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聞き込みにはお菓子

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 午後の練習で榎田はトレーニングルームでレッグプレスやレッグカール等下半身を中心に追い込んだ。
 特にライイングレッグカールは普段の柔道では鍛えづらいハムストリングスを鍛える事が出来貴重なマシンだ。
 練習後は牛乳にきな粉を入れて飲む。
 自宅にいる時はプロテインもあるのだが今回は持参していない。
 事件のため冷蔵庫から取り出した牛乳が山程あっため佐々木が部員達に「飲め」と注いで廻ったのだ。
 シャワーを浴びた後、ドライヤーで髪を乾かしながら榎田は大葉にメールで連絡する。
『練習終わった いつでもいいぞ』
 小学生以下のメールだった。
 ちなみに日本で一番短い手紙は徳川家康の配下、本多作左衛門重次の
『一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ』 
 と伝えられているので記録更新だ。
 一方その頃、大葉は浴室で汗を流したあと手早く髪を乾かす。
『みかちゅは髪長いからなあ』
 と思いながら体育館の食材からお菓子を物色して、
「こういう時はコレでしょ」
 と両手いっぱいにお菓子やケーキを抱えていた。
「で榎田に」
『準備完了体育館にジュース買ってもって来い』
 とメールする。
 こちらも文才がなくほとんど恐喝の証拠メールだった。
「きのこきのこと、ここ間違えたら大変」
 きのことたけのこは間違えると戦争になるから重要だ。
 体育館で落ち合った2人は水島美夏の到着を待つ。
 水島はキョロキョロしながら一人で体育館に入って来た。
 急な部屋替えで周りと馴染めていないのかもしれない。
「みかちゅ、元気はないだろうけど一緒に食べよ」
 大葉がさっと近づくと声を掛ける。
「相変わらず食べる量がバグってるわね。すぐ夕食でしょ」
「幸せと総カロリーは正比例するのよ」
「それで?男連れで私の所に現れてどうしたの?」
 水島の言葉に榎田も口を挟んだ。
「俺はボディーガードでついて来た。ちょっと心配だったんでな」
「ボディーガード?まだ事件が起きるって事?」
「もしもに備えて……だ。実際の所、京極先輩のことどう考えてるんだ」
 配慮しながら、会話するのでなかなか話が進まない。
「榎田まだるっこしい。みかちゅ、要は京極先輩は犯人じゃ無いかもってこと」
 我慢出来なくなった大葉が割り込んだ。
「えっと根拠はあるの?聞かせてもらえる?」
 水島が案外すんなりと二人の意見を受け入れた事で、二人は京極では木田の殺害が困難である事を説明した。
「なるほどね。それで私に聞きたいことがあるわけ」
「これは大葉にも質問したんだが205号室で木田を発見した時には血の匂いはしたか?」
 榎田は第一の質問をする。
「血の匂い……。あっ、したよ!!鉄の錆びたような臭いがした。そうだ思い出した。」
 水島が答える。
「次は木田の死亡確認は誰がした?」
「京極先輩だよ。木田ちゃんの口に耳を近づけて息しているかを確認してた。それに……」
「それに何だ」
 水島が口ごもったため榎田が追及する。
「思い出したくない事を思い出しているんだから急かさないで」
 水島は深呼吸で気持ちを落ち着かせている。 
「胸にナイフが刺さっていて、布団に血がしみていた」 
 !!榎田が知りたがっていた事だ。 
 凶器を目撃している。
「凶器を見たのね、どんな凶器だった」
 大葉が水島をおちつかせながらゆっくりと質問する。
「見た。見えたのは刺さっていた柄の部分だけだけど、キャンプとかで使うしっかりしたアウトドアナイフだった」
「それは体操服のポケットに入る大きさだった?」
「うーんどうだろう、刃を見てないけどたぶん無理だと思う、ポケットに入らないし入ってもシルエットで分かると思う」 
「そうかごめんな、思いださせて」
 榎田は次の一言のために考えている。
「で、どうなの京極先輩は犯人じゃないの?」
 水島が早く結論を言いなさいと急かす。
「京極先輩は犯人じゃない。俺が京極先輩を犯人と思ったのは誰もいない宿舎に怪しまれずに近づけること、合鍵を持っていること、唯一木田さんに接近していることの3つが揃っていたからだ、木田さんが発見時点で確実に死亡していたのであれば犯人は別にいる」
 榎田の言葉に大葉と水島は頷いた。
「ナイフも持ち込めないしね。となると京極先輩は」
「自殺じゃない!!」
 3人の声が重なった。
「でも京極先輩が殺されたとして、殺す理由がある?まだ木田ちゃんは恋多き乙女で大なり小なりのトラブルはあったけど」
「それも水島さんの所に来た理由でもあるんだが、京極先輩が狙われたのは木田さんの事件の犯人に気が付いたからじゃないかと思って、大葉は殺人現場には入っていないし、もしかしたら水島さんなら何か気づいたことがあるかと思ってな」
 榎田は真剣な面持ちで質問する。
「特になにも……。京極先輩もおかしな様子はなかったよ」
 考え込む水島に、
「そういえば205号室の鍵ってどうなったんだったけ?私は今も持ってるけど。確かマスタキーは無いって言ってたけど」
 大葉が話を変える。
「私も持ってるよ。京極先輩と木田ちゃんのは分からないけど」
 水島はリュックに結びつけた鍵を見せる。
「聞き忘れていた。205号室は木田残している状態で部屋の鍵はかけていたのか」
 榎田が再度質問する。
「かけてたよ。そのあたり京極先輩がしっかりしてて木田ちゃんが寝てるときに泥棒や……」
 水島が口ごもる。
「下の階の獣が入ったら危ないからって」
 大葉が榎田を指差す。
「誰が獣だ。ただそれじゃあ違うな」
「もったいぶらずに話しなさい」
 大葉が
「ああ、例えば犯人が205号室の中に犯人の特定出来るものを遺留していて、それを回収するために合鍵欲しさに京極先輩を殺した。とか」
「具体的には何よ」
「例えば、そうだな凶器そのものがあまり出回っていないもので購入犯人が割れるとか、木戸のアドレス帳に犯人の名前が記載されているとか……」 
「そんなの、殺した時に回収しとけばいいじゃない?」
「昨日は急な雨だっただろ、凶器を引き抜けば返り血を浴びるし、木田の荷物を漁ろうにも予想外に大雨が降り出して205号室の3人が早く帰って来ると思い犯人は逃走した」
 榎田が訥々と話す。
「それって下手したら私達が部屋に戻ったときには犯人がまだいたかもってこと?」
 水島が不安そうに質問する。
「それも考えたが、大葉が先生を呼んでくるまで水島さん、部屋の外に出てないよね」
「出てない。京極先輩と一緒にいたよ」
「それなら犯人は既に逃走済みね、あの部屋隠れる所はベランダくらいしか無かったし、台風接近中にベランダにいたらびしょ濡れでその後宿舎に入れないよ」
 大葉が水島を安心させる。
「まあこれは205号室にきちんと鍵を掛けていたら関係の無い話だ。ありがとう、いろいろ参考になった。これから京極先輩の第1発見者の所に行こうと思ってるけど来る?俺としたら水島さんが次に狙われたら困るから来てほしいけど」
 榎田の意外な積極性に大葉は目を見開くのだった。
 
 
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