リトル・ヒーローズ

もり ひろし

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09話 町の花火大会

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 秋が訪れた。ヒーロー慈善活動は続く。今日は土曜日。町の花火大会だ。花火は海の上の台船から打ちあげられる。浜辺には朝から見物客が場所取りをしていた。健たちは相変わらずゴミ拾いで海へ向かう一直線の大通りを見守っていた。チャチャもいっしょだ。今日は珍しく恵ちゃんのおじさんも参戦していた。チャチャはおじさんによくなついていた。おじさんに降り切れてしまうんじゃないかと思うほど尻尾を振った。おじさんは動物に好かれる体質を持っていた。
「健、何とかしろ。チャチャが飛びついてくる」
「おじさん何か食べものでも持っているの。持っているんならチャチャに少し分けてあげてよ」
「いいや持ってない」
「そんなに懐くなんておじさんの前世は犬だったのかもね」
仕方ないのでおじさんはチャチャを抱っこした。おじさんの今日の仕事はチャチャの世話係だね」
「おじさんも今日は君たちと一緒。ゴミ拾いに来たのに!」
何とも心惜しげだった。おじさんはグリーンなのか?
人が集まるとゴミも増える。今日は大漁だ。



「あら関心ね今日もゴミ拾い?」
いつぞやのポチ袋をくれたおばさんが皆の労をねぎらった。
ゴミ袋はすぐにいっぱいになってしまう。近くのごみ集積場にゴミ袋を置いて行った。
「さすがにごみの量は桁が違うね。今日は大仕事だ」
健が言った。
ヒーローたちは、まだ夏の名残を示す太陽に汗を流した。
そんな姿を
「暑苦しいぞ」
とからかう取りすがりの同級生もいた。夏の名残があるにせよもう秋だ。汗を流しているのはヒーローたちくらいのものだ。体にゴミの嫌なにおいまでさせている。女の子の恵ちゃんには酷だった。
「やーい。斉藤。ゴミ臭いぞ」
と同級生は言った。それを見たおじさんはチャチャを恵ちゃんに渡して
「係を変えよう」
といってくる。さすがおじさんだ。恵ちゃんは目を輝かせた。やはりおじさんはヒーローなのだと。
ヒーロー慈善活動には汚れ仕事もある。これが実態だ。



ひとりにつきゴミ袋は10に達したろう。大仕事になった。秋の夕べの澄んだ空気がヒーローたちを讃えた。花火大会開始の一発目の花火が夕焼け空に上がった。皆はそれぞれ家に帰る準備をした。
チャチャを恵ちゃんから受け取った健は
「じゃあシャワーでも浴びてすっきりした気分で花火大会を楽しもうぜ」
と再会を約束した。
吉郎は
「このままじゃゴミ臭いもんな。一っ風呂浴びてこよう。そして今夜は浴衣だ」
と言った。
「そうそう今夜は浴衣だ。恵、浴衣を出してもらえ」
とおじさんが言った。
悟も充実した時間を過ごせて満足ぎみだった。



海辺は人だかりだった。ヒーロー慈善活動をしていた健たちは当然場所取りができずいい場所からは見れない。でもこんなに充実した花火大会は初めてだった。参加している実感が違うのだ。
花火が次から次に上がる。バックには色々なアーティストの曲がかかる。健は浴衣を着た恵ちゃんを見てロマンティックな気持ちになった。悟がそれを察して
「よっご両人」
と叫んだ。
健と恵ちゃんは自然と手を結んだ。普段はごみの匂いをさせている二人だけど、今日は石鹸の匂いをさせている。健はこんな気持ちが続けばいいのにと思ったが、にわかに現実に戻った。ヒーロー慈善活動が今は何より楽しかったし、誇りに思っていたのだ。この年頃の男の子には分かるだろう。
思った通り沿道はゴミであふれている。
「明日はもっと重労働だな」
健が言った。
吉郎が
「花火大会もヒーローあってのものだね。花火大会前後がゴミの山じゃ興ざめだろ」
ヒーロー慈善活動の有意義さを熱弁した。
おじさんは遠い目をして花火を見ている。何かを思い出すように。きっとおじさんにも秋の夜の思い出があるのだろう。そして恵ちゃんの頭を撫でた。何かを守るように。
花火大会は1時間ほどで終了した。今日はちょっとセンチな夜だった。
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