難うございました」
「あぁ、ではまたな」

私はラダン副団長に軽く礼をした後、会場に戻った。

会場は煌びやかで先ほどの事は嘘のように思えてくる。私は壁際を歩きながら子爵達を探すと、子爵と夫人は友人に挨拶しているようだった。

「シャロアちゃんっ、どうしたの?目が真っ赤じゃない。ま、まさか……」

夫人は私の様子に気づいたようで挨拶をそこそこに私の方へと歩いてきた。

「夫人、申し訳ありません」

私の言葉で全てを察したようで夫人の顔色も悪くなる。

「そう、やっぱりあの子は……駄目だったのね」
「どうやらダイアンは私と結婚して彼女を愛人に迎えると友人に伝えていたそうです。でも先程、彼女の言葉に乗せられるように彼女と結婚すると言っていました」
「愛人……」
「夫人、申し訳ありませんが今日はこのまま帰らせてもらってもいいですか?」
「そうねっ。体調を崩して先に帰ったとダイアンに伝えておくわっ」
「シャロア嬢、愚息がすまない。大変だっただろう。早く帰って休みなさい」

私は子爵と夫人に礼をして辻馬車に乗り込み邸に戻った。



邸に戻るとすぐに執事が母に知らせたようだ。母は泣きながら私を抱きしめた後、腰に下げていた剣を抜いてダイアンを叩きのめしてくると言って聞かなかった。

執事と私は慌てて母を全力で止めた。私は思い出しただけでも辛くて母が抱きしめた時に一緒に泣いてしまったけれど、母が剣を取り出して冷静になれたわ。

私が止めなければ必ずヤル。母はそういう人だからね。


その日、父達は仕事で帰って来れなかったためそれ以上の話にはならなかった。
父達が帰宅した後、家族会議が始まり、満場一致で婚約破棄となった。もちろんダイアン有責で。けれど、お互い恋愛で婚約したのだから慰謝料などは殆ど発生しないようだ。

政略結婚で事業提携が絡んでいたのなら慰謝料は莫大な物になっていたのだろう。子爵様達にはいつも良くしてもらっていたから少しホッとする部分でもある。
もちろん慰謝料はダイアン本人に払って貰う事になる。
父からアルモドバル子爵に手紙を送り、話し合いたいと席を設ける事になった。



――話し合いの当日。

私達は仕事を休み子爵の邸に集まる事になっている。兄達は一緒に子爵邸に行きたそうにしていたが仕事のため断念することになった。まさか一家全員で子爵邸に乗り込もうと思っていたのか? というほど家族はヤル気だった。

母も何故か乗馬服に剣を携えて戦闘に挑もうとしているのを執事が青い顔をして止めていたわ。父は母や兄を見て苦笑するしかなかったようだ。父と母と私は馬車に乗り、子爵邸へと向かった。

「ようこそお越しくださいました」

子爵家の執事が緊張した面持ちで私達を子爵の執務室へと案内する。父の威圧に汗を掻いている執事。母は気にする様子はない。
私は執事さんごめんねと心の中で謝っておくことにした。
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