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第22話 二番弟子、人を動かす
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「図面作ってたらもう入学式かよ……」
時が経つのは早いなと思いながら、俺はペリアレイ魔法学園の校門前に到着した。
図面、というのはオーラレールガンの図面の事だ。
作るのは非常に面倒だが、そんな事くらいしかする事がなかったのもまた事実だからな。
気分転換にオーラバズーカの装飾をつけたり、タコわさを調理したりしながら図面の作成に勤しんでいたのだ。
初めは2~3日で終わるかと思っていたが、大型建築物の図面の作成は前世でも数えるほどしか経験が無かったので、少し手間取ってしまった。
まあ、ちょうど入学式の日に完成させられたので、却って良かったと思うことにしよう。
校門には合格者と成績上位者の点数開示が貼り出されているようだが……「黒の覆面更生員」に選ばれている以上、見る必要も無いな。
そう思い、素通りしようとした時。
「あ、テーラスだ」
振り返ると、マリカがいた。
「おはよう」
「いつも思ってたんだけどさ……テーラスのその髪、どうなってるの?」
ん、髪?
ああ、そう言えば、永続結界でセットしてあったんだったな。
教えてほしいのだろうか。
「ああ。これなら、結界魔法でトップを立たせて、襟足は外ハネになるようにしてるよ」
「そうじゃなくて、髪色よ。テーラスみたいに、2色が混ざったような髪色になってるのはみた事が無いもん」
……そっちだったか。
「これはメッシュと言ってな。一定の割合の髪の毛だけを、染色魔法で染めてるんだ。あ、これにはコツがあって、元が黒髪の場合は、一回脱色してから入れたい色を入れた方が上手くいくんだよ」
前世では、ダブルカラーと呼ばれていた技法だ。
脱色魔法は髪へのダメージが染色に比べて大きいので、髪質と相談してやらなければならないが。
「そうなんだ……そもそも、髪を染められるって事自体知らなかった」
「今度教えてあげようか?」
「うん、是非! ……あ、そう言えばさ、あれ見た?」
そう言って、マリカは掲示板の方を指差した。
「見てない。特待生は新入生代表挨拶があるとかで、事前に連絡が来てたから」
黒の覆面更生員のことは伏せておく。
誓約書の同意項目に、『自分が覆面更生員であることは一切口外しない』というものがあったからな。
「そうなんだ。でさ、テーラスの試験得点なんだけど……全科目『非公開』になってるの、知ってた?」
「……は?」
バカなのだろうか。
そんなことをすれば、「この学生が黒の覆面更生員です」と明記しているようなものではないか。
一緒に見にいくと、確かに成績上位者の試験結果は全て公表されてる中、俺の点数のみ全項目「非公開」だった。
「こんなことって、過去にもあったのか?」
「私の知る限りは、初の事態かな」
やっぱりこの学園、杜撰だ。
「でも、そりゃそうなるよね」
マリカよ、この事態のどこに納得できると言うのだ。
「だって、あんな技連発されたら、どんな試験も測定不能になっちゃうじゃん。当然のように気を使ってるのとか、悪い夢でも見てるみたいだったし。テーラスってさ、ホントに人間なの?」
なるほど。
あの掲示、みんなはそう捉えるのか。
それで、上手く黒の覆面更生員の件をカモフラージュする算段だとしたら……うーむ、アリなのか?
「実はニャー、ニャーはニャルラトホテプなんだニャー」
「ぷふっ……もうやめてよっ」
ちょっとおどけて返事すると、マリカは抱腹絶倒しだした。
本当に異形級エイリアンがこのお茶目具合なら、世界は平和なのだがな。
そう思いつつ式場まで歩く中、マリカは数え切れないほど思い出し笑いをしていた。
☆ ☆ ☆
「……生代表、テーラス樹君、登壇してください」
……あっぶねえ。
式が退屈過ぎて、自分の番で寝過ごすところだった。
寝ぼけ眼を擦りながら、壇の上に立つ。
黄色い悲鳴が、ちらほらと聞こえた。
何を言うかは自分で考えるようにとの事だったので、言いたいことを言わせてもらおう。
「皆さん、上を向いてください」
生徒たちの8割が上を向いた。
「では次に、右を向いてください」
今度は9割ほどが、右を向いた。
「このように、僕には人を動かす力があります!」
おおお、という声と笑い声が、半々くらいで混じった。
「だから僕は特待生になれました、なんて冗談はさておき。僕は皆さんに言いたいことが1つあります」
一旦間を置き、会場全体を見渡してみると、明らかに生徒たちの表情が良くなっていた。
つかみはバッチリみたいだな。
「僕はここでたくさんの友達を作り、一生思い出に残る日々を過ごすため、この学園に入学しました。不安の尽きない人もいるでしょうが、最高の日々を過ごしたい思いは1つです。一生心の糧になるような学園生活を、共に作り上げていきましょう!」
一礼すると、途端に会場中から歓声が上がった。
特待生という立場上、何も考えずに過ごしていたら雲の上の存在などと捉えられかねないからな。
式にそぐわない挨拶だったかもしれないが、親しみやすさの演出を優先した。
これで、友達もできやすくなるだろう。
時が経つのは早いなと思いながら、俺はペリアレイ魔法学園の校門前に到着した。
図面、というのはオーラレールガンの図面の事だ。
作るのは非常に面倒だが、そんな事くらいしかする事がなかったのもまた事実だからな。
気分転換にオーラバズーカの装飾をつけたり、タコわさを調理したりしながら図面の作成に勤しんでいたのだ。
初めは2~3日で終わるかと思っていたが、大型建築物の図面の作成は前世でも数えるほどしか経験が無かったので、少し手間取ってしまった。
まあ、ちょうど入学式の日に完成させられたので、却って良かったと思うことにしよう。
校門には合格者と成績上位者の点数開示が貼り出されているようだが……「黒の覆面更生員」に選ばれている以上、見る必要も無いな。
そう思い、素通りしようとした時。
「あ、テーラスだ」
振り返ると、マリカがいた。
「おはよう」
「いつも思ってたんだけどさ……テーラスのその髪、どうなってるの?」
ん、髪?
ああ、そう言えば、永続結界でセットしてあったんだったな。
教えてほしいのだろうか。
「ああ。これなら、結界魔法でトップを立たせて、襟足は外ハネになるようにしてるよ」
「そうじゃなくて、髪色よ。テーラスみたいに、2色が混ざったような髪色になってるのはみた事が無いもん」
……そっちだったか。
「これはメッシュと言ってな。一定の割合の髪の毛だけを、染色魔法で染めてるんだ。あ、これにはコツがあって、元が黒髪の場合は、一回脱色してから入れたい色を入れた方が上手くいくんだよ」
前世では、ダブルカラーと呼ばれていた技法だ。
脱色魔法は髪へのダメージが染色に比べて大きいので、髪質と相談してやらなければならないが。
「そうなんだ……そもそも、髪を染められるって事自体知らなかった」
「今度教えてあげようか?」
「うん、是非! ……あ、そう言えばさ、あれ見た?」
そう言って、マリカは掲示板の方を指差した。
「見てない。特待生は新入生代表挨拶があるとかで、事前に連絡が来てたから」
黒の覆面更生員のことは伏せておく。
誓約書の同意項目に、『自分が覆面更生員であることは一切口外しない』というものがあったからな。
「そうなんだ。でさ、テーラスの試験得点なんだけど……全科目『非公開』になってるの、知ってた?」
「……は?」
バカなのだろうか。
そんなことをすれば、「この学生が黒の覆面更生員です」と明記しているようなものではないか。
一緒に見にいくと、確かに成績上位者の試験結果は全て公表されてる中、俺の点数のみ全項目「非公開」だった。
「こんなことって、過去にもあったのか?」
「私の知る限りは、初の事態かな」
やっぱりこの学園、杜撰だ。
「でも、そりゃそうなるよね」
マリカよ、この事態のどこに納得できると言うのだ。
「だって、あんな技連発されたら、どんな試験も測定不能になっちゃうじゃん。当然のように気を使ってるのとか、悪い夢でも見てるみたいだったし。テーラスってさ、ホントに人間なの?」
なるほど。
あの掲示、みんなはそう捉えるのか。
それで、上手く黒の覆面更生員の件をカモフラージュする算段だとしたら……うーむ、アリなのか?
「実はニャー、ニャーはニャルラトホテプなんだニャー」
「ぷふっ……もうやめてよっ」
ちょっとおどけて返事すると、マリカは抱腹絶倒しだした。
本当に異形級エイリアンがこのお茶目具合なら、世界は平和なのだがな。
そう思いつつ式場まで歩く中、マリカは数え切れないほど思い出し笑いをしていた。
☆ ☆ ☆
「……生代表、テーラス樹君、登壇してください」
……あっぶねえ。
式が退屈過ぎて、自分の番で寝過ごすところだった。
寝ぼけ眼を擦りながら、壇の上に立つ。
黄色い悲鳴が、ちらほらと聞こえた。
何を言うかは自分で考えるようにとの事だったので、言いたいことを言わせてもらおう。
「皆さん、上を向いてください」
生徒たちの8割が上を向いた。
「では次に、右を向いてください」
今度は9割ほどが、右を向いた。
「このように、僕には人を動かす力があります!」
おおお、という声と笑い声が、半々くらいで混じった。
「だから僕は特待生になれました、なんて冗談はさておき。僕は皆さんに言いたいことが1つあります」
一旦間を置き、会場全体を見渡してみると、明らかに生徒たちの表情が良くなっていた。
つかみはバッチリみたいだな。
「僕はここでたくさんの友達を作り、一生思い出に残る日々を過ごすため、この学園に入学しました。不安の尽きない人もいるでしょうが、最高の日々を過ごしたい思いは1つです。一生心の糧になるような学園生活を、共に作り上げていきましょう!」
一礼すると、途端に会場中から歓声が上がった。
特待生という立場上、何も考えずに過ごしていたら雲の上の存在などと捉えられかねないからな。
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