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03話 お師匠様のファンタジーな頭
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お師匠様は昼間でさえ、断続的に、あのリアルな夢を見続けた。そのおかげか最近少々疲れていた。そこでお師匠様は、自身をいたわるような気持ちでいた。しかし、その疲れの原因となったであろうスズメへのご飯やりは、毎朝欠かさずに行った。そして今、夢の中でのようにスズメのチュビーノの背中を撫でたなら、どうなるのか、という事が心をよぎるのだけれど、何か恐ろしいことが起こるような気がして、つまり自分が気違いになるような気がして、実行はしなかった。
それにしてもスズメの中に一羽、ハクセキレイが堂々と手のひらの上の特等席に居座っているわけだが、夢の中でこのハクセキレイはハクという名を名乗っていたような気がする。そこでお師匠様は、手のひらに留まっているハクセキレイに向かって思い切って「ハク」とささやいてみた。するとハクセキレイはこちらを向いたような気がした。いやこれは錯覚だろう。あれは夢の中の出来事だ。お師匠様は夢の世界を否定した。
するとお師匠様は、にわかに元気が出て来て、いつもの通り、鳥の匂いでも嗅ごうか、という気になった。両手のひらをすくうようにして、鳥の体を顔の前に持ってくる。あぁ、なんと心の落ち着く匂いだろう。お師匠様はうっとりとした。そしてその時、お師匠様の鼻の頭がハクセキレイの背中に触れた。するとお師匠様はふいに「あぁー」と悲鳴を上げて気を失ってしまった。お師匠様の体はメリメリと音を立てて小さくなる。しばらくしてお師匠様が我に返ると自分と同じくらいの背丈の、スズメとハクセキレイが目の前で何やら話している。
そしてスズメのチュビーノがこんなことを言った。
「やったぞ、またお師匠様と話しができる」
そしてハクセキレイのハクが言った
「お師匠様は、この状況を夢でも見ていると思い込んでるようだが、いいかげんこれが現実だと知らせなきゃ」
「賛成、話せるのだから、ありのままを伝えようよ」
そしてスズメのチュビーノが話し始めた。
「お師匠様、最近、何か妙ですよ。お師匠様に背中を触られると、お師匠様は体が縮んで、おれたちと同じくらいの背丈になる。そして俺たちは人間の言葉が話せるようになる。そして元に戻りたいなら縮んだ時の動作を再び繰り返せばいいようです。この異変に、お気付きではない様子なのでお知らせします」
お師匠様は、スズメがしゃべっているのを見て何だか気持ちが悪くなってきた。それはいいとして、お師匠様はこのところの仕事が煮詰まっていたので、他のことが面倒になり、どうでもよくなっていた。よってスズメのチュビーノの言っていることも半分くらいは、うなずけるような気がしてきた。
お師匠様は、それならばと鼻の頭をハクの背中にこすりつけてみた。すると体は「シュー」と音がしてみるみる体が大きくなるのが分かる。そしてやはり最後は失神した。しばらくして我に返ると、手のひらの上で、スズメのチュビーノとハクセキレイのハクが仲良くご飯を手のひらの上で食べていた。
しかし、どうしても半分くらいしかこの不思議な現実をとらえることができなかった。気を失った時に、頭の中が半分ほどリセットされるようだ。人間世界でのルールが飛んでしまう、しかし残る半分の記憶は連なっていた。冷静になって考えてみると、これはいち小説家の職業病の産物かもしれない。お師匠様の頭の半分は、ときどき小人になり、小鳥たちと日本語で話すファンタジーの世界を生きているようだ。とはいってもそんなに美しい話にはなりそうにない。対象は追えば追うほどあらが見えてくるものだ。
それはともかく、お師匠様はファンタジーの世界と常識の世界を行き来するのが、気を失いつつも、何だか快感になってきた。そして能天気な、お師匠様は、人間の頭の半分ほどは、ファンタジーの世界に逃げている方が、健康でいられるのだと開き直った。お師匠様は、夢に逃げることには抵抗があったものの、この転生に逃げることは良しとした。
それにしてもスズメの中に一羽、ハクセキレイが堂々と手のひらの上の特等席に居座っているわけだが、夢の中でこのハクセキレイはハクという名を名乗っていたような気がする。そこでお師匠様は、手のひらに留まっているハクセキレイに向かって思い切って「ハク」とささやいてみた。するとハクセキレイはこちらを向いたような気がした。いやこれは錯覚だろう。あれは夢の中の出来事だ。お師匠様は夢の世界を否定した。
するとお師匠様は、にわかに元気が出て来て、いつもの通り、鳥の匂いでも嗅ごうか、という気になった。両手のひらをすくうようにして、鳥の体を顔の前に持ってくる。あぁ、なんと心の落ち着く匂いだろう。お師匠様はうっとりとした。そしてその時、お師匠様の鼻の頭がハクセキレイの背中に触れた。するとお師匠様はふいに「あぁー」と悲鳴を上げて気を失ってしまった。お師匠様の体はメリメリと音を立てて小さくなる。しばらくしてお師匠様が我に返ると自分と同じくらいの背丈の、スズメとハクセキレイが目の前で何やら話している。
そしてスズメのチュビーノがこんなことを言った。
「やったぞ、またお師匠様と話しができる」
そしてハクセキレイのハクが言った
「お師匠様は、この状況を夢でも見ていると思い込んでるようだが、いいかげんこれが現実だと知らせなきゃ」
「賛成、話せるのだから、ありのままを伝えようよ」
そしてスズメのチュビーノが話し始めた。
「お師匠様、最近、何か妙ですよ。お師匠様に背中を触られると、お師匠様は体が縮んで、おれたちと同じくらいの背丈になる。そして俺たちは人間の言葉が話せるようになる。そして元に戻りたいなら縮んだ時の動作を再び繰り返せばいいようです。この異変に、お気付きではない様子なのでお知らせします」
お師匠様は、スズメがしゃべっているのを見て何だか気持ちが悪くなってきた。それはいいとして、お師匠様はこのところの仕事が煮詰まっていたので、他のことが面倒になり、どうでもよくなっていた。よってスズメのチュビーノの言っていることも半分くらいは、うなずけるような気がしてきた。
お師匠様は、それならばと鼻の頭をハクの背中にこすりつけてみた。すると体は「シュー」と音がしてみるみる体が大きくなるのが分かる。そしてやはり最後は失神した。しばらくして我に返ると、手のひらの上で、スズメのチュビーノとハクセキレイのハクが仲良くご飯を手のひらの上で食べていた。
しかし、どうしても半分くらいしかこの不思議な現実をとらえることができなかった。気を失った時に、頭の中が半分ほどリセットされるようだ。人間世界でのルールが飛んでしまう、しかし残る半分の記憶は連なっていた。冷静になって考えてみると、これはいち小説家の職業病の産物かもしれない。お師匠様の頭の半分は、ときどき小人になり、小鳥たちと日本語で話すファンタジーの世界を生きているようだ。とはいってもそんなに美しい話にはなりそうにない。対象は追えば追うほどあらが見えてくるものだ。
それはともかく、お師匠様はファンタジーの世界と常識の世界を行き来するのが、気を失いつつも、何だか快感になってきた。そして能天気な、お師匠様は、人間の頭の半分ほどは、ファンタジーの世界に逃げている方が、健康でいられるのだと開き直った。お師匠様は、夢に逃げることには抵抗があったものの、この転生に逃げることは良しとした。
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