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第12話 二番弟子、勝手に願書を送られる
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「ただいま~」
俺とマイアさんが家に着いて数時間がたったころ、ようやく姉・バーウェ樹が帰ってきた。
「おかえり~」
「もうなんか、姉さん疲れた」
……おや?
あれだけ領地運営に熱心な姉さんが仕事の愚痴を言うとは。珍しいな。
「魔族の討伐要請をギルドに出してたから、当然事後処理はギルドマスターと話し合うことになったんだけど……ギルドマスター、魔族の死体を見た瞬間『あ、これは弟さんがやりましたね』とか言いだすのよ。一体、普段からどんな特殊な狩り方してんのよ!」
「ああ、それか」
まあ確かに、気炎撃は今の時代ではマイナーな……というか、忘れ去られた技だ。
前世の感覚と記憶があるだけあって、俺の実力は前世の11歳の中でも天才クラスではある。
だが屋敷の近くの森には主がおらず、総じて魔物の脅威度も低いため年不相応な魔物は狩れずにいた。
それでも、死体の傷跡をみたギルド職員に「見たことの無い傷跡ですね。どうやったんですか?」と驚かれる事だけは多かったのだ。
「気炎撃の傷跡は、結構特徴的だからね。まあそうなると思う」
「お陰で質問責めに遭って大変だったのよ。そのせいで仕事は進まないし……」
ため息をつく姉さん。ごめんて。
「でも、これで確信したよ」
姉さんは凛々しい顔に戻ってそう言った。
「何を?」
「テーラスが優秀だと思って、飛び級狙いでペリアレイ魔法学園に願書を送ったこと。単なる姉バカじゃなく、正しかったんだって」
「……はい?」
「という訳で、来月入学試験があるから。そのつもりでね!」
そう言って、自室に戻ろうとする姉。
まあマイアさんの母校だし、俺も行こうとは思ってた学園だから不満は無いのだがのだが……純粋に、聞きたいことは1つある。
「俺、『気』も使えるんだけど……なんで魔法学園に?」
姉は足を止め、こちらを振り返ってこう言った。
「魔法使いが、気の使い手に比べて過小評価されてるのはテーラスも知ってるでしょ?」
「ああ、うん」
そう言えばそうだったな。すっかり意識してなかったが。
「私も最初は、気を扱えることに優越感を抱いてた。でも、テーラスが魔法の適性を得て、私気づいたの。『この世界の風潮は間違ってる』って」
おおう、急に真剣な話になったな。
「だから、テーラスにはぶっ壊して欲しいの。世界の誤った常識を。その為には魔法学園に入ってくれた方がって思ったんだけど……嫌、だったかな?」
「いや、そんな事は無いよ」
俺は姉さんを安心させる為、笑顔でそう答えた。
ぶっちゃけ俺、そんなに志の高い人間じゃないんだがな。大賢者の元でも、修行をサボる程度には。
だが、この時代でなら生きてるだけで達成出来そうな目標くらい、掲げてもいいか。
よし、入学試験、頑張ろう。
なんか忘れてる気もするが、まあいいだろう。
「部活とかも楽しみだし、ペリアレイで頑張ってみるよ。おやすみ!」
俺は姉さんにそう告げて、自室に戻った。
最初は「自分が養う」とか言ってたから変態かと思ったが、やっぱり根は真っ直ぐな姉さんだ。
それに、飛び級すれば在学時の二次性徴までのタイムリミットも伸びる。チアリーダー部に長く在籍出来そうだ。
姉さん、ナイスジョブ。
☆ ☆ ☆
「あ゛」
俺は、昨晩「なんか忘れている気がした」ことの内容を思い出した。
マイアさんにリミッター解除を教える期間が、約12分の1になっちゃってるぞ。
仕方無い。今日から始めるか。
ほどなくして、マイアさんが屋敷に来た。
「予定変更だ。今日から、リミッター解除の特訓を始める」
「え、いいの?」
「ああ。俺、姉さんがペリアレイ魔法学園に願書を送って、飛び級することになってな……そもそも一緒にいられる期間が、あと少ししかないんだ」
「あ、それはちょっと残念。……でも、私ならいつでも心の準備はできてる。飛び級は凄いことなんだし、私も応援するから。早速始めよう!」
「分かった」
「で、リミッター解除ってどうやって訓練するの?」
「普通は、マッサージ棒でツボをグリグリ押しながら、それを気でやる感覚を掴むところから始めるな。だが……それとは別に『大賢者流』という、習得は格段に早いが毎日が地獄の特訓の日々になる方法もある。どっちがいい?」
「じゃあ、『大賢者流』で」
「良いのか? 確かに『大賢者流』じゃないと、俺の試験日までに習得するのは不可能に近い。けど、今生の別れじゃあるまいし。学園の休暇期間に特訓を再開したっていいんだ。それでも『大賢者流』を選ぶんだね?」
「うん」
……大賢者流。
それは、師範グレフミンの門下生全員に課せられる「大賢者グレフミン直々に気を流され、強制的にリミッター解除をさせられる訓練」がそう呼ばれた。
俺ですらサボらせてもらえなかった、最低最悪、正真正銘の地獄の特訓だ。
まさか、それを他人に課す側に回る日が来ようとは。
「じゃ、始めるぞ」
「はい」
「リミッター解除」
「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!」
この日、昼飯時までマイアさんは一言も喋らなかった。
☆ ☆ ☆
「リミッター解除! ……っ、出来たぁ!」
あれから約1か月が経ち、試験に向けて隣街に旅立つ前日となった今日。
マイアさんは、滑り込みで自力でのリミッター解除の習得に成功した。
実を言うと、これ、奇跡に近い。
と言うのも、最初にマイアさんのリミッターを解除した日。
「やっぱり間に合わなくても良いから、通常の訓練方法に変えて欲しい」と頼まれたのだ。
決して、マイアさんが意気地なしだったわけではない。
前世の門下生でも、大賢者流リミッター解除に耐えられず道場を去った者は少なくなかった。
俺だって、処世術をフル稼働して日程を引き延ばしまくれなければ道場を去っていたことだろう。
まあそうなるよなと思った俺は、普通のやり方に切り替えた。
その頃は、旅立ちの日に間に合わせるのはほぼ諦めていたんだ。
けど、マイアさんはその後「3日に1回なら大賢者流に耐えられる」とか言い出したので、そこから徐々に通常の方法と大賢者流のミックスでやっていくことに切り替えた。
結果、まだ成功確率は3分の1とはいえ、一応マイアさんは「リミッター解除」を完成させたのだ。
このまま自主練を続けていれば、数か月で成功率100%になり、2年ほどで実戦での使用が可能となるだろう。
「本当によく頑張ったな。訓練方法を選択できる状況下で、大賢者流を積極的に取り入れる人は前世の兄弟弟子でもそうそういなかったはず。マイアは前世基準でも優秀だぞ」
「ありがとう。これで、次の教え子が実戦訓練でピンチになった時も助けてあげられると思う。一人前の家庭教師になれた気がする!」
「教え子には教えないのか」
「少なくとも大賢者流は無いかな。私そんな熱血教師やる気はないし」
俺だって熱血教師じゃねえぞ。ただ状況が状況だっただけで。
「ま、しばらくは実戦で使うのはやめとけよ。痛みに慣れたつもりでいるかもしれないが、側から見ればリミッター解除後の動きは結構鈍くなってる。魔流が倍増しても、まだそれを使いこなせるところまでは来てないからな」
「うん! よっぽどのことがない限り使わないつもりだから。これで心置きなく学園生活に没頭できるね!」
「ああ。チアリーダー頑張るよ」
「ぶ。まだそれ言ってんの」
だから、笑うなって。
こっちは真剣なんだぞ。
「じゃあ、明日見送りに来るからねー」
そう言って、マイアさんは屋敷を後にした。
俺とマイアさんが家に着いて数時間がたったころ、ようやく姉・バーウェ樹が帰ってきた。
「おかえり~」
「もうなんか、姉さん疲れた」
……おや?
あれだけ領地運営に熱心な姉さんが仕事の愚痴を言うとは。珍しいな。
「魔族の討伐要請をギルドに出してたから、当然事後処理はギルドマスターと話し合うことになったんだけど……ギルドマスター、魔族の死体を見た瞬間『あ、これは弟さんがやりましたね』とか言いだすのよ。一体、普段からどんな特殊な狩り方してんのよ!」
「ああ、それか」
まあ確かに、気炎撃は今の時代ではマイナーな……というか、忘れ去られた技だ。
前世の感覚と記憶があるだけあって、俺の実力は前世の11歳の中でも天才クラスではある。
だが屋敷の近くの森には主がおらず、総じて魔物の脅威度も低いため年不相応な魔物は狩れずにいた。
それでも、死体の傷跡をみたギルド職員に「見たことの無い傷跡ですね。どうやったんですか?」と驚かれる事だけは多かったのだ。
「気炎撃の傷跡は、結構特徴的だからね。まあそうなると思う」
「お陰で質問責めに遭って大変だったのよ。そのせいで仕事は進まないし……」
ため息をつく姉さん。ごめんて。
「でも、これで確信したよ」
姉さんは凛々しい顔に戻ってそう言った。
「何を?」
「テーラスが優秀だと思って、飛び級狙いでペリアレイ魔法学園に願書を送ったこと。単なる姉バカじゃなく、正しかったんだって」
「……はい?」
「という訳で、来月入学試験があるから。そのつもりでね!」
そう言って、自室に戻ろうとする姉。
まあマイアさんの母校だし、俺も行こうとは思ってた学園だから不満は無いのだがのだが……純粋に、聞きたいことは1つある。
「俺、『気』も使えるんだけど……なんで魔法学園に?」
姉は足を止め、こちらを振り返ってこう言った。
「魔法使いが、気の使い手に比べて過小評価されてるのはテーラスも知ってるでしょ?」
「ああ、うん」
そう言えばそうだったな。すっかり意識してなかったが。
「私も最初は、気を扱えることに優越感を抱いてた。でも、テーラスが魔法の適性を得て、私気づいたの。『この世界の風潮は間違ってる』って」
おおう、急に真剣な話になったな。
「だから、テーラスにはぶっ壊して欲しいの。世界の誤った常識を。その為には魔法学園に入ってくれた方がって思ったんだけど……嫌、だったかな?」
「いや、そんな事は無いよ」
俺は姉さんを安心させる為、笑顔でそう答えた。
ぶっちゃけ俺、そんなに志の高い人間じゃないんだがな。大賢者の元でも、修行をサボる程度には。
だが、この時代でなら生きてるだけで達成出来そうな目標くらい、掲げてもいいか。
よし、入学試験、頑張ろう。
なんか忘れてる気もするが、まあいいだろう。
「部活とかも楽しみだし、ペリアレイで頑張ってみるよ。おやすみ!」
俺は姉さんにそう告げて、自室に戻った。
最初は「自分が養う」とか言ってたから変態かと思ったが、やっぱり根は真っ直ぐな姉さんだ。
それに、飛び級すれば在学時の二次性徴までのタイムリミットも伸びる。チアリーダー部に長く在籍出来そうだ。
姉さん、ナイスジョブ。
☆ ☆ ☆
「あ゛」
俺は、昨晩「なんか忘れている気がした」ことの内容を思い出した。
マイアさんにリミッター解除を教える期間が、約12分の1になっちゃってるぞ。
仕方無い。今日から始めるか。
ほどなくして、マイアさんが屋敷に来た。
「予定変更だ。今日から、リミッター解除の特訓を始める」
「え、いいの?」
「ああ。俺、姉さんがペリアレイ魔法学園に願書を送って、飛び級することになってな……そもそも一緒にいられる期間が、あと少ししかないんだ」
「あ、それはちょっと残念。……でも、私ならいつでも心の準備はできてる。飛び級は凄いことなんだし、私も応援するから。早速始めよう!」
「分かった」
「で、リミッター解除ってどうやって訓練するの?」
「普通は、マッサージ棒でツボをグリグリ押しながら、それを気でやる感覚を掴むところから始めるな。だが……それとは別に『大賢者流』という、習得は格段に早いが毎日が地獄の特訓の日々になる方法もある。どっちがいい?」
「じゃあ、『大賢者流』で」
「良いのか? 確かに『大賢者流』じゃないと、俺の試験日までに習得するのは不可能に近い。けど、今生の別れじゃあるまいし。学園の休暇期間に特訓を再開したっていいんだ。それでも『大賢者流』を選ぶんだね?」
「うん」
……大賢者流。
それは、師範グレフミンの門下生全員に課せられる「大賢者グレフミン直々に気を流され、強制的にリミッター解除をさせられる訓練」がそう呼ばれた。
俺ですらサボらせてもらえなかった、最低最悪、正真正銘の地獄の特訓だ。
まさか、それを他人に課す側に回る日が来ようとは。
「じゃ、始めるぞ」
「はい」
「リミッター解除」
「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!」
この日、昼飯時までマイアさんは一言も喋らなかった。
☆ ☆ ☆
「リミッター解除! ……っ、出来たぁ!」
あれから約1か月が経ち、試験に向けて隣街に旅立つ前日となった今日。
マイアさんは、滑り込みで自力でのリミッター解除の習得に成功した。
実を言うと、これ、奇跡に近い。
と言うのも、最初にマイアさんのリミッターを解除した日。
「やっぱり間に合わなくても良いから、通常の訓練方法に変えて欲しい」と頼まれたのだ。
決して、マイアさんが意気地なしだったわけではない。
前世の門下生でも、大賢者流リミッター解除に耐えられず道場を去った者は少なくなかった。
俺だって、処世術をフル稼働して日程を引き延ばしまくれなければ道場を去っていたことだろう。
まあそうなるよなと思った俺は、普通のやり方に切り替えた。
その頃は、旅立ちの日に間に合わせるのはほぼ諦めていたんだ。
けど、マイアさんはその後「3日に1回なら大賢者流に耐えられる」とか言い出したので、そこから徐々に通常の方法と大賢者流のミックスでやっていくことに切り替えた。
結果、まだ成功確率は3分の1とはいえ、一応マイアさんは「リミッター解除」を完成させたのだ。
このまま自主練を続けていれば、数か月で成功率100%になり、2年ほどで実戦での使用が可能となるだろう。
「本当によく頑張ったな。訓練方法を選択できる状況下で、大賢者流を積極的に取り入れる人は前世の兄弟弟子でもそうそういなかったはず。マイアは前世基準でも優秀だぞ」
「ありがとう。これで、次の教え子が実戦訓練でピンチになった時も助けてあげられると思う。一人前の家庭教師になれた気がする!」
「教え子には教えないのか」
「少なくとも大賢者流は無いかな。私そんな熱血教師やる気はないし」
俺だって熱血教師じゃねえぞ。ただ状況が状況だっただけで。
「ま、しばらくは実戦で使うのはやめとけよ。痛みに慣れたつもりでいるかもしれないが、側から見ればリミッター解除後の動きは結構鈍くなってる。魔流が倍増しても、まだそれを使いこなせるところまでは来てないからな」
「うん! よっぽどのことがない限り使わないつもりだから。これで心置きなく学園生活に没頭できるね!」
「ああ。チアリーダー頑張るよ」
「ぶ。まだそれ言ってんの」
だから、笑うなって。
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