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3章 三浦幸子25歳 妊娠、そして……

19話 妊娠(1)

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17話18話のあらすじ 『誠が知る衝撃の事実』
姑が急いで帰って行き、幸子が割れた食器を片付けていた日に何があったのかを知る為に誠はあの日の幸子の記憶を見せてもらう。
土曜日の為、誠が仕事が休みで幸子は仕事の日の夜、姑は家事をやってくれ三人で食事をしていた。
姑は変わらず不妊治療の病院に行くように誠に勧め、二人は言い争い誠はタバコを吸いに出て行ってしまう。姑は誠が子供を作りたがらないのは幸子のせいだと変わらず責め、病院に行くように迫る。
幸子は、誠が不妊の原因は自分だと知りショックを受ける姿から、誠が不妊の原因だと姑に話さず、病院に行っている事すら話さなかった。しかし、ある経緯から幸子は病院に通っている事を話し、姑は不妊の原因は誠だと知る。
受け入れられない姑は幸子を殴り、慌てて帰って行く。現在の誠はそんな事も知らなかった自身を責め、愕然とする。そんな事も知らなかったから離婚要求されるのだと呟く。

一 現在 一
倒れた誠は病院に運ばれCT検査を受ける。「くも膜下出血」と診断され、命が危ぶまれる状況だと分かる。
医師が同意を取り、誠の脳の出血を止める為に手術が今始まろうとしている。

登場人物

三浦 誠(現在)  55歳の普通の会社員。
ある日、妻に離婚要求をされるが誠はその理由が分からない。
それから1ヶ月後、「くも膜下出血」で倒れてしまい生死の境を彷徨う。死んだと思い、人生の悔いとして妻の離婚要求の理由を知りたいと願う。
神に離婚要求の理由を教えてやろうと言われ、過去の妻の記憶に魂を植え付けてもらい、過去の妻目線で過去の自分とのやり取りを見ている。
おしゃべりでおちゃらけている。

妻が仕事に家事で毎日疲れていると身を持って知る。
自分の母親が幸子をいびっていた事を知りショックを受ける。また、自分も幸子に酷い事をしていた事を目の当たりにして考えを変えていく。
今では完全に幸子の味方であり、過去の自分に悪態をついている。

三浦 誠(過去)  口数が少なく最低限の事しか話さない。亭主関白。妻から不妊治療について話されるのを過度に嫌がっている。そして、精液検査の結果から不妊体質だと知りそれが受け入れられない。その為に子供を作り自分が不妊体質ではないと証明しようとしている。
実は優しい性格。

三浦幸子(現在)  誠の妻。誠に離婚要求しているが理由は話していない。

三浦幸子(過去)  化粧品販売員で百貨店で勤めている。家事を一人でこなしている。大人しい性格。実は、姑にいびられていた。
夫婦仲は良く亭主関白な夫を立てている。
幸子は姑に殴られる事もあったが誠にその事を話していない。

誠の母親 子供を産むように誠や幸子に強く言っている。そして誠が知らない所で嫁の幸子をいびっていた。
実は不妊の原因は誠ではないかと考えており、それが事実だと知る。幸子が誠に話したと勘違いし、幸子を殴る。

――――――――――――――――――――――――――――

19話 妊娠(1)

神は誠に見て欲しい記憶があると誠の魂をある場面に植え付ける。そこは姑が幸子を殴った八ヶ月後の四月の事だった。


「おめでとうございます。妊娠されていますよ。」

「……え?」

医師は笑顔で話し、幸子はその言葉に固まる。全く想定していなかったからだ。

それはそのはず、幸子は今日いつもどおり不妊治療の病院に来ており検査を受けるつもりで来院していたからだった。タイミング的には生理が来るぐらいの時期であり、幸子が気付かないのは無理もなかった。

「おめでとうございます!良かったですね!」

側に居ていた看護師に手を叩いて祝福してもらい、幸子はやっと状況を理解する。

「……あ、ありがとうございます。」

幸子は感情が溢れてくる。そして誠は……。

(妊娠!病院で言っているから間違いないよな?やったー!!)

過去の幸子以上に喜んでいた。


「今日の検査はキャンセルにしますね。いや、良かった。本当に頑張りましたね。これでウチは卒業ですね。」

「え?卒業?」

幸子は笑っていた表情を曇らせる。

そう、この病院は不妊治療専門病院。妊娠したら検診してくれる病院や産院に移らないといけない。いくら居心地が良くても仕方がないのだ。

「……あ、そっか……。」

幸子は途端に不安になる。


「大丈夫ですよ、他の病院もしっかり診てくれますから。これ、この周辺の病院の情報です。良かったら参考にして下さい。」

医師はそう言いながら病院の情報の書いた紙と、不妊治療をしていたと産科医に話しておきたいなら見せるようにと、今までの治療についてまとめた紙を渡してくれる。

「おめでとうございます。……ただ、まだ四週ですからね。あまり喜び過ぎないようにして下さいね。」

医師は言いにくそうに一言加える。

「はい。本当にありがとうございました。」

幸子は頭を下げ診察室を後にする。こうして幸子の不妊治療が終わる。何度も恥ずかしい思いをして辛い事もあったが、その努力がついに実を結んだのだ。


幸子は病院を後にし歩き始める。電車に乗り、最寄駅で降りる。ゆっくり歩いて行き、とある小さな神社に着く。この神社は二人が結婚してこの地域に引っ越して来た時からの馴染みであり、時折二人で参拝に来ていた。

小さな山の上にある社を目指し石造りの階段を一段ずつ登って行く。社に続く道には桜の並木道があり桜の花びらが舞っていた。まるで幸子の懐妊を祝福するかのように……。

「……来年は三人で桜見られるかな?」

幸子はお腹を撫でて呟く。

(……残念だけど来年は見られないんだ……。でもな、再来年からは見られるぞ。毎年、毎年、参拝に来ては桜を見にいたんだ。お前も柚も桜が好きだからな。)


「……あ、まだ喜んじゃいけなかったわね。」

幸子は転けないように足元を見ながらゆっくり歩く。
社に着いたら頭を下げ参拝を始める。しばらくし石造りの階段をゆっくり降りて帰って行く。


(どうして喜ばないんだよ?もっと喜ぼう!今日はお祝いだな!酒だ!酒を用意……、妊婦だったな?……ケーキだ!お前の好きなチョコレートケーキ買ってこいよ!甘いのが嫌いなんて知らない!馬鹿旦那にも食べさせろー!)

誠は一人で盛り上がっている。しかし幸子は買い物に行くがいつも通りの食材を買っている。

(重い物持つなよ。こんな物、馬鹿旦那に持たせたら良いんだからな?お前はケーキだけ買って帰れば良いんだ。無理するなよ?)

誠は幸子を気遣うが、幸子には当然聞こえていない。いつも通り買い物を終わらせる。今日は休みのようでゆっくり帰って行く。

そして帰って来てからも休む事なく、明日からの食事の下準備や片付けをしだす。

(休めよ、お前のお腹には可愛い柚がいるんだから。食事なんてなんでも良いからな。母さんに何か言われたら可愛い孫がいると言ってやれば良いんだ!)


そうしている間に夜になり誠が帰って来る。

「おかえりなさい。」

「……ああ。」


(よく帰って来た!重大発表だ!さあ、言え。俺、心構えをしろ!)


しかし、幸子はいつも通りの誠の鞄を出しお弁当箱とハンカチを出している。

(おいおい、そんな事馬鹿旦那にやらせておいて良いんだ。さあ、発表だ。)


誠の考えに反して、幸子は何も言わずに一日を終わらせる。そして、いつも通り眠りにつく。


(どうして言わないんだ?労わってもらおう?)


『……まだ分からない時期だからな……。』

神は誠に語りかける。


(神様?分からない?何が?……あ、そうかまだ産婦人科に行っていないもんな。よし、明日病院に行くぞ!)

『まてまてまて、あのな、今病院に行ってもまだ赤ん坊の姿は見えないんだ。だから落ち着け。』

(え?でも妊娠したって先生が……。)

『妻の記憶を参考にした知識だが、本来妊娠が分かるのは月のものが遅れて一週間から十日ほど経ってからだそうだ。今回妻はたまたま病院ですぐ分かった。だけど正常な妊娠かどうかは病院で調べないと分からないし、子供が無事に育つかもまだ分からない時期なんだ。その検査が出来るのはもう少し先だ。だから落ち着け。』


(正常じゃない妊娠?妊娠していなかったという事ですか?)

『……そうゆう意味じゃない、本来妊娠とは子宮内で命が宿るもの。それは分かるな?』

(はい。)

『しかしな、たまに子宮以外で命が宿る事がある。それは正常な妊娠ではない。母体に負担がかかるんだ。』

誠の思考は乱れる。妊娠は全て子宮で正常に命が宿るものだと思っていた。違うのだと初めて知る。

(もし、子宮以外だったらどうなるのですか?)

『残念だが子宮以外では子供は育つ事は出来ない。諦めるしかない。』

(そんな!この子は大丈夫なのですか!)

『大丈夫だ、お前が一番知っているだろう?』


(……あ、そっか……、良かった……。無事育つか分からないのはどうゆう意味ですか?)

『流産って聞いた事あるだろう?妊娠しても残念ながら流れる子供は多い。その事も考えて慎重になっているんだ。』

(そんな、滅多な事ありませんよ。ちょっと神経質になり過ぎているんじゃないのか?)

『そんな事はない。言っておくけどな、子宮外妊娠は100人に1人、流産に関しては6、7人に1人らしい。全然他人事じゃないからな。』

(……え?嘘……。)

誠の思考は乱れる。そんな事実、その出来事に関心がないと知らない事だからだ。

(こいつはその確率を知っているのですか?)

『ああ、妊娠の本を読んでいるからな。ただ、知っていても防ぐ事は出来ない。完全に祈るだけだがな。』

(そうですか……。)

誠は医師が言っていた、まだ四週だから喜んではいけないと言っていた意味が分かる。


『まずは心臓が動き出すかが第一の試練だ。それが出来ずに流れてしまう子が多いからな。だから、二週間後に連れて行ってやる。その瞬間を妻と共に見て来い。』

神は幸子の記憶から誠の魂を抜こうとする。

(待って下さい。その二週間、こいつと同じ時間を過ごして良いですか?)

『構わぬが、長いぞ。』

(はい、ゆっくり待ちます。)


『そうか、二週間後を楽しみにしておけ。』

(はい。)



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