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いただきます
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平家は神北高校の近くにあるお好み焼きの店である。
店長が豊田の叔父であり、歴史部のOBでもあるため部員達が気楽に立ち寄れる店になっていた。
座席数は約30席と広すぎず狭すぎず丁度いい。
この店のお好み焼きは豚バラの代わりに挽肉を使って、最後の青のりの代わりに青ネギがまぶされているのが特徴的だ。
歴史部の面々は予約しておいた掘りごたつの席を囲んでいる。
既に店内には香ばしいソースの香りが広がっている。
「とりあえず、高松城への取材の件は虎ちゃんから了解取れたぞ」
副部長の三井忠が口を開く。
歴史部の良心と呼ばれる三井は学校では眼鏡だが今日はコンタクトだ。
本人いわく『鉄板焼きは眼鏡が汚れる』だそうだ。
標準体型の彼だが、セージグリーンのフィールドシャツに濃紺のデニムをあわせている。
注文していたドリンクが届き軽く乾杯。
といってもカルピスと烏龍茶なのだが。
「どうやって虎ちゃん丸め込んだんですか、あんな事件の後で県外取材とか」
菊池が驚いて聞く。
菊池の私服は、ドロップショルダーのグレイッシュベージュのTシャツに黒のスポーティーなパンツだ。
「そこはねえ菊池君。逆だよ逆、部室の前であんな事件があって活動できません。と頼み込んだのだよ」
と三井。
「そちも悪よのう。褒めて遣わすぞ」
豊田が箸袋に入った割り箸でペチペチと三井の腕を叩く。
大きめカモフラ柄のシャツにサイドポケットのスカートとミリタリテイストだ。
「ただな、虎ちゃんからは許可が出たんだが、教頭先生が反対しているらしい。『事件が起きたばかりで取材旅行の許可を出して旅行先で何かあったらどうするのですか。警察にも通学路の警戒を依頼しているんですよ』って」
三井は教頭生徒のモノマネを交えながら話した。
「今は虎ちゃんは自分が同行するから大丈夫です。と教頭先生を説得している状況なんよ」
三井はため息をつく。
「未定って事かぁ」
一同もつられてため息をつく。
「取材旅行の件はとりあえずで予定入れない様にしておくけど、昨日の事件の事情聴取はどうなったの?事件解決しそうなの?」
と、杉山。
デニムジャケットにフレアスカートでカジュアルにまとめている。
「大した事は聞かれてないよ。いつ帰ったとか、気が付いた事はないかとかだけ聞かれたよ聞き込み対象が50人はいるらしい」
と菊池。
「はぁ。それはそれとして昨日、部室で部長と二人きりだったんでしょ。密室で若い男女二人きり、なにも起きないはずはなく」
杉山は肘で菊池をつつき、ニヤけている。
ちなみに杉山の飲み物にアルコールは入っていない。
「そっちかよ、水素でもそんなに早く結合できんわ」
「夫婦水入らずということで」
「水素が結合したらむしろ水だよ水、H2O」
「つまり濡れ場だったとそれは大変」
無限に会話が続きそうな二人に、部長権限で割り込んだ。
「歴史部の早急の課題は殺人事件の解決。取材旅行のために総力をあげて調査に乗り出すよ」
??????
豊田の発言に部員達の表情に疑問符が浮かんだ。
歴史部が沈黙したタイミングで平家の店長が料理を持って現れた。
お好み焼きをテーブルの鉄板に並べ終わると店長が口を開く。
「少しいいか、人の紹介とお願いがあるのたが」
「なんですかおじさん」
珍しく会話に入って来た店長に豊田が質問する。
「今度うちに下宿して、神北に通うことになった西崎小太郎君だ」
平家の制服、ネイビーのポロシャツに茶のギャルソンエプロンを着た少年がペコリと頭を下げる。
「店員モードはそれくらいでいいぞ、儂の親友の子供なんだが両親が研究職で世界を転々としててな、小太郎君が日本に残って高校生生活が出来るようにいろいろ考えた結果、うちから神北に通わせようという話になったんだ」
「その先は僕がいいますよ。高校の転校って引っ越しが理由で受け入れ先に欠員があってといろいろ条件が厳しいですが……。ニュースを見た母が強引に試験をねじ込んだみたいで」
西崎が話し始める。
豊田は、
一人称僕だ……。
一年生初々しい……。
可愛い……。
と一人で悶々としていた。
「週明けに試験を受けて合格したらの話ですけど、ゴールデンウィーク明けから転校になります」
「試験勉強大丈夫なの、こんな所でバイトしてて」
杉山が質問する。
「こんな所で悪かったな、部員割引無くすぞ、ちなみに小太郎君は勉学については凄いぞなにせ……ゴニョゴニョ」
店長が怒ったふりをして話す。
店長がゴニョゴニョ話した西崎の現在の所属高校は全国的にトップクラスの進学校だった。
「……。すいませんでした。試験勉強必要なし!!」
杉山しばしの絶句の後で高速の掌返し。
いつか手がねじ切れそうだ。
「ご両親からは充分な仕送りがあるんだし店の手伝いもしなくていいんだがな」
店長がしみじみと言う。
「それでお願いと言うのは小太郎君が学校に早く馴染めるように歴史部に入部させて欲しい。幸い小太郎は海外暮らしが長くて日本の歴史に興味があるようだし」
「それは部員が増えて嬉しい限りですけど」
豊田の脳内には先日の部活紹介での苦々しい思い出がフラッシュバックする。
三井がプロデュースしたのは
『新入生に地元の観光地鞆の浦の歴史を紹介して、地域の歴史に興味を持ってもらおう』
と、いったコンセプトの寸劇だったのだが題材が悪かった。
豊田は三井の言うがままに着物風の衣装に着替えて鎌倉時代と江戸時代の古典から『とはずがたり』『好色一代男』を選択して一文を朗読し古典にも鞆の浦の文字がありますよ。
と紹介した。
ただ二つとも遊女の話だったのだ。
豊田いわくそんなに露出も多くない格好だったのだが、高校生が遊女の格好するなんてけしからんと教頭先生にこっぴどく叱られたのだ。
ほとんど三井の失敗なのだが、調子に乗って肩や背中を露出したのは豊田だ。
豊田は意識を現在に戻した。
「小太郎君、入部してくれたら私も嬉しいけど歴史部にはまだ新入部員がいないのよ。学校に早く馴染みたいなら他の一年生が沢山いる部活の方がいいと思うけど大丈夫?」
豊田は年長者の威厳を見せるべく西崎を気遣う発言をする。
「ぜひお願いします。何回も転校したけど、知らない人に声かけるの苦手で……」
『うぅ母性に目覚めそう、最後に消え入りそうな声がたまらない』
「少し早いけど歴史部にようこそ」
豊田が手を伸ばし西崎の手を握る。
他の部員達はパチパチと拍手した。
「店長、晴れて歴史部員になった小太郎君を会議に参加させてもいいかな?」
店長にに向き直り許可を求める。
「かまわんが手が足りなくなったらヘルプ頼むぞランチタイムだしな、そんな重要な会議なのかい」
厨房からオーケーのサインで知らせる店長。
「神北高校殺人事件の対策会議よ。犯人は分かっているんだから早く解決してもらわないと」
と豊田が宣言した。
一人やる気の豊田に部員達は
「先に食べますよ、いただきます」
と、はふはふお好み焼きを口に運ぶのだった。
店長が豊田の叔父であり、歴史部のOBでもあるため部員達が気楽に立ち寄れる店になっていた。
座席数は約30席と広すぎず狭すぎず丁度いい。
この店のお好み焼きは豚バラの代わりに挽肉を使って、最後の青のりの代わりに青ネギがまぶされているのが特徴的だ。
歴史部の面々は予約しておいた掘りごたつの席を囲んでいる。
既に店内には香ばしいソースの香りが広がっている。
「とりあえず、高松城への取材の件は虎ちゃんから了解取れたぞ」
副部長の三井忠が口を開く。
歴史部の良心と呼ばれる三井は学校では眼鏡だが今日はコンタクトだ。
本人いわく『鉄板焼きは眼鏡が汚れる』だそうだ。
標準体型の彼だが、セージグリーンのフィールドシャツに濃紺のデニムをあわせている。
注文していたドリンクが届き軽く乾杯。
といってもカルピスと烏龍茶なのだが。
「どうやって虎ちゃん丸め込んだんですか、あんな事件の後で県外取材とか」
菊池が驚いて聞く。
菊池の私服は、ドロップショルダーのグレイッシュベージュのTシャツに黒のスポーティーなパンツだ。
「そこはねえ菊池君。逆だよ逆、部室の前であんな事件があって活動できません。と頼み込んだのだよ」
と三井。
「そちも悪よのう。褒めて遣わすぞ」
豊田が箸袋に入った割り箸でペチペチと三井の腕を叩く。
大きめカモフラ柄のシャツにサイドポケットのスカートとミリタリテイストだ。
「ただな、虎ちゃんからは許可が出たんだが、教頭先生が反対しているらしい。『事件が起きたばかりで取材旅行の許可を出して旅行先で何かあったらどうするのですか。警察にも通学路の警戒を依頼しているんですよ』って」
三井は教頭生徒のモノマネを交えながら話した。
「今は虎ちゃんは自分が同行するから大丈夫です。と教頭先生を説得している状況なんよ」
三井はため息をつく。
「未定って事かぁ」
一同もつられてため息をつく。
「取材旅行の件はとりあえずで予定入れない様にしておくけど、昨日の事件の事情聴取はどうなったの?事件解決しそうなの?」
と、杉山。
デニムジャケットにフレアスカートでカジュアルにまとめている。
「大した事は聞かれてないよ。いつ帰ったとか、気が付いた事はないかとかだけ聞かれたよ聞き込み対象が50人はいるらしい」
と菊池。
「はぁ。それはそれとして昨日、部室で部長と二人きりだったんでしょ。密室で若い男女二人きり、なにも起きないはずはなく」
杉山は肘で菊池をつつき、ニヤけている。
ちなみに杉山の飲み物にアルコールは入っていない。
「そっちかよ、水素でもそんなに早く結合できんわ」
「夫婦水入らずということで」
「水素が結合したらむしろ水だよ水、H2O」
「つまり濡れ場だったとそれは大変」
無限に会話が続きそうな二人に、部長権限で割り込んだ。
「歴史部の早急の課題は殺人事件の解決。取材旅行のために総力をあげて調査に乗り出すよ」
??????
豊田の発言に部員達の表情に疑問符が浮かんだ。
歴史部が沈黙したタイミングで平家の店長が料理を持って現れた。
お好み焼きをテーブルの鉄板に並べ終わると店長が口を開く。
「少しいいか、人の紹介とお願いがあるのたが」
「なんですかおじさん」
珍しく会話に入って来た店長に豊田が質問する。
「今度うちに下宿して、神北に通うことになった西崎小太郎君だ」
平家の制服、ネイビーのポロシャツに茶のギャルソンエプロンを着た少年がペコリと頭を下げる。
「店員モードはそれくらいでいいぞ、儂の親友の子供なんだが両親が研究職で世界を転々としててな、小太郎君が日本に残って高校生生活が出来るようにいろいろ考えた結果、うちから神北に通わせようという話になったんだ」
「その先は僕がいいますよ。高校の転校って引っ越しが理由で受け入れ先に欠員があってといろいろ条件が厳しいですが……。ニュースを見た母が強引に試験をねじ込んだみたいで」
西崎が話し始める。
豊田は、
一人称僕だ……。
一年生初々しい……。
可愛い……。
と一人で悶々としていた。
「週明けに試験を受けて合格したらの話ですけど、ゴールデンウィーク明けから転校になります」
「試験勉強大丈夫なの、こんな所でバイトしてて」
杉山が質問する。
「こんな所で悪かったな、部員割引無くすぞ、ちなみに小太郎君は勉学については凄いぞなにせ……ゴニョゴニョ」
店長が怒ったふりをして話す。
店長がゴニョゴニョ話した西崎の現在の所属高校は全国的にトップクラスの進学校だった。
「……。すいませんでした。試験勉強必要なし!!」
杉山しばしの絶句の後で高速の掌返し。
いつか手がねじ切れそうだ。
「ご両親からは充分な仕送りがあるんだし店の手伝いもしなくていいんだがな」
店長がしみじみと言う。
「それでお願いと言うのは小太郎君が学校に早く馴染めるように歴史部に入部させて欲しい。幸い小太郎は海外暮らしが長くて日本の歴史に興味があるようだし」
「それは部員が増えて嬉しい限りですけど」
豊田の脳内には先日の部活紹介での苦々しい思い出がフラッシュバックする。
三井がプロデュースしたのは
『新入生に地元の観光地鞆の浦の歴史を紹介して、地域の歴史に興味を持ってもらおう』
と、いったコンセプトの寸劇だったのだが題材が悪かった。
豊田は三井の言うがままに着物風の衣装に着替えて鎌倉時代と江戸時代の古典から『とはずがたり』『好色一代男』を選択して一文を朗読し古典にも鞆の浦の文字がありますよ。
と紹介した。
ただ二つとも遊女の話だったのだ。
豊田いわくそんなに露出も多くない格好だったのだが、高校生が遊女の格好するなんてけしからんと教頭先生にこっぴどく叱られたのだ。
ほとんど三井の失敗なのだが、調子に乗って肩や背中を露出したのは豊田だ。
豊田は意識を現在に戻した。
「小太郎君、入部してくれたら私も嬉しいけど歴史部にはまだ新入部員がいないのよ。学校に早く馴染みたいなら他の一年生が沢山いる部活の方がいいと思うけど大丈夫?」
豊田は年長者の威厳を見せるべく西崎を気遣う発言をする。
「ぜひお願いします。何回も転校したけど、知らない人に声かけるの苦手で……」
『うぅ母性に目覚めそう、最後に消え入りそうな声がたまらない』
「少し早いけど歴史部にようこそ」
豊田が手を伸ばし西崎の手を握る。
他の部員達はパチパチと拍手した。
「店長、晴れて歴史部員になった小太郎君を会議に参加させてもいいかな?」
店長にに向き直り許可を求める。
「かまわんが手が足りなくなったらヘルプ頼むぞランチタイムだしな、そんな重要な会議なのかい」
厨房からオーケーのサインで知らせる店長。
「神北高校殺人事件の対策会議よ。犯人は分かっているんだから早く解決してもらわないと」
と豊田が宣言した。
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