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「犯人は分かっているんだから」

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「犯人は分かっているんから」
 豊田の一言で、
『神北高校殺人事件の対策会議』 
 が開始された。
 とはいえ豊田を含む部員達は夢中でお好み焼きを口に運んでおり豊田の発言を待っている。
 食べながら部員達は西崎に学校の配置や死体の発見発見場所等、校外の人には分からない情報を教える。
「小太郎君、ミニサイズだけどサービスだよ」
 店長が西崎の前にお好み焼きを置き「後で聞かせて」と言い残し仕事に戻った。
「犯人分が分かった?昨日の刑事は50人以上に聞き込みするって言ってなかったか?」 
 菊池が豊田に聞く。
「証拠はないよ。だから対策会議をするんだよ。でも犯人は平川達しかないでしょ」
 豊田が断言した。
「いきなり過ぎて何とも。少しは説明してくれ」
 三井が話が飛び過ぎて分からん、と首をかしげる。
「まずね死体が発見された場所。私達の部室の前の地面なんだけど、私達の部室からは確かに見えない場所よ。でも平川が使っていた隣室からドアを開けたら丸見えのはずなのよ」
「でもドアを開けた時のドアの影にならないかな?」
 杉山が疑問を口にする。
「あぁ、あそこのドア内開きだったぞ」
 菊池が昨日を思い出す。
「足跡の事はどうする。雨が降った後でないと足跡が残らないぞ」
「それなのよ。わざわざあんな偽装をした意味が分からないのよ」
「偽装と断定していいのか?」
「ゴメンね言って無かった。昨日、死体を発見した高橋先輩とちょっと話したんだ。死体の状況について」
「それはずるいよ」
 豊田の言葉に杉山が反応する。
「だからゴメンって。それで死体の傷は素人が見ても即死する一撃を加えられていたみたい後頭部が凹むくらいの。とても歩いて移動するのは無理なのよ」
「それは確かに偽装なのが丸わかりだなうーんなんでそんなバレバレの偽装をしたんだ?」
「発言いいですか部長」
 杉山が手をあげる。
 杉山も乗り気になったようだ。
「どんどん発言してくれたまえ」
 豊田も調子が出て来た。
「例えば被害者を犯人が携帯電話で部室の所まで呼び出して、二階のトレーニングルームから紐、例えば柔道の帯で結んだ鉄アレイとかダンベルを振り子の要領でエイッとぶん投げて殺害したのではないでしょうか。それなら部室棟の二階にいたというアリバイが出来ます」
 杉山が自信満々で発言する。
「面白いけどそれは無理だ、被害者は携帯電話を持っていなかった」
 即座に三井が否定する。
「殺害後に携帯を回収したのでは?」
 杉山が食い下がったが、  
「それではアリバイが破綻するし意味が無いだろ」  
 今度は菊池。
「それに昨日はかなりの豪雨だよ。雨の中携帯電話を取り出さないでしょ、傘もさしてなかったんだよ被害者は」
 次は豊田。
「みんなして虐めないでよ。発言は撤回するよ」
 集中砲火を受けた杉山は涙目だ。
「となると振り出しに戻るけど警察は平川をマークしてないのかな、事情聴取の時に怪しんだりして」 
 菊池が疑問を口にする。 
「してないでしょうね。私達だって平川と被害者の接点は分からないんだから。それに私達が事情聴取を受けたあと次は軽音部が事情聴取だって虎ちゃんが言っていたよ。平川の存在自体を知らないかも」
 豊田が現状では警察の捜査が及ばない可能性を示唆する。
「衛を囮にしておびき出そうとも思ったけど危ないしね」
「何でおれ?」
「絶対ダメです。危険すぎます」
 今まで無言だった西崎が立ち上がり大声で豊田を諌める。 
 部員一同は皆、西崎に注目する。
「もしかして」
「何か分かったの?」
「何かわかったのか?」
 皆の質問に西崎はたじろぐ。
「恐らく全貌が、想像混じりですが」
 西崎は控えめに語りだす。
「今回の事件の発端からですが、発覚すると3年生は致命的な事で、1年生は多少のマイナスですむ事恐らくギャンブルです」
「ほうそれで」
「喫煙も考えたのですが、室内にスプリンクラーがあるらしいのでギャンブルと推定しました。被害者はギャンブルで負けが込んでしまった。ほぼ一人負けだったと思います。それで平川達に持ちかけたのです、負けをチャラにしなければ学校にバラすぞと」 
「なるほどそれはあり得るなあいつら部室使って何やっているのがわからなかったしな」
 と伊原が頷く。
「あそこの部屋、麻雀卓とか置いてあったのはそのため?」
 豊田は部屋の中にあった物を思い出した。
「負けはかなりの額だったのでしょうね平川達は怒りと学校にバラされる恐怖から犯行に至った」
「なるほどね、平川達は学校推薦で就職する予定だから推薦取り消しになったら人生設計に関わるのかー」
 杉山がフォローを入れる。
「両隣がうちと軽音部のだから揉めている声は運良く聞こえなかったのかな」
 と菊池。
「カッとなった平川達は部屋にあった鈍器で後頭部をガツンと」
「または突き飛ばした所にボウリングの球があったとか」
 伊原と豊田が推論を口にする。
「それがどちらかはわかりません。ただ一見して即死状態だった。人を殺してしまい困った平川達は事故に見せつける事を思いついた」
「それはわかるが事故に見せつけるなら階段まで運んで転落死に偽装しないか?何で部室前に」 
 菊池が疑問を口にする。
「それは両隣の部室が部活動中で死体を階段まで運べなかったからです。グラウンド側に降りれば一段低くなっているから少ししゃがめば部室の窓からは見えなくなるんです。そして歴史部の部室前は丁度いい前列があった。」
「前列?」
 杉山が聞く。
「歴史部の部室前は過去に野球部の打球が窓ガラスを割る事故が発生しています。平川達は野球部の打撃練習で打球が直撃した事故に見せようとした」
「ということは俺が平川を見かけた時は」
「死体搬出のための見張りということね。それなら状況に一致するわ」
 二人は放課後を思い出す。
「ただ計画通りにはいかなかった」
 一呼吸置いて
「ゲリラ豪雨だ」
 皆の声が重なった。
「急なゲリラ豪雨がよりにもよって17時になる前に降り出してしまった。」
「そっか私が電話したのは16時45分だったものね、まだ野球部は打撃練習が出来ない。なるほど」
「事故に見せかける偽装が無意味になった。しかもゲリラ豪雨の中に死体が取り残されてしまったんだ」
「水攻めにあった死体を救出する必要が出来たと」
 豊田は昨日読んだ本を思い出した。
「そうなんだ、平川達は難しい決断を迫られた。一つはゲリラ豪雨の中を皆で死体を階段まで運ぶ事。もう一つが足跡を着けて外部から逃げてきたように装う事。平川達は後者を選んだ。死体の救出は諦めたことになる。」
「まあ死体は既にびしょ濡れ、泥だらけで運んだ所で偽装にはならないな」
 と伊原。
「でも被害者の靴を履いて後ろ向きに学校の外まで行って足跡をつけたとして、その靴を被害者に履かせに戻らないといけないよね。大変だし、びしょ濡れで校内に入るのは目立ち過ぎない?」
 杉山が偽装の困難さについて疑問を述べた。
「そこは平川達の中に被害者と足のサイズが同じ人がいたんだと思います。それなら後ろ向きで校外出てそのまま帰宅すればいいので」
「そうか、細かい靴裏の模様はゲリラ豪雨で流れてしまうから大丈夫なのか」
 伊原が頷いた。
「これが事件の全貌だと思います。どうでしょうか?」
 西崎が周りの様子を伺う。
 一同は黙り込む、異論を唱える部員はいなかった。


  
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