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14話 高校三年生 蝉声響く頃、運命が動く
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季節が春から夏に変わり、秋色が見えてきた九月中旬。
あいつの作品は、最終選考に残っていた。
まるで夢物語みたいだがこれは現実で、一次二次三次と残り、大賞受賞作品は九月末にweb上で発表と提示されていた。
あいつは信じられないと言いつつ、どこか期待し過ぎないように予防線を張っているのがよく分かる。
そうだな。気持ちが落ちた時に病魔は──。
ピロロロロ。ピロロロロ。
学校から病院に向かう並木道で、スマホの着信が鳴り響いた。
あいつかと思い頬が緩んでしまうが、スマホの画面に表示された名称は、あいつの母親だった。
いざという時のために連絡先を教えて欲しいと言われていて、交換していたことを思い出す。
かかってきたのは初めてで、俺の心臓までドクンドクンと鳴り響く。
まさか。
落ち着け。昨日も笑ってただろ。
いや。でも……。
そう考えてしまうのは病魔は容赦なくあいつを蝕み、季節が巡り選考が進む中で病状も進行していたからだ。
……俺の母さんは急変だった。
昨日まで笑っていたのに、いきなり危篤だと言われて。そのまま。
それを思い出した途端に、呼吸は荒くなり心臓までもが。
頼む。母さん。あいつを守ってくれ。
震える手で、俺は通話ボタンを押した。
『藤城くんですか? 未来の母です』
嗚咽を漏らした声だった。
あいつの母親は、幼少期より病気を抱えた娘を支えてきた強い人だった。
俺に病気について話してくれた時も冷静で、病状の進行に関しても冷静に話してくれる人。そんな人がここまで取り乱すなんて。
俺は覚悟を決め、唇を強く噛み締めた。
その時。
「え……?」
蝉の鳴き声も、木の葉の音も、周りの声も。全てが聞こえず、その事実だけが脳内に響き渡った。
電話を切った俺は、一目散に走り出す。
あいつに会いたい。あいつに。
ただ、その一心で。
病院に着くと、そこには俺を見かけて笑いかける。あいつの母親。
俺に、こんな大役を任せてくれるなんて。
頭を下げて、病室に向い。ノックをした。
「はい」
「俺だ! 入れろ!」
「え? うん。どうぞ」
俺の荒い声に、少し戸惑った雰囲気を醸し出してくる、こいつ。
「直樹くん、早いね? それに、すごい汗。どうしたの?」
いつもと同じ鈴の音を奏でるような可憐な声に、俺の胸に浸透していく安堵感。
ああ。こいつは今日を生きている。
そう思い、深呼吸を繰り返した。
「落ち着いて聞けよ」
俺は、ベッドに座っていたこいつの肩をそっと掴む。
「え? あ……。だめだった? さすがに仕方がないよね。最終選考に残れただけでも私は……」
無理に口角を上げようとするこいつに。
「バカヤロウ! 大賞だよ! お前の作品、書籍化確約だって」
感情のまま叫ぶ。
「え? え? あ、待って。え?」
「お前の母親に、出版社から電話があったらしい! これから大変だぞ!」
俺の言葉に口元を抑え、目が泳ぐ。
突然のこと過ぎて、話についていけないようだ。
しばらくし、俺の顔をまじまじと見つめていたその瞳から、宝石のように美しいものがポロポロと落ちてきた。
こいつの中で、やっと受け止められたみたいだ。
「直樹くん! ありがとう! 私! 私!」
そう言い、俺の背中に手を回してきてギュッと力を入れてきた。
俺は、その小さな背中をただ包み込んだ。
あいつの作品は、最終選考に残っていた。
まるで夢物語みたいだがこれは現実で、一次二次三次と残り、大賞受賞作品は九月末にweb上で発表と提示されていた。
あいつは信じられないと言いつつ、どこか期待し過ぎないように予防線を張っているのがよく分かる。
そうだな。気持ちが落ちた時に病魔は──。
ピロロロロ。ピロロロロ。
学校から病院に向かう並木道で、スマホの着信が鳴り響いた。
あいつかと思い頬が緩んでしまうが、スマホの画面に表示された名称は、あいつの母親だった。
いざという時のために連絡先を教えて欲しいと言われていて、交換していたことを思い出す。
かかってきたのは初めてで、俺の心臓までドクンドクンと鳴り響く。
まさか。
落ち着け。昨日も笑ってただろ。
いや。でも……。
そう考えてしまうのは病魔は容赦なくあいつを蝕み、季節が巡り選考が進む中で病状も進行していたからだ。
……俺の母さんは急変だった。
昨日まで笑っていたのに、いきなり危篤だと言われて。そのまま。
それを思い出した途端に、呼吸は荒くなり心臓までもが。
頼む。母さん。あいつを守ってくれ。
震える手で、俺は通話ボタンを押した。
『藤城くんですか? 未来の母です』
嗚咽を漏らした声だった。
あいつの母親は、幼少期より病気を抱えた娘を支えてきた強い人だった。
俺に病気について話してくれた時も冷静で、病状の進行に関しても冷静に話してくれる人。そんな人がここまで取り乱すなんて。
俺は覚悟を決め、唇を強く噛み締めた。
その時。
「え……?」
蝉の鳴き声も、木の葉の音も、周りの声も。全てが聞こえず、その事実だけが脳内に響き渡った。
電話を切った俺は、一目散に走り出す。
あいつに会いたい。あいつに。
ただ、その一心で。
病院に着くと、そこには俺を見かけて笑いかける。あいつの母親。
俺に、こんな大役を任せてくれるなんて。
頭を下げて、病室に向い。ノックをした。
「はい」
「俺だ! 入れろ!」
「え? うん。どうぞ」
俺の荒い声に、少し戸惑った雰囲気を醸し出してくる、こいつ。
「直樹くん、早いね? それに、すごい汗。どうしたの?」
いつもと同じ鈴の音を奏でるような可憐な声に、俺の胸に浸透していく安堵感。
ああ。こいつは今日を生きている。
そう思い、深呼吸を繰り返した。
「落ち着いて聞けよ」
俺は、ベッドに座っていたこいつの肩をそっと掴む。
「え? あ……。だめだった? さすがに仕方がないよね。最終選考に残れただけでも私は……」
無理に口角を上げようとするこいつに。
「バカヤロウ! 大賞だよ! お前の作品、書籍化確約だって」
感情のまま叫ぶ。
「え? え? あ、待って。え?」
「お前の母親に、出版社から電話があったらしい! これから大変だぞ!」
俺の言葉に口元を抑え、目が泳ぐ。
突然のこと過ぎて、話についていけないようだ。
しばらくし、俺の顔をまじまじと見つめていたその瞳から、宝石のように美しいものがポロポロと落ちてきた。
こいつの中で、やっと受け止められたみたいだ。
「直樹くん! ありがとう! 私! 私!」
そう言い、俺の背中に手を回してきてギュッと力を入れてきた。
俺は、その小さな背中をただ包み込んだ。
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