最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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5章

162話 決戦開始

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「厭戦ムードにならないのよねえ、ゲームの対人って」
「どういう事だ」
「あんまりにも戦争が長引くと『もう、戦争いいんじゃね?』ってなるんだけど、ゲームだとアドレナリン出っぱなしな所もあるから、システム的に決着が付かないと、ずーっと戦闘が続くのよね」
「つまり?」
「戦ってるのも疲れてきたって事」

 新しい葉巻に火を付けて一服しつつインベントリを確認。
 ポーションストックも無くなってきたし、何だかんだでアイテムも無くなってるのに残りの数百人相手にしなきゃならんのは厳しい。
 何だったら葉巻無くなるし。

「炎上使って逃げて、危険エリアぎりぎりの所で一服するくらいには余裕あるんじゃないのか」
「ないない、あったらもっと前出てるし?無限銃弾とかあったらあの一団全員倒す余裕はあるけど、そういうのもできんし」
「状況は現実的だな」
「戦場のコントロール自体は結構してんのよ、アイテムがんがん使って全体の消耗させて、私達の方にヘイト向けさせたり、色々仕掛けて仕込んでるけどさあ」
『もうちょいでそっちいけるー、すっげー、敵視されてるんだけど、また余計な事したでしょ!』
『ちょっと燃やして爆破したくらいだから、そうでもないっての』

 そうそう、ちょっと燃やして爆破したくらいでちょっと敵視しすぎなんだよ。もっと派手に魔法とスキルをぶっ放してる奴もいるってのになあ。
 
「でもまあ、そろそろ終わりよ、色んな所で目立ったし、当初の目的は殆ど達成してるからあとは惰性でもいいんだけど」
「けど?」
「ここまでやったらもっと目立って勝ちに行きたいでしょ」

 まだ持ってる酒瓶出せと手を出して、一本受け取り、一気飲み。
 別にバフが掛かる訳でもなければ満腹度とかも回復するわけもなく、本当に単純な嗜好品。がちがちにアイテム揃えるべきなのにこういう物を持ってくるから、甘いって言われるんだよな。

「それは賛成かなぁ」
「良く突破出来たわね」
「もうポーションすっからかんだし、ちょー疲れたってのぉー!」
「とりあず100ポやるわ……マイカ1人回収するのに厳しすぎたけど、これで最終決戦はいけそうね」
「中央の犬紳士のクランか」
「あそこ強いねぇ、かなり場慣れしてるし、対人の立ち回りも悪くなかったし、残るはあいつらだと思うよ?」
「その辺の予想に関しては私も異論はないね、西側のチェルと鍛冶クランがあのまま中央に寄ってるし、北東側のも、あそこ同士でやりあいながら中央でしょ?南側の動きは分からないけど、4クラン合同でがんがん戦闘して疲弊した所で犬野郎の所がぶつかって、すり減って片付くって所かしらねぇ」

 動きの分からない南にいるクランの連中がどう動いてくるのかって話にもなるのだが、多分だが先に犬野郎の連中がぶつかり合って、4クラン合同戦闘になる前にある程度安定させてから大きく当たるだろう。
 じゃないとわざわざ中央に先に陣取って南に移動した理由が分からん。

「それじゃあ、最終決戦の地点に近づこうか」
「本当は飽きて来てるんだろ」
「よく分かってんじゃない、もうさっさとケリ付けてやりたい事やろうや」
「アカメちゃんと十兵衛ちゃん、やっぱりちょっとおかしいよね」
「お前には言われたくない」

 二人揃ってマイカに言い放ちながら最後の移動を開始する。





 
 案の定だが、犬野郎のクラン、大分強いわ。
 まず統率が取れているし、臨機応変に戦える実力ってのが個々にある。大まかな作戦方針が決まっているからこその動き方か。マニュアルしっかり作ってそれで対応って感じだろうな。
 南と北で挟み撃ちだったような気もしたのだが、しっかり先に南側を潰したうえで北での対応をしていたって事だろうな。
 チェルと鍛冶クランの連中を少し削りすぎた感じもあるが、流石に北東、北西側から4クランぶつければそれなりな被害が出るだろう。

「あの犬のクラン相当強いけど、勝てる見込みあるの?」
「見た限りでは前線組プレイヤーってのも頷けるな」
「それを倒すってんだから気合入れなさいよ」

 双眼鏡を使うまでもない距離でちらちらと自分たちから南側にいる犬野郎のクランを確認しつつ、作戦会議。
 
「これで最後だろうからアイテムは出し惜しみなく、マイカはひたすら暴れて倒すってのをメインに、十兵衛の方もとにかくアイテム投げ込んで火炎瓶や爆弾で削って、マイカと挟撃」
「で、うちのボスは?」
「そのタイミングを見てから北側から銃撃しながら押し込むわ、不意打ち範囲攻撃と状態異常で半分くらい削れてたら1発で落とせるだろうし、炎上が広がれば広がるほど、私達が有利になるしな」

 今回の戦い方と言うか、作戦方針としては3方向からの不意打ち強襲で混乱してる所にガンガン攻めて削って押し込む形になる。

「このまま押し込み続けて南側のエリア外ダメージと狙えそうだよねぇ」
「流石にそこまでいったら上出来過ぎるだろうけどな」
「ま、そこまでやれれば御の字よ」

 マップを一緒に確認して、ピンを打ちながら作戦相談を暫く隠れながらやるが、その間にも犬野郎の所では喧騒が響き、戦闘が続いているのが分かる。
 あまり時間を掛け過ぎると戦闘が終わった後に立て直す可能性があるから気を付けないといけないが、スピード勝負だよな、そこは。

「まあ、どっちにしろこのイベント中じゃ最後に会う機会よ、後は状況見て戦えばいいわ」
「じゃ、あたしもいーこ、おっとぉ」
「儂も行くか」

 二人揃っていつものように手をぷらつかせてから左右に分かれて薄い包囲網を敷きに行く。
 市街地廃墟あり、立ち回り次第で、いい線までは行くだろ。
 まあ可能な限り勝ちたいとは思う訳だが。

「んじゃ、ま、私も位置に付くか」

 犬野郎のクランの北側にウサ銃を構えながら葉巻を咥えて火を付け一服。
 直ぐに行動が起きるわけがないのでしばらくは此処で待つしかない。

 久々にゆっくりと葉巻を吸いながらウサ銃を杖代わりにしつつ、紫煙を大きめに吐き出す。

「しっかりボーナスを与えるってのもボスの役目よね」
 
 ざっと概算しただけでも40万くらいは使う事になるんだろうな。うん、やっぱり農業クランに暫く籠りきりにならないと駄目だな、良い値段の物要求しやがって。

 それにしてもこれほど信用した味方ってのも対人ゲームで久々にあった気がする。基本的にどいつもこいつも使えないとか役立たず前提で考えて、私が何でもやろうと思っていたのだからこれ程楽になるとは思わなかったよ。

『もし回復してるとか立て直してるようならすぐに仕掛けていいわ』
『わかっとるわ』
『そーだそーだ』
 
 頼りになるわ、本当に。

 そうしてマップを確認しつつ暫く待ち、火を付けた葉巻を吸い切ってからぷっと吐き捨てると共に火の手が大きく上がる。
 1本だけ渡していたパイプ爆弾を合図にするとは、やっぱり賢いな。ボーナスに色付けておいてやろう。

「さて、と……こっちもこっちで動くとするか」

 杖の様に立てていたウサ銃を構えつつ、火炎瓶の燃え盛る音、パイプ爆弾で発生した土煙を遠巻きに眺めながら交戦距離にまで近づいて、瓦礫の山にしゃがみこむ。
 瓦礫の山の上にウサ銃を置き、狙いを付ける。
 
 それにしたってよく燃える火炎瓶と、いい爆発の起きるパイプ爆弾だ。やっぱり量産して稼ぎたいな、これ。

「それにしてももうちょっとやりあうと思ってたチェルと鍛冶連中には悪い事した気がするわ」

 双眼鏡と併用して狙いを付けながら、爆炎と火炎瓶の燃え盛る音が響く中に引き金を絞る。
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