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『ごまかす もみけす ガルシア=マルケス』

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 榎田は205号室を出て部屋に鍵をする。
「ありがとう、助かった」
 榎田は見張りを務める大葉に礼を言う。
「まずいかも。階段を誰かが上がってくる」
 大葉が階段下を指さし伝える。 
 榎田は思案する。
 宿舎を階段と反対方向に逃げれば直線の廊下だ隠れる所は無い、発見される。
 いっその事205号室に隠れるか、いやそれでは大葉に配慮した意味が無くなる。
「こっち来て」
 大葉は榎田の手をとって階段を上る。
「え、まずくないか?」 
「誰か分かるまでは隠れるしかないでしょ」
 さっきと同じパターンだが榎田にとってはよりピンチだ。
 階段の上は男子浴室しか無い、大葉と発見されたら明らかに榎田が連れ込んで致していたと判断される。
『言い訳できんぞこの状況』
「カツ、カツ、カツ、カツ」
 足音が近づいてくる。 
『誰だ?』 
 宿舎の廊下や階段には常夜灯が点灯している、暗闇に紛れることは出来ない。
 懐中電灯の光、大柄なシルエット、佐々木だ。
『よりによって佐々木か!!ブレーカーの所で見張っていたんじゃないのか』
 確かに佐々木は寝ずの見張りをする予定だったのだが、佐々木の疲労を心配した生徒達が見張りの交代を申し出ため佐々木はこれに応じたのたが……。
 佐々木は責任感からか結局寝付けずに施設内の巡回を始めたのだ。
 足音が止まる。
「いるのは分かっているぞ出て来い」
 佐々木の声が響く。
 榎田と大葉はアイコンタクト。
『ごまかす、もみ消す、ガルシア=マルケス』
 だれやねん。
 先にトークに優れる大葉が出る。
「ごめんなさい……。急に女の子の日が始まって……、205号室に生理用品を置いたままだったから取りに来てました」
 苦肉の策、最大級のしおらしい演技。
 これで佐々木は追及しづらいだろう。
「友達は寝ているか、しかしこんな殺人現場に来なくても医務室にあるだろ」
  やはり苦しい言い訳だ、佐々木は追及してきた。
「医務室は豊田くんがいて、鍵もかかっているから……」
   消え入りそうな声、羽田なら違和感を感じただろうが他校の教諭である佐々木なら騙せるはず。
「そうだったな。分かった。だが……」
  佐々木は頷くが続いて、
「もう一人いただろ。男の話し声を聞いたぞ出て来い」
 佐々木が階段を睨み叫ぶ。
『バレてる。ここは大葉の話に乗るしかない』
「わかりました。そちらへ行きます」
 観念した榎田が階段から姿を現す。
「榎田か珍しいパターンだな」
 比較的真面目な榎田は教師に咎められる事があまりない、佐々木も驚いているようだ。
「事情は大葉が言ったとおりです。大葉が怖がるので自分が付いてきました」
「それで納得するとでも思っているのか、昨日2階に上がったら退学と言ったよな」
 佐々木が凄む。
「ええ聞きました。だからその立ち入り禁止より先には行ってません。廊下で見守っていました。それに……」
「それになんだ?」
 佐々木が全く信用してない様子で聞き返す。
『やむを得ん。事件を絡めよう』
「逆に205号室に入る大葉さんを見張る必要もあると思いまして」
 榎田が話をそらしにかかる。
「??」
 佐々木が首を傾げた。
『あと一息、畳み掛ける』
「205号室には一番の証拠品であるナイフが残ってますからね。あれを持ち出されたら大変です。大葉さんが犯人なら証拠品が危ないしそうでなければ205号室の鍵を持っている大葉さんが犯人に狙われる危険があるのでボディガードが必要かなと考えました。大葉さんが忘れたのが生理用品とは知りませんでした。着替えの服と聞いていたので」
『これでどうだ。ダメなら佐々木には言いたくなかったが犯人を伝えて勝負だ』
 一通り言い終わった榎田は佐々木の反応を待つ。
「一理ある。反論も難しい……。が、榎田よ嘘をつく時に饒舌になるのは悪い癖だぞ。俺に嘘は通じん」
『言うしかないか』
 榎田が覚悟を決めたところで、
「お前が持っているそのバッグが生理用品入れとでも言うのか、見せろ」
 大葉が手ぶらだったため榎田が持っていたサブバッグを奪い取りジッパーを開ける。
『あっ』
「あっ、すまなかった。早く戻れよ」
 バッグ内を見た佐々木は踵を返す。
 バッグ内には赤色リボンの女の子のハンカチが入っていた。
 大葉は榎田と目を合わせて、
「なにこれ?」
「助かった。いやあハンカチが無くてさ。間違えて持って来た妹のハンカチを一応バッグに入れておいんだが」
「それでさっき、みみちゅと私からハンカチ借りてた訳ね」
 大葉が頷いた後、真顔に戻る。
「ちょっと待って、ハンカチ私のだと思われているじゃない。これで私のあだ名姫ちゃんだよ」
「恥ずかしい役ばっかりさせて本当すまん」
「責任取りなさいよ。これで犯人が分かってなかったら絞め落とすわよ」
 大葉は誤解されて広まる自分のキャラクターにげんなりしながら聞く。
「犯人はあの人しかいない。証拠はこれしかない。この番号が電話帳に登録がないか?」
 榎田は205室で書いたメモを大葉に手渡す。
「電話帳登録いっぱいあるからなあ」
 当時の携帯電話は電話番号を入力しても相手方の名前は検索されない。
 あ行から順に調べる必要がある。
「あ・い・う……。無いなあ、うーん。あった。え、でも……」
 大葉が示した携帯電話のディスプレイには榎田の予想通りの名前があった。
「犯人だ。だがこれだけじゃ捕まえられない」
「はあホント病みそうだよ私」
 2人は再度佐々木に咎められないうちに体育館に戻った。
 
 
 



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