上 下
14 / 60

14

しおりを挟む
そうして時間になり、アルモドバル子爵邸に今日も馬車で向かう。

「シャロア様、お待ちしておりました。只今ダイアン様はサロンでお茶をしています」

昨日子爵は彼に早く帰ってくるように伝えてはいたはずだけれど、私が来ることは伝えていなかったのかしら? 少し不安になりながら執事の後についていく。
サロンへ近づく度に息が詰まるような感覚になる。

「ダイアン様、シャロア様がお見えです」

執事がそう告げ、私はサロンに入るとダイアンは驚いたような顔をしていた。

「シャロア! どうしたんだい? 急に。びっくりしたよ」
「ふふっ。子爵様から今日ダイアンはすぐに家に帰ると聞いていたので来てみたの」

ダイアンは笑顔になり自分の隣の席を勧めるけれど、私は向かいの席に座った。

「今日はどうしたんだい? 仕事は?」
「仕事はお休みをいただいたの。今日はどうしてもダイアンとお話がしたくて子爵様にダイアンと話が出来るようにお願いしたの」

「シャロア? いつも私達は食堂で会っているじゃないか」
「そうね、食堂では出来ない話をしたいからダイアンに時間を取ってもらったの。最近仕事で忙しいのでしょう?」
「うん、そうだね。忙しくしていて中々休日も取れないかな」

ダイアンは私が疑っていないと信じているのかもしれない。

「ねえ、先日ダイアンの部署に行ったら部署の人が言っていたわ、今は平和で定時に帰れるって。何故ダイアンだけが忙しいのかしら? 私達、婚姻前でしょう?もっと時間が欲しいわ」

私の言葉にダイアンは一瞬戸惑ったような表情を見せるが、その表情を隠すように笑顔を貼り付けた。その表情を見逃さなかった私の心はずんと重くなる。

あぁ、あの話はやっぱり本物だったのかなって。
嘘じゃなかったんだって。

「シャロア、ごめんね。私は今上司から仕事を別件で頼まれていてどうしても忙しいんだ。
でもシャロアにそう言われると悲しくなるよ。私がこんなに仕事を頑張っているのに。君は分かってくれていると思っていたんだけどな」
「……そう、なの?何も知らなくてごめんなさい。でも、私はダイアンを心配しているし、とても大事だと思っているのよ? これから夫婦になるのに色々知りたいわ」
「大丈夫、心配いらないよ。今はちょっと忙しいだけさ」
「無理しないでね。良かったっ。心配していたの」
「何を心配していたのかな?」
「王宮で働く人達が私は捨てられるってみんな言うのよね。そうなの?」
「……どういう事だい?」

今までの笑顔とはガラリと変わり真剣な表情になったダイアン。私はキリキリと痛む心を抑えつけて何も知らないようなフリをして話を続ける。

「ダイアンとアンネリア嬢が仲良くしているって聞いたの。本当の話? 私はダイアンを信じて待っていてもいいの?」
「なんだそんな事か。何にも問題はないし、心配する必要はないよ。シャロアの思い過ごしさっ」

ダイアンは焦っているのか少し早口になっている。知らない人なら気づかないような変化。
でも私には気づく彼の変化。
少し声も高くなっている。緊張しているのかしら。それとも内心焦っているのかしら。

彼を信じていたいのにその小さな変化が私に警告しているような気がする。

「良かった。私の思い過ごしなのね。じゃぁ今度の舞踏会はずっと私と離れずにいてね? 仲睦まじい様子を皆に見せて噂を払拭したいわ」
「あぁ、そうだね。私とシャロアの仲が良いところを見せつけよう」
「嬉しい。……ねぇ、本当にアンネリア嬢とはあれから会っていないの? 私は信じていいの?」
「あぁ、もちろんだ。約束しただろう?」

「そうね。疑ってごめんなさい」
「結婚前に気分が落ち込む事はよくある事だっていうし、仕方がないさ」
「結婚式が待ち遠しいわ」
「そうだね。楽しみだ」

ダイアンはそう言って笑っていた。

この話はサロンでしているのでもちろん子爵邸の執事も聞いているし、私の侍女も聞いている。何かあった時に証言してくれると思う。

何もなければいい、ただの思い過ごしだと願う気持ち。

それからダイアンと結婚式の話をした後、私は家に戻った。もちろん家族には先ほどの出来事を細かく話をしてある。

母は扇子を握りしめて折ってしまったが今週の舞踏会で今後を決めたいという私の希望を聞いてくれた。父も母も静観する事に決めたようだ。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』  王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...