クラップロイド

しいたけのこ

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黄泉の端

アワナミ組

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「一発芸大会?」
「えっと、はい。ポスター、貼らせてもらえたらなって」
「ふーん……ま、いいけど。キミから事務室に話通してもらえる?」
「あ、はい」

 学校にも市民ホール復興のための布石を仕込むべく、俺は1人で動き回っていた。くっそ、事務室に話す手間を省くために話しかけたのに時間の無駄だった……!


 こういうのは結局、草の根運動が大事なのだ。事務室で許可を貰い、教室の数印刷してきたポスターを抱えて走る。クラップロイドとしての顔はいわば裏技。裏技だけで成功は掴めない。


「えーと……まずは1年の……」

 1年A組の教室にそれとなく入り込み、掲示板へ静かにポスターを貼り付ける。よしよし、バレてないな。皆おしゃべりで忙しいらしく、侵入者である俺を見とがめるヤツは居ない。

 次は1年B組だ。足早に教室を歩き渡り、画鋲でポスターを貫く。……一発芸大会と書道された文字の後ろ、市民ホールが立っているというなんの捻りもないデザインだ。まあ、これくらいシンプルな方が伝わりやすいしね。


 そんなことを考えながら振り向くと、いきなり顔がドアップで待ち構えていた。

「どわっ!?」

 身近にキュウリを置かれた猫の如くに跳ねあがって掲示板に背をぶつける。その子は腰に手を当て、ふくれっ面で指を立てる。

「あの! そこは1年生の掲示板なんデスケド!」
「あっはい! そうです!」
「事務室で許可貰ったんですか?!」
「はい! 貰いました!」

 もはや反射的な回答である。目の前の子が放つ威圧感にビビりながら、背筋を正して声を発していると、彼女はふいに威圧感を消し、破顔した。

「アハ、ビビり過ぎ。ちょっとからかっただけだし」
「へっ……?」
「おにーさん、最近話題になってる『市民ホールマン』でしょ? カイタイはんたーい、って叫んでるんじゃん?」
「あ、はい。間違ってないです」

 え、同じ学校のやつにも認知されてんの? 嫌なんだけど。

「うちの妹がファンなの。会いに行ったって言ってたけど、マジ?」
「へ? 妹? えっと……ちょっと覚えてないかも……ん?」

 よく見ると、微妙に見覚えのある顔をしている。あどけない顔つきに、むんっとした口元、スッと通った鼻筋……


 あぁ、思い出した。ついこの前に一発芸大会に登録してきた、あの女の子だ。

「あぁ、あの子。おかっぱの」
「そーそー。会ったんだ! 可愛かったっしょ?」
「あ、はいもちろん。可愛い子でした。……あの子がファン? なんで?」
「だって晴れてても雨でもずっと呼びかけてるし、なんか守ってあげたくなる? って」

 それを聞いた高校2年生の俺はどう答えるのが正解なんですか?

「あ、アタシは乙川 まみ。1年でーす」
「えっと……堂本 貴です。2-Aです」
「マジ!? 先輩じゃん、 ウケる」

 ウケてる……なんで……?(分析失敗)

「ちょ、マジLINE交換しない? 妹にも教えてあげたいし」
「LINE? えっと、交換?」

 よどみなくスマホを取り出し、何か画面を映しはじめるオトカワ姉に対し、俺はそもそもメールアドレス以外の連絡手段を交換するのが初めてなのでどうやればいいのか分からない。

「えっと、どうすれば……?」
「えっ、分かんないの!? マジウケる!! 原始人かよタカッピ!」
「たかっぴ……???」


 結局勢いに押され、スマホを預けて勝手にやってもらった。なんだか奇妙な縁がつながる瞬間だった。





「ごはん食べよ!」


 お昼には同級生であるふわふわ女子のカモハシさんにお昼を誘われていた。いつも屋上で、一緒にご飯を食べているのだ。

「ああ、ちょっと待って。すぐ用意して……」


 袋から弁当箱を取り出し、そして妙に静かだった女子グループを見る。いつもは俺をいじめるのに授業中の集中力を割いているのに、今日はおとなしいモノだった。

 ……なんだか、1人足りない。そう思って見てみれば、すぐに違和感に気付く。女子グループのリーダー、キジョウ アカリが居ない。どうやら今日は休みのようだ。


 何か、嫌な感じがした。先日の雨中の邂逅から、既に土日を跨いでいる。アイツの実家がヤクザで、何か問題が発生していたとしても、ここまで尾を引くのだろうか?

「……ごめんカモハシさん、俺、ちょっと今日は『用事』が出来たかも」
「え? ……あ、『活動』のこと?」
「うん。悪いんだけど、イコマ先生に伝言頼めるか?」
「うん、大丈夫。気を付けてね」
「ありがとう」

 放ってはおけない。俺は立ち上がると、弁当箱を掴んで教室から出て行った。





 ぴんぽーん、とアパートのインターホンを鳴らし、俺は所在なく立っていた。パラサイトの力を借り、キジョウの家を探り当てた結果がこのアパートだったのだ。非常に安いアパートのようで、外に立っているのに内部の生活音が漏れてくる。

 ポストには督促状やガス供給停止の手紙が大量に詰まっている。怪しげな水の定期購入の契約更新の紙も入っているあたり、俺が今から会う人に対する不安が高まる。


 もう一度押し、更に二度ほど押したところで、ようやく中から誰かが出てきた。チェーンで仕切られたドアの向こうから見えるのは、ぼさぼさの髪に濃いクマ、落ち切っていない化粧の、中年女性だった。

 彼女は胡乱なものを見る視線で、俺を上から下までじっくりと見つめていたが、やがて『害はない』と判断したのか口を開いた。

「何?」

 酒焼けした声でそう尋ねられる。俺はあらかじめ用意していた口上すら忘れかけていたが、やがて声をひねり出した。

「あっ……と。俺、アカリさんの友達なんですけど……今日、休んでたみたいなんで。プリント届けに来たんです」
「プリント? アカリに?」

 なおも訝しげに見られるが、俺が偽造して持ってきていた書類を見せると、ようやく彼女は少しだけ視線をやわらげた。

「あー、預かっとく」

 ……こんな昼間っから学生が訪ねて来ることに対しては何も聞かれなかった。目の前の女性は疲れ切っているのが感じられる。

「えっと……アカリさん、どうしたんですか? 体調不良って聞いたんですけど」
「体調不良よ」

 関係ないでしょ、という声色でぴしゃりと言い返される。


 パラサイトのエックス線の視界で部屋の中を見てみた感じ、この女性以外に誰も居ない。キジョウはここに居ないのだ。

 なら、アイツは何処へ行った?

「そうなんですね。すみません、よくなることを祈ってます」
「はいはい」

 ここで食い下がるのは無理だ。そう考え、俺は彼女へプリントを差し出す。ひったくるように書類を奪われ、ドアは素早く閉じられた。


「……パラサイト、キジョウ アカリがどこへ行ったか知りたい」
(先ほどから情報収集を開始しています。……彼女のスマートフォンの最終物理アドレス、特定完了。マップに表示します)

 視界に映されるマップに、赤い点が表示される。どうやらどこぞのお屋敷に居るようだ。……俺はもう、猛烈に嫌な予感が止まらない。

「最終物理アドレス、ってのは……今はもう?」
(シグナルが発されていません。恐らくは充電が切れたのか、電波の届かない場所に居ます)

 ……何の準備もなく、このお屋敷に突入するのは躊躇われる。おそらく、キジョウはここで軟禁状態にでもあるのだろうから。

「……」

 部屋の横についているポストを透視し、何か無いか探し始める。ひとつだけ、何か見つけた。真っ白な便せんに包まれ、『鬼城 月子様へ』と筆で書かれている。

「パラサイト、この中身読めるか」
(了解、解読開始。……どうやら鬼城 月子という方への手紙のようです。差出人は、天田 修)
「アマタ シュウ……シュウ」

 シュウ。聞いた名前だ。雨の中、キジョウを追っていたボディガードヤクザ。糸目に、頬の刀傷が目立つ男である。


(中身を表示します)
「ありがとう」

 視界に表示されるのは、鬼城 月子に対する、鬼城 灯をしばらく『本部』で預かるという旨の文面である。会いたければ来ても良いが、彼女の身柄を返すことはできない。聞くことを聞けば返す。一方的で、無機質な文面だった。

 日付は……ちょうど俺とキジョウ、アマタが出会ったあの大雨の日だ。恐らくは、俺、クラップロイドと会っていたことが問題視されたのだろう。

「……鬼城 月子として……は無理あるか。代理として……? いや、無理だな。クッソ、どうすっか……」
(最適な侵入ルートを各種ご用意できます)
「……はぁ。しょうがないか」

 悪のアジトに潜入するのは初めてじゃない。俺は覚悟を決め、その住所へ向かって行った。





 その場所は、お屋敷というよりは、城だった。高い塀に囲まれており、ビルにでも登らなければ肉眼で内部の観測は不可能だろう。

 あらゆる出入口に数人の護衛がついており、どいつもカタギではない雰囲気をかもしている。さっきの安アパートとのギャップでくらくらしそうだ。


 だが、どんな警備にも穴はある。この場合の穴とは、食糧の搬入口だった。この時点でゾッとするほど常識が違うが、彼らはどうやら、この城の内部にわざわざ一定の食糧を運び込み、メシを食っているようなのだ。

 まるで籠城でもしているかのような厳重さ。何と戦っているのかは、意見の分かれるところだろう。



 ともかく、潜入を果たした俺は、キジョウを探すためにあらゆる機能をオンにし、食糧庫からもぞもぞと動き出した。

『えーと……ここは……』
(視界にマップを表示します。どうやらここは地下のようです)
『地下、地下ね』

 運び込まれながらもパラサイトがマッピングしてくれていたらしく、巨大な邸宅内の部屋数から、何人がどこを警備しているかまでが視界に浮かび上がる。

 俺はダークブルーの装甲の中、その表示を足掛かりに行動を開始する。人目を避け、少しずつ上に登ってゆく。


 塀の内側に来ると、もはや隠す気もなくヤクザの本拠地という感じだ。和室に飾られた虎の掛け軸が俺を睨み、『淡浪組』の文字を収める額縁が光る。

『……こんなトコにホントに居るのか……』
(ご注意ください、見回りが来ます)

 パラサイトの忠告を聞き、俺は素早く身を翻して天井裏へと跳び上がる。きっかり3秒後、足音が下を通過する。

 気が抜けない。闇の中で溜息を吐き、俺はキジョウを探す作業に戻る。何処にいる。仮にも親分の娘なら、悪い扱いは受けてないハズ……


 そう考えかけたが、しかし先ほどの安アパートが脳裏に浮かぶ。……いや、ここは偏見を捨て、徹底的に探し回らなければならないだろう。何か、事情があるのだ。


 しかし広い。何かヒントが拾えないか。そう思い、天井裏から飛び降りて人の話し声がする方へと近寄って行く。


 見張りが数名話し込んでいるらしく、タバコの匂いと共にその声が届いてきた。

「聞いたか。アマタの兄貴、地上げを勝手に受けたとか」
「勝手に? そりゃあ、あのコーポレーションのやつか?」
「そうそう。なんでも、何年か前のやらかしを帳消しにするつもりらしい」
「へっ、よくやる」

 ……コーポレーション。ここらでその単語が指す企業は、ひとつしかありえない。すなわち、クラリス・コーポレーションである。

「成功すれば今度こそ『若頭』になれるって息巻いてたらしいぜ」
「まあ、今はあのバカ女の護衛だしなぁ。やり切れないだろうよ」
「声がでけえぞ、バカ! 静かに話せ」

 バカ女……。鬼城 月子か、鬼城 灯のどちらかだろう。おそらくは、後者。


 ヤクザってのは義理人情で成り立ってるのかと思ってたが、組長の娘に対してこの言い草。どうやら組織内でもキジョウ アカリは下に見られてるらしい。……学校でいつもアイツが荒れてた理由、少しだけ分かったかもな。


 それっきり黙ってしまった見張りを背に、また移動を開始し、静かに歩く。床板はピカピカであり、踏んで軋むなどという事はない。

 階段を上れば、どうやら地上に出たようだ。曇り空が出迎えた。


 中庭だ。小石が敷き詰められ、池や苔むした岩が配置してある。真ん中に植えてある大きな木は、桜だろう。円い葉が紅く染まり始めている。


 池の中から、派手な色の鯉が俺を見て目を見開いている。またしても誰かの気配が近づいてきたのを察し、俺は素早く屋根の上に飛び乗った。


 数秒後、中庭に面する障子戸が開く。


「なんだ、誰か居たと思ったが」
「気のせいだろう」


 顔を覗かせたのは2人の男性である。どちらも、先ほどまでの見張りとは違い、銃や刀で武装している。……治安について考えると頭が痛くなってくるので、俺は考えることをやめた。


「クソ、気が抜けねえ。今はお嬢が来てんだから、もしクラップ野郎でも来てたら俺たちがケジメつけなきゃならなくなる」
「フ。お前さんは昔っから神経質すぎんのよ」
「神経質にもなるぜ。親分も血を撒き過ぎてる」
「くっく、元気で良い事じゃないか」

 もう少し聞こうと、屋根に腹ばいになって同化する。ダークブルーの装甲と、真っ黒な屋根瓦の相性はすこぶる良い。

「良くねえよ。結果、アカリお嬢みてえに、愛されねえ娘が出来るんだからよ」
「あのお方は帝王よ。その人生に巻き込まれた方が悪いのさ。それより、あまり迂闊なことを言うものじゃない」
「チッ……そうだな」



 愛されない娘。だいたい読めてきた。おそらく、ウミキ カイゾウは多くの子供をこしらえたのだ。1人の女性だけではなく、複数名の女性に対して……。

 そして、キジョウは『愛されない娘』。もしかすると見せしめにされているのかもしれない。俺の機嫌を損ねれば、アイツのようになる。くれぐれもああなるんじゃないぞ、と。

 そこへ、俺が来てしまった。組員の目にどう映ったか、想像に難くない。扱いを悪くしてきた子供が、犯罪者のにっくき天敵である『クラップロイド』と接触。アワナミ組のどんな情報を流されたか、分かったものではない。


 だから、こうなってしまったのだ。俺はひとり、ヘルメットの上から頭を抑えた。善意が上滑りした最悪の形である。やってしまった。

「それよりも、シュウのこと聞いたか」
「ああ、聞いた。ずいぶんと焦っているようだ」
「あの野郎、ジュウロン会での失敗のことをまだ気にしているのか」
「くく、俺を押し退けて若頭になれるつもりなのさ。だが、悲しいかな……自分が見張っているハズのアカリお嬢さんがクラップロイドと接触。やつはいつも空回りばかりだ」

 ……アマタ シュウという男も、なかなか追い詰められているようだ。俺が相手するやつはそんなのばっかりだよ。

 というか、今、俺が会話を聞いているこの男……若頭? ということは、アワナミ組の実質的なNo.2がここに居るのか?

「哀れよな、哀れよなぁ。いま、必死になってお嬢から話を聞き出そうとしているらしいが……俺の読みでは、お嬢にそんな度胸はない。この尋問も、空回りだろうよ……」
「……シュウめ。若頭補佐すら降ろされるぞ、アイツ」
「そうなるならば、それが定めよ……」

 ……底知れない闇をのぞいた気分だ。ウミキ カイゾウはつまり、この事態を関知していないか、関知していてどうでもいいと思っているのだろう。何処までも、『鬼城 灯』に無関心なのだ。

 愛の反対は憎悪ではなく無関心だと言うが、自分の娘に対してそこまで冷徹になれるものなのだろうか?

「そろそろシュウも休憩の時間か。……ヨウザン、行ってやるといい」
「……そうだな」

 ヨウザンと呼ばれた男は、その筋肉の塊のような体をのっそり動かし、障子戸を開いて部屋から出て行った。彼の動きを視界に表示しつつ、俺は追跡を開始すべく全身に力を……


「そのまま聞け」


 涼しげなその声が聞こえ、俺は一瞬だけ全身を硬直させた。部屋内にはもう、刀の男しか居ない。つまり、あの若頭しか居ない。それが、誰に声をかけている? ……


 一瞬後、事態を把握した俺は頭が真っ白になった。。屋根の上、俺は動けない。


「お前は稀な客人だ、其の儘斬って捨てるのも落ち着かぬ振る舞いであることよ。茶でも出すが、ここへ降りて来ないか?」


 俺は必死に深呼吸を回し、真っ白な思考の色を拭う。落ち着け。俺は万全の体勢。やろうと思えば、ここから逃げる事くらい余裕だ。屋根を拳で突き破り、この男の頭上から奇襲し、気絶させて……


「そこは居心地も悪いだろう? 此方には座布団もあることだ、『クラップロイド』」


 かちゃり。室内で鯉口が鳴る音が、やけに大きく伝わってくる。


 俺はこめかみを伝う冷や汗を感じながら、ゆっくりと、屋根越しの存在感に対して拳を構える。体を整える呼吸を繰り返し、『その瞬間』に向けて力を練り上げる。3。2。1。



 カタン! 障子戸が開かれる音が鳴った。屋根を透かし、とっさにそちらを見ると、先ほどのヨウザンという男が帰ってきたのだと分かった。誰かを引き連れている。

「おう、シュウが帰って来たぜ」
「……ええ、どうも」

 不機嫌そうな、ほんの少し疲れていそうな、聞き覚えのある声。アマタ シュウを連れ帰ってきたのだ。


 その一瞬の空気の乱れに乗じ、俺は屋根を突き破る代わりに、静かに跳躍し、その場から離れた。


「……なんとも、我慢強い男であったことよ」
「ん? なんだ、どうした。誰かと会ってたのか?」
「くっく……クラップロイドだと言ったらどうする?」
「冗談でもやめてほしいものですねェ……」
「そうだぞ、縁起でもねえ」
「すまん、すまん……」





 邸宅内、蔵の屋根の上に着地し、俺は荒くなった息を繰り返す。

 今のは危なかった。あの男、かなりの手練れ。俺は完璧に気配を遮断したと思っていたが……恐らくは小さな動作で気配を悟られた。空気の流れか、筋肉の音か、よくは知らないが……。

 見逃された。その事実に、俺は全身の力を抜く。

『冗談じゃねえ、アワナミ湾に沈められるのは御免だ……』
(ご注意ください。更に見張りの気配)
『こんな蔵まで見張ってんのかよ、クソッ……』


 給油しようとした手を止め、蔵の屋根から降りて壁に貼り付く。数名分の足音が規則正しく近づき、そして離れてゆく。バレていない……。


『はあっ、はあ……』


 詰めていた息を吐き、給油のために口部機構を開いてペットボトルガソリンを飲み干す。そしてまた捜索を開始しようとし……


「……誰か居んの?」


 その声が聞こえた。それは、俺がずっとこの万魔殿で探し続けていた少女の声である。この事態の渦中に居る少女の声。


 キジョウ アカリが、蔵の窓から顔を覗かせていた。

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