神様がくれた時間 〜死ぬ前に愛する家族と向き合う夫〜 (1話毎あらすじあり)

野々さくら

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3章 三浦幸子25歳 妊娠、そして……

32話 夫婦の決意(2)

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一 安静生活8日目 一

今日は月曜日。誠は仕事の為、一人ベッドで過ごしている。すると……。

病室のドアが乱暴に開く。看護師や助産師はノックをしてくれ、優しく開けてくれるのにだ。


「どうゆう事よ!」

急に叫び声が聞こえてくる。その声は……、姑だった。

「……あ……。」

「誠から聞いたわ!子供に障害が出るかもしれない!本当なの!」


「……それは……、生まれてみないと……、成長を見ないと分かりません!」

「その可能性はあるという事ね!障害のある子供を産むなんて許しません!離婚しなさい!」


「……え?」

幸子は黙り込む。離婚……、誠と?


急に腹部が強く締め付けられる。

「……痛っ!」

幸子は腹部を抑え、必死にナースコールを押す。


『どうしました?』

「すみません、お腹痛くて……。」


その姿に姑は慌てて帰ろうとするが、医師と助産師が慌てて来た為鉢合う。


「……え?」

医師と助産師は驚く。病室に幸子以外の人がいたからだ。幸子は体拭きや排泄を全てベッド上でしている事から、急にお見舞いに来られても困るだろうと配慮され、面会の際は看護師に許可を取って欲しい旨をドアに貼っておいたあった。しかし、今日は誰も来ていない。だからこそ、知らない誰かが勝手に入って来ている事に驚いたのだ。


「三浦さん、大丈夫ですか?診ますね。」

医師は幸子が破水していないか確認しようとし、助産師は慌てて姑を外に出す。


「……どちら様ですか?」

姑は黙っている。

「患者さんは現在絶対安静です。面会の時は必ず看護師に許可を取って下さい。ご協力お願いします。」

しかし、姑は返事せず帰ってしまう。


助産師は不審に思いながら病室に戻る。

「大丈夫ですか?」

「ああ、羊水は出ていなかったよ。ただ、張りが強いから薬の量を増やした。30分毎に確認してくれないか?」

「はい。」


「三浦さん、薬強めたのでまた副作用が辛くなるでしょうが耐えて下さい。少しずつ引くと思いますが痛かったら言って下さいね。」

「……ありがとうございます。」

幸子も安堵した表情に戻る。


医師が出て行き、助産師は幸子に話しかける。

「……三浦さん、さっきの人は誰ですか?」

「いえ、誰でも……。」

「お母様?お姑さん?」

助産師は引かずに話を続ける。幸子のストレスが何か分かりそうだからだ。


「……姑……です。」

「何言われました?」

「……いえ……。」


幸子は震えている。

「ストレスは赤ちゃんによくありませんよ。話して下さい。」


しかし幸子は言えない。この状態でも、誰かを悪く言えないのだ。


「……分かりました、面会はご主人だけ。そう、統一してよろしいですか?」

「……え?でも……。」


休職の手続きはもう済んでいる。もう、誰かに会わないといけない理由はない。しかし姑を拒否したらどうなるか……。幸子は怯える。


「大丈夫ですよ、先生からご主人に上手く話してもらいますから。こうゆう事は第三者が入った方が上手くいきますよ。」

助産師は笑って話す。仕事柄、色々な家族を見てきたのだろう。今だけじゃない、これからの幸子の事も心配しているのだ。



「あ、ありがとうございます……。」


幸子は安堵に包まれる。これでもう、いつ来るか分からない姑に怯えなくていいのだ。怒声に怯えなくていいのだ、お前のせいだと言われないのだ、幸子は安堵から思わず涙が溢れる。


「ご主人に話しています?」

幸子は首を横に振る。

「分かりました、それとなくご主人に話しておきますね。」

「いえ、大丈夫です!……あの人は何も知りません……。だから……。」


「大丈夫です、直接的には話しません。」




こうして誠は医師より呼び出され話す事となる。そこには担当医師と助産師がいた。


「先生?妻に何か?」

「いえ、違いますよ。座って下さい。……母子保護の為、面会はご主人のみでお願いします。」

「……え?」


「お姑さんはご遠慮願えるようにご主人からお話してもらえませんか?」


「しかし、母の方が女同士気兼ねなく頼めると思うのですが……。」

医師も助産師も誠は本当に何も知らないのだと悟る。


「……今回の破水はストレスが原因の可能性があると話したのは覚えてくれていますか?」

「はい。」


「奥さんのストレスの原因はおそらくお姑さんの過干渉です。ですからしばらく……、少なくても赤ちゃんが生まれるまでは距離を取った方が良いです。そうお願い出来ませんか?」

「母が原因……?」

誠は言われている意味が分からない。


「これから低体重のお子さんが生まれる事になります。勿論、奥さんもお姑さんも悪くありません。しかし、奥さんはこれから『責められる立場』になるかもしれません。その時はご主人が奥さんとお子さんを守って下さいね。」

「……はい。」


医師は遠回しに、しかし確実に幸子と小さく生まれてくる子供の為に話をする。要点は、「母親から妻子を守れ」だったが誠にはその意図を読み取る事が出来なかった……。




現在の誠は、幸子とお腹の子供の為に医師が誠を呼び出し話をしてくれていた事を思い出している。


(……今なら分かるよ……、先生と助産師さんの言っていた意味が……。二人はこいつと柚を守ろうとしてくれていたのに俺は……。本当に何も分かっていなかった自分が嫌になるよ。)


しかし過去の誠は、姑の面会を控えて欲しいとしっかり頼んでいたのだ。姑も病院の助産師に言われていた事もあり、病院に来る事はなかった。


こうして、幸子はようやく安らぎの時間を過ごす事が出来た。誠のサボテンの本、病院のマタニティー雑誌、植物図鑑や小説、漫画、色々な本を読み穏やかな時間を過ごす。でも、一番楽しかったのはやはり誠がいる時間だ。二人は色々な話をした、子供の障害の事じゃない、子供が産まれたら何がしたいかだ。幸子は三人で散歩がしたい。誠は三人で家でゆっくりしたいだった。



一 安静生活から三週間後 妊娠26週目 一


その日は病室が慌ただしかった。幸子の陣痛が始まったからだ。

「三浦さん、赤ちゃん苦しそうにしています。外に出してあげた方が良いですね。」

医師は診察結果そう判断する。


「でも!まだ26週です!赤ちゃんが……!」

「そうですね。でも、赤ちゃんがこの陣痛に耐える方が辛いと思います。ですから出してあげましょう。保育器で育ててあげた方が赤ちゃんには良い状況だと判断しました。」


誠と幸子は顔を見合わせる。そして……。

「今が生まれる時なんだ。お前も赤ん坊も三週間よく頑張った!だから、生まれさせてやろう。」

「でも……。」

幸子はこれ以上言えない。赤ちゃんが亡くなるかもしれない。障害が出るかもしれない。言葉に出来ないのだ。

「先生、お願いします。」


「奥さんもよろしいですね?」

「……はい。お願いします……。」


「緊急手術の用意を始めます。」

「はい。」


医師は慌ただしく出て行く。他の助産師達も手術準備の為に出て行く。同意書はいらない。既に誠が書いていたからだ。


「……あなた、ごめんなさい……。どうしよう……。」

「だから謝らなくていい!この三週間は俺に覚悟を持たせてくれた時間だったんだ!大丈夫だ、俺は何があっても受け入れる!だから安心して産んで来い!」

誠が幸子の手を強く握る。


「……うん、ありがとう……。」

二人は手を握り合う。覚悟を決めた瞬間だった。


その後、幸子はストレッチャーに乗せられ手術室に向かう。誠は人目を気にせず幸子の手を握り続ける。

幸子は手術室に入っていく。しかし、誠は何も出来ない。男は妊娠出産の前では何も出来ないのだ。


緊急手術の準備始まる。まずは手術用の太い点滴針を刺すのだが、これが痛い。その後、エビのように体を丸め、腰に麻酔注射を打ってもらうのだがこれがまた痛いのだ。

(痛っ!入院してから何度痛い思いしているんだ?本当に凄いな……。)

幸子は安静入院になり、胎児が急に生まれる想定として胎児の呼吸を活性化させる筋肉注射を受けている。それがまた痛いのだ。誠はやり遂げたと喜んでいたが、12時間後にもう一度する話を聞き失神しそうになっていた。しかし幸子は赤ちゃんの為だと受け入れていたのだ。母とは強いのだと改めて考えていた。


そしてとうとう手術が始まった。局所麻酔の為、幸子の意識ははっきりしている。そしてこの先はただ祈るしかないのだ。そして……。


「ほぎゃ、ほぎゃ、ほぎゃ。」


3月29日、12時21分、891gの小さな女の子が小さな産声と共にこの世に生を受けた。

「おめでとうございます。可愛い女の子ですよ。」

生まれた赤ちゃんは新生児科の医師達により対応される。口の中の吸引、気管挿管での呼吸管理が行われ保育器に入れられる。


「お母さん、赤ちゃんはNICUで預かります。赤ちゃんに触ってあげて下さい。」

「……え?はい。」

幸子は手を伸ばし、赤ちゃんの手を触る。小さく弱々しい手だったが、握り返してきた。『把握反応』と呼ばれ、生まれたばかりの赤ちゃんが起こす正常な反応だ。そして、小さく生まれて来たこの子は出来た。一つの良い兆しだった。


「……必ず会いに行くからね……。」

幸子は赤ちゃんに声をかける。生まれた我が子と一瞬しか対面出来なかったが、それで良い。あの時、聞けなかった産声が聞けたからだ。

こうして、三人……四人家族になったのだ。そしてそれは夫婦と子供の長い戦いの始まりでもあった……。



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