16 / 35
16
しおりを挟む
「エーゼット、酷いわ! そんなのあんまりじゃない! ラジーノ達だって頑張っているじゃない」
アンバー妃が涙目で訴えかける。まるで悲劇のヒロインになったような感じね。私は呆れた様子で成り行きを見守る。
「そうか、頑張ってその程度だったか。儂も凡庸だったから王族で唯一生き残ることが出来た。
だが、凡庸は凡庸なりに動かねばならん。足を掬われぬようにせねばならん。
今のラジーノやゼノでは敵を作りすぎる。それが分からぬのなら廃嫡も厭わない。
お前たち、そのつもりで明日から学べ。良いな?」
陛下が、普段なら絶対言わないことを言っているわ。
二人の言動を見て多少なりとも思うところがあったのかしら?
だがもうどうでもいい事だ。
「では陛下、私は準備がありますので下がります」
「……あぁ。リヴィア。すまない」
「いえ、別に。いつものことですから」
「……」
私はいつものように礼を執った後、部屋を後にした。部屋に戻ってから一気に脱力する。
「モニカ、やはり私の家族はモニカたちだけね」
「……リヴィア様。今日はゆっくり休みましょう? 料理長がリヴィア様のために特別に入手したシューンエイゼット国のお茶を淹れますね」
「ティポー、いつ私はこの国を発つのかしら?」
「後で聞いて参ります」
私がお茶を飲んでいる間にティポーが戻ってきた。
「リヴィア様、二週間後にはカインディール国へ向かうようです」
「……そう。今更だけれど、ティポーは好きな人はいないの?」
「俺はいないですよ。我が家はリヴィア様に付いていくと決めております」
「迷惑をかけるわね」
「迷惑だなんて。主人がいる者は生涯王都から他の街に旅行に行くことなど無いに等しいのです。給料がない家も多い。
その点俺達家族は給料はしっかり貰えるし、服も支給され、食事も三食きっちりと食べられる。
それがどれだけ恵まれていることか。リヴィア様が嫌だと言うまで俺達はリヴィア様にしがみついてでも付いていきますからね」
「ふふっ。そう言ってくれるのはダリアの家族ぐらいよ。他の使用人達も優しいけれどね」
ティポーの言葉に少し笑顔を見せるけど、今後のことを考えるだけで内心は心が冷え固まり、ずしりと重くて何も考えたくない。
血の繋がった彼らは私を駒の一つでしかないと以前から思っているだろうし、今も思っているだろう。
それでも、心の奥深くで『私は牛と一緒に二束三文で売られたも同然なのか』と思うと辛い。一生懸命努力しても思い通りにはならない。どれだけ苦しくても悲しくても叶わぬことばかり。
辛いと声をあげたら何かが変わったのかしら……。
涙が出てくるのを必死に堪えた。とうとうこの国からも私は捨てられてしまったのだと感じた。
ドルク様の評判はこちらの国にも流れてくる。政略結婚し、王子妃として嫁いだシャーロット様の他に愛妾が数多くいると。
カインディール国に売られたということは私の地位はきっと低い。
側妃とはいえ、数多くいるという愛妾よりも扱いは酷いかもしれない。
王太子には子供もいる。
つまり、私が第二王子の側妃として嫁ぐ意味はない。子を産むために迎えられるのであればまだ自分でも納得できたのかもしれない。
子も望まれない。属国から王女を差し出すことで恭順の意を示すだけのもので送り出されるのだから私の将来は目に見えて暗いもの。
私が生きている意味はあるのかしら。
考える度に重い溜息が出てしまう。
隣国へ発つまでの二週間は部屋から一切出ることなく過ごした。
食欲もない。
何をする気力も無くなっていくのを感じる。
もう、どうでもいい。
辛うじてモニカが持ってきてくれる食事に少し口を付けるだけ。私の様子を心配して夜はダリアが付き添ってくれるようになった。
夜中にうなされて何度も起きてしまうからだ。
その度にダリアが頭を撫でて『大丈夫、大丈夫ですよ』と声をかけてくれていた。私はなんて弱い存在なの。
……無理よ、私がいくら頑張っても何も出来ない。
ずっとそうだった。期待されても応えることが出来ない。無力な存在でしかないの。
みんなが私に期待して失望して去っていくのが分かる。
泣いて騒いでも私のことなど誰も気に止めない。
アンバー妃が涙目で訴えかける。まるで悲劇のヒロインになったような感じね。私は呆れた様子で成り行きを見守る。
「そうか、頑張ってその程度だったか。儂も凡庸だったから王族で唯一生き残ることが出来た。
だが、凡庸は凡庸なりに動かねばならん。足を掬われぬようにせねばならん。
今のラジーノやゼノでは敵を作りすぎる。それが分からぬのなら廃嫡も厭わない。
お前たち、そのつもりで明日から学べ。良いな?」
陛下が、普段なら絶対言わないことを言っているわ。
二人の言動を見て多少なりとも思うところがあったのかしら?
だがもうどうでもいい事だ。
「では陛下、私は準備がありますので下がります」
「……あぁ。リヴィア。すまない」
「いえ、別に。いつものことですから」
「……」
私はいつものように礼を執った後、部屋を後にした。部屋に戻ってから一気に脱力する。
「モニカ、やはり私の家族はモニカたちだけね」
「……リヴィア様。今日はゆっくり休みましょう? 料理長がリヴィア様のために特別に入手したシューンエイゼット国のお茶を淹れますね」
「ティポー、いつ私はこの国を発つのかしら?」
「後で聞いて参ります」
私がお茶を飲んでいる間にティポーが戻ってきた。
「リヴィア様、二週間後にはカインディール国へ向かうようです」
「……そう。今更だけれど、ティポーは好きな人はいないの?」
「俺はいないですよ。我が家はリヴィア様に付いていくと決めております」
「迷惑をかけるわね」
「迷惑だなんて。主人がいる者は生涯王都から他の街に旅行に行くことなど無いに等しいのです。給料がない家も多い。
その点俺達家族は給料はしっかり貰えるし、服も支給され、食事も三食きっちりと食べられる。
それがどれだけ恵まれていることか。リヴィア様が嫌だと言うまで俺達はリヴィア様にしがみついてでも付いていきますからね」
「ふふっ。そう言ってくれるのはダリアの家族ぐらいよ。他の使用人達も優しいけれどね」
ティポーの言葉に少し笑顔を見せるけど、今後のことを考えるだけで内心は心が冷え固まり、ずしりと重くて何も考えたくない。
血の繋がった彼らは私を駒の一つでしかないと以前から思っているだろうし、今も思っているだろう。
それでも、心の奥深くで『私は牛と一緒に二束三文で売られたも同然なのか』と思うと辛い。一生懸命努力しても思い通りにはならない。どれだけ苦しくても悲しくても叶わぬことばかり。
辛いと声をあげたら何かが変わったのかしら……。
涙が出てくるのを必死に堪えた。とうとうこの国からも私は捨てられてしまったのだと感じた。
ドルク様の評判はこちらの国にも流れてくる。政略結婚し、王子妃として嫁いだシャーロット様の他に愛妾が数多くいると。
カインディール国に売られたということは私の地位はきっと低い。
側妃とはいえ、数多くいるという愛妾よりも扱いは酷いかもしれない。
王太子には子供もいる。
つまり、私が第二王子の側妃として嫁ぐ意味はない。子を産むために迎えられるのであればまだ自分でも納得できたのかもしれない。
子も望まれない。属国から王女を差し出すことで恭順の意を示すだけのもので送り出されるのだから私の将来は目に見えて暗いもの。
私が生きている意味はあるのかしら。
考える度に重い溜息が出てしまう。
隣国へ発つまでの二週間は部屋から一切出ることなく過ごした。
食欲もない。
何をする気力も無くなっていくのを感じる。
もう、どうでもいい。
辛うじてモニカが持ってきてくれる食事に少し口を付けるだけ。私の様子を心配して夜はダリアが付き添ってくれるようになった。
夜中にうなされて何度も起きてしまうからだ。
その度にダリアが頭を撫でて『大丈夫、大丈夫ですよ』と声をかけてくれていた。私はなんて弱い存在なの。
……無理よ、私がいくら頑張っても何も出来ない。
ずっとそうだった。期待されても応えることが出来ない。無力な存在でしかないの。
みんなが私に期待して失望して去っていくのが分かる。
泣いて騒いでも私のことなど誰も気に止めない。
859
お気に入りに追加
1,902
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】潔く私を忘れてください旦那様
なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった
君を選んだ事が間違いだ」
子を産めない
お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない
私を「愛している」と言った口で
別れを告げた
私を抱きしめた両手で
突き放した彼を忘れるはずがない……
1年の月日が経ち
ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客
私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは
謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。
「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」
そんな事を言われて……私は思う
貴方に返す返事はただ一つだと。
終わっていた恋、始まっていた愛
しゃーりん
恋愛
結婚を三か月後に控えた侯爵令嬢ソフィアナは、婚約者である第三王子ディオンに結婚できなくなったと告げられた。二つ離れた国の王女に結婚を申し込まれており、国交を考えると受けざるを得ないということだった。ディオンはソフィアナだけを愛すると言い、ソフィアナを抱いた後、国を去った。
やがて妊娠したソフィアナは体面を保つために父の秘書であるルキウスを形だけの夫として結婚した。
それから三年、ディオンが一時帰国すると聞き、ディオンがいなくても幸せに暮らしていることを裏切りではないかと感じたが思い違いをしていたというお話です。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる