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16話 ハクちゃんがしたかったこと
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ハクちゃんとチュビーノ一家との共同生活は続いた。ハクちゃんには何も不満はなかった。起きる出来事は楽しいことばかり。たとえばハクセキレイは縄張りに一人暮らしていると、ご飯があるならば独り占めできたけど、何らかの理由で二羽や三羽と一緒にいると、ご飯の取り合いが始まる。その点スズメたちとの生活は、どんな時でも譲り合いだ。なんと気持ちの良い心がけだろう。ご飯が少ない時にでも譲り合い、それぞれ等分にわけあうのだ。自分たち種族が、何の心がけもなしに、自然に争っている姿が、ハクセキレイの生き方としてハクちゃんには格好が悪く恥ずかしくうつった。そして何ともいえず否定したかったのだ。
なぜハクちゃんは自然の営みを否定してまで、チュビーノたちの生活に憧れるのか。何、色々と考えてしまう存在は、どの種族にもいるものだ。ハクちゃんもその中のひとりであったに過ぎない。ことに生まれつき体や心が弱かったりすると、まてよ、心が弱いという言い方は体が弱いとバランスが取れないね。気持ちが優しいというべきか。まあいいや。するとハクちゃんのような存在も生まれてくるものなのだ。自然は一見、強いものには優しくするが弱い者には厳しく当たる。だから弱い者は彼らなりに生き方を工夫するというわけだ。
鳥たちの朝は早い。お師匠様は仕事を終えて庭にスズメたちのご飯をまいていた。チュビーノたちは、お師匠様がひと心地つくと彼の手のひらに乗ってご飯を食べ始めた。そこへ弟子が、朝、目覚めてお師匠様にあいさつをするとドッカと縁側に腰を落ち着けてハクちゃんを待った。ハクちゃんが弟子の手のひらに留まると弟子はあいさつ代わりに手のひらを鼻先へ持って行ってハクちゃんの匂いを嗅いだ。弟子は人心地ついて安心すると手のひらにご飯をたくさん盛ってハクちゃんに食べさせた。
お師匠様と弟子の生活のリズムは真逆になってしまっている。でも今はもう何不自由もしない。ファンタジー作家として独立したもいっしょだったため、お師匠様にアドバイスを受けることも少なくなっていたのだ。仕事は順調だった。お師匠様は夜中に仕事を終えて今から眠るところだった。弟子は今から執筆だ。お師匠様に朝の挨拶を済ませたのでコーヒーを入れに行った。弟子はこの頃実入りがあるのでコーヒーに凝っていた。ハンドドリップだ。ブラジル産の豆を好んでいた。
弟子の朝はコーヒーを入れることで静かに始まる。弟子はたとえ独立できたとしてもお師匠様との生活はこれまで通りで、解消するつもりはなかった。お師匠様は結婚もせず一人でずっと過ごしてきたが、やはり人手が必要な時もある。そんな時は少しでも恩を返したかったのである。お師匠様とはこんな調子でずっと付き添いたいと思っていた。自分も独身だし男所帯になってしまうが何かと助け合いができるのがうれしかった。
「それじゃあ俺は眠るから」
お師匠様は一言小さな声でいって席を立った。弟子は
「お疲れ様です」
と一言言ってお師匠様をねぎらった。と同時に「お師匠様も最近老け込んだな」と思っていた。何が楽しくてこの仕事を続けているのだろう。この仕事は、わざわざ苦労を買って出るようなものだ。今となっては何も楽しいことは無い。初めのうちこそ、俺も芸術に身をささげるのだというような気概を持ったものだが、自分の力のなさに愕然としてしまう。「芸術は長く人生は短し」これは多くの作家が思う事だろう。お師匠様に限らず自分だってやってるわけだが…。
先にもチュビーノたちの生活との違いでハクセキレイの生き方について触れたが、ハクちゃんも弟子と同じようなことを日々感じているのではないだろうか。「格好の良い生き方は多くの試行錯誤を要する。しかし命は短し」誰にでも当てはまる格好の良い生き方なんてものはないに等しい。でも誰もが持ちたいと思っているもの。楽しい生き方、堂々とした生き方、マイペースな生き方など、生き方にもいろいろある。この世に生きた証を皆の心に深く刻むもの。生き方。ハクちゃんは今、人とのパイプ役を担ってハクセキレイの代表としての生き方を示すため、それを大事にしたかったのだと思う。チュビーノに訪れた一見不幸な出来事から今のチュビーノ一家の幸せな生き方を思って…。
なぜハクちゃんは自然の営みを否定してまで、チュビーノたちの生活に憧れるのか。何、色々と考えてしまう存在は、どの種族にもいるものだ。ハクちゃんもその中のひとりであったに過ぎない。ことに生まれつき体や心が弱かったりすると、まてよ、心が弱いという言い方は体が弱いとバランスが取れないね。気持ちが優しいというべきか。まあいいや。するとハクちゃんのような存在も生まれてくるものなのだ。自然は一見、強いものには優しくするが弱い者には厳しく当たる。だから弱い者は彼らなりに生き方を工夫するというわけだ。
鳥たちの朝は早い。お師匠様は仕事を終えて庭にスズメたちのご飯をまいていた。チュビーノたちは、お師匠様がひと心地つくと彼の手のひらに乗ってご飯を食べ始めた。そこへ弟子が、朝、目覚めてお師匠様にあいさつをするとドッカと縁側に腰を落ち着けてハクちゃんを待った。ハクちゃんが弟子の手のひらに留まると弟子はあいさつ代わりに手のひらを鼻先へ持って行ってハクちゃんの匂いを嗅いだ。弟子は人心地ついて安心すると手のひらにご飯をたくさん盛ってハクちゃんに食べさせた。
お師匠様と弟子の生活のリズムは真逆になってしまっている。でも今はもう何不自由もしない。ファンタジー作家として独立したもいっしょだったため、お師匠様にアドバイスを受けることも少なくなっていたのだ。仕事は順調だった。お師匠様は夜中に仕事を終えて今から眠るところだった。弟子は今から執筆だ。お師匠様に朝の挨拶を済ませたのでコーヒーを入れに行った。弟子はこの頃実入りがあるのでコーヒーに凝っていた。ハンドドリップだ。ブラジル産の豆を好んでいた。
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「それじゃあ俺は眠るから」
お師匠様は一言小さな声でいって席を立った。弟子は
「お疲れ様です」
と一言言ってお師匠様をねぎらった。と同時に「お師匠様も最近老け込んだな」と思っていた。何が楽しくてこの仕事を続けているのだろう。この仕事は、わざわざ苦労を買って出るようなものだ。今となっては何も楽しいことは無い。初めのうちこそ、俺も芸術に身をささげるのだというような気概を持ったものだが、自分の力のなさに愕然としてしまう。「芸術は長く人生は短し」これは多くの作家が思う事だろう。お師匠様に限らず自分だってやってるわけだが…。
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