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「相変わらずアイツ酷いな。まぁいい。シャロア嬢、俺と一曲踊って下さい」
「あぁ、踊った方がいい。踊れば言い訳も立つしな」

ダン様が私に手を差し出し、ジュード様が笑ってマクシス様と話をしている。

言い訳が立つとはどういう事かしら?

私はその言葉に違和感を覚えてダン様の手を取り、中央まで移動してダンスを始める。

「ダン様、どういう事なのでしょうか?」
「笑顔で続けるんだ。いいね?」

彼の言葉に小さく頷きダンスを続ける。

「君はアンネリア嬢を知っているかい?」
「えぇ、ダイアンを狙っているという方ですよね」
「あぁ。ダイアンはどうやら彼女を愛人に迎えようとしているようなんだ」
「愛人?」

「君の事を好きで婚約しただろう? でもアンネリア嬢の事をもっと好きになってしまったんだってさ」
「では私との婚約を破棄した上で彼女を子爵夫人にすればいいのに」

「さぁな? 理由は本人に聞いてみるといいんじゃないか? で、俺達はダイアンに頼まれたんだ」
「……何を頼まれたのでしょうか」

「こうして君と踊って時間を作って欲しいとね。アイツ、アンネリア嬢と会うって言ってたぞ? どうせあの女が君に見せつけたいからわざわざそうしているんだろうな」

「そうなんですね。どうして私に教えてくれようと思ったのですか?」
「あぁ、単純に伯爵令嬢の君が可哀想だったというのもあるけど、ダイアンの親友だからだ。
好きになるのは仕方がないが、結婚前からの愛人なんて色々と不安材料でしかないだろう? 俺達は同じような貧乏子爵子息だ。
子爵になった後もこれまで同様に文官として働いていく。下位貴族同士助け合わないといけないから。君には嫌な事を聞かせてしまったね」

ダン様の言うことはもっともだと思う。下位貴族は上位貴族に比べ数は多いし領地も小さい。助け合わなければ災害一つで爵位返上もよくある事だ。醜聞を減らしておきたいのは誰もが思う事。

「このダンスが終われば中庭に行くといい。もう一度彼と話し合ってごらん。君も言いたい事があるんだろう?」
「……教えてくれて有難うございます」

そうしてダン様とのダンスが終わり、エスコートでホールの壁際まで歩いていく。お互い笑顔で挨拶した後、私は中庭を目指すことにした。
事前にアンネリア嬢からも聞いている。ダイアンはアンネリア嬢の事を取るのかしら。

私と結婚して彼女を愛人にしたいと思っているのかしら。

答えを持たない私は鬱々と考えが纏まらずに中庭へとやってきた。


二人はどうやらベンチで話をしている様子。
中庭は夜でとても暗く、松明で所々置かれてある。今見頃の白い花達が二人を包み、愛を囁く恋人達にはとても過ごしやすい。

私は突撃しようかと思ったけれど、ダイアンの気持ちが聞きたいと思い、裏手に回り、木の影にそっと隠れて二人の会話を聞く事にしたの。

「ふふっ。ダイアンたらっ」
「アン、君といる時が一番幸せを感じるよ」
「シャロアさんは? 婚約者なのでしょう?」
「シャロアは婚約者だけど、それだけだよ。愛しているのはアンだけだ」
「嬉しいっ。でも、怖いの……」
「何がだい?」
「私の事を本当に愛しているの?」
「もちろんだよ」

「でも、来月には結婚するのでしょう? 私は捨てられるのよね? それって私を愛していないって事でしょう?」
「そんな事はないよ。アンの事を何よりも一番に考えている」

「なら、証明してほしいわ。私と結婚してほしいの。愛しているんでしょう?
私はダイアンに愛されて誰よりも幸せな花嫁になりたいのっ。ずっとダイアンを側で支えていきたいの。
シャロアさんは騎士でいつも男と一緒でしょう? 私も文官だから貴方の気持ちは分かるわっ」
「分かってくれるのかい? やっぱりアンは僕の女神だ。シャロアはいつも同僚と一緒に歩いて自慢しているんだ。騎士一家で、男勝りで、可愛げもなくて、つまらない。あぁ、今すぐにでも君と結婚したい。君を愛しているよ」

……ショックだった。

彼はそんな事を思っていたのね。

違うのに。信じていたのに。

涙がポロポロと零れていく。

「シャロア、涙を拭くといい」
「!!!!」



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今日と明日は3話更新頑張ります。m(._.)m
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