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2,黄色いりんごの樹の下で
2-2
しおりを挟むソラはダイニングのテーブルに籠を置いて、中身を一つ一つ取り出した。
「これは、このあたりでは採れない実だよね」
ぶどうのような房状の赤い果実を手に取り、ソラは言う。
それから、籠の底に小さい箱を見つけると、ぱっと笑顔になった。
「あっ! このお菓子大好き! これって、人間界のお菓子でしょう? どうしたの?」
「人間界に行っていた妖精が持ち帰ったものだよ。ミデルに迷い込んだ人間がいると言ったら、快く分けてくれたんだ」
「そうだったんだ。ありがとう……!」
ソラは、菓子箱を見ながら懐かしさで頬が緩んだ。
喜ぶソラを嬉しく思いながら、ロワールは言った。
「出かけたらお腹が空いたな。食事の時間にしようか」
「うん」
時計のないミデルでは、食事の時間に決まりはなかった。
空腹になれば食べるという、シンプルなルールだ。
ソラは、ロワールとテーブルに向かい合って椅子に座った。
ソラは二週間ぶりの人間界のチョコレート菓子を口にした。
「ああ……、おいしい……!」
至福のひとときを味わうソラを見て、ロワールも表情を綻ばせる。
ロワールは、食卓の果物籠に常備されている黄色いりんごの実を一つ手に取り、かじり付いた。
黄色いりんごは、妖精達の間でも「りんご」と呼ばれていた。
黄色い皮の内側は黄金色の実をしていたが、実は洋なしのように柔らかく、みずみずしくて甘かった。
お菓子を頬張りながら、ソラは言った。
「ロワールは、いつもそのりんごしか食べないね」
「僕はこれだけでも満腹になるんだ」
「飽きない?」
心配そうなソラに、ロワールは微笑して言った。
「慣れているからね」
「そうなんだ。私だけ、こんなにもらっていていいのかな」
「ソラに食べてほしくて持ってきたんだ。僕は、ソラが嬉しそうに食べているのを見るのが好きなんだよ」
にこりと見つめられて、ソラは照れた。
りんごを一つ食べ終えたロワールは言った。
「ソラ。食べ終わったら、家の裏の森に行かない? ソラに見てもらいたいものがあるんだ」
「なに?」
「行くまでの秘密」
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