16 / 25
第16話 クラスメイトの快進撃とイナビルの出番
しおりを挟む
控室に着いてしばらく待っていると……初老の男性が一人と大人の聖女が二人、挨拶にやってきた。
「私は王都の教会にて司祭を勤めております、司祭のヤンセンです。理事長、そして生徒の皆さん、本日はよろしくお願いします」
まず最初に、初老の男性がそう挨拶をした。
王都の教会で司祭……ということは、この人かなりの権力を持ってる可能性が高いな。
となると……この人が、「特Aクラスの実力を見せつける相手」となるわけか。
「私は教会附属聖女養成学園の卒業生、アグネスよ。困った時は私たちがバックアップするから、気を楽にしてね!」
「……シシリアです。よろしくです」
などと思ってると、今度は聖女二人がそう挨拶をした。
この人たちが……前テレサさんが言っていた、「生徒が治癒しきれなかった人たちを治す人」か。
今回の試合では、その役目は回らないだろうが……まあ、まだ学外でクラスメイトの実力を見せたことはないしな。
来てくれるのも当然の流れ、か。
そんなことがありながら、控室で一時間ほど待っていると……試合開始の時間がやってきて、私たちは専用の観戦席に移動することとなった。
教会附属聖女養成学園の生徒は、治癒の仕事がある関係で、救護テントのすぐそばの特等席で観戦できることになっている。
「それでは……第一試合、始め!」
私たちが席に着いた頃……ちょうど、最初の試合が始まった。
試合は……会場に着いた時の予想どおり、酷く退屈なものだった。
何というか……技術がどうこう以前に、両者とも動きが遅い。
本来、聖女は騎士に比べ近接戦闘では劣るはずなのだが……あいつらが相手なら、百回はトドメ刺せてるぞ。
「場外! 第二学院のザニス選手、勝利!」
まあそんな試合も、しばらくすると決着がつき……場外に吹き飛ばされてきた第一学院の生徒が、救護テントへやってきた。
「じゃあ、私がやります! ヒール」
今回はシンメトレルが名乗り出て、回復魔法をかける。
すると一秒と経たず、第一学院の選手の傷は全回復した。
「な……右腿の切り傷と鎖骨の骨折が全快!? 理事長殿、この実力はいったい……」
すると……司祭のヤンセンが、驚愕の表情でそう呟いた。
「今治癒にあたったシンメトレルは、今年の新制度下の『特Aクラス』の学生です、司祭殿。今のは、その特別な新教育の成果ですよ」
ヤンセンの問いには、テレサさんがそう答えた。
ヤンセンはテレサさんの言葉を聞いて、「いやこれ、成果出過ぎでは……」と目を白黒させている。
いい感じに反応は取れてるみたいだな。
そんなことを考えていると……卒業生のアグネスが、こんなことを言いだした。
「理事長。確か私、今年は凄い首席がいるって聞いたんですけど……その方、こんなとんでもないレベルだったのですか?」
どうやらアグネスは、今のでシンメトレルを首席だと勘違いしたみたいだった。
この流れ……なんとなくデジャヴのような。
「首席はまた別の子ですよ。……この分だと、出番は無さそうですが」
そしてその問いにも、テレサさんが答えた。
「ええ……こんな凄いのに、これでも二番手なんですか……」
まあ……今日に関しては、本当に出番が無い方がいいんだがな。
二人の会話を聞きつつ、私は心の中でそう思った。
このレベルの大会でもし出番があるとしたら……それは例の薬物疑惑が本当だったときのみ。
そんな展開は全く望んでいないのだが、果たして……。
……まあ何にせよ、今のところは順調なのだ。
私は一切、試合の流れは気にしなくていいだろう。
というわけで、私は試合をよそに新しい精霊との会話に没入させてもらうことにした。
「イナビルー、きょーは何を教えてくれるのー?」
「そうね……じゃあ今日は、場の量子論の話でもしましょうか」
そろそろこの精霊も、本格的に属性魔法に注力していい頃合いだしな。
私はそんな風に、闇属性の薀蓄を語っていくことにした。
◇
そして……試合は最終試合まで、滞りなく進んだ。
目立った試合は中盤で大量出血者が出たことくらいで、私がしたことは片手間で血液増量魔法を放ったくらいだった。
これで最後の試合が無事に終われば、全てが杞憂だったことになる。
そう願ったのだが……対戦選手が入場してきた時。
選手のうち片方を見た瞬間……私はその願いが通じなかったことを悟った。
第一学院側の出場選手の様子が、明らかにおかしいのだ。
「よりによって……アンフェタミン系のクスリにしても、なんで最悪のアレを……」
そして私は同時に、その選手の様子から、何の薬を使ったかも詳細に分かった。
アレは……人間が服用するなど以ての外の、禁断中の禁断の薬だ。
拷問や処刑ならまだしも、あんなのをドーピングに使うなど正気の沙汰ではない。
すぐにでも、私は試合を中止して解毒に回りたかった。
だが……最終試合、熱気も最高潮になってるところで、そうは問屋が卸さないだろうな。
選手二人の素の実力はほぼ拮抗してるのが、不幸中の幸いというところか。
ドーピングした側が圧勝し、決着がすぐ着くのは目に見えて分かる感じなので、私はそれを待つことにした。
「では……最終試合、始め!」
始めの合図が鳴ると……力の差は歴然。
第一学院生徒は圧倒的に優勢で、十秒も経たないうちに、第二学院の生徒には無数の傷ができた。
そして……しまいには、薬で理性を失った第二学院の選手が第一学院の選手の首を刎ね、首が場外に転がった。
……これで、第一学院の選手の場外負けが決まったな。
やっと治療に行けるというわけだ。
審判は急な展開に固まってしまっているが、結果は誰の目にも明らかだったので、今割って入っても試合妨害とはみなされないだろう。
私はとりあえずさっさと第一学院の選手の首をくっつけて全回復させ、それから薬物中毒を治しに行くことにした。
「私は王都の教会にて司祭を勤めております、司祭のヤンセンです。理事長、そして生徒の皆さん、本日はよろしくお願いします」
まず最初に、初老の男性がそう挨拶をした。
王都の教会で司祭……ということは、この人かなりの権力を持ってる可能性が高いな。
となると……この人が、「特Aクラスの実力を見せつける相手」となるわけか。
「私は教会附属聖女養成学園の卒業生、アグネスよ。困った時は私たちがバックアップするから、気を楽にしてね!」
「……シシリアです。よろしくです」
などと思ってると、今度は聖女二人がそう挨拶をした。
この人たちが……前テレサさんが言っていた、「生徒が治癒しきれなかった人たちを治す人」か。
今回の試合では、その役目は回らないだろうが……まあ、まだ学外でクラスメイトの実力を見せたことはないしな。
来てくれるのも当然の流れ、か。
そんなことがありながら、控室で一時間ほど待っていると……試合開始の時間がやってきて、私たちは専用の観戦席に移動することとなった。
教会附属聖女養成学園の生徒は、治癒の仕事がある関係で、救護テントのすぐそばの特等席で観戦できることになっている。
「それでは……第一試合、始め!」
私たちが席に着いた頃……ちょうど、最初の試合が始まった。
試合は……会場に着いた時の予想どおり、酷く退屈なものだった。
何というか……技術がどうこう以前に、両者とも動きが遅い。
本来、聖女は騎士に比べ近接戦闘では劣るはずなのだが……あいつらが相手なら、百回はトドメ刺せてるぞ。
「場外! 第二学院のザニス選手、勝利!」
まあそんな試合も、しばらくすると決着がつき……場外に吹き飛ばされてきた第一学院の生徒が、救護テントへやってきた。
「じゃあ、私がやります! ヒール」
今回はシンメトレルが名乗り出て、回復魔法をかける。
すると一秒と経たず、第一学院の選手の傷は全回復した。
「な……右腿の切り傷と鎖骨の骨折が全快!? 理事長殿、この実力はいったい……」
すると……司祭のヤンセンが、驚愕の表情でそう呟いた。
「今治癒にあたったシンメトレルは、今年の新制度下の『特Aクラス』の学生です、司祭殿。今のは、その特別な新教育の成果ですよ」
ヤンセンの問いには、テレサさんがそう答えた。
ヤンセンはテレサさんの言葉を聞いて、「いやこれ、成果出過ぎでは……」と目を白黒させている。
いい感じに反応は取れてるみたいだな。
そんなことを考えていると……卒業生のアグネスが、こんなことを言いだした。
「理事長。確か私、今年は凄い首席がいるって聞いたんですけど……その方、こんなとんでもないレベルだったのですか?」
どうやらアグネスは、今のでシンメトレルを首席だと勘違いしたみたいだった。
この流れ……なんとなくデジャヴのような。
「首席はまた別の子ですよ。……この分だと、出番は無さそうですが」
そしてその問いにも、テレサさんが答えた。
「ええ……こんな凄いのに、これでも二番手なんですか……」
まあ……今日に関しては、本当に出番が無い方がいいんだがな。
二人の会話を聞きつつ、私は心の中でそう思った。
このレベルの大会でもし出番があるとしたら……それは例の薬物疑惑が本当だったときのみ。
そんな展開は全く望んでいないのだが、果たして……。
……まあ何にせよ、今のところは順調なのだ。
私は一切、試合の流れは気にしなくていいだろう。
というわけで、私は試合をよそに新しい精霊との会話に没入させてもらうことにした。
「イナビルー、きょーは何を教えてくれるのー?」
「そうね……じゃあ今日は、場の量子論の話でもしましょうか」
そろそろこの精霊も、本格的に属性魔法に注力していい頃合いだしな。
私はそんな風に、闇属性の薀蓄を語っていくことにした。
◇
そして……試合は最終試合まで、滞りなく進んだ。
目立った試合は中盤で大量出血者が出たことくらいで、私がしたことは片手間で血液増量魔法を放ったくらいだった。
これで最後の試合が無事に終われば、全てが杞憂だったことになる。
そう願ったのだが……対戦選手が入場してきた時。
選手のうち片方を見た瞬間……私はその願いが通じなかったことを悟った。
第一学院側の出場選手の様子が、明らかにおかしいのだ。
「よりによって……アンフェタミン系のクスリにしても、なんで最悪のアレを……」
そして私は同時に、その選手の様子から、何の薬を使ったかも詳細に分かった。
アレは……人間が服用するなど以ての外の、禁断中の禁断の薬だ。
拷問や処刑ならまだしも、あんなのをドーピングに使うなど正気の沙汰ではない。
すぐにでも、私は試合を中止して解毒に回りたかった。
だが……最終試合、熱気も最高潮になってるところで、そうは問屋が卸さないだろうな。
選手二人の素の実力はほぼ拮抗してるのが、不幸中の幸いというところか。
ドーピングした側が圧勝し、決着がすぐ着くのは目に見えて分かる感じなので、私はそれを待つことにした。
「では……最終試合、始め!」
始めの合図が鳴ると……力の差は歴然。
第一学院生徒は圧倒的に優勢で、十秒も経たないうちに、第二学院の生徒には無数の傷ができた。
そして……しまいには、薬で理性を失った第二学院の選手が第一学院の選手の首を刎ね、首が場外に転がった。
……これで、第一学院の選手の場外負けが決まったな。
やっと治療に行けるというわけだ。
審判は急な展開に固まってしまっているが、結果は誰の目にも明らかだったので、今割って入っても試合妨害とはみなされないだろう。
私はとりあえずさっさと第一学院の選手の首をくっつけて全回復させ、それから薬物中毒を治しに行くことにした。
11
お気に入りに追加
3,830
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
世界樹の下で
瀬織董李
ファンタジー
神様のうっかりで死んでしまったお詫びに異世界転生した主人公。
念願だった農民生活を満喫していたある日、聖女の代わりに世界樹を救う旅に行けと言われる。
面倒臭いんで、行きたくないです。え?ダメ?……もう、しょうがないなあ……その代わり自重しないでやっちゃうよ?
あれ?もしかしてここ……乙女ゲームの世界なの?
プロット無し、設定行き当たりばったりの上に全てスマホで書いてるので、不定期更新です
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
無価値と呼ばれる『恵みの聖女』は、実は転生した大聖女でした〜荒れ地の国の開拓記〜
深凪雪花
ファンタジー
四聖女の一人である『恵みの聖女』は、緑豊かなシムディア王国においては無価値な聖女とされている。しかし、今代の『恵みの聖女』クラリスは、やる気のない性格から三食昼寝付きの聖宮生活に満足していた。
このままこの暮らしが続く……と思いきや、お前を養う金がもったいない、という理由から荒れ地の国タナルの王子サイードに嫁がされることになってしまう。
ひょんなことからサイードとともにタナルの人々が住めない不毛な荒れ地を開拓することになったクラリスは、前世の知識やチート魔法を駆使して国土開拓します!
※突っ込みどころがあるお話かもしれませんが、生温かく見守っていただけたら幸いです。ですが、ご指摘やご意見は大歓迎です。
※恋愛要素は薄いかもしれません。
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】
Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。
でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?!
感謝を込めて別世界で転生することに!
めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外?
しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?!
どうなる?私の人生!
※R15は保険です。
※しれっと改正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる