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試合開始
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『ホント強え、普段ならこんな戦い方しないけどな』
奥襟を狙い伸びてきた木下の左袖を榎田が左手で掴む。
間髪入れずに帯を取り隅返し。
同体、ポイント無し、すかさず寝技へ移行も顧問の佐々木が「待て」をかける。
『これじゃ柔道じゃなくてサンボだよな』
榎田は「始め」の合図とともに木下に迫る。
『休ませたら負ける、行くしかない』
榎田の左手が木下の右袖を取った。
『引き手取った。普段なら釣り手取りに行くが、えい』
榎田、木下の右袖右襟を掴みんで横方向への背負い、低空体落としへの連絡技。
木下よろめくも手をついて凌ぎ、畳に膝をついた榎田の首を後ろから締めにいく。
榎田、亀になって防ぐがさらに木下は首と腕の間に足をねじ込み腹固めを狙う。
ここで「待て」がかかる。
『おい豊田、何が木下先輩のコンディションが悪いだ、めちゃくちゃ強いぞ』
榎田は親友の豊田がくれたアドバイス『スタミナ切れを狙え』を忠実に守り試合に臨んでいた。
木下は3年生が引退した現在柔道部のエースだ。
身長180センチを超える榎田だが、榎田と比べても木下はひと回り大きい。
階級も榎田は軽重量級、木下は重量級と一階級上だ。
※ 柔道の階級は1998年に細分化されて7階級になっているが作中では5階級表記です。
普通に戦ったら勝ち目が無い。
ただ先日の大会から間がなく、未だ身体に張りが残っている様子が伺えた。
明らかに木下のコンディションは万全ではない。
豊田はその隙を突きスタミナ勝負に持ち込めば勝機はあるとアドバイスしたのだ。
榎田のスタミナは中学時代はゴキブリ並みと評価されていた。
『簡単に言ってくれるよ』
スタミナ勝負と言っても、逃げ回れば反則、浅い技を掛け続けるのも、掛け逃げという反則になる。
相四つに組まず、袖釣、一本背負、ポイントにならなくても膝をつかせて寝技につき合わせる。
離れようとした木下をがぶりの要領で畳に引き落とす。
『3分経過これからだ。3分?』
榎田のスタミナがゴキブリ並みと評価されていたのは中学時代だ。
中学生の試合時間は3分だった。
高校生の試合時間は4分。
4分間のスタミナ勝負は未知の領域だ。
『これ俺の方が先へばるかも』
急速に闘志が失われていく。
『だが青春のためだ』
榎田は立ち上がる。
『あれ?』
榎田は先程まで飛び上がるように立ち上がっていた木下が片膝ずつ緩慢に畳から立ち上がっている様子を見逃さなかった。
『右膝?いやふくらはぎか』
榎田の闘志に再び火が付く。
『チャンス到来だ、綺麗な技は要らない。右足に負荷をかける』
榎田が仕掛ける。
相四つに組み、小外掛から入る。
『やべっ、足が』
掛けていた左足を畳に着いたとき力が入らない滑った。
『怪我するくそっ』
榎田は木下の胴にしがみつき尻もちをついた。
木下も尻もちをつく、主審をしている佐々木の右手がした斜め45度を示す、有効だ。
不格好だが一応谷落としだ。
残り時間20秒、木下が掴みかかるが右足を引きずっている。
10・9・8・7
必死の攻防の後
「それまで」
佐々木の一声、榎田の勝利が告げられた。
奥襟を狙い伸びてきた木下の左袖を榎田が左手で掴む。
間髪入れずに帯を取り隅返し。
同体、ポイント無し、すかさず寝技へ移行も顧問の佐々木が「待て」をかける。
『これじゃ柔道じゃなくてサンボだよな』
榎田は「始め」の合図とともに木下に迫る。
『休ませたら負ける、行くしかない』
榎田の左手が木下の右袖を取った。
『引き手取った。普段なら釣り手取りに行くが、えい』
榎田、木下の右袖右襟を掴みんで横方向への背負い、低空体落としへの連絡技。
木下よろめくも手をついて凌ぎ、畳に膝をついた榎田の首を後ろから締めにいく。
榎田、亀になって防ぐがさらに木下は首と腕の間に足をねじ込み腹固めを狙う。
ここで「待て」がかかる。
『おい豊田、何が木下先輩のコンディションが悪いだ、めちゃくちゃ強いぞ』
榎田は親友の豊田がくれたアドバイス『スタミナ切れを狙え』を忠実に守り試合に臨んでいた。
木下は3年生が引退した現在柔道部のエースだ。
身長180センチを超える榎田だが、榎田と比べても木下はひと回り大きい。
階級も榎田は軽重量級、木下は重量級と一階級上だ。
※ 柔道の階級は1998年に細分化されて7階級になっているが作中では5階級表記です。
普通に戦ったら勝ち目が無い。
ただ先日の大会から間がなく、未だ身体に張りが残っている様子が伺えた。
明らかに木下のコンディションは万全ではない。
豊田はその隙を突きスタミナ勝負に持ち込めば勝機はあるとアドバイスしたのだ。
榎田のスタミナは中学時代はゴキブリ並みと評価されていた。
『簡単に言ってくれるよ』
スタミナ勝負と言っても、逃げ回れば反則、浅い技を掛け続けるのも、掛け逃げという反則になる。
相四つに組まず、袖釣、一本背負、ポイントにならなくても膝をつかせて寝技につき合わせる。
離れようとした木下をがぶりの要領で畳に引き落とす。
『3分経過これからだ。3分?』
榎田のスタミナがゴキブリ並みと評価されていたのは中学時代だ。
中学生の試合時間は3分だった。
高校生の試合時間は4分。
4分間のスタミナ勝負は未知の領域だ。
『これ俺の方が先へばるかも』
急速に闘志が失われていく。
『だが青春のためだ』
榎田は立ち上がる。
『あれ?』
榎田は先程まで飛び上がるように立ち上がっていた木下が片膝ずつ緩慢に畳から立ち上がっている様子を見逃さなかった。
『右膝?いやふくらはぎか』
榎田の闘志に再び火が付く。
『チャンス到来だ、綺麗な技は要らない。右足に負荷をかける』
榎田が仕掛ける。
相四つに組み、小外掛から入る。
『やべっ、足が』
掛けていた左足を畳に着いたとき力が入らない滑った。
『怪我するくそっ』
榎田は木下の胴にしがみつき尻もちをついた。
木下も尻もちをつく、主審をしている佐々木の右手がした斜め45度を示す、有効だ。
不格好だが一応谷落としだ。
残り時間20秒、木下が掴みかかるが右足を引きずっている。
10・9・8・7
必死の攻防の後
「それまで」
佐々木の一声、榎田の勝利が告げられた。
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