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そうして時間になり、アルモドバル子爵邸に今日も馬車で向かう。
「シャロア様、お待ちしておりました。只今ダイアン様はサロンでお茶をしています」
昨日子爵は彼に早く帰ってくるように伝えてはいたはずだけれど、私が来ることは伝えていなかったのかしら? 少し不安になりながら執事の後についていく。
サロンへ近づく度に息が詰まるような感覚になる。
「ダイアン様、シャロア様がお見えです」
執事がそう告げ、私はサロンに入るとダイアンは驚いたような顔をしていた。
「シャロア! どうしたんだい? 急に。びっくりしたよ」
「ふふっ。子爵様から今日ダイアンはすぐに家に帰ると聞いていたので来てみたの」
ダイアンは笑顔になり自分の隣の席を勧めるけれど、私は向かいの席に座った。
「今日はどうしたんだい? 仕事は?」
「仕事はお休みをいただいたの。今日はどうしてもダイアンとお話がしたくて子爵様にダイアンと話が出来るようにお願いしたの」
「シャロア? いつも私達は食堂で会っているじゃないか」
「そうね、食堂では出来ない話をしたいからダイアンに時間を取ってもらったの。最近仕事で忙しいのでしょう?」
「うん、そうだね。忙しくしていて中々休日も取れないかな」
ダイアンは私が疑っていないと信じているのかもしれない。
「ねえ、先日ダイアンの部署に行ったら部署の人が言っていたわ、今は平和で定時に帰れるって。何故ダイアンだけが忙しいのかしら? 私達、婚姻前でしょう?もっと時間が欲しいわ」
私の言葉にダイアンは一瞬戸惑ったような表情を見せるが、その表情を隠すように笑顔を貼り付けた。その表情を見逃さなかった私の心はずんと重くなる。
あぁ、あの話はやっぱり本物だったのかなって。
嘘じゃなかったんだって。
「シャロア、ごめんね。私は今上司から仕事を別件で頼まれていてどうしても忙しいんだ。
でもシャロアにそう言われると悲しくなるよ。私がこんなに仕事を頑張っているのに。君は分かってくれていると思っていたんだけどな」
「……そう、なの?何も知らなくてごめんなさい。でも、私はダイアンを心配しているし、とても大事だと思っているのよ? これから夫婦になるのに色々知りたいわ」
「大丈夫、心配いらないよ。今はちょっと忙しいだけさ」
「無理しないでね。良かったっ。心配していたの」
「何を心配していたのかな?」
「王宮で働く人達が私は捨てられるってみんな言うのよね。そうなの?」
「……どういう事だい?」
今までの笑顔とはガラリと変わり真剣な表情になったダイアン。私はキリキリと痛む心を抑えつけて何も知らないようなフリをして話を続ける。
「ダイアンとアンネリア嬢が仲良くしているって聞いたの。本当の話? 私はダイアンを信じて待っていてもいいの?」
「なんだそんな事か。何にも問題はないし、心配する必要はないよ。シャロアの思い過ごしさっ」
ダイアンは焦っているのか少し早口になっている。知らない人なら気づかないような変化。
でも私には気づく彼の変化。
少し声も高くなっている。緊張しているのかしら。それとも内心焦っているのかしら。
彼を信じていたいのにその小さな変化が私に警告しているような気がする。
「良かった。私の思い過ごしなのね。じゃぁ今度の舞踏会はずっと私と離れずにいてね? 仲睦まじい様子を皆に見せて噂を払拭したいわ」
「あぁ、そうだね。私とシャロアの仲が良いところを見せつけよう」
「嬉しい。……ねぇ、本当にアンネリア嬢とはあれから会っていないの? 私は信じていいの?」
「あぁ、もちろんだ。約束しただろう?」
「そうね。疑ってごめんなさい」
「結婚前に気分が落ち込む事はよくある事だっていうし、仕方がないさ」
「結婚式が待ち遠しいわ」
「そうだね。楽しみだ」
ダイアンはそう言って笑っていた。
この話はサロンでしているのでもちろん子爵邸の執事も聞いているし、私の侍女も聞いている。何かあった時に証言してくれると思う。
何もなければいい、ただの思い過ごしだと願う気持ち。
それからダイアンと結婚式の話をした後、私は家に戻った。もちろん家族には先ほどの出来事を細かく話をしてある。
母は扇子を握りしめて折ってしまったが今週の舞踏会で今後を決めたいという私の希望を聞いてくれた。父も母も静観する事に決めたようだ。
「シャロア様、お待ちしておりました。只今ダイアン様はサロンでお茶をしています」
昨日子爵は彼に早く帰ってくるように伝えてはいたはずだけれど、私が来ることは伝えていなかったのかしら? 少し不安になりながら執事の後についていく。
サロンへ近づく度に息が詰まるような感覚になる。
「ダイアン様、シャロア様がお見えです」
執事がそう告げ、私はサロンに入るとダイアンは驚いたような顔をしていた。
「シャロア! どうしたんだい? 急に。びっくりしたよ」
「ふふっ。子爵様から今日ダイアンはすぐに家に帰ると聞いていたので来てみたの」
ダイアンは笑顔になり自分の隣の席を勧めるけれど、私は向かいの席に座った。
「今日はどうしたんだい? 仕事は?」
「仕事はお休みをいただいたの。今日はどうしてもダイアンとお話がしたくて子爵様にダイアンと話が出来るようにお願いしたの」
「シャロア? いつも私達は食堂で会っているじゃないか」
「そうね、食堂では出来ない話をしたいからダイアンに時間を取ってもらったの。最近仕事で忙しいのでしょう?」
「うん、そうだね。忙しくしていて中々休日も取れないかな」
ダイアンは私が疑っていないと信じているのかもしれない。
「ねえ、先日ダイアンの部署に行ったら部署の人が言っていたわ、今は平和で定時に帰れるって。何故ダイアンだけが忙しいのかしら? 私達、婚姻前でしょう?もっと時間が欲しいわ」
私の言葉にダイアンは一瞬戸惑ったような表情を見せるが、その表情を隠すように笑顔を貼り付けた。その表情を見逃さなかった私の心はずんと重くなる。
あぁ、あの話はやっぱり本物だったのかなって。
嘘じゃなかったんだって。
「シャロア、ごめんね。私は今上司から仕事を別件で頼まれていてどうしても忙しいんだ。
でもシャロアにそう言われると悲しくなるよ。私がこんなに仕事を頑張っているのに。君は分かってくれていると思っていたんだけどな」
「……そう、なの?何も知らなくてごめんなさい。でも、私はダイアンを心配しているし、とても大事だと思っているのよ? これから夫婦になるのに色々知りたいわ」
「大丈夫、心配いらないよ。今はちょっと忙しいだけさ」
「無理しないでね。良かったっ。心配していたの」
「何を心配していたのかな?」
「王宮で働く人達が私は捨てられるってみんな言うのよね。そうなの?」
「……どういう事だい?」
今までの笑顔とはガラリと変わり真剣な表情になったダイアン。私はキリキリと痛む心を抑えつけて何も知らないようなフリをして話を続ける。
「ダイアンとアンネリア嬢が仲良くしているって聞いたの。本当の話? 私はダイアンを信じて待っていてもいいの?」
「なんだそんな事か。何にも問題はないし、心配する必要はないよ。シャロアの思い過ごしさっ」
ダイアンは焦っているのか少し早口になっている。知らない人なら気づかないような変化。
でも私には気づく彼の変化。
少し声も高くなっている。緊張しているのかしら。それとも内心焦っているのかしら。
彼を信じていたいのにその小さな変化が私に警告しているような気がする。
「良かった。私の思い過ごしなのね。じゃぁ今度の舞踏会はずっと私と離れずにいてね? 仲睦まじい様子を皆に見せて噂を払拭したいわ」
「あぁ、そうだね。私とシャロアの仲が良いところを見せつけよう」
「嬉しい。……ねぇ、本当にアンネリア嬢とはあれから会っていないの? 私は信じていいの?」
「あぁ、もちろんだ。約束しただろう?」
「そうね。疑ってごめんなさい」
「結婚前に気分が落ち込む事はよくある事だっていうし、仕方がないさ」
「結婚式が待ち遠しいわ」
「そうだね。楽しみだ」
ダイアンはそう言って笑っていた。
この話はサロンでしているのでもちろん子爵邸の執事も聞いているし、私の侍女も聞いている。何かあった時に証言してくれると思う。
何もなければいい、ただの思い過ごしだと願う気持ち。
それからダイアンと結婚式の話をした後、私は家に戻った。もちろん家族には先ほどの出来事を細かく話をしてある。
母は扇子を握りしめて折ってしまったが今週の舞踏会で今後を決めたいという私の希望を聞いてくれた。父も母も静観する事に決めたようだ。
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