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第21話 新たな魔王の誕生に向けて

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……あ、しまった。

そういえば、魔王が作った転移門を破壊してしまったので帰る手段がなくなってしまった。
さて、これからどうしたものか。

最も手っ取り早い解決方法は、まあ時空魔法で転移門を破壊前の状態に戻すことだろう。
だがこれは、魔神との約束を破ることになる。
俺としても、好きな人との初対面が凄惨な暴動の跡地というのは避けたいところだ。

他の方法としては、「人間の大陸に戻るまでひたすらカワサキで走り続ける」というのもある。
だが正直、この方法は非効率的にも程がある。
破壊天使リンネルに会う方法を確立できていない今、あまり時間は無駄にしたくない。

現実的に最短で元いた場所に帰る方法は、探知魔法で強い気配を探り、そこへ転移してみるというやり方だろうな。
俺の顧客が力を奮えば、何らかの特徴的な反応が得られるはずだ。それを頼りにすれば、運が良ければ王都付近へ1発で帰れるだろう。

だが……せっかく魔界まで来たのだ。
どうせなら、すぐに帰らずある程度魔界で活動するという選択肢だってあるわけだ。

商売オペ道具は全て収納に入れてあるので、店に盗人が入る懸念はあまりしなくていい。
進級要件に関しても、「魔王妃討伐は、卒業試験を除く全ての卒業要件の満足に値する」とのことなので当面は心配いらない。
何も、急いで帰る理由はないのだ。

例えば、現時点での最強の魔族のもとへ赴き、そいつを魔王と認めるのはどうだろうか。
先ほど倒した魔王の話からすると、魔王というのは「魔神の加護」なるものを受け正式に魔王になるようだ。
それならば、同じ魔神の紋章を持つ者として俺が魔王を公認してやることだってできるはずだ。

思えば、俺はずっと人間の立場で行動してきた。
破壊天使リンネルに会う方法さえも、人間の視点で探っていたのだ。

その点、神の真似事をすれば少しは「神の視点」というものを経験できるはずだ。

神の立場になって物事を考えてみれば当然のごとく思いつくはずの「破壊天使リンネルをもてなす方法」が、神の視点が板につけば思い浮かぶかもしれない。
そう思うと、早速行動に移さずにはいられないな。

帰ってサフシヨ様に文句を言われるようなら──そうだな、俺の加護ありきの魔王である以上、魔族は決して人類を侵略しようとしない、というメリットを前面に押し出しておくとするか。

さて、ここから考えるのは「どうやって魔族最強の奴を探し出すか」だな。

魔界の現状はと言えば、魔王だけでなく魔王妃3人までもがほぼ同時期に命を落としている状態だ。
この事から察するに、今の魔界には誰もが戦わずして認める突出した実力者は存在しない可能性が高い。

ということは、この地のどこかで最強を決定する手続き、すなわち決闘が行われている可能性は大いにある。

ならばやる事はシンプルだ。
探知魔法を使って、争いが起きている場所を規模の大きい順に回っていれば早いうちにその場に立ち会えるだろう。

☆ ☆ ☆

「ここはどこだ?」

「ここは魔王直轄領と旧アタミ領の境ですよ」

魔族の気配が沢山ある場所についたので適当に話しかけて聞いてみると、今いる場所を教えてくれた。

ちなみに、普段は初対面の相手にタメ口をきくとしたら敵対している事が明らかな場合のみなのだが、今は特例だ。
敬語を使っていては、肝心な場面で本当に魔神かどうか疑われかねないだろう。それを防ぐためにも、魔界ではタメ口モードでいようということだ。

「という事は、新たな魔王を決めるのもこの辺りでしょうか?」

「……何を言うのです?魔王はプレート=テクト=ニクス様ただ1人ですが」

……あ。
そういえばそうだな。
なんせ、魔王を倒したのは無人と化していたハコネ領だ。
まだ、誰一人として魔王の訃報を知らなくて当然だ。

俺は上空で立ち止まって全身に魔力を通し、魔神が降臨した際に似たような威圧感を再現してみる。
もちろん、威力は抑えてだ。
魔神みたく際限なく威圧感を出して全員が失神し、結果誰も俺の話を聞かなかったら本末転倒だからな。

ある程度威圧感をあげた頃になると、見渡す限りの魔族の大半がこちらを向いていた。

拡声魔法を使い、宣言する。

「皆の者、よく聞け。俺は魔神である。皆にとっての魔王、プレート=テクト=ニクスは亡くなった。ハコネ領にその死骸があるので、確認しに行ってみよ」

魔族たちがざわめき出す。
ごほん、と咳払いをすると、再び静まり返った。

「したがって、俺は新たな魔王を選定し直す必要がある。魔王に相応しいと認められた者は、近いうちに名乗りを上げよ。今のところは以上だ」

俺の話が終わった途端、また魔族たちはざわめき出した。

その中で1人、俺に話しかけてきた魔族がいた。

「恐れ入りながら、死を覚悟の上質問させて頂きます。あなたは、本当に魔神様でしょうか。随分とお姿が変わられたようですが」
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