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第十三話「13日の金曜日」

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 ブオンブオン!!!

「きゃあああああああああ!!!」

 逃げる女性の悲鳴を追う様に電動鋸……チェーンソーの駆動音が鳴り響く。
 そして女性の悲鳴が静まった時、チェーンソーの駆動音も消えた。

 ―ルシファーズハンマー

 ルシファーは今日も昼間からモヒートを飲んでいる。
 カウンターのエルフの少女達の間では猟奇殺人鬼の話題で持ちきりだった。

「ねえねえ知ってる?死体はノコギリで切られてるんだって」

「目撃者の話じゃ白いマスクを被った不思議な男らしいよ」

 エルフの少女達が雑談している、話のネタは猟奇殺人だが。
 そこにルシファーが割って入った。
 マスクを被った男の猟奇殺人なんていかにもルシファーが好みそうな事件である。

「そのマスクだけどさ、こんなマスクじゃない?」

 ルシファーが簡単な似顔絵を描いた紙を見せる。
 それは白いホッケーマスクであった。

「そうそう、これよ!」

「うんうん、これこれ!」

 エルフの少女達が口々に頷く。
 このホッケーマスクを被ったノコギリを使う殺人鬼といえばアレしかいない。
 しかしアレは映画の中の登場人物である、しかも現代の。
 異世界のここに現れるはずが無いのだ。
 しかし現に現れた。
 映画好きのルシファーは興味津々でこの件の調査に乗り出した。
 そして今回の件が初事件となるフォルスはルシファーから制服が授与された。
 グレーのスーツと金髪のリクルートカットが決まったナイスガイである。
 現代風のスタイルに本人は最初は戸惑っていたが今は慣れてむしろ喜んでいた。

 ―13日の金曜日の路地裏

「おい、せっかくのピンクのドレスをこんな事に使うのか?」

 リィンが不満マシマシで愚痴を漏らす。
 いつぞやの服飾店で着たピンクのドレスを着てホッケーマスクの男の調査にきているのだ、囮として。
 後方にはルシファーと先日仲間になった天使のフォルスと張り込みをしていた。

「まったく、異世界の化物を相手にする羽目になるとは……」

「フォルス、彼はホラー映画のスーパースターだぞ?こんなチャンス滅多にないんだからな」

「神が作りし者の作りし者だ。私が責任もって裁かねば」

「仕事熱心だね、まったく」

 天使のフォルスと堕天使のルシファーが談笑をしていると一人の大男の影が現れた。
 その影はチェーンソーを構えると少しずつリィンに近付いていく。
 リィンはナイフを構えるがそれで太刀打ちできる相手ではないのは明らかだ。

 ブオンブオン!

 チェーンソーの駆動音が鳴り響く。

「おい!冗談じゃないぞ!」

 リィンは炎の魔術を唱えホッケーマスクの男を焼き尽くす。
 しかし男はそれに動じずリィンに迫って来る。
 そしてリィンにチェーンソーが振り下ろされようとしたその時である、ルシファーが手から血を流しながら受け止めた。

「こいつは任せろ!」

 フォルスは銀の短剣でホッケーマスクの男を突き刺した。
 通常の人間なら一刺しで死ぬ代物である。
 しかしジェイソンは血も流さずピンピンしていた。

「おいフォルス、リィン!一度撤退するぞ!」

 ルシファーが指示を出すと二人を連れてそそくさと退散した。
 その時ルシファーは見逃さなかった、もう一つの老人らしき人影がある事に。

 ―ルシファーズハンマー

「どうしてあの男は死なないんだ!」

 フォルスがあり得ないことが起こったように叫ぶ。

「彼は何度も蘇るんだよ。宇宙にも行くしね」

「奴は殺せないのか?」

 リィンは同じ不死身であるルシファーを同類であるかのような目で見て言う。

「僕は殺せないが殺されそうになった事はある。方法はある。この手の奴は後ろで操ってる奴がいるんだ」

 ルシファーはそう言うと嫌がる二人を連れて再び現場に戻った。
 そしてそれから数時間後……

「おい、このマスク男を足止めすればいいんだな」

 リィンが氷の魔術でホッケーマスクの男を凍らせる。
 しかし今にも抜け出しそうで氷はひび割れている。

「おい、ルシファー、どこに行った!?」

 フォルスが周囲に呼びかけるが返事がない。
 氷から抜け出たホッケーマスクの男をフォルスが羽交い絞めにする。
 しかし大男は強引に馬鹿力でフォルスを投げ飛ばした。
 一方ルシファーは路地裏の更に奥を探していた。

「ようやく見つけたよ、映画館のスタッフさん」

「おお、新しいお客さんかい。歓迎するよ」

 そこには古い映写機を持った老人がいた。
 老人がフィルムを回すのをやめるとホッケーマスクの男は消えた。
 どうやら彼はこの男の能力で作り出された存在だった様である。
 そして別のフィルムに切り替えると今度は小さな子供の人形が現れた。
 手には本物のナイフを握りしめている。

「さあ、いけ!」

 けけけけけけ!!!!

 人形はナイフを振り回してルシファーに襲い掛かって来る。
 しかしルシファーは何度刺されても微動だにしない。

「その不死身の体、もしかして君は映画の登場人物なのか!?」

「残念ながら僕は映画でも小説のキャラクターでもない」

 ルシファーは目を赤く光らせ手を握ると映写機の男は窒息死した。
 路地裏から疲弊したリィンとフォルスが飛び出して来る。
 二人はもう勘弁してくれといった様子だった。


 ―「???」


「ルシファーが小説の登場人物じゃない?それはどうかしら?今私の読んでる異世界物の小説に出てるわよ」

「彼は僕の息子だよ、現実のね」

「ふーん、あなたってどうも信用できないのよねぇ……」

 異世界の女神メナスは痩せた髭の男を疑いの目で見つつそう言った。




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