創作童話『ハクちゃん』

もり ひろし

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12話 スズメ親子とお師匠様、ハクちゃんと弟子の行く先

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 あの日は雨が降っていた。そして空は暮れかけていた。びしょ濡れの子スズメが一羽、地面にふせていて、その命は風前の灯火だった。スズメの親鳥も近くの電線に留まって悲しみの声で鳴いている。独り立ちの練習に失敗したのだろう。自然は厳しい。ことに弱者にはね…。お師匠様が通りかからなかったら助からなかった命がそこにあった。お師匠様はそのスズメを保護した。それがチュビーノだ。親鳥の片割れはメイメイさんだったのだろう。あれから三月が経っていた。

 朝だ。お師匠様の手のひらの上には、2羽のスズメが止まっている。チュビーノとメイメイさんだ。親子仲良くご飯を食べていた。辺りにはもう夏の終わりの蝉が鳴いている。親鳥は子供の自立が気になるものだが、メイメイさんはあのチュビーノに起きた出来事がトラウマになって心から離れずにいた。そしてその思いがいつしか固着してしまったのだろう。チュビーノのことをいつまでも子供扱いした。チュビーノもどこかで親を必要としている。お師匠様をいつまでも育ての親と思っているし、そこへ本物の親が現れて、チュビーノはますます甘えん坊となった。はっきり言うと半人前で自立できていないのだ。この先が思いやられる。

 じゃあチュビーノはあのまま死んでしまった方が良かったのだろうか、チュビーノをお師匠様が保護しなければよかったのだろうか。そんなことはないだろう。生きていてこそ得られるものがある。つまりチュビーノのようなスズメがいたっていいじゃないか。少なくとも弟子はそう思っていた。弟子の手のひらの上に乗っているチュビーノの親友ハクちゃんもそう思っていた。弟子はこの、どこかひょうきんなハクセキレイをを大切にしていた。

 弟子が言った
「お師匠様、今日もあちらの世界に行ってまいります」
「ああ行っておいで」
弟子はハクちゃんの背を撫でるとメキメキと音をたてて背丈が縮んでゆく、そしてしばらくは気を失った。やがて目覚めると、こびとになった弟子はお師匠様に手を振って、ハクちゃんにまたがった。そして飛んで行った。ハクちゃんはチュビーノたちを見て、親子とは何だろうと思った。そして親に会いたくなったハクちゃんは自分の親の縄張りに飛んで行こうかと少し迷ったが、止めた。そんなロマンティックな考えはもうとうに捨ててきたのだ。今日も縄張りのパトロールに出かけた。そして今日も特に異常無し。
「お弟子さん今日はどこかへまいりますか」
「今日はこれでいいんだ。何だかお師匠様とチュビーノ親子の対話を邪魔をしたくなかっただけなんだから。これと言った用もないのさ」
「わたしも同じです」
「そうかい、それじゃあ君も、今日のパトロールが終わったのなら帰ろう。ぼくも仕事に戻るよ」

 ハクちゃんはいつの間にか秋の風情を帯びた空を波状飛行しながら飛んでいく。ハクちゃんはお師匠様の屋敷の縁側に降り立つと、弟子はハクちゃんの背を撫でた。シューと音がして弟子の背丈は伸びる。そして気を失ってしまった。弟子はもうすっかりこの転生に慣れていた。弟子は失神から覚めて気がつくと、縁側は静かだった。ハクちゃんもどこかへ飛んで行ったらしい。お師匠様に帰ってきたことを報告すると間借りしている自分の部屋に戻って仕事を始めようとした。

 しかし作品に集中できない。今朝お師匠様とチュビーノの親子を見てから、ずっと考えがまとまらない。そして弟子は家族の絆について考え始めた。自分にはもう父親が他界していなかったが、背中の丸まった母親がいる。どうしているだろう。久しぶりに帰って様子でも見てこようか。お師匠様の両親はもうすでに亡くなっているらしい。そして自分は結婚はしないと言っている。だから子も持たないのだろう。しかしお師匠様は自身の作品を自分の子のように愛していた。そして今はチュビーノがいた。チュビーノはお師匠様を自分の親のように大切に思っている。まるでお師匠様の子供だ。お師匠様には、これで十分満足なのだった。さて弟子は自分はどうなのかと思った。このままで行くとお師匠様と同じ道をたどるだろう。そして今はハクちゃんがいる。ハクちゃんと不思議な世界に遊ぶのも悪くない。でもこれでいいのか。弟子は迷いに迷ってしまった。
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